第107話 結び結びて今ここに至る

「……わーお」


 いろいろあれな光景を覚悟しながら外へと出た俺は自身の目をごしごし擦ってもう一度我が家の庭に広がる光景を見通す。


 そこには何やら大量の妖怪たちが跋扈していた。


 しかも俺の目が確かならその群れが二つある。


 片方は以前ヒュプノスの夢の中で見た妖怪たちと同じようになんかこう…例えるならヤクザっぽい体中に傷だらけの妖怪たち。


 で、もう一方も同じ妖怪の様なんだが…向かい合っている奴らがヤクザだというならこっちはマフィアの様な感じ。


 スーツを着ていてきちんと整列し顔にはサングラス。


 まさに「マフィアVSヤクザ」…ある意味恐怖である。


「…ん…抗争が始まる…」


「なぜうちの庭で睨み合っておるのじゃ…」


 うちの妻たちとその異形達を遠巻きに眺めていたそのとき、

 互いに睨み合っていた妖怪ヤクザのうちの一人(?)がこちらに気が付く。


「ヒヘーヘヘ!もしかしてテメェらの誰かがナユタとかいう奴かぁ!」


「…世紀末…じゃない、えーと俺がそうだけど」


 何やら俺を探しているようなので挙手してみるとヤクザ妖怪たちが一斉にこっちを見て目を丸くする。


 …が、しばらくすると大きな声で笑いだした。


「ウッソだろぉ!こんな奴が外宇宙を統べているとかいう神なのかよ!」


「こんなもやしみたいなやつが俺らより強いわけないだろ!ぎゃははは!」


「あんな中二病みたいな名前名乗ってて恥ずかしくないのかよぉ!キヒヒ!」


 これは嘲笑われていますねぇ。


 でも残念だったな…お前らの意見に一番賛同しているのは…俺だ。


 特に3番目の妖怪の言ってることが心に刺さる。


 ホントなんでこうなったんでしょうねぇ。


『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!』


「……?」


 しみじみと過去を思い返していたそのとき俺の周囲から何やら異音がすることに気が付き正気を取り戻すとそこには怒りの形相を浮かべている我が家の妻たちの姿があった。


 しかも一緒にいたフェンリル・ヒュプノス・ウタウスもおまけで。


 …マズい…このままでは世界を滅ぼす争いが始まる(確信)


 急いで俺が妻たちを止める方法を考えていたら今度は聞き捨てならない言葉がヤクザサイドの妖怪から聞こえてくる。


「てかあの男の周りにいる不細工な女はなんだぁ?」


 お?


「あいつの女じゃねぇかぁ!ヒヒ!不細工同士でお似合いだぜぇ!」


 おっ?(怒)


「バーカ!あんなの非常食に決まってんだろ!」


 おおっ?(憤怒)


「だったら俺らがまとめておいしく食べちまおうぜぇ!」


 怨!!(見せられないよ!)


 散々好き放題言った後にクソ妖怪どもは数百体が合わさって大きな醜い瞳の形になるが…俺からしたらどうでもいい。


 しいて言うなら…殴りやすくなったというくらいかな。


 体中の血管が破裂しそうなほどに頭に血が上った俺は右手でヒュプノスを抱えているので左手を宙に出し、ウチの魔導書を呼ぶ。


「ベル」


了解らじゃ。討滅開始」


 首にかかっていたネックレスから魔導書の姿に形を変えたベルを左手に持ち魔術の詠唱を始める。


 今回は手加減するつもりは毛頭ない。


「始祖と開闢を染めよ」


「始りの樹をここに」


 俺と別の詠唱が始めると同時に宙に浮かんでいる妖怪目玉の後ろにこの世界の始まりの大樹の形を模した術式が浮かびだす。


 くそ妖怪どもがそれに気を取られているうちに俺はさっさと詠唱を完成させる。


「白黒混じりて終始を飾り」


創世大樹セフィロト ここに為す」


『『創世アイン苦悶ソフ罪樹呪オウル!』』


 完成した術式から巨大な剣が生み出され宙に浮いている目玉妖怪を貫く。


 そして刺さった場所から黒い煙が湧きだし傷ついた場所を徐々に侵食していく。


『ぎゃああああ!いてぇぇぇぇ!』


 合体した妖怪どもの悲鳴が聞こえる。


 ざまぁ。


 ……しかしじわじわと嬲り殺しにする術式を選んだせいか、

それとも妖怪どもが合体して大きく丈夫になったせいか妖怪どもの悲鳴がうるさい。


 うん、割と丈夫なようだしとどめを刺すとしよう(無慈悲)


 脳内でベルと意思疎通を取り、苦しんでいる妖怪どもの目の前に転移。


 そして適当に取り出した魔剣(ベルの試験品)を取り出し、

 それに目一杯の魔力と呪力と神力を注ぎ込んで目玉妖怪に突き刺す。


「ぎゃああああああああ!」


 眼球にクリティカルヒット!


 そのまま宙で体を回しおまけの呪詛を唱えながら刺さっている剣の柄に回し蹴りを加える。


「永遠の責め苦を!永久に味わえや!ゴラァ!『永劫苦絶エターナルペイン』!」


 元々あった呪詛と今俺が蹴り込んだ呪詛が合わさり粒子と化した妖怪の身体が突き刺さっている剣と共に黒い穴へと飲み込まれていく。


 これには俺もにっこり。


 あの空間の中で永劫に苦しんでくれることでしょう。


 俺の妻を侮辱した罪は重いのだ。


 片付いたのですぐに転移し元の場所に戻る。


 さっきまでこちらを嗤っていた妖怪ヤクザどもは唖然とした表情でこっちを見ていたが徐々に現実を理解できて来たのかプルプル震えている。


 はっはっは!今回は震えても許さんからな!(怒)


 その向かい側の妖怪マフィア共は特に反応がない。


 というか敵意も感じないから何を考えているのかいまいちわからん。


 と、俺が状況把握をしていると俺に妻たちが飛びついてきた。


「「わーい!」」


「うむ!さすが我らの旦那様なのじゃ!」


「えへへ、ナユタ君!」


「私たち為に怒ってくださってありがとうございます旦那様♡」


嬉しそうなアサトヨルト姉妹に、誇らしげなクロネ、頬を赤らめたさゆりとネムト。


 どうやらうちの妻たちの機嫌も直ってくれたようだ。


 怯える妖怪ヤクザどもを他所に、可愛い妻たちを撫でていたそのとき、

 俺のズボンをフェンリルが引っ張る。


「どした?」


「なんか向こうの奴らが騒いでんぞ?」


「向こう?」


 フェンリルの指さす方向、それは妖怪マフィアの方だった。


 見てみるとさっきまで動きのなかった妖怪マフィアたちは何やら列を2つに分けてその中央に向けて頭を下げている。


 まるでそこに誰かが訪れるように。


それをしばらく見守っていると彼らの頭を下げている中心の空間が揺らぎ開かれる。


 形や方法は違うがおそらくあれは俺たちが使う「門の創造」のような力だろう。


 つまり誰かが来る。


 それがわかるのと同時にその場に一人の…いや正確には1柱の神が顕われた。


 殺伐としたこの場に似合わぬ色鮮やかな着物を纏った美しい女性。


 ただ彼女が人間でないことはすぐにわかる。


 身体から溢れている神の力も然ることながら色白な彼女の黄金の髪からは立派な狐耳が、彼女着物の後ろからは扇のように9本の黄金の尾がゆらゆらと揺れている。


 あれが俗にいう「九尾の妖狐」なのだろう。


 ベルに書いてあった情報だと特別強い力を持つ妖怪らしい。


「「「「「「「 あねさん!お疲れ様ですっ! 」」」」」」」


 それまで沈黙を保っていたマフィアたちが頭を下げる。


 どうやら彼らの頭目は彼女らしい。


「……!」


 状況を観察していたそのとき、ふとあちらの神と目が合う。


「向こうのヤクザどものように敵意を向けられるかな?」と、思っていた俺だが

 意外や意外、こちらに気が付いた狐の神様は丁寧なお辞儀をこちらにしてくる。


 思わずこちらもたじたじ「あっどうも」とお辞儀を返すのでした。


 心なしか微笑んでこちらを見ていた気がするし…案外敵じゃないのかも…

 …『ポンポン!』…おや?


 いつの間にか俺の頭に猫フォームのクロネ、両足にアサト・ヨルト、

 両腕にさゆりとネムトが配置付いている。


 気のせいだろうか黒いオーラが出ている気がする。


 先程の上機嫌はどこへやら…物言わず「あの女誰よ」という感情が俺の四肢+頭に伝わる。


 誤解です!ただの挨拶だったんです!


 俺の腕の中にいるヒュプノスもちょっぴり顔が青い。


 …巻き込んですまん!


 俺が無実の罪に問われているが、

 それとは関係なくどうやら向こうの状況は動き出したらしい。


 さっきまでプルプル震えていた妖怪ヤクザどもが妖怪マフィアの先頭へと出てきた狐神に威嚇を始めていた。


「テメェ!八雲御前!ここで会ったが百年m…」


「お黙りなさい」


 先程の微笑みが嘘なのではないかと思えるくらい怒気の籠もった冷たい声で相手の妖怪の話を遮る狐神。


 その気迫に押されヤクザたちも口を噤む。


「乱痴気騒ぎを起こすだけならば見逃しておりましたが此度は許されません。

 あのお方に直接の危害を加えたあなた達にもはやかける情はない」


 そう言った彼女が片手を空へと伸ばすすると彼女の尾が光に変わると手の平に収まり形を変えた。


 それは剣。


 古く旧くひび割れた様に見える両刃鍔なしの剣。


 だがそれを見た瞬間、俺とベルは裏で行動に移る。


『ベル』


『虚数展開。次元干渉虚数方陣起動』


 過去最大規模の防御魔術を展開し家と俺の周りにいる者達を包み込む。


 勿論理由はあの剣だ。


 多分あれは神殺しの剣。


 割とヤバめの武器。


 念のための防御を俺がはり終えたると、

 その剣を構えた狐神がゆっくりとした動作でその剣を振るう。


「滅び消えよ愚かなる者達!畏れられし災いは!お前たちの元へと来たれり!

 『神剣しんけん草薙剣くさなぎのつるぎ』!」


 緩やかに振るわれた剣。


 視界が点滅したかと思われた瞬間、

 狐神に向かい合っていた妖怪ヤクザどもが細切れになる。


 そして地面に落ちることもなく灰となった彼らは風に乗り空に流れていく。


 そこにはもはや妖怪がいた痕跡すらなかった。


 久々に冷や汗をかく。


 一応張っていた魔術に反応がなかったことを見ると、

 こちらは攻撃されていなかったようだが油断は出来そうもない。


 割とうちの奥さん方に匹敵する神様らしいしな。


 と、警戒していた俺の目の前にいつの間にか妖怪マフィアともども狐神がこちらに転移して移動してきていた。


 思わず身構える俺たち。


 そんな俺たちの前で妖怪たちはゆっくりと後ろで組んでいた手を解いた。


 足を拳一つ分開いて踵を大体45度。


 姿勢をやや低くした彼らは上に上げた両手を思いっきり膝に叩きつけて口を開く。


「「「「「「「「「「「 お疲れ様ですっ!!! 」」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「…ふぁ?」」」」」」」」」


 緊張した雰囲気だっただけに想像していなかった言葉に思わず「ポカーン」と口を開く俺たち。(こんな感じ→( ゚Д゚))


 だが混乱冷めやらぬうちに目の前にいた狐神が手に持っていた剣を尾に戻し、

 その尾と耳を嬉しそうにピコピコさせながら流麗な動作でお辞儀をした。


「お久しぶりですナユタ様、お会いしとうございました」

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