第4話 お約束戦闘ですね分かります

「こんな感じかぁ」


 町に着いて最初の感想である。異世界に来た時とほぼ変わらないが、語彙が少ないので仕方ない。


 煉瓦造りの小洒落た街並みが広がっている。


 町へ入る関所に門番もいたが、特に怪しまれたり手形のようなものを必要としたりはしないようだ。


 とりあえず何をするかなと考え、確か異世界モノのアニメを手がけた時には冒険者ギルドへ行っていたはず、と思い当たった。


 目指すはギルド、と思いながらもう一つ、嫌な予感に思い当たる。


(なんかこういう異世界モノって言ったら……)


 ドシィン……、と大地を揺らす足音と共に悲鳴が聞こえた。


「だれかぁぁあ! 助けてくれぇ、ギガントロールだぁぁあ!」


「ですよね!」


 異世界転生ものの最初は、強敵が出てくるのがお約束。


 ついでにそれを簡単に倒すところまでワンセットだ。


(結局、ステータスの見方が分からなくて見れてないんだよなぁ)


 街の入り口に立っていたメネウに向かって、商人らしき恰幅の良い男と、それを追う巨大なトロールが棍棒を構えて走ってくる。


 トロールの方が足が遅いが、商人とは歩幅が違う。まだ距離はあるが、パースから見て、3階建ての建物程はありそうだ。


 追い付かれそう。


「どれ、腕試しといきますか」


 転生ボーナス盛ってくれるって言葉、信じてるからな、セケル。


 これで死んだら恨むからな、セケル。


(だって、俺、まだこの世界で何も描いてないし)


 メネウがそう思った時、ポーチから絵筆とスケッチブックが飛び出してきた。


「……は?」


 意味がわからない。展開に頭が追い付かない。


 でも、アニメに携わっていたから分かる事もある。


「これを使えって事なんだな?!」


 誰にともなく叫んだメネウは、ギガントロールに向かって駆け出した。


 近づくと酷い悪臭がした。緑色の肌も、垂れたヨダレも気持ち悪い。


 門番が、おい、と止めて来たが振り払ってギガントロールに向かって走る。途中で商人とすれ違った。背中の方で、町に匿われたのを確認する。


 スケッチブックにギガントロールを倒すための魔法のイメージを、絵筆で描いていった。これを使う、って事はきっとこういう使い方で合ってるんだろう。他に使い方も知らないし。


 この絵筆、不思議なことに思った色が勝手に出る。硬さも鉛筆からエアブラシまで自動選択される。


 オーバーテクノロジーのペンタブかよ、と思いながらも描き上げたのは雷の槍だ。


「これでただのすげぇお絵描きセットだったら許さねぇからなぁ、セケルー!」


 叫んだメネウがスケッチブックをギガントロールに向けると、スケッチブックから『巨大な雷の槍』が飛び出し、ギガントロールの胸を貫いた。


「なっ……」


 一際大きな大地を揺るがす音と共に、呆然としているメネウの目の前で、ギガントロールは倒れた。

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