第7話 この世の沙汰も金次第

「疲れた……」


 メネウは与えられた部屋のベッドの上で大の字になった。


 肉体疲労は感じない。これは精神疲労だ。


(生前……前の人生じゃ女子とこんなに喋るとか無かったし、まさかこんなおしゃべりな生き物だとは知らなかった……)


 あの青い鳥はバレットによってチータと名付けられた。チッチッと鳴くかららしい。


 最初の雷の槍と違ってあの鳥は消えなかった。屋敷の中を案内される間ずっとバレットの肩に止まっていた。


 アレはバレットを励ますために描いた……生まれた存在だが、あんなに懐いてしまっては(どっちがどっちにかは言わないが)消えた時に余計落ち込むのでは無いだろうか。


 それは置いておいて、いや案内が凄い。疲れた。


 まずは客間に始まり、客間の中のバスルームやらクローゼットやら、クローゼットが空だから用意させなきゃだの、お腹が空いたらこちらへと台所に広間にサロンに広い屋敷を連れまわされた。こちとら元引きこもりだぞ。


 大体の目安で服のサイズを見て取って注文してくれて、今はその服について従者さんと話しているから、最初の客間で一休み中です。疲れた。


 つーか今一番興味があるステータスについてまだ何にも分かってないんですけど。


 と、ぼんやり考えていたら部屋のドアをノックされた。


 実家にいた頃以来だな、と思いながらベッドから起き上がる。


「どうぞ」


「服の手配が終わりましたわ! さぁ、教会に参りましょう!」


 案の定バレット嬢だった。チータもいる。


 最初からそうだが、嵐のような人である。


「教会?」


「はい。ステータスを見るには教会で洗礼を受ける必要があるんです。洗礼のご記憶はおありですか?」


「ないな……」


 だってしてないから。


「では、やはり洗礼を受け直していただくのが良いでしょう」


「教会は近いの?」


「はい。歩いて行けますよ」


「なら行こうかな。色々教えてくれる?」


「もちろんです!」


 教会への道すがら、メネウはバレットから基本的な事を教わった。主にお金と時間について。


「お金は一般的に使われるのは、銀貨と銅貨、ベルツ硬貨です。銀貨が1枚で1,000ベルツ。銅貨は100ベルツ。以下は錫で出来た1ベルツ硬貨を使います」


「ふぅん……」


 聞きながらポーチから革袋を取り出して開いてみる。が、銀貨も銅貨も見当たらない。


 白金色の硬貨が10枚、金貨が20枚。


「…………メネウ様。そちらは……」


「あーー、所持金? 盗られてなくてよかったよ」


「今すぐお仕舞いください!」


 バレットが慌てて革袋をポーチへ突っ込む。


 あまりの剣幕に門の近くで立ち止まってしまった。まだ屋敷の敷地から出られていません。


「あ、あ、あぶ、あぶなかった……」


「そんなにまずかった?」


「……庶民が一月……30日ですね、暮らすのに必要なのは、銀貨1枚です。ひと家族で」


「マ?」


 あ、思わずクセが出てしまった。


「ま? ……はい。そして、メネウ様がお持ちの金貨は1枚10,000ベルツ。白金貨はその100倍です。高額取引に使われるので、我が家のような商家や貴族なら持っているのですが……」


 あの神さまセケル様は何してくれてんだ。


 ボーナス盛りすぎでしょう。記憶喪失で済まないでしょう。ねぇ。


 10,200,000円って。


 しかもこっちは大分物価が安いみたいだし。換算としてはドルの方がしっくりくるか?


 どっちにしても財布に入れる額じゃ無いでしょう。神よ。


「商業ギルドでお預けになった方がよろしいですわ。利息も入りますし、両替できます。現在の利率は2割位だったかと……」


「え、マ?」


 ダメだ、驚くとすぐクセが出る。


 日本の銀行は利息何それ美味しいの? って具合だったから金を入出金するだけの機関だったけど、元手があって増えるなら預けない手は無い。


「ま? えぇ、全国の商業ギルドで下ろして頂けますし、ご利用ください。経済も回りますし」


「さすがギルド長の娘だね」


「いいえ、この位は何てことございません。足を止めてすみません、行きましょうか」


「ハイ」


 うっかり立ち止まっていた足を進める。


 門から出ると元来た方へ曲がった。いつのまにか教会を通り過ぎていたらしい。


「お金は充分にお持ちですね。あとは……日付と時間、でしたか?」


「うん。基礎的な生活はできるけど、かなり忘れてる事も多くて」


「1日は24時間で、7日で一週です。30日で一月と数えます。一年は12ヶ月ですね」


「……なるほど」


 これはいよいよステータスを見た方が良さそうだ。


 たぶん、分かるように翻訳されている気がする。貨幣価値は最大限翻訳してアレだったんだろう。似ている部分は勝手に脳が解釈してくれていると推測できる。


 やっとハーネス邸の塀を通り過ぎると、そこでバレットは足を止めた。


「着きました」


「隣かよ」


 そこは四角の白亜の建物で、教会というと結びつけてしまいがちな十字架は無かった。


 代わりに綺麗なステンドグラスがとびらの両脇に嵌っている。


(教会、も翻訳されてるのかもな)


「屋根を設けない……平らにしている建物は教会なんです。神に対して壁を作らないという意味らしいですよ。さぁ、入りましょう」


 教会の特徴を教えてもらって、いざステータス、という気持ちでメネウは足を踏み出した。

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