第106話 嫁を除いたら悪友が半数じゃね?
騒がしい朝を過ごし終えた俺たちは色々片付け現在は各々それぞれやりたいことをやっているような感じ…要するにいつも通りである。
さっきまで「たすけてー!」と声を上げていたチャウグナーも今ではすっかり一員気分でコタツ入り梅干しを抱えて食べている。
図々しさが上がってません?…いや、いつも通りか。
前みたいに発狂して襲い掛かってくることがなくなっただけ御の字だろう。
…まぁ血を食べなくなったせいか大食いになったみたいだが我が家的にはご飯をつくる人間の手間以外は問題なかろう。
どのみち大家族だし。
アサトとヨルトはテレビで格ゲー中。
クロネとさゆりはスーパーへ買い物。
俺と信長さん、ハスカさんとネムト、そして俺の膝上にヒュプノス、背中に張り付いているフェンリルはコタツで向かい合い談笑していた。
「そう言えば信長さんってバレンタインデーって知ってるのか?」
「かか!何を言うかと思えば…当然知っておるぞ!
なにせ儂はナウでヤングな第六天魔王だからな!」
「3割くらい死語だけどな。じゃあチョコも?」
「勿論だ!
うちの嫁が儂のために作ってくれたチョコ…その名も『関ケ原ちょこ』だ!」
高らかに声を上げた信長さんが亜空間に手を突っ込むとそこから取り出されたのは昔の戦場を模したお盆の上に兵士型のチョコが合戦をしているというなかなかに手の込んだチョコレートだった。
戦場の合戦の一場面を切り取ったようなとても精巧な作りは作り手のかけた手間を彷彿とさせる。
心なしか頬を朱色に染めたハスカさんが嬉しそうにしている。
仲良きことは良きことですな。
…しれっと戦場の端に神の姿のハスカさんチョコがある気がするが気のせいだろう。
俺がチョコから目を逸らしていると今度は信長さんがこっちに話しかけてくる。
「そう言うナユタこそしっかりチョコをもらったようだな」
「『パキッ!』…わかる?」
「いやわかるってお前なぁ…さっきから隙あらばチョコレートを口に入れておるではないか」
信長さんが言ってるのは事実である。
俺は口が空けば多種多様なチョコを放り込んだり、噛み砕いたりしているからな。
何故かって?そりゃ今年は沢山のチョコをもらったからですよ。
妻たちからの本命チョコ。
知り合いからの義理チョコ。
何より一番数が多いのが我が家で練習用に作られたチョコレートたちの山である。
妻と家でチョコづくりをした海上ちゃん達はしっかりとした完成品を作り上げるまでに大量の失敗作を作り出したのだ。
まぁ失敗作といっても別に焦がしたとか食べられないとかではない。
不格好だとか落として砕けたとかそういう奴です。
さすがに食べることができるチョコを粗末にするわけにもいかないのでタッパーに収めて収納した結果、俺の背後には保護魔法で包まれたチョコタッパータワーが出来上がっていた。
バレンタインデー当日から欠かさず食べ続けているがまだ結構余っている。
「沢山あるからな。食べ物を粗末にするの駄目絶対」
「まぁお前のことだから沢山の知り合いからもらったんだろうな。
ちびっ子たちなら喜んで食べるんじゃないか?」
「いや、食べ過ぎてしばらくチョコは食べたくないってさ」
「しかしそのペースで食べていたらまたチョコの方が増えそうだがなぁ」
「いやいや…」
いくら何でもそれは心配のし過ぎだろう。
チョコレートは自然増殖なんかしないって。
つまり俺は子の後ろのチョコレートとの死闘を越えればもう恐れるものはないのだ。
兵士チョコを口に運ぶ信長さんと一緒にチョコを加えながら俺たちの隣でフォークで鍔迫り合いをしているネムトとハスカさんを見守っていたそのとき、
『とったったったったった!』
廊下から若干の小走りの足音と共にリビングに来客が訪れた。
「お、お邪魔するっすー!」
「おーウタウスいらっしゃーい」
口に咥えたチョコを上下しながらウタウスに挨拶するワイ。
心なしかいつもよりも可愛い服を着ているウタウスが何やらモジモジしながらこちらの様子を伺っている。
その仕草がとても可愛い。
「…そ、その~…ナユタ先輩!」
「おう、どうした?」
何やら緊張しているウタウスの頭を撫でる。
すると硬かった動作が2割増しで硬くなった気がする。
失敗でしたか…。
硬直して「あーぅ」と口から魂を出しそうな顔をしているウタウスだったが、
何やら意を決したのかこっちを見上げてくる。
「あの!遅れたっすけど…これバレンタインデーのチョコっす!」
「ウワー ヤッタァ ウレシイナァ 」
思わず口から魂の抜けた声が出る。
これ以上増えないって言った途端にこれですよ。
しかし頑張って作ってくれたチョコを無下に扱うわけにもいかず(さっきのカタコトはノーカン)俺は改めて優しく彼女の頭を撫でながら差し出されたチョコをしっかりと受け取る。
「ありがとうなウタウス。大事に食べさせてもらうよ」
「は、はいっす!」
嬉しそうにするウタウスに内心を悟られないように微笑む俺。
彼女は知らないのだ…すでに俺の口から出る息はチョコ味に染まっているという悲しい現実を。
右目から感涙を、
左目から血涙を流しながら俺はただウタウスの頭を撫でるのでした。
◆◆◆◆◆
ちょっぴり遅れたバレンタインデーイベントの後、
ウタウスもリビングの住民となり元の配置に戻る。
何故かウタウスとフェンリルが俺の背中の奪い合いをしているが理由は不明である。
まったりと口にチョコを放り込んでいるとぐるりと周りを見回したあとこっちに向き直った信長さんが唸る。
「なんというかいつきても賑やかだなナユタの家は」
「賑やかしてる人筆頭がなにいってんのさ」
「いつもしんみり悲しげな顔とか嫌じゃろ。
というかそうではなくてだな…ナユタは友人を作るのがうまいといっておるのだ」
「んん?そうか?」
勝手に増えていくだけで実際俺が何かしたことはない気がするが?
「自覚がないんだな。実際結構儂も神やってきたがこんなに仲良しこよしで寛ぐ場所はそうそうないものだ。他の神たちとてそう言っておるだろ?」
「まぁ…過ごしやすいとはよく言われるな」
「だろうな。この間もいかつい妖怪どもが家の場所を聞いておったしな」
「ふぇ?妖怪?」
「妖怪…ですか?」
なんのこっちゃ知らない情報をしれっという信長さんに思わず奇声を返してしまう俺と疑念を露わにするネムト。
すると俺たちと同じようにそのことを知らなかったらしいハスカさんが信長さんの方を驚きの表情でみる。
「そうなのですか?でしたら私の不在の際ですね」
「うむ、そうだな。いかつい妖怪どもが『おぉーん!?テメェ!ナユタアムなんたらとかいう奴の居場所知ってんだろぉ!?教えろよぉ!』と尋ねてきたからな」
…信長さん、信長さん、それは尋ねてないよ…脅してるよ。
それを聞いたハスカさんの表情が一瞬なまはげも怯えそうなマジギレ顔だったがすぐに穏やかなものに戻すと手を叩いて納得したように頷く。
「なるほど、では魔王様はその木っ端妖怪どものくだらない要求をこt…」
「うむ!しっかり教えておいたぞ!」
唖然と口を開く俺とネムトとハスカさん。
これこそまさしく「鳩が豆鉄砲をくらった」状態だろう。
楽しく会話していた空気が凍り俺は固まったまま後ろで争っている2人に揺さぶられるがままになる。
「えっ?だってあいつらも友達なんだろ?」と一切やらかしたことに気が付いていない第六天魔王が頭の上に「?」を生やしていやそのとき。
『ダダダダダダダダッ!!!』
廊下から複数人が走る音が聞こえリビングに繋がる扉が勢いよく開けられた。
「た、大変だよナユタ君!外にね!なんかね!
…よくわからないけど…わからないの!」
「…落ち着くのじゃさゆり。ナユタ妖怪の軍勢がなんか攻めてきておるのじゃ」
慌てて日本語が組み立てられなくなったさゆりと、
そのさゆりのフォローをしてるクロネが買い物から帰ってくる。
…誰かさんの失態と一緒に。
「…あーうん、分かった。今行くよ」
「かっかっか!千客万来よな!なぁナユタ」
「信長さん」
「おう、なんだナユタ!」
「お前1カ月
「…なん…だと…」
「ハスカ!何故!?」と狼狽している信長さんの隣で「すいません魔王様…妥当です」と悲し気に微笑むハスカさん達を尻目に俺は、一緒に立ち上がったネムト、もともと立った状態で入り口にいたさゆりとクロネ、俺が抱えているヒュプノス、「なになに~?」と興味本位でついてくるアサトヨルト姉妹、背中に張り付いているフェンリルとウタウスと玄関に向かう。
今朝といい今といい…今日はだいぶ忙しいなぁ…。
―――この時俺はまだ予想していなかった。
俺が思っていた以上に今日は騒乱の日だったということ。
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