第102話 力がほしいか……?ならばくれてやろう!

 いろいろあって状況を忘れてはいまいか?


 …否!忘れてないですよもちろん。


 改めて海上ちゃんと斉木ちゃんから返答を受ける俺。


 結論から言うと二人とも外宇宙こっち側に少し踏み入ることを選んだ。


「私達これからも有馬探偵事務所に行こうと思いますし、

 足手まといじゃなければ瞬さんの力になりたいんです!」


「私もです!誠さんのサポートをしたいですし、高校を卒業したら有馬探偵事務所に就職しようと思っているんです!だからもっと強くならないといけないんです!

 …たとえ改造手術を受けるとしてもっ!」


 とても決意の籠もった表情で言ってくれたので俺からはそれ以上いうことはない。


 どうせ踏み入るならこちらでサポートしてあげて不幸な事故とかが起きないように手助けしてあげようと俺は思う。


 …あと斉木ちゃん…改造はしないよ…?


 このままでは俺が悪の組織幹部と間違われそうなので早速取り掛かるとしよう。


 まぁ…瞬たちの時みたいに適当に便利そうな力をつけた装飾品とかをあげればいいやろ多分。


 そのブツに正気が守られる効果付けとけば今回の「我が家SAN値直葬!」問題も解決されると思われる。


 …と、いうわけで…。


「じゃあまず斉木ちゃんからで…」


「はい!できれば顔が変わらないようにお願いします!」


「いや改造手術とかしないから…。

 なにかこう…普段から肌身離さずに持ってるものとかない?」


「…ええっと…だったらこのお母さんから貰ったイヤリングでいいですか?」


そう言った彼女は髪に隠れていた右耳から外したイヤリングをこちらに渡してくる。


 じゃあ斉木ちゃんはこれでいいな。


 で、海上ちゃんだが…。


「海上ちゃんは陰陽術用のお札今持ってる?」


「はい、持ってますけど…」


「じゃあそれちょっと貸して」


「いいですけど…どうするんですか?」


「うん?あれだよ、付与魔術エンチャント

 正気が減らないようになるやつとかを最低限つけておけばそれで大丈夫だし」


「最低限って言うあたり…そんなに効果ないんですか?」


「まぁ…あんまり効果つけ過ぎると…こう…使用者の身体を蝕んだりとか、

 変に自我とかついちゃったりするから。勝手に動くイヤリングとか嫌だろ?」


「「 …ああ…それは嫌です…」」


 2人とも2足歩行するイヤリングでも想像したのかげんなりした顔でハモった返事をした。


 そんな二人を微笑ましく見ながら俺はとりあえず先にイヤリングの方へと付与を始める。


なんかうちの魔導書がこっちを「じー」と言いながら見ている気がするが気のせいだろう……ディスってないよ?


 効果は…最低限で抑えめ抑えめ。


「…えーと…『認識障壁』『身体能力強化』『正気保護』…

 んー?『再生付与』とか?」


 適当な魔術を付与してなおかつ使用者権限者を斉木ちゃんに設定する。


 これで泥棒されないし安全ですね!


 そして完了したイヤリングを斉木ちゃんに返還。


「はい、これでとりあえず人の頭が飛ぶのとか見ても何も感じなくなるよ」


「…心を抹消されるんですか?」


「まぁつけてみ」


 不安そうな斉木ちゃんが耳にイヤリングをつけるのを確認すると飲み物がなくなりグラスに残っていた氷をつまみ上げる。


「斉木ちゃん今から氷そっちに弾くから防ぎたいって念じてみ」


「えっ?は、はい!」


 返事を受けてすぐに俺は氷を弾くと斉木ちゃんの顔の前で透明な壁に当たってテーブルに落ちる。


 どうやらちゃんと機能しているようだ。


 斉木ちゃんは突然のことで驚いている様子である。


「なんですか今の!」


「そのイヤリングに透明の壁を産み出す機能つけといたよ。

 斉木ちゃんが防ぎたいとか、壁が欲しいとか思えば生み出せるから盾とかに使えると思うよ」


「ま、魔法みたい…ありがとうございます」


「あいあい、あと身体能力強化とか怪我を直す力とかもおまけでついてるから」


「わぁ…なんかRPGの僧侶になった気分」


 だって俺が咄嗟に思い浮かべたのドラ〇エだもの。


「かすり傷とかが治る程度ですか?」


「いや、腕一本くらいなら生えるんじゃないかな?」


「「 えっ? 」」


「えっ?」


 何やら驚いた表情の二人。


 …あれ?何かおかしかったか?


 もしかして効果がしょぼすぎて驚いているとかだろうか?


 と、俺が二人の様子を伺っていると二人はクロネやネムト達に話しかけた。


「…これで最低限なんですか?」


「ふむ、まぁそうじゃな。神がその気になれば生き返らせるとかもできるし、

 加減してあるほうじゃろう」


「そうですね、旦那様の手心が感じられます」


「うん、うん」と頷くネムトとクロネを見て首を傾げる二人。


 私だってちゃんと加減できるのだよ!


 では気を取り直してもう一つの方をやるとしよう。


 今日の目標はチョコ作りでこれじゃないからな。


 貰ったお札に敷き詰めるように既存の陰陽術の術式を書き込んで…。


「ベル、何か法則とか因果とか崩せる物質ある?」


「手持ち。賢者の石、ヒヒイロカネ、ウロボロスの尾」


「じゃあそれでいいか~」


 …てかお前何でウロボロスさんの尻尾持ってるの…?


 手持ちの材料を錬金術で陰陽札に溶かして混ぜ合わせて…はい、できた。


「はい、海上ちゃんにはこれね」


「…なんか…お札が金ぴかになってるんですけど…?

 これには何をしたんですか?」


「えっと斉木ちゃんのと同じように身体能力強化と正気を保つヤツを付けた。

 後、俺の頭の中に入っている陰陽術のすべてを入れておいた」


「…あのぉ…お札って一回使ったら燃えちゃうんですけど。

 私のは使い捨てですか?」


「んや、そこもちゃんと配慮してるよ。一回使ってみて」


 疑わしい目つきで黄金の札を構える海上ちゃん。


「…急ぎて律令の如く成せ」


 陰陽術を使用する鍵の言葉を彼女が発した瞬間、

 お札がティッシュが燃えるように一瞬で燃える。


 そして…、


「……うわっ!?」


 燃えたお札が瞬時に復活。


 それによりお札を凝視していた海上ちゃんが驚きの声を上げた。


 だがすぐに何が起こったのか理解したのか少し興奮気味の海上ちゃんがこちらに戻ったお札を見せてくる。


「…復活した!」


「いくら使っても元に戻るお札~(ドラ〇もん風)」


「これは嬉しい!これ一枚で戦える点でも!

 お札を書く手間が省ける意味でも!私のお財布的にも!」


「時々休日に自腹で買った紙に一日かけて陰陽術書いてるもんね」


「やっと無限地獄から解放される…」


 こちらは素直に喜んでもらえたようだ。


 …というか泣いて喜んでいるあたり、高校生の生活費では陰陽師は辛いようだ。


 これで無事正気度問題も解決し彼女たちのこれからも少しは安泰だろう。


 まぁ危なかったら俺が行くし。


「よし、これでいいだろ。じゃあウチに行くか」


「ん!ご招待!」


「2名様ご案内~!」


 楽しそうに我が家に通じる門を開くアサトとヨルト姉妹。


 すいません、ここまだカフェなんすけど。


 ささっと視覚を弄る魔術を発動。


 これで周りの人たちにはドラえも〇がどこでもドアを出しているように見えるし、

 問題はないだろう。


 …えっ?この魔術の前に門の創造を直接見ちゃった人はどうするって?


 …知らんな!


「クロネ達は先に帰っててくれ。

 ちょっとレジでお金払ってからいくよ」


「はい旦那様。彼女たちはこちらで案内しておきます」


「では我が家に行くぞ」


 こうして我が家に珍しく人間のお客が来ることになるのだった。


 そしてふと気が付く。


「……パフェの代金って意外と高いな…」


 女の子の人数×パフェはそこそこの値段でした。


 皆さんこういう状況になったら財布の中身に気を付けましょう!





 ―――ちなみに。




 ナユタがレジで支払いをしていたその頃。


 ネムトとクロネが門を通り、次にさゆりが潜ろうとしたとき、

 その彼女の手を何やら神妙な面持ちの雫と陽菜がつかむ。


「えっと?ちょっと怪しいけど別にこれは危なくないよ?」


 見慣れない魔術に怯えているのかと思いそう話したさゆりだったが、

 2人は首を横に振る。


「あの…そうじゃなくて…さっきナユタさんにもらったこれなんですけど…」


 そう言いながらさゆりに向かって差し出された手には黄金のお札がある。


「ナユタさんがさらっと渡して来ましたけど…これ凄く…スゴイモノなんじゃ…」


「タダで貰っちゃっても大丈夫なんでしょうか?」


 戦々恐々と「いいんですか!?」と尋ねてくる二人。


 さすがに魔術に詳しくない二人でもこの物体Xのヤバさには気が付いたらしい。


 実際、買い物にスーパーに言ったら大金が当たったようなもの、

 分不相応なものに少し不安になっているのだろう。


 だが不安そうな二人にふわりと優しく笑ったさゆりが話しかける。


「大丈夫大丈夫!二人が間違った使い方しないならそれはきっと二人の力になってくれるから。それに私やナユタ君は今は瞬君たちとは一緒にいないから…きっとナユタ君の代わりに瞬君の力になって欲しいんだと思うよ」


「さゆりさん…」


「わかりました。瞬さん達は任せてください」


「うん、お願いね!」


 互いに笑い合い一緒に門をくぐろうとしたとき、

 ふと雫が口を開く。


「…ナユタさんって実は自分が物凄いことしてる自覚無いんじゃ」


「…はいはい、行きましょうねぇ~」


 喋りかけた雫の言葉は後ろから背を押して門へと押し込んださゆりの手によって阻まれたのだった。

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