妖す キャッチコピー編
さて、この『未言屋の日常』をカクヨムに投稿しようと未言屋店主の奈月遥は、項目をポチポチ埋めようとして。
最初の『ジャンル』で手が停止した。
(この話のジャンル……? コメディ?)
しかし、多くの利用者が既に嘆いているように、カクヨムにはコメディというジャンルはない。
奈月遥は、ジャンルを一つ一つ確かめる。
(ノンフィクション……だけど、え、未言巫女出て来るのに、ノンフィクションっていける?)
とりあえず、常識の元に『エッセイ・ノンフィクション』を選択するのを保留する。
(現代ファンタジーはいけそう、バトルないけど。伝奇かぁ、未言巫女は言霊だし妖怪伝承的な意味で伝奇もありだな。あとは……無難に現代ドラマ……ドラマ?)
どうにも決め手に欠けて、奈月遥は自分では決めきれなかった。
こういう未言の小説で困った時に、犠牲になるのは、一人だけ。
[ねぇねぇ、二条、二条]
早速、SNSでその相手にコメントを送り、他の項目を埋めていく。キャッチコピーは、『未言屋が見つける日常の中の未言たち』と仮決めして、紹介文をさらさらと書いていく。
しばらくしてから元気のいい返事が返ってきた。
[はいなー!]
奈月遥は、二条に新しい小説の構想を伝えてから、ジャンルで悩んでると相談を持ち掛ける。
[エッセイ味が強いならノンフィクション…でしょうか。或いは大きめにまとめて現代ドラマ…?]
ふむふむ、と奈月遥は、その意見に内心で同意する。だいたい自分の考えと同じで、他者からもそれを後押しされて、少し自信が出てきて、喜びを感じる。
[エッセイ感はあるかなー。ある気もする。やはり、「これのどこがノンフィクションやねん(笑)」というツッコミを期待しつつノンフィクションかの]
この発言で二条から笑いも取れて、奈月遥は気をよくしながらカクヨムのページを開き、硬直する。
先程、打ち込んだキャッチコピーの欄には、このような文字列が納まっていた。
『未言屋が見つける二条の中の未言たち』
一瞬の沈黙が未言屋店主の脳裏を白に染める。
「あ、妖すーー!? だから、二条巻き込むの止めなさいっていってるでしょー!?」
パソコンの画面の縁に腰かけた妖すの未言巫女が、とてもいい笑顔でサムズアップしてきて、その存在の産みの親は顔を両手で覆う。
[やばい、また妖かされた]
一日に二度もやられたショックを癒すために、奈月遥はSNSで状況を二条に伝える。
[妖す先輩仕事しすぎでは]
[そのうち過労で倒れそう…]
未言屋店主と未言巫女が、揃ってスマートフォンの画面を覗き、親は疲れたように笑い、子は呆れたように笑った。
「わかってないなー、わん娘」
「わかってないね、わん娘」
奈月遥は、スマートフォンの画面をフリックして、妖すの特性を二条に教える。
[妖すは、人を妖すほどに元気になる(それが食糧的ななにか)ので、さらに活発化していく]
その説明を見て、妖すはにっこりと笑った。だって、親が正しく自分のことを知ってくれるのも、そしてこれからも自分の悪戯がたくさん起こるのを予感して困っているのも、妖すの未言巫女にとってこの上なく喜ばしいことなのだから。
今日も今日とて、未言屋の日常は平和です。
*なお、キャッチコピーについては、実際の投稿前に、もうちょっとお洒落なのに差し替えてあります*
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