絵筆の召喚術師~本編~
第1話 神っているんだね?
「どこだぁ、ここ……?」
目が覚めた時には一面の白世界。
雪景色とか雲の上とかそういうわけでもなく、ただ永遠に続く白。
山本和也は頭をかいて、取り敢えず座り込んだ。座る、という事はこの真っ白で奇妙な世界にも、一応重力とか上下とかがあるんだろう。
「そんなものありませんよ」
突然、和也の前にモノクルを掛けた英国紳士が現れた。三十代に見える。物腰も優雅で立ち居振る舞いも(多少演技くさいが)本物だ。
「初めまして、神です」
「は?」
「あなたは何故、ここに居ると思いますか?」
「さすがに疲労で意識がぶっ飛んで不思議体験してるから」
そうとしか考えられなかった。
アニメーター歴3年目、5徹で原画を仕上げた後は床で気絶し、栄養補給はブドウ糖タブレット。無い時には白砂糖。そして水。
いつしかやたら柔らかい皮膚に骨が浮く化け物になっていたが、もはや外に出る事も少なかったので気持ち悪い見た目でも問題ない。
とにかく、和也は描ければよかった。
今回もその流れで気絶して、いよいよ脳がトリップしたんだろう、と和也は思っていた。
「途中までは合ってます。ただ、あなたは床で気絶したのではなく過労死しました」
「はやくね?!」
「無理もない生活してたでしょう」
「そう言われれば、まぁ、そう、かも?」
学生時代から、自分の創作物を作るよりも、他人の絵の模写が楽しくて仕方なかった。
好きこそものの上手なれというか、他人が作ったキャラクターを生き生きと動かすのが上手い、というのが和也のウリである。
お陰で専門を卒業して早い段階で、原画マンとして仕事にあぶれる事も無く、アニメーターをやっていられたのだが。
「いやだって俺まだ23だよ? いくらなんでも早すぎるだろ」
「あなたね、もう少し自らを省みなさい」
「仕事楽しいんだもん。……いや、楽しかったんだもん、か」
生活を省みれば、いつ死んでもおかしくない生活をしていた自覚はある。
過労死と言われても、そうか、という感想がしっくりきた。
「そこで提案なのですが、あなたが望むのなら第二の人生を送りませんか?」
「え?! これ、今流行りの異世界転生ってやつ?」
「流行りなんですか……、他に転生させた覚えが無いんですけど……」
神が苦笑いをしている。
「いや、あー、こっちの話。じゃあ俺、まだ描けるんだな……」
「条件は二つ。転生した事は誰にも言わない事、最低限文化的な生活を送る事」
憲法のような事を言われた気がしたが……。
「あなた、言わなきゃ寝食を放っておくでしょうが」
「ハイ」
さっきから心を読まれている。と、今更気づいたが、神だしな、とこれも納得してしまった。
描くこと以外に興味が薄い。
「取り敢えず転生先についてと、転生してからの事について話し合いましょうか」
神が指を鳴らすと、アフタヌーンティーのセットがテーブルと椅子ごと現れた。
小洒落てるなぁ、と思いながら勧められるままに椅子に腰掛ける。
「では、まず、転生先についてからご説明します」
長い話になりそうだが、今後の人生が掛かっている。
和也は紅茶を片手にまじめに聞き入った。
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