第105話 なんだかんだで忘れたころにやってくる

 早朝の騒ぎから少しの時間が経ちアサトとヨルトが起床する時間になると、

 寝室からゆっくりと出てくる。


 姉妹揃って眠そうに目を擦っていたが俺が膝の上に乗せたフェンリルの髪を乾かしているのを見るとバタバタとお風呂場に走っていった。


 どうやらドライヤーの風で気持ちよさそうなフェンリルが羨ましかったようだ。


 だって少ししたらびしょびしょのまま二人とも裸でこっちに走ってきたもの。


 当然ながら床がびしょびしょになり「にゃあぁぁぁぁぁっ!?」とキッチンから首を出して悲鳴を上げたクロネに首根っこを掴まれて体を拭いた後に床掃除をさせられている。


「…ん…床を磨く…すなわち心を磨くこと…」


「まだ朝は寒いからちべたいよぉ~…」


 だんだんと掃除が楽しくなってきているアサトと、

 かじかむ指をフーフーするヨルトの対比である。


 そして俺の膝上で暖かくて気持ちよかったのかフェンリルがうとうとし始めたそのとき、廊下の方からバタバタと足音が響く。


 …早朝から騒がしいなぁ今日は。


 だんだんと近づく足音が止むとともにリビングの扉が『バンッ!』と勢いよく開け放たれる。


 壊れるからやめろ。


「ナユエモーン!」


 そこに現れたのは見た目だけはお淑やか、

中身は血吸い蝙蝠でおなじみのチャウグナーフォーンさんでした。


 …なんかこいつ見るの久しぶりな気がする。


 具大的に言うと去年のクリスマスパーティーでノーデンスじいじに連行されて以来な気がする。


「たすけてナユエモーン!」


「断る。俺は未来の猫型ロボじゃないからな」


「そんなご無体なぁ~」


「つ-かお前なぁ今は朝の7時だぞ?

 こんな朝早くに来る奴があるか」


まだ朝御飯すら食べてないのにのどかな朝に面倒ごとを持ち込むのはやめてほしい。


 ごたごたと騒がしい奴の足し世をしていると今度は空間が開かれそこから見覚えのあるジャージ魔王が平然と出てくる。


 俺の舌のが乾かないうちに増えていく…。


「ナユタ~朝ごはんくれ」


「ま、魔王様…早朝ですし…まずはご挨拶をした方がよろしいかと…」


 平然の我が家のように寛ぎ始める信長さんと「あっおはようございます」と頭を下げるハスカさん。


 どうやら今日は光秀さんと秀吉さんはいないらしい。


「ナチュラルに来たな信長さん」


「神に昼も夜もあるか!…とな!」


「俺はどっちかというと人間だよ!」


「いやお前は儂より神だろ…」


「お前のような人間がいるか!」ととても失礼なことを口走る信長さん。


 …朝ごはん梅干しオンリーにしてやろうか…。


 俺が若干怒っていたら隣にいるチャウグナーとハスカさんが顔を見合せ目をパチクリさせる。


「…おや?珍しい方がいますね」


「…あれ?ハスター?

 あなたもここに来ていたんですか?」


 どうやら意外ながら知り合いらしい。


「知り合いだったんだな」


「そうですね。ずっと前に私の信者達に『血をクレー!』といって突撃してきたので撃退した際に」


「…お前…どこでもやってんだな…」


 もはや呆れを通り越して感嘆ものである。


 するとどや顔になったチャウグナーが胸を叩きながら口を開いた。


「そりゃ私、一芸特化ですので!」


「それに特化したらもはや通り魔やテロリストと同義な気がするのですが…」


 呆れのジト目ハスカさんの真っ当な一言である。


 しかしさっきまでドヤっていたチャウグナーが肩を落としてため息をつく。


「…しかしそれも過去の栄華ですよぉ…。

 困ったことになりましたぁ…」


「そういやさっき助けてとかいってたな。

 また血か?血がほしいのか?」


「いえ、血はもういいんです」


「「「「「 !? 」」」」」


 その場にいた面々が驚きの表情を浮かべる。


 ピンと来てないのは信長さんくらいのものだろう。


 するとなにやら悲しそうな顔になったアサトがチャウグナーの肩を叩く。


「…ん…いいやつだった…」


「止めてください!勝手に死ぬことにするの止めてください!」


「だってあんたが血を吸わないなんて天変地異の前触れじゃない」


「「「「 うんうん 」」」」


 ヨルトの言葉に皆頷く。


 そりゃ365日「血ー!血ー!」って言ってたやつが突然、

「いやもう僕大人なんで!」とか言ったら怖いだろ?


 それを指摘された当の本人は目を逸らして「否定はしないですけど…」と漏らした後に真剣な表情で話し出す。


「実は去年のクリスマスパーティーの影で人知れずノーデンスに捕まったんです。

 そして光の当たらない牢獄に…」


「正確には邪神指導部屋ですね」


「そしてそこで延々と心を作り変える呪い、その言葉を書かされ…」


「反省文ですね。大体作文用紙3枚程度です」


「身動きの取れない姿勢に縛られ動こうものならすぐに凶器が背中に…」


「精神集中のための座禅です。確かに動いたら肩を叩かれますね」


「…ぬぁー誰ですかぁ!人が話しているのに!」


「勝手に脚色するからでしょう?チャウグナー」


「あっイホウンデーさんおはよう」


「はい、おはようございますナユタさん」


「ワリコマナイデー!」


 度重なる妨害・来客・妨害で全然話が進まず、

 結局流れで客と家族で朝食を食べ終わるまで続いたのでした。


 その結果。


「…要するにぜんぜん反省しなかったから体を改造されて血が飲めなくなった…と」


「…はい」


「じゃあ餓死を待つばかり?」


「いえ、代わりに普通の食べ物を口にすれば何とか…

 ですが…あのど外道爺ぃ…なんと」


「なんと?」


「栄養バランスの整ったおいしいご飯を1日三食食べないといけない体にしやがったんです」


 しばらくその場にいる者は黙り込む。


 どこから突っ込んだらいいんだろう…。


 そして俺はどこを助ければいいんだろう。


「…はぁ…つまりおぬしはもう血を吸う必要はなくなったんじゃな。

 じゃあ以前起きていた発作はどうなったのじゃ?あの顔をが象になるやつじゃ」


「あれも無くなって今は普通に腹の虫が鳴きます」


 あの発作、空腹のサインだったのか…。


「…で?俺はお前をどう助ければいいんだ?」


「はうむ…はむ!…ご馳走様でした!

 出来れば3食栄養のいいご飯を提供してください。ナユタさん」


 朝食を完食して口の横に米粒をつけながらそう話す神の姿がそこにはあった。


 すっげー図々しい。


「お願いしますナユタさん!養ってくれるなら私何でもします!

 私の美ボディ好きにしていいですから!毎晩にゃんにゃんしてもいいですから!

 だから…あれ?何してるんですか皆さん…」


 いつの間にか我妻たちがチャウグナーを取り囲んでいる。


 心なしか彼女らの背後から真っ黒いオーラが出ている気がする。


 右足にアサト、左足にヨルト、右腕にさゆり(魔術強化状態)、

 左腕にクロネ、頭を後ろからネムトが掴んでる。


 全員不動の笑顔を顔に張り付けて。


 …怖いよぉ…。


 そして俺の頭の上に正座で現れたベルが親指で首を『シュピッ!』と横に切るモーションを合図にチャウグナーの身体が妻の人数分だけ引っ張られる。


 床から浮いて☆型に引っ張られているチャウグナー。


 当然本人からは絶賛悲鳴が上がっていた。


「痛いっ!?いだいいいいいいぃ!捥げる!体が5等分されちゃう!

 あっ…これがほんとの5等分のはn…いたたたたたぁぁぁぁ!!!」


 どうやら我が妻たちに許可なく俺の妻になろうとするとこうなるようです。


 怖いね。


 この後、一命をとりとめたチャウグナーは必死の土下座により我が家の居候4人目の称号を獲得したのでした。


 どうせ他所に行っても迷惑だろうからね。


 こうして我が家に『外宇宙4大迷惑神』がすべて住み着いたのでした。


 不要なコンプリートである。


 ……どうしてこうなった?


 どうせ答えのない思考をぐるぐる回す俺の膝の上でフェンリルとヒュプノスが気持ち良さそうに寝息を立てているのでした。

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