第2話 落とされるって何
「では、お達者で。……本当にそれだけでいいんですか?」
「あぁ、俺は描ければなんでもいいや」
一通りの話し合いが済んだ。
和也からの要求は一つ。
何不自由無く絵が描けること。それだけだった。
チートとかスキルとか魔法にも興味が無い。無双したいとも思わない。死んでなお、ただ絵が描きたい、それだけを考えてしまう。
「欲の無い方というか、貪欲な方というべきか……」
神が苦笑しているが、和也はせっかくの2度目の人生のチャンスを前に遠慮はしなかった。
欲しいものは言ったし、それが叶えばどうなってもいいと思っている。心から。
そういえば、話し合いの最中、不思議なことに、紅茶は冷めないしお菓子も軽食も食べた端から出てくるし……いつぶりだろう、固形物を咀嚼したの。アレ固形物だよな? 雲とかじゃないよな?
正直、まだ夢なんじゃないかと疑っているくらいだ。
「夢じゃないですよ」
「ヘイ」
もはや何度めか分からないので、和也の返事も適当になってきた。
苦笑した神が腕組みして何かを考え込む。
「……やっぱり、私の気が済まないので、ボーナスを積んでおきます」
「えぇー……」
まさかそんな理由で転生ボーナスとやらが実装されるとは思わなかった。
描ければいい、ので、それが違わないのならいくら積んでくれてもいいのだが。最早お任せコースだ。
「あなた、私が何の神かわかってます?」
「いいえ……、てか、そうだよ、なんで俺転生できるの?」
そういえば肝心要のそこを聞いていなかった。転生ってもっと、いい事した奴とかじゃないのか、普通。
「自覚は無いんでしょうね。あなたのお陰で私は誰かを転生させられるくらいに神格があがりました。これはそのお礼です」
「身に覚えが無さすぎる……」
神は委細気にしない様子である。きっと聞いても無駄だろう。
「私と話したかったら、寝る前に私の名前……セケル、を3回唱えて寝てください。夢で逢えますよ」
「困った事があったらそうするよ。助かる」
和也は一度そこで言葉を切ると頭をかいた。
「色々と、その、ありがとうございます」
精一杯の丁寧で頭を下げると、神は満足そうに笑った。
「では、転生先へ落としますよ。今度こそお達者で」
頭をあげると神が笑顔で手を振っていた。
ん? 落とされる? と、思った時にはもう遅い。
「え? あっ、あぁぁぁぁぁ……!」
和也の足元がパカっと開いて、和也は穴の底へ落ちて行った。
「……転生先では、長生きしてくださいね」
神……セケルは、和也に聞こえない程度の声音でそう呟いた。
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