7.パンドラ

展示室の中央、直径三メートルくらいの球体が鎮座していた。

「これは?」

「これはシェルターの一種です。展示品の中では比較的新しく、由来もはっきりしている、当博物館の目玉の一つです」

まん丸いそれは、傍から見る分には大したものには見えなかった。

「これが目玉なの」

「ええ、それはもう。これは銀河皇帝と呼ばれた人物が自分のために設計した、完全自律型のシェルターなんです。外部からは絶対に開けられず、内部の人間へのメディカルケアも完璧で、治療カプセルとしても使えて人口冬眠装置まで入っています」

こほん、と咳払いして少女は続ける。

どうやら、長い話になりそうだった。

「これは、一つのお伽話のようなものです。約二百年前、銀河大戦末期のお話です」

急に室内が暗くなり、カタカタと年代物の映写機が天井から降りてきた。

壁に、どうみても子供向けのアニメ映画が映し出される。

「約二百年前。長く長く続いた人類の戦争の歴史は、ある転換点を迎えました。一人の少女が生まれたのです。『星の姫様』と呼ばれた少女は、銀河に平和と救いをもたらす存在でした」

画面の中の花畑で、キラキラした瞳の少女が動物たちと踊っている。

「しかし、それは新たな争いの火種でもありました。銀河帝国とレジスタンスは、この少女を奪い合い激しい戦いを繰り広げました。それは数多の英雄を、悲劇を、伝説を生み出しながら」

映像が激しく切り替わる。

血と、勲章と、硝煙と、剣と、花束と。

「戦いの果てに、レジスタンスのリーダーはついに皇帝と対峙しました。背後には、散っていった仲間たち。皇帝の部下も、レジスタンスも、皆が長い戦いの末に散っていったのでした。皇帝の手の内には、銀河の最後の希望の少女。レジスタンスのリーダーは、一騎打ちの末、ついに皇帝を打ち破ります。ついに皇帝を倒した、これで銀河は救われる……その瞬間!皇帝が最期に放った弾丸が、少女の胸を打ち抜きました。自分だけでは滅びぬ、この銀河も道連れだ、と。皇帝の死と共に、王宮は崩れ始めます」

映像の少女は倒れ、胸には血が滲む。

「レジスタンスの英雄は嘆き悲しみます。なんとか彼女を救えないものか!彼は、王宮の奥に、あるものを発見しました。治療カプセルを兼ねたシェルターカプセル」

思わず球体を見上げた。

「彼は、少女をカプセルに入れ、扉を閉じました。いつか、彼女が回復したなら、この扉が開き、銀河は救われるだろう。それまではせめて、安らかに眠ってくれ、と。そう言い残し、銀河の英雄は瓦礫の中に消えました」

FIN.

映像が終わり、室内が明るくなる。

「結局、扉は開いたのか?」

「見ての通りですよ」

「じゃあ、今も、この中に?」

「この伝説が本当なら」

銀河の果てに、一人、世界を救うはずの少女が眠っている。

世界が滅んだ今でも。

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