第111話 家の改築は信頼できる会社に任せよう
コタツに我が家の住神が一同に集まっている。
隣の部屋のニャル、コタツで寝ていたツァトとチャウ、天井裏からニグラス、そして我が家のペット達。
漏れなく全員集合である。
いくら大きいコタツ机でもこの人数集まるとさすがに狭いが…今回の議題的にも今はこれで我慢しよう。
では家族会議を始めよう。
「…はい、じゃあこれから第6回ナユタ家会議を始めます」
「あたし部屋でガ○プラ作ってたんだけど?
なにかあんの?わざわざ寝てたツァトグアまで起こして」
「まぁな…あとツァトグア、座ったまま完全に目を開いて腕を組んだ状態で寝るのやめて。結構怖い」
「…二度寝したい」
不機嫌なギャル型ニャルと眠そうなツァト。
普段なら放っておいた方がいいが、
今回はこいつらにも関係あるから我慢してほしい。
「さっそく本題を…」
「あっ!ナユタ君先にひとついいかな?」
「んあ?いいけど」
本題に入ろうとしたそのとき、さゆりが元気に挙手をする。
脳裏に小学校時代のさゆりを思い出しつつも彼女の話を聞くために一旦話をやめた俺は、一度腰を落ち着けて静かに隣で寝ているツァトの目玉を指で突きながら耳を傾けるのだった。
「えっとフェンリルちゃん達が落ち着いたら言おうと思ってたんだけど今回は名前…あげないの?」
名前をあげる…要するに新しい名前をつけないのかってことだろう。
一応考えてはいた…が、本人達が何も言ってこなかったので要らないのかと思ってたけど…。
「えーと…いる?」
一応、新しい妻たちに問うてみるとヒュプノス、フェンリル、ウタウスは力強く首を縦に振っている。
俺のなんの捻りもない命名にそんなに目を輝かせないで欲しい…。
だがツクモだけは何やら気まずそうにこちらを見ていた。
彼女の愛らしい尻尾もどことなくぎこちなくピコピコしている様子からなんとなく何を考えているのか予想もつく。
ツクモは遠慮がちな性格だから恐らく「いいえ」と言えないのであろうことを感じ取った俺はフォローを入れることとする。
「ツクモは家族から貰った大切な名前だろうからそのままにしようと思うけどどうかな?」
「…!はい、そうしてくださると嬉しいです!」
これでよし。
さっきまで怪しい動きをしていた9本の尾も元気に「ピン!」と立っている。
…孔雀みたい。
あとは名前をつけるだけで…いや、先にすることがあった。
ピタリと行動を止めた俺は聞いていない可能性を考慮して大きな声で叫ぶ。
「アングルボザさーん!」
「はい、構いませんよ~!可愛い名前にしてくださいね~!」
…まだ内容を言ってないのに返事が来た。
コンマ三秒…一瞬で門から首だけ出したお義母さんはこちらの返答を聞かずに首を引っ込めた。
…なんとなく分かってたけどやっぱり見てたのかアングルボザさん…。
こうして承諾を得た俺はそれぞれに新しい名前を与えることとなり頭をフル回転させること10分。
新しい名前を教えるべくそれぞれの目の前まで行って頭を撫でながらその名名前を教えてあげる。
「ウタウスは綺麗な髪と色取り取りな歌声が響くから『
「はいっす!これからもよろしくお願いしますっす!ナユタ先輩!」
嬉しそうなウタウス…改めアヤネの頭を軽く撫でて次のフェンリルの前にたつ。
「で、フェンリルは雪みたいに綺麗な銀の髪だから『
「わう!前より短くていいぞ!これからはナユタと肉とずっと一緒に暮らすぞ!」
俺にぴょんと飛び乗り肩車の形で俺の頭に頬擦りするミユキの尻尾が凄い元気になっている。
どうやら物凄く喜んでくれたみたいでなによりだ。
…ところで俺は食卓に出る肉と同列なのですか?
おのれ…豚しゃぶ…。
スーパーで大安売りされていた豚肉に私怨を抱きつつも最後にツクモに抱かれていたヒュプノスを俺の腕の中に移す。
「最後にヒュプノスだけど…ヒュプノスは綺麗な翡翠色が印象的だから『
腕の中にいるヒュプノスに問いかける。
…が、返事がない。
もしや失敗したかと思い腕の中にいるヒュプノスの表情をみようとミユキが張り付いたままの重い首を前にだし彼女の顔を覗き込んでみると…。
彼女は赤らめている顔を、着ている服のフードを引っ張って必死に隠していた。
とても恥ずかしそうで…でも嬉しそうな顔を。
…可愛い!
「………あり…とう……ナユタ君…」
「どういたしましてミドリ」
抱き締めているミドリから湯気が吹き上がる。
その様子をしばらくの間、みんなと微笑みながら見守るのだった。
…ちなみに会議のことを思い出したのはこれから13分後である。
◆◆◆◆◆
イチャイチャしてると時間を忘れるのは見逃して欲しい。
では改めて会議…再開です。
「それで我が主。今回は私にも召集が掛かりましたが何か問題でもありましたでしょうか?」
黄金の装飾がついた手で挙手したニグラスがこちらに問うて来る。
こういう集まりごとに通常なら「
邪推をしているニグラスが顎に手を当てて考え込んでいるが今回はこいつらにも関係があるから集めただけであって他意はないのだ。
だってウチのペット達もいるし。
「…まさかこの間新発売した『超時空千里眼隠しカメラ』に不具合でも…」
「いや関係なく…ないな!やってくれたなコノヤロウ。だか今回の議題別だ」
なんやかんやでやっぱり人に迷惑をかける天才だよこいつら!
「にゃー?」
「おう、にゃんこ達も関係あるからちゃんと聞いておけよ?」
「「「「「「「 ニャー! 」」」」」」」
「うんうん、いい返事だ」
やる気に満ちたシャドーボクシングをしだす猫達。
最近隙あらば二足歩行を練習している意欲は伊達ではない。
「でー、結局なんの話なんですか?」
耳に綿棒を入れたままやる気の無さそうな猫に劣る神チャウグナーが聞いてくる。
俺は綿棒の端にチョップを入れると本題にはいるのだった。
「あぁぁぁぁぁ!鼓膜がぁー!?」
※危険なので絶対に真似しないでください。
「それで本題だが…皆知っての通り家族がだいぶ増えた」
「…まぁそれはねぇ。最初あたしとアサトとベルしかいなかったのに気が付いたらこの始末だもんねぇ」
ニャルが何か言いたそうにこちらを見ている気がするが気のせいやろ!
俺は悪くぬえ。悪くぬえずら。
「…でだ!流石にそろそろ家が手狭になってきたのでリフォームしたいなと俺は思うんだけど…どう?」
実際今はコタツに全員入るには体格が子供のアサトやヨルト、ネムトやミドリやミユキ達を抱き上げてギリギリ。
流石に狭いと俺は思ったのでした。
この話を静かに聞いていたみんなが短い時間フリーズする。
そしてすぐに顔に喜色を浮かべてリアクションに切り替わる。
「「「「「「 リフォーム! 」」」」」」
「キッチンとか大きく出来るかなナユタ君?
結構料理出来る人も増えたし大型のオーブンとか!」
「いいぞー」
「朝に皆集まるから洗面台も増やして欲しいのじゃ!」
「よいぞよいぞ」
「「おっきいテレビ画面!」」
「よきにはからえ」
「じゃあガンプ○工場!」
「それはダメ」
雑に聞いてみたがみんな思ってた三倍くらい嬉しそうだ。
だが各々の要望が多すぎて聖徳太子でも悲鳴を上げそうな状態だったので個々で要望を纏めたメモを書かせて集めることで集計する。
みんなの要望は結果として山となって積み上がったのだった。
…大丈夫かな?大丈夫だろ?…たぶん!
「さて、残る問題は二つ。まずどこの建設業者に頼むかだけど…」
「それならばご安心を我が主。伝手がございます」
「マジで?」
聞き返す俺に自信ありげな表情で頷いたニグラス。
彼女が「ぱん!ぱん!」と柏手を叩くと門が開き、そこからスーツを着た人間っぽい方が出てくる。
だが人間ではないことはすぐに分かった。
腕は4本あり顔には垂直に牙が並んだ大きな口がある…そう、ガグさんである。
以前我が家のお風呂場をスピード改築してくれたときにニャルに紹介されているので知らぬ仲ではないからな。
あとはこの歴戦の建築家さんにお願いすれば一つ目の問題が解決するだろう。
そう思い話しかけようとした瞬間、ガグさんが凄まじい速さで俺の前にひれ伏した。
……ホワイ?
流石の俺もこの突然の事態に困惑していると見かねたニグラスが咳払いとともに説明してくれる。
「実は最近彼らの会社が仕事中にとある生き物に作業妨害を受けておりまして…仕事にならずに彼らは困り果てていたそうです」
「『コクコク!』」
言葉の話せないガグは同意を表現して凄く頷いている。
「その生き物は特に理由もなく現場を荒らしたり、鉄の棒を投げつけたりして彼らがほとほと困り果てたそのとき!我が神がその生き物を大量虐殺し彼らの危機を救ってくださった!…とのことです」
「ほえー?」
一切記憶にございません。
思い出そうとせども全く心当たりがない。
「人違いじゃね?」
「『ブブン!ブブン!』」
風が吹きそうな程全力でガグさんが首を横に振っていらっしゃる。
どうやら間違いはないらしい。
が、やはりその生き物に心当たりがない。
「…その生き物って?」
「ムーンビーストですね」
「ムーンビースト…?…あー!あのカエルか!」
そこでようやく何の話だか理解した。
そういえば前に二回くらい消し飛ばしましたね。
「そういえば…今ではムーンビーストはナユタ様を恐れて別の星に移住したと言う噂を妖怪達の界隈で聞いたことがあります」
「ツクモ様の言う通り、既にムーンビーストの大半は我が神の視界に入れば抹殺されると恐れて隠れ住んでおります」
「で、仕事の邪魔されなくなったからガグさんが俺に感謝している…と?」
「『グッ!』」
「そうです!」と言わんばかりに4つの親指でグッジョブされる。
…特に大したことしてないけど喜んで貰えたならよかったよ。
「…そして今回の改築はガグ建設の総力を持って当たらせていただきたい!…とのことです。
あと眷属に加えて欲しいとも」
「アッハイ。じゃあお願いしていいですか?」
こちらが出した握手に4つ全ての手で答えるガグさん。
やる気の全開である。
こうしてこちらの要望が書かれた紙をまるで国宝のように大切にアタッシュケースにしまったガグさんはこちらに二礼・二拍手して去っていった。
………神社かよ。
こうして急ピッチで工事されることが決まり、
今日の夕方から明後日の間の三日で終わるらしい。
ガグさん有能。
そして一つ目の問題が解決した俺たちはすぐにもうひとつの問題へと移行するのでした。
「で、こうして無事改築されることは決まったがその間俺たちはどこにいるか、それがもうひとつの問題なんだよ」
「確かにそうじゃの。
この人数ではホテルもダメじゃし」
「確かにそうですね。
マヨイガでは時間が上手く合わずに3日のつもりが三年になってしまう可能性もありますし…」
「我が神に提供出来る宿泊施設はまだ私も企てておりません」
「変な場所だと猫さん達が危ないかもしれないしねナユタ君」
「だよなぁ」
それぞれのいい案が思い付かず揃って「うーん」と唸っていたそのとき、俺のポケットのスマホがなる。
どうやらメールみたいだ。
差出人は「彩芽」
文字がやたら多くみんなに見せるのが大変そうなので俺は朗読を開始するのだった。
「どうやら彩芽からみたいだな。
『はい!どうもー、最かわの彩芽ちゃんだよ!
この度、有馬探偵事務所が新装オープン!
広い応接間!怪しい生物とかが攻めてきても大丈夫な壁!何人もの依頼人が寝泊まりしたりも出来る超豪華な探偵事務所に大進化!暇があったら見にきてちょ!』だって…」
「ちょっとナユタ!先越されてんじゃん!
あたしら裏ボス連合がそんなでどうすんの!」
机をバンバンするニャル。
誰が裏ボスやねん。
こっちはただの一般人やぞ。
それに追随してミユキも楽しそうに机を叩き出す。
「ミユキちゃんやめなさい。ニャルさんの真似したらご飯からお肉が消えるよ?」
「…わふー」
すかさず黒い笑顔のさゆりがミユキを抱き上げ釘を刺すと、瞬時に大人しくなる。
そして脱力感の漂う顔で尻尾を激しく振って大人しいアピールをしているのだった。
欲望に忠実でよろしい。
と、そのとき『ぽん!』と手を叩きアサトが口を開いた。
「…ん!…名案…思い付いた」
そう言いながら彼女は俺の持っているスマホを指差し、意図が読み取れなかった俺は首を傾げるのでした。
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