第64話 パパ上強烈すぎない?

 ラルフは素直に投降する意思を見せた。


 メネウとトットもそれに倣う。


 多勢に無勢というのは、この場合は問題にならない。メネウがいるならば制圧は可能だろう。


 しかし、それはラルフの望むところではない。メネウもだ。トットは二人の意思に従うだろう。


 場所が町中であること。ある意味目立つことに既になってしまい、衆目を集めていること。


 その2点が大変好ましくない。これ以上目立つのはメネウにとってもよろしくないことだ。


 薄々感じていたことではあるが、この世界は職業に大変厳しい。良くも悪くもだ。


 メネウは職業から逸脱した能力がありすぎる。それが明らかになるだけで、人々の反感や不安感を煽ってしまう。


 知らないものは怖いものだ。


 人は適正にあった職業に就き、それを伸ばしていくもののはずだ。そういう考えが強く根を張っていて、メネウの感覚ではそれを理解できはしないが、世界の大半がそう思っているものに違を唱えてもよい関係が築けないことは分かる。


 メネウの感覚でいうならば、魔女狩り、に近いことが起こるはずだ。


「主人、どうする。我ならば即座に制圧できるが」


 ヴァルさんがトットの背中からそっと囁いてきた。が、メネウは小さく首を横に振った。カノンも低く唸っている。


 ヴァルさんならば召喚獣として使役できるだろう。しかし、それでもまた逸脱してしまう。


 世の中が他人に求めるのは、適度な能力、逸脱しない才能、だ。


 それはある意味、前世でもそうではあったが。だからこそ、メネウは衆人環視の前で仕掛けてきた相手に投降するのだ。


「ここはラルフに従う」


「あいわかった」


 メネウの声の調子から、ヴァルさんもカノンも牙を収めた。


 兵士に取り囲まれて、立派な屋敷の立ち並ぶ区画まで街中を連行される。


 トットが不安そうにしていたのでにっこりとメネウは笑いかけた。いつでも逃げ出そうと思えば逃げ出せるから、メネウはこうして従っている節がある。


 王城を右手に見る、城壁に程近い館の門をくぐった。


「ここは?」


「俺の家だ」


(マジもんのおぼっちゃんじゃねーか)


 庭こそ広くはないが、白に緑と金の装飾を設えた品のいい館だ。


 三階まである一棟建で、重厚な観音開きの飾り扉が地面より数段上にあった。


 中に入ると真っ直ぐ進み、扉を2回潜る。


 謁見の間、というのに相応しい部屋と椅子だった。


 そこに居たのは、口髭を生やし黄金色の髪を後ろに撫で付けた立派な体躯の壮年の男性。


 おそらく、ラルフの父親であり、兵を使ってメネウたちをここまで連れてきたその人だろう。


 部屋に入ったところで兵士の足が止まる。


「お前たちは下がれ」


 低い、重い声が兵士たちに告げる。


 ラルフは終始顔を下に向けていた。


 父親と、こんな罪人のような姿で面識するのが嫌だったのかもしれない。


 実際、彼は罪を犯して自分から家を捨てた。なのに何故、ラルフの父親は彼をこうして連れてきたのだろうか。


(……意図がわからないな)


 メネウが不思議そうに男性を眺めていると、ばちっと目があった。


 その瞬間に強烈なプレッシャーがメネウに掛かる。


 威圧、という言葉が一番近いだろう。


 能力では圧倒しているのだが、背負っているもの、積み重ねたものの重さが段違いだ。


 思わずメネウもさっと視線を逸らした。


 兵士たちがすっかり下がってしまうと、しばしの沈黙が謁見の間に満ちた。


 ラルフも、メネウもトットも声を発することができない。恐ろしいまでのプレッシャーが彼らにのし掛かっている。


 先に口を開いたのは男の方だった。


「んもう!ラルフちゃんっ、あんな手紙一つで縁を切ろうだなんて酷いじゃないっ!パパ許しませんからね!」


 メネウもトットも目を丸くしている。


「しかし俺は罪を犯した。この家の恥だろう」


「功を焦っちゃう時なんて誰にでもあるわよ!ワタシをそんな小さな男だなんて二度と思わないでちょうだいっ!」


 ラルフだけが、オネェ言葉の父親に平然と対峙していた。

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