指し凄む

その日、未言屋店主は手紙を書いていた。

時候の挨拶で、『毎朝指し凄む日が繰り返しますが』と書こうとして、凄む、の字がわからずにスマートフォンのナリスを取り出す。

「指し凄む、なんとなくわかるんだけど、細かいとこ不安になるんだよね」

ところで、未言屋店主は最近、『未言日記』というその日にあった未言を羅列するという手抜き作品の投稿を始めている。本人のための備忘録でしかないが、ナリスのメモ帳に未言を見つける度に記録してたりする。

今日は夜明け前に外に出たけれど、指し凄むは記録されてなかった。寒いが、指が凍てつくのとは少し違った。

未言屋店主はそのメモ帳アプリを呼び出して、『凄まじい』と打ち込んで漢字を確かめて、手紙に綴り、そして消した。

そして手紙を書き終えて外に出たら。

「さむっ!? てか、指し凄まむ! 朝は平気だったのに!?」

よく晴れた昼間だというのに、日彼方つ朝よりも、風が冷たく指し凄む。てっきり小春日和と侮っていた未言屋店主は驚き。

「え、なんで指し凄むいるの?」

視線の先に青白い未言巫女を見つけて、はてなを浮かべた。

「だって、母様がわたしのこと未言日記に書いたじゃない」

「え」

書いた。確かに書いたけど、あれは漢字を知りたかっただけで、けして未来予知とか未来操作とかではない。

「そういうことじゃないからー!」

「え、そうなの?」

その日の未言日記には、改めて指し凄むが付け加えられたとさ。

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