5.Frazer
「これは何?」
博物館の隅に置かれた、人が一人ぎりぎり入れるくらいのガラスケース。
ガラスにモザイク処理が施されていて、中の展示物がぼかされていた。
人くらいの大きさの何かが入っているようだが、なんだかよく分からない。
「見つけてしまいましたか……」
「見られると困るようなものなの?」
「いえ、そもそも兵器を展示するという当博物館の性質上、仕方のないことなのですが……余り見ていて気持ちの良くないものも存在しています」
「これがそう?」
「はい」
「ちなみにこのモザイクは?」
「別途料金を払うならこっそりと」
「……じゃあいいや。中身の説明を」
「“Frazer”は、ある辺境国家が末期に作った呪術兵器です」
「呪術兵器?」
「科学的な理論で完成したものではありません。この兵器は、いわゆる類感呪術……藁人形の行きつく果てのようなものです」
「ピンとこないな」
「自分の顔写真が貼ってある人形が、釘で打ち付けられていたらどう思いますか?」
「気味が悪い」
「呪いとか幽霊を信じていなくても、そういうものには嫌悪感を抱くと思います。実際、それを打ち付けた誰かが自分を憎く思っているわけですからね」
「なるほど」
「“Frazer”は、一本の髪の毛から作られました。敗戦間際だった辺境国家は、入手した敵国のリーダーの頭髪から採取したDNAでこの兵器を作り上げました」
「どういうものなんだ?」
「精巧なクローンです。思考の在り方や経験までもコピーされ、本人同士ですら見分けがつかなくなるだろうと言われるほどでした」
クローン技術そのものは銀河に広く普及しているもので、そう珍しいものではない。経験まで模倣するというのはかなりの手間だったろうが。
「この兵器の特異なところは、その使用法にあります。崩壊間際、辺境国家は全宇宙に向けて、この“Frazer”の拷問映像を流し始めました。それはその戦争が終わるまでの二か月の間絶え間なく一日中、排泄から衰弱していく様子まで。当博物館にはその映像も所蔵されています。一般の方は閲覧できませんけどね」
「……最後は?」
「心臓を杭で貫かれて死亡しました。この“Frazer”は、その遺体を回収して保存したものです」
金を払ってでも見たくない代物である。見ただけで呪われそうだ。
「その感覚こそがこの兵器の開発思想なのですが……当然というか皮肉というか、戦果は無く敵対国家のリーダーは天寿を全うしたとのことです」
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