第8話 ステータス盛り過ぎ問題
「ようこそいらっしゃいました」
「こんにちは、シスター。こちらメネウ様です。彼に洗礼をお願いします」
たれ目気味の柔和そうな顔をしたシスターに迎えられた。
頭髪も、顔と手以外の部分も、紺色の布で隠され、胸元から足元まで刺繍された白い布が垂れている。こちらも中々発育が……いかんいかん。
男子として健全な思考だが、引きこもりから急に美少女に囲まれては犯罪者になってしまう。
「洗礼ですね。かしこまりました、お掛けになってお待ちください」
教会の中は礼拝堂のイメージそのものだった。
並んだ長椅子に、奥に祭壇と懺悔室がある。祭壇には鳥の神? が祀ってあった。
ステンドグラスがから伸びる色とりどりの影が綺麗だ。
(絵になるなぁ……)
つい描きたくなってしまうが、ひとまずこの絵筆とスケッチブックは危険だ。
ぐっと堪えて大人しく座って待つ。
隣にいるバレットはチータと仲よさげに戯れている。
然程待つ事もなくシスターは戻ってきた。
「メネウさん、此方へどうぞ」
「あ、ハイ。バレット、行ってくる」
「はい。お待ちしてますわ」
一言断りを入れて席を離れ、シスターの後ろをついていく。
礼拝堂の隣の小部屋に入ると、シスターは鍵をかけた。
「これから貴方の個人情報を登録・開示します。他の方に見られない為の措置です」
なるほど、間違っても誰かに見られたりしない為の措置か。
シスターは小さなテーブルの上に宝石の嵌った石板を置いた。
「こちらの石に手を置いてください」
「ハイ」
メネウが石の上に右手を置くと石が発光した。
石版に細かに入っていた溝に光が走る。全面に幾何学模様が浮かび上がり、その上に『ステータスウインドウ』が表示された。
ん? シスターが怖い顔で固まってる。
とりあえず自分のステータスをまじまじと眺めた。
メネウ
男 23歳 蛇の月25日
職業:???
LV.54
HP 5600000/8000000
MP 9800000/9999999
攻撃力 985
防御力 598
魔法攻撃力 999
魔法防御力 999
素早さ 575
運 ???
保有スキル
魔法七属性 身体異常耐性 神託
空間操作 時間操作 万物具現化
神絵師 成長補助 ???
(アッレおっかしいなー、ゲームだとこれレベルカンストしてる数値だろオイ?!)
盛り過ぎだセケル! と脳内で文句をつける。
しかも職業と運とスキルの???ってなんだよ。あと微妙にHPと防御力と素早さが「頑張って盛ってもこの位でした」感があってイラッとくる。
シスターが俯いてプルプルと震えている。
「あー……、シスター?」
「なんっと素晴らしいお方がいらしたのでしょう……!!」
泣きながら此方を向いた。ビビった。
シスター、鼻水出てる出てる。
「いいですか、MPはこの数値で計測カンストなのです。他の999もこれ以上計測できません。これ以上の数値をお持ちの可能性がございます! あと、スキル! なんですかこの数とラインナップ! 生まれた時と、レベルが一定に達した時に付与される物なのですが、当たりスキルと言われる上位スキルのオンパレード! 万物具現化ってもうなんなんですか、初めて見ました! 上位スキルというのは複合スキルの事で……!」
シスター、顔ぐっちゃぐちゃです。
神絵師ってネットの流行り言葉じゃないのか。スキルなのか。
そして一番の謎だった絵が本物になる現象はスキルだったらしい。その本質については謎のままだが。
シスターの早口すぎるステータス説明を黙って聞いていたが、鼻をすすった彼女が表情を改めた。
「メネウさん。ステータスはレベルまでを表示する一部公開が出来ます。それ以下のステータスは開示されないことをおすすめします。というか、お願いします。いらぬ者の妬心を煽る事になるでしょうから。というかこの若さでこのステータスは異常ですから」
今さらっと酷いこと言ったな。
「ハイ、質問ですシスター」
「なんですか? 私の方が質問したいですが?」
「それは勘弁してください。……そもそも、ステータスって他人に見せるものなの?」
信じられない、って顔でこちらを見るのやめてくれますか。
「実は崖から落ちて記憶喪失でして……」
「なるほど……。そういう事でしたのね。ステータスは身分証なのです。教会でステータスを見て、向いている職業に登録するのですが……貴方は何にでもなれそうですね」
シスターは一枚の紙を取り出した。
知らない言語だが、読める。
騎士から魔法使い、商人、魔法剣士、召喚術師にシスターや神父、吟遊詩人、ありとあらゆる職業が記載されている。
メネウは、画家、という項目を見つけて「おっ」と思ったのだが、シスターが付け加えた。
「選ぶ職業に属さない事をすると奇異の目で見られます。法の行き届かない場所では私刑もあり得ます」
「おっとぉ……」
神絵師以外のスキル要らないな、と改めてステータスウインドウを見て思ったのだが、さっきの説明ではスキルは減るものでは無いらしい。増えたりくっついたりするものだとか。
となると、絵を描いて、それが万が一現れてもいい職業を選ばなければならない。
(俺は画家がよかったなぁ……絵を描いていられればなんでも良かったのになぁ……)
「……万物具現化が邪魔だなぁ」
「さすがに怒りますよ」
「ゴメンナサイ」
なぜ怒られているのか分からないが、シスターの剣幕に負けて謝る。
「じゃあ、コレにしようかな……、色々誤魔化せそうだし」
そうしてメネウは一つの職業を選んだ。
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