未言屋の日常
奈月遥
妖す 冬のパジャマ編
平成三十年十月十五日。
その日、未言屋店主の奈月遥は、最近寒くなってきて、朝起きた時に咳や鼻水が出たり、少し熱っぽかったりすることを考慮して、お風呂に入る前に冬のパジャマを出すことにした。
パジャマの入った引き出しを漁って、夏物が手前にあるのを避ける。
その中から、真冬用の灰色のパジャマを先に見つける。
(これを着るには、まだ暑いから……あ、あの黒いのはこれよか生地が薄かったはず)
奈月遥は、最近の夜の気温にちょうどよいパジャマを見付けて、意気揚々と引っ張り出した。
(ありゃ。上しかない)
一緒に仕舞ったはずの下のパジャマがないのに首を傾げて、また引き出しの中を漁る。
しかし。どれだけ漁っても、引き出しの底をさらっても、その組み合わせになる下のパジャマが見つからない。
「パジャマの下だけない……妖す?」
「母様、変なことは起きたら、とりあえずわたしのせいにしとけばいいって思ってるでしょ」
奈月遥がちらりと目を向けた先、時代劇のお茶屋の看板娘みたいなおべべを着た妖すの未言巫女が、ジト目で見返してきた。
それに、奈月遥も、なんでも嫌なことの責任を押し付けて、妖すが悲しんでると思い、反省する。
「あ、ごめ――」
「まぁ、わたしがやったんだけど」
「あ、妖すーーーー!!??」
反省を言葉にする途中で、あっさりと笑顔で掌を返した妖すの態度に、奈月遥は毎度お馴染みの絶叫を上げる。
「ふふん。母様とわん娘の周りで起こる不思議にわたしが関与してないと思うの?」
「なに二条も巻き込んでんの、距離どんだけ離れてると思ってる!?」
「なに妖すちゃんを常識で縛ろうとしてるの。妖在非在。妖す者は在りて非ざる、よ」
「わたしの決め台詞取らないで!?」
今日も今日とて、未言屋の日常は平和です。
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