妖す 新企画狙い編

わたしは、毎日、未言がもっとみんなに知られるためにはどうしたらいいか、考えてる。

令和二年の師走二十五日の今朝も、もっとみんなに未言を身近に感じてもらえるのに、なにかいいコンテンツはないか考えていて。

そうだ、日記のようなエッセイを、日々の中で感じた未言をそのままの言葉で綴れば、ぐっと身近なものだと思い直してくれるんじゃないだろうか。


最近は、ずっとマスクで、寒くて、外を歩けばすぐ靄目になって前も見れなくなるから、そのことを書いて初めの記事にできそうだ。エッセイだし、ナリスで直接打ち込んで更新でもいいから、パソコン開かなくても行けるんじゃないか。


そんなことを考えながら、仕事のために外へ出て。

施錠のために鍵を財布から出そうとして、ぴたりと止まる。


鍵が、ない……。

いつも、財布の同じポケットに入れている鍵がない。そのポケットの膨らみがいつもより明らかに少ない。

朝の忙しい時に!? 昨日のわたし! なにやってんの!? どこに置いた!?


財布を入れっぱなしにしてる鞄に落ちたのかと思って、漁っても、ない。

ズボンのポッケをまさぐっても、ない。

帰ってきた時に、よく鍵を一旦置く下駄箱の上を探しても、ない。

テーブルの上、鍋敷き代わりの漫画雑誌を重ねた上、台所のストックボックスの上、どこにも、ない!?


だめだ、昨日のわたしに妖された……。

ん? 妖す?


ふと、顔を上げれば。


「なんか母様が新しいことやろうとしてるから、話題作りにからかってみた! 新しいエッセイの最初の記事も妖すちゃんだね!」

「妖すーーー!!!??」


おまえ、おまえー!? すでに露出頻度高いくせにまだ自分を広めろと言うのかー!?


「ていうか、この朝のくそ忙しい時間がないタイミングで!」

「ふふん、一番忙しくて大変な時に、妖されて慌てふためる母様の顔を見るのがなにより好きなのよ!」

「おまえー!?」

「ちなみに、上着の右ポッケに手を入れてごらん」


はっとする。上着の右ポッケ。たまに鍵を入れて、あとで財布に戻してる。

まって、わりとありがちなところなのに、まだ一回も確かめてなかったって、わたしってやつは、わたしってやつは……。


妖すの未言巫女の言う通り、そこには我が家の鍵があった。

きゅっと握りしめて、徒労と自己嫌悪に落ち込む。


「母様にエッセイのネタを真っ先に出してあげるなんて、妖すちゃんはえらい子だよね」

「ちがう……エッセイはもっと静かで穏やかな文章にするつもりなんだ……こんなどたばたなやつじゃないんだ」

「えー」

「ていうか、未言巫女が話しかけてきた時点で、これは未言屋の日常案件だから!」

「ちっ」


くっ、かわいく舌打ちしやがった!!

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