第6話 誤解デス

 商人ギルドのハーネスの屋敷はやたらとでかかった。


 元の世界では引きこもり街道まっしぐらだったメネウだが、アニメの背景を描いていた事もある。


 豪邸は美少女系アニメやファンタジーものには付き物だったが、ここはファンタジーアニメの豪邸そのものだ。


 資料にした、某国の庭園が広すぎる豪邸なんかも、きっとリアルで見たらこんな感じなのだろう。


 日本の豪邸は庭が小さいことが多い。日本アニメは都会が舞台の場合が多いから、土地がない部分はシビアに描いた。


 だが、ハーネスの屋敷は門を馬車で潜ってから、しばらく左右に緑の生垣が絶えなかった。おそらく左右にも相当広いのだろう。


 直進する道の前には噴水があり、それを囲む円形の道がある。


 屋敷の前で静かに馬車が止まった。馬車に乗るとか人生初体験すぎて興奮したぞおい。


 ハーネスの従者さんにドアを開けてもらったので降りる。と、同時に屋敷のドアが開いた。


「おかえりなさいパ、パッ……、じゃ、ない」


 ごめんなさいね。


 心の中で一応謝っておく。彼女が娘さんだろうか?


 17歳位の少女で、薄緑のシンプルなワンピースを着ている。出るところが出てて……ってのは置いておくとして。


 金髪の髪を綺麗に頭の後ろでまとめて、手には杖……って、それ武器じゃないんですか?


(なんで俺は杖の先端を向けられているんですか?!)


 両手を上げて降参の意思を伝える。万国……じゃない、万世界共通であれこのジェスチャー。


「パパをどうしたの?!」


「どうもしてナイデス」


 思わず棒読みになったのも仕方がないだろう。


 名乗るとか説明するとかの前に武器を向けられる恐怖。いや、実はあんまり怖くないんだけども。


(ステータス値とやらのおかげかね……? この娘に何をされても怪我する気もしない)


「バレットお嬢様……! そちらはお父上の命の恩人ですよ……!」


 従者さんが慌てて間に入ってくれる。


 少女の顔が赤くなって、青くなって……あ、杖が退いた。


「ごめんなさい!」


「いいえ」


 ガバッと頭を下げられたが、怖くも無かったし父親思いのいい子だな~~なんて思ってしまう。


「はじめまして。暫くこちらでご厄介になりますメネウです。記憶喪失中で他の自己紹介ができないんだけど、よろしく」


「まぁ、まぁまぁ……あの、はい、はじめまして。ハーネスの娘、バレットです。さっきは本当にごめんなさい……」


 すっかり萎縮させてしまった。


 従者さんがそんなお嬢様に事情を説明している間に、スケッチブックを取り出してサラサラと鳥を模したデフォルメキャラを描いていく。


 さっきの魔法を使ったページは、綺麗に真っ白になっていた。ものは試し、と描いた青い鳥のデフォルメキャラに、来い、と念じたら、見事に立体物になった。


 というか動く。ちまちまとスケッチブックの上を動いていたかと思うと、メネウの意思を察してバレットの肩へ飛んでいって止まった。


「やだ、可愛い!」


 お気に召したようで何より。


 メネウがスケッチブックを見ると、やっぱりスケッチブックは真っ白だ。


(ちょっとわかってきたぞ……)


 とは言え、やはり今夜長々と説明をさせなければいけない。


 機嫌が直って事情を理解したバレットがこちらを向く。


「メネウ様、ご記憶があらせられないのですね。ステータスの見方からという事でしたので、このバレット、不肖ながらご案内させていただきます」


「あ、はい。よろしく」


「まず客間はこちらですわ!」


 手を引かれて屋敷の中に連れて行かれる。その引く力が強い。え、強くない?


 ちょ、従者さん、笑ってないで助けて!

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