第112話 自慢は楽しいけどしない方がいいと思う

 ――有馬探偵事務所


 新築になった事務所の報告を終えた私、最かわの彩芽ちゃんは近場にある高級なソファーにダイブする。


 うはー!さゆりのおぱーいには劣るけどなかなかのふわふわ感!やめられない!止まらない!


 特に理由もなくソファーの上を高速回転しているとなにやら冷ややかな表情のツンデレ陰陽師こと雫っちがこちらを見ている。


「…ちょっと、せっかく新築になったばっかなのに最速で備品壊そうとしないでよ」


「大丈夫だってー!

 百人載っても!ダイジョーブ!」


「…流石に百人は厳しいと思います彩芽さん」


「てか、そんなに載れないから」


 緩やかな天然と鋭いツッコミのハーモニーが気持ちいい。


 我らのメンバーに足りなかったのはこれだったんだ。


 …ナユタもさゆりもボケ要因だったしなぁ。


 深刻なツッコミ不足を感じつつもソファーから立ち上がり腰を捻る。


 …おっ?腰から『ボキッボキッ!』といい音が鳴った。


 景気のいい音が無くなった余韻に浸りつつも、我らが探偵事務所の新たなメンバーの『雫っち』と『春にゃん』を視界にいれる。


 実際にまだ学生なので正式に雇用はされていないけど本人達の希望により卒業したらここに来ることは確定済み。


 …え?そんなあっさり内定あげていいのかって?


 しゃーないじゃん、

 資格も持ってきちゃったんだし。


 資格がなんのことかって?


 勿論…ナユタから力を与えられることじゃよ。


 …あの神しれっと2人にも新しい秘密道具あげてたよ。


 しかも無限に陰陽術が使えるゴールドお札とか、回復魔法と防御魔法使えるイヤリングとか!


 あたしのよりいいじゃん!


 あたしも目からレーザーとか出したかった。


 …まぁ?別に最かわの彩芽ちゃんはこのぐらいなんともないすぃー?べつに羨ましくなんて無いけどさ!


 こっちで嫉妬により発生した性欲を2人の胸を揉むことにより解消しようと手をワキワキしていたそのとき、廊下から瞬とゴリラと沖縄タッグがこっちにきた。


「皆、お待たせ」


「よくわかんないけど終わった!」


「これでこの事務所はシェルター並みに安全だ」


 このメンバーは実は新しく出来たこの事務所に防御魔術をかけていたみたい。


 何でも『転移妨害』とか『破損回避』だとか。


 なにやら自信満々に常盤んわんが「沖縄県警の最新技術だ!」とかいってたからよっぽど凄いんだろねー。


 ちなみに「常盤んわん」は役職的に国の犬だから命名。


 相楽?相楽は普通に相楽。


 理由はなんか腹立つから。


「外からロケランで射たれても壁に小さい痕が残る程度には丈夫になってるからこれで安心してサボ…げふん!げふん!仕事できるね!」


「おい?相楽いまなんつった?」


「さ、サブマリンビュー!」


 誤魔化し下手か!


 今まさに拳骨を食らわせそうな常盤んわん。


 しかしそれに割り込む形で話しかけた春にゃんが、握りこぶしを止めることとなった。


 …惜しい。


「あの常盤さん、どうして瞬さんの事務所を新築するのに警察が協力しているんてすか?」


「…ん?…あーそれは…」


 聞かれた質問から目を逸らしていい淀む常盤んわん。


 自分の口から言いづらいならこの彩芽ちゃんが言ってあげよう!


「そんなの決まってんじゃん。あたしらがあの無自覚ゴットの友人だからよ!…ね、常盤んわん」


 茶目っ気とエロス、大人の余裕と嫌みを込めたあたしのウィンクを受けた常盤んわんは頭をガジガジと掻いたあとにため息を吐いた。


「…まぁな。沖縄県警うちとしては今一番暴れられたら恐いのはナユタさんだからな。

 …それとその奥さん達」


「それに公にされていない秘密班よりも君たち『外宇宙探偵ズ』と一緒に行動した方が情報を集め安いしね」


 若干腹立つ笑顔で相楽が言う。


 …そう、何を隠そう我ら有馬探偵事務所は表裏で有名な宇宙的恐怖関連のスペシャリストについに認定されたのだ。


 …まぁお陰でよく分からない宗教団体の恨みを買い、今は亡き前有馬探偵事務所は灰と化したのだが。


 それを知った常盤んわん含む沖縄県警の協力の元、新しい事務所を建て顔見知りの警察2人を派遣され今に至ったのだった。


 実際ナユティファクトを持っている私たちはまともな魔術師よりも強いらしく、県警の仕事をこちらに依頼という形で渡してくるという業務関係を築くことと相成った。


 …それでいいのか国家権力。


「俺たちは今、君たちと一緒に行動するのが仕事だから協力は惜しまないつもりだ」


「いや~書類仕事から解放されてこんなに身軽になれるなんて感謝だよー」


「お前はもう少しちゃんとしろ!」


「痛い!先輩!子供の前で暴力はだめっすよ!」


 だらけた相楽に常盤んわんが万力を頭にかけていたら今度は挙手した雫っちが口を開く。


「かけた魔術って丈夫になるだけなんですか?」


「ふふふ!よくぞ聞いてくれた!これには沖縄県警…いや、日本の特殊警察の力を結集して編み出されたものでな!」


 とても楽しそうに常盤んわんがうちの事務所にかけられた魔術について説明し始めた。


 余程自慢の逸品なんすなぁ。


 ここの内側に転移魔術は使えないとか、人間じゃない奴が入ってきたら表示されるとか、掃除しなくてもホコリが無くなるだとか。


 とても楽しそうに常盤んわんが語っていたそのとき、ふと何もない場所に白い穴が空きそこから見知った奴の顔が出てくる。


「…お邪魔しまーす。おっ?ちょうどみんないるみたいだな」


「あっ!ナユタさんこんにちわ。

 この間はキッチン貸してもらってありがとうございました」


 どこからツッコミいれたらいいのか分かんないけど…さも普通と言わんばかりに空間から「こんにちわ」するのも、それに平然と挨拶する春にゃんもどうなんだろう?


「ああ、斉木ちゃんどうも。ウチの妻たちも楽しそうだったから台所が必要なら気兼ね無く言ってくれていいよ」


 首だけ出して会話するのやめーや!


「おっ?ナユタ!」


「相変わらずだな」


 楽しそうに首を出しているナユタがみんなと話しているとき、不意にとあることを思い出したあたしは常盤んわんの方を見る。


「常盤んわん…普通に転移できてね?」


「…………………」


 あたしにそう言われ状況を再認識した常盤んわんはしばらく固まったのち、こちらに穏やかな表情で向き直った。


 …顔が語っている。


「あの人は無理」と。


 それはまるで悟りを開いた修行僧のような穏やかな笑みでしたよ。


 悲しきかな人類の力の集合体は家で寛いでいるたった1人の男に敗北した。


 さっきまで自信満々の表情だった常盤んわんも今や惨敗を喫したボクサーのように影が濃くなっている。


「…敗北者じゃけぇ…」


 敗者に手向けの言葉を渡すとあたしは首だけ人間の方へと動く。


 普段なら先に「来てもいい?」って確認をとるナユタがメッセージから五分経たずに顔を出した辺り何か用事でも有りそうだし。



 ◆◆◆◆◆



 俺は今現在、門の創造から首だけこんにちわして話している。


 理由は後ろに我が家のちびっこ神たちが身構えているからである。


「…ん…新しい事務所…」


「お姉ちゃん!ずるいよ!

 一番乗りは私だって!」


「わう!俺も見てみたいぞ!」


 門が開いたら問答無用で飛び込もうとしているから、とりあえずあちらの了承を得てからにしないと。


 冷や汗を流しながらそんなことを考えつつ、話を続けていると後ろの方にいた彩芽がこちらにやってきた。


「おっす彩芽」


「うーす。愛しのさゆりは?」


「後ろで待機中だ」


「じゃあ退くがよい」


「今俺がダムの役割を果たしているとしたら?」


「…………わかった。

 じゃあ先に用件いいなよ。すぐにきたのそれが理由っしょ?」


 俺の言わんとすることを瞬時に察し、かつ本題があることをすぐに感じとる辺り、流石は現代に生まれた天才型の馬鹿だ。


「…今…失礼なこと考えたし?」


「いや?」


 要らぬ攻防を終えた俺は瞬の方を向く。


「なぁ瞬、彩芽の話だと今ここの設備って客室が沢山有るのか?」


「うん?そうだな。客室もだし泊まり込みが出来るように宿泊施設並みの部屋数があるよ」


 都合はいいが探偵事務所にそれは果たして必要なのか否か…。


 まぁ…今回の俺達的には助かる。


「じゃあ悪いんだけどさ…実は」


 ここで俺は瞬達に我が家の現状を説明。


 そう、なにを隠そうアサトの提案した名案とは瞬達の事務所に泊めてもらうことでした。


『…ん…知り合いだからたぶんOKくれる。

 …あと新しい事務所を探検したい』


 後半に本音が滲み出ていたが可愛いので不問なしました。


「…てな訳なんだけど…いいか?」


「それくらいならいいよ。

 というか僕たちの方がだいぶ世話になってるし、そのくらいはさせてくれ」


 さすが真人間の瞬だ。


 隣の天才型の馬鹿だったらきっと面白半分に宿泊費を請求してきたことだろう。


 さて許可も出たことだし我が家の住人達に進軍許可を出すとしよう。


「おーい!みんなー!いいってー!」


 ちゃんと門を開ききり足をつけた俺の呼び声がかかると同時に門から皆が入ってくる。


「「「「「「「お邪魔しまーす」」」」」」」


 これでとりあえず工事の間ここにいれば問題ないだろう。


 俺がやり遂げた顔で近場に有ったソファーに目を移したそのとき、斉木ちゃんが俺の肩を叩いた。


「んえ?どうかした?」


「…あ、あのーあちらの和服の方や、執事みたいな人とニットの女性はどなたですか?」


「……あー、そうか。前きたときにはツクモ居なかったし、あっちの奴らは会うの初めてか」


「てか前に地下教団のときにみた子もいるけど、あんたあのとき急いで帰ったからあたしらに紹介してないし」


「確かに僕もその虹色の髪の女の子と、狐耳の女性は知らないね」


 そういやまだ全然自己紹介とかしたことなかったし、新しく顔を合わせた面々も沢山いるな。


 気付いた俺は即実行に移すべく端の方により、ベルをホイッスルの形に変えて吹く。


「『ピピ―!』…はい、さゆりとクロネ、アサトとヨルトとネムト以外は横一列に並んで~」


 俺の号令により除外された妻たち以外が並ぶ。


 …ヒュプノスは気絶するから走って来て俺の腕に収まったけど。


「はーい、みんな簡単でいいから自己紹介な」


「こんちわっす!星野彩音っす!」


「がう!星野深雪だぞ!」


「…ぁ…星野……翠…です…」


「お初に御目にかかります。星野九十九と申します。どうぞ今後とも良しなに」


「ナユタ様の眷属、シュブニグラス。

 どうぞお見知りおきを」


「チャウグナーフォーンです。居候です!」


「ツァトグア。居候だ」


「私前に会ってるんだけど…まっいっか!ニャルラトホテプ、女バージョンよ!」


「「「「「「「 にゃー! 」」」」」」」


「ガフッ!」


「わん!」


「『ニチャァ…』」


「…クロネの眷属の猫達と、シャンタク君、普通の犬っぽくなってるティンダロスの猟犬のダロス君に、ショゴス。ウチのペット達だ」


「「「「「「 …………… 」」」」」」


「わぁ!猫に犬に鳥(?)にスライムだぁ!」


 斉木ちゃんは動物が好きなのか、我が家のペット達を愛でている。


本来なら正気を失いかねないが以前渡したイヤリングが仕事をしているらしく特に問題はない。


 ペットの皆もどことなく嬉しそうだ。


 だがそれ以外の皆は頭痛でも出たのか頭を押さえている。


 …体調わるいのかな?


「すいません、ナユタさん…ツッコミたいところは多々あるのですが先に優先的に確認したいことが…」


「…?何ですか常盤さん?」


「さっき…星野と名乗った方が四人いたのですが…ひょっとして…」


「あっはい、そうです新しい妻です」


 返答を聞いた常盤さんが再び頭を押さえる。


 やはり体調が悪いみたいだ。


「その…やっぱり神だったり?」


「そうですね、一応神としての名前は、『クアチル=ウタウス』『フェンリル』『ヒュプノス』『八雲御前』です」


「………おっふ…」


 謎のうめき声をあげた常盤が仰向けに後ろにたおれる。


「と、常盤さん!?常盤さーん!?」


結局この後しばらく常盤さんは気を失っていた。


「…あー神…神がー…」


 ハゲになった夢でもみているのか寝言で髪を連呼しながら。


 何かしらの恐ろしい呪いにでもかかっているんじゃないかと周りの皆に聞いて見ると。


「『お前が』『旦那様がー』『ナユタが』『我が神が』『ナユタ君が』悪い!」


 とのことです。


 …解せぬ。

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