第113話 怠惰な休日は頭を休めるためにある

 滞在許可も無事貰えた俺達はそれぞれ寝室で寝て夜を明かした。


 といっても何故か朝になったらアサトとヨルト、アヤネとミユキに四肢を掴まれており身動きがとれなかったが。


 別の部屋で寝てませんでしたかね?


それから少しの時間が過ぎ、朝食も終えてみんな自由行動を開始している。(何故か作ったのは俺)


 ちびっこ神様ズはテレビの前でゲームをしており、それ以外はテーブルでお茶やコーヒーを片手に談笑している。


 彩芽は恒例のセクハラをさゆりにしようとするが逞しくなったさゆりはそれを阻む。


高校生女子組は今日は学校で不在。

夕方には来るだろうけどね。


 ニャルや他迷惑3柱は隔離室を用意しそこに封じているので特に問題はない。


 ――閑話休題


「あー!それ私のお菓子ですよー!」


「ふふ!坊やだからさ!」


「…だぁー!お前らうるさい!寝かせろ!」


「………『カタカタカタッ!ターンッ!』」


 隔離された部屋の中を走り回るチャウグナーと逃げるニャルラトホテプ、それに踏まれ寝付けないツァトグアとガン無視で仕事を続けるシュブニグラス。


室外は影響ないが室内は問題だらけだった模様。


 この調子で滞在中寝付けないツァトグアが後々倒れるのはまた別の話。



 ――応接室



瞬や誠、沖縄県警組は新築の事務所の必要なモノ(だいたい対神話生物)を買い出しにいっている。


 つまり今、新築の事務所はナユタ家の家族が占領してるに近い。


 まあ…別にやることもないので寛ぐだけですぐに後2日過ぎるでしょう!


 …と、思っていたのは数分前のことである。


「邪魔するわ!」


 凛とした声と共に門から見知ってはいるが、親しいかと言われればむしろ嫌われている気がする相手が蛇の尾を揺らして現れていた。


「あれ?ステンノ?」


「ああ、やっぱりここにいたのね」


「ひょっとして俺探してたのか?」


「不本意ながらね!」


 こちらを見るなり嫌そうな顔をするステンノ。


 やはり彼女の中の俺の人間評価は変わってないらしい。


 でもそんな相手を探してきた以上は何かあるのだろう。


「…で?用件はなんだ?」


「それは…」


 言い淀むステンノは鋭い目つきを更に鋭くしてこちらを睨んでくる。


 ひょっとしてひょっとしなくても俺を抹殺しに来たのでは?


 若干警戒しつつ向かい合っていたそのとき、彼女の背後から「ひょこ!」と2人の女の子が顔を出す。


 その2人は違いこそあれど、どことなくステンノそっくりだった。


 片方はステンノが更に鋭くなった様な目つきだが、まだ彼女と違いまだ幼さが残っており可愛らしく思える。


 もう片方だが同じ様にステンノそっくりだが、目は少しタレ目気味でボヤーとしているところはどことなくアサトを連想させる。


 そして他の2人とはっきり違うのは髪。


 綺麗な髪色は同じだがその髪の先のいくつかが纏まり途中から蛇に変化していた。


「前衛的なファッションかな?」と思い見ていると威嚇された。


 やはり本物の蛇が頭にいるようです。


 そんな様子の2人はステンノの後ろに隠れるようにこちらを見ている。


 が、こちらが2人に気づいたことに気が付いたステンノが口を開いた。


「……非常に、非っ常ーに!不本意だけど!しばらく私の妹を預かってくれないかしら?」


「えっ?でも妹に近寄るなって言ってなかったっけ?」


「ぐぬぬぬ!仕方ないでしょう!知り合いの中で一番あなたがマシなのよ!」


 大変不本意そうに尾を床にびたん!びたん!しているステンノ。


 信頼されているのやら警戒されているのやら。


その後説明されたが何でも「第8532回オリュンポス大運動会」なるものが開催されるとのことで。


 ステンノは審査員側として呼ばれたらしい。


 しかしその運動会では…こう…何て言うか星が消えたり、神々大乱闘が度々あるとかどうとか。


 そのため一番争いがない我が家に妹達を預けようとしたが、家が改築中だったから魔術を追いかけてこちらに来たようだ。


「ただし条件があるわ!」


「…こっちが条件つけられるの?」


「固いこと言わない!男でしょ!

 条件は簡単、あなたが妹達に50メートル以上近づかないことよ!」


「…理不尽だぁ…」


「大丈夫よ、妹達にもあなたがいかに危ないかちゃんと説明したから。あなたが近寄らなければいいだけよ」


 そう言ったステンノが妹達とアイコンタクトすると背に隠れたままの妹達がこちらを見る。


「…幼女性愛者」


「…子供の全身を舐める男」


「悪意以外何も教えられてないじゃないかっ!?」


 俺がなにをしたと言うのか!


 確かに妻は9人でその中にはアサトやミユキみたいな幼い容姿の神もいるし一緒にベッドで寝たりしてるけど!…あれ?わりと否定出来ない?


 とかなんとかやっていると別の部屋でゲームしていたアサト達がこちらに来た。


 騒ぎを聞き付けてこちらに来たらしい。


そしてステンノの姉妹とウチの姉妹の目が合う。


「…ん…ゲーム…する?」


「する」


 特に何も話すこと無く「わー」と流れで部屋の奥に消えていくダブル姉妹。


 まだ了承…してないんやけど…?


「じゃあ死ぬ気で近寄らずに傷ひとつ付けないで守りなさい」


「矛盾してないですか?」



 …こうして何故か護衛任務を押し付けられた俺は一応周辺警戒を怠ってはいない。


 たとえ俺が昼寝しようとも安全が確保できる程度には予防線を張っている。


 ステンノが妹達を迎えに来るのは俺達が家に帰るのと同じ日らしいのでそれまでアサト達と遊んでて貰うことにしよう。


 結果として俺はアサト達に近寄れなくなったので代わりに集まって話をしているさゆり達の方へと加わろうとして近寄る。


 9割我が妻で1割彩芽だけど別に断られないでしょう!


…と、やはり思っていたのは数秒前の俺である。


 テーブルの輪に加わろうとして彩芽にストップをかけられる。


「今ぜんぜん妻のしてほしいことを理解できてないゴミ夫をどうしたらいいかって相談聞いてるとこだからあっちいっててゴミ夫」


「…はい、すいません」


 何故だろうか目から流れるものが頬を伝って落ちていく。


…今日は心を抉るストレートパンチ多いなぁ…。


 溢れる液体を拭わす俺は設置されていたカーペットに五体投地する。


 もう今日は…なにもする気がおきないや…。


 カーペットにうつ伏せで寝ている俺の頭を隣に来て添い寝をしてくれたネムトとミドリが「よしよし」と撫でてくれたのでした。


 …あったけぇ。



 ◆◆◆◆◆



 ――ナユタが地に伏した後。



「彩芽ちゃんナユタ君泣いちゃったよ…」


「事実だからいいのよさゆり。たまには反省させないとダメよ私からさゆりを奪った罰だぐへへ


「本音駄々漏れじゃの」


 恨みの含まれた彩芽の禍々しい笑顔に呆れ顔のさゆりとクロネ。


 その後ろではツクモが剣を握り「処す?処す?」と身構えているがアヤネが「だめっす!」制止している。


 …ナユタの悪口を妻達の前で吐く命知らずは恐らく彼女くらいの者だろう。


 ただ彩芽が処されていないのには彼女の言っていたことが半分が本当にだったからでもあった。


 ここに集まっている面々はその相談事のためにいるのだから。


「それで?奥様一同未婚のあたしになに?」


「…うむ、じつはのぅ」


「…えっとね…その…言い辛いんだけど…」


 目を泳がせもじもじするさゆり。


 そんな彼女を見た彩芽がニヤリと笑う。


「…はっはぁ、さては旦那様との夜のお悩みですなぁ?」


 からかい半分に冗談を言った彩芽はいつも通りさゆりのツッコミ待ちで身構る。


 しかしいつもなら「もう彩芽ちゃん!」と怒るさゆりが今回は頬を朱に染めて思いっきり目を逸らしている。


 …つまりは図星だった。


「………えっ?…まじ?」


「……うん…」


「ウッソでしょ!私がさゆりの夫だったら365日奉仕してもらうよ!?」


「…それはそれでどうかと思うっす」


 思わずツッコむアヤネ。


 しかし彩芽はそれを無視して戦々恐々と言った様子で「まさか…」と口を開いた。


「ひょっとしてさゆり…まだなんてことは…」


「……………」


 再び目を逸らし青い顔で汗を滝のように流すさゆり。


 沈黙は是なり。


「…一応前半に妻になった我やアサトやなどは経験済みじゃが、その後は特に音沙汰なかったのじゃ」


「…一応それとなく誘惑はしてみたけど駄目でした」


「あいつはホントに男なの…?」


 カーペットの上でネムトとミドリを抱き締めたままうつ伏せの夫を見ながら呆れ半分、驚き半分にリアクションをとる彩芽。


 だが「助けて彩芽ちゃん…」と懇願の顔で自分を見ている親友をみて「しょうがないにゃぁ…」とため息をついた彼女はしばらく考えこんだ後に目を開くと『シピッ!』とさゆりを指差す。


「逆に直接言ったことは?」


「直接?」


「だから『どうかこの■■■■ピーピーしてください!』…とか?」


「いえないよ!?」


 顔を真っ赤にして扇風機の倍の速度で首ふりするさゆり。


 全力の否定である。


 そんなさゆりを観察して『うんうん』と満足げに頷いた彩芽は会話を続ける。


「別にそのまま言わなくても良いってば。それこそ簡素に『私を抱いてください』で良いだろうし、ナユタアイツのことだから真っ直ぐ頼まれたら断れないよ」


「そうじゃのナユタならその可能性が高いのじゃ」


「さすがナユタ様、お優しいですね」


「まぁ優し過ぎるからさゆりがこうして悩んでんだけどね…。恥ずかしいなら和式かつ古風で慎ましくて威力の高い誘惑の仕方教えるから」


「…う…で、でも…」


「でも?」


 言い淀む彼女を優しい表情で待つ彩芽に、躊躇いながらもさゆりは思っていることを問いかけた。


「…え、えっちな女だって…き、嫌われないかな?」


「!」


 赤面しながらそう尋ねてくるさゆりを見ていた彩芽は頭の中で何かが『プツンッ!』と切れる音を聴きながら立ち上がる。


「私だったらむしろ好きになる!こんな風に!あー辛抱たまらん!親友を体液まみれにしたい!相談料払えー!」


「え?彩芽ちゃ…ひゃん!…ど、どこに手をいれてるのぉー!…んっ!…やぁ!」


「ここか?ここがええのんか?お姉さんに見せて見せて!ぐほほほほ!」


 胸や下半身を触られ嬌声をあげるさゆりをまさぐりながら彼女の頭の中の彩芽がふと呟く。


(そもそも神と結婚するような頭のネジ外れた奴がそんなこと気にするわけ無いじゃん)


 相談料として全身を触られ悶え続けるさゆりをクロネ、ツクモ、アヤネは赤面しながら黙ってみているのだった。



 今日の彼女達も平和である。

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