第101話 他人が他人を認める指標ってなんじゃろな

 今日はバレンタインデー…の準備のためにいつものスーパーに来ていた。


 目的はチョコだったけど初めてうちの家族総動員でここに来た結果。


 普段買い物にこないゴッド姉妹ははしゃいでスーパー内を駆け回りながら買い物かごいっぱいのお菓子を積み上げる。


 良妻ネムト(大人モード)は今週の冷蔵庫の中身の確保に。


 そしてさゆりとクロネは謎のチョコの厳選を始める始末。


 …受け取る側としてもそんなに真剣になられると逆に緊張するのですが…。


 そんなこんなでバレンタインデーが近づいたことで開催されているチョコフェアコーナーをうろついているとクロネと話していた一人の女の子と目が合う。


「「 あっ 」」 


 同じような声が同じタイミングで口から漏れた。


 そりゃそうだよね。


 お互いここにいるとは思わないもの。


 …てか同じ地元の子だったんか。


 硬直する俺と彩芽の知り合いの子…と、その連れの子。


 そんな俺たちの後ろに『ガラガラガラーッ!!!』と大きなコロの音と共にアサトとヨルトが声をかけてきた。


「…ん…お菓子選んできた…」


「だいたいこんな感じだよ!」


「あらあら~まぁまぁ~」


 カートに縦にお菓子を詰め込まれた買い物かごが積まれている。


 その数約十個。


 その詰まれたカートの後ろで微笑ましそうにネムトが見守っている。


 混沌な状況からさらに混沌な状況が重なるがとりあえずゆっくりと息を吐いた俺は若干無表情に買い物かごを指さす。


「お菓子はかご一つにしなさい」


「…むー!…けちぃ…」


「おーぼーだぁ!」


 ちびっ子妻たちの抗議を受け流し、

 ばったり会った2人との対面を進めるべく買い物を済ませるのだった。



 ◆◆◆◆◆



 とりあえず会話できる状況をつくるためにお互い買い物を済ませてスーパーの隣にできているカフェに全員で入る。


 俺の家族が多いせいで完全に大所帯である。


 俺とネムトとさゆりが左側の席。


 その向かいの右側の席に2人がクロネと一緒に座っている。


 ちなみにアサトとヨルトはさゆりとネムトの膝の上で注文したアイスの乗ったサイダーを仲良くストローで吸っている。


 仲良きことは良きかな。


 そして向かい合って納得のいかなそうな表情の女の子海上ちゃんがこちらに話しかけてきた。


「…で?何であんたがスーパーにいるのよ」


「そりゃ買い物だけど?」


「あんた神様でしょ!だったら別になんかこう…『無から有を産み出す!』的なことできるんでしょ!だったら買い物とかしないでいいじゃない!」


 人をさらりと人外扱いするのやめて貰えないかな…普通に傷つく。


「神扱いされてるだけでただの魔術使える一般人だってば」


「あの…ナユタさんすいません。

 魔術使えるのは一般人とはたぶん呼べないです」


「しゃーないじゃん!うちの魔導書が楽しそうに頭に捻じ込んでくるんだから!」


 もう最近躊躇うこともなくうちの魔導書ベルは頭の中にポンポン魔術とか新しく作った錬金術とかの情報を放り込んでくる。


 それはもうさながら「おっ?この漫画面白いな…買っとこ」くらいのノリで…。


 斉木ちゃんの至極真っ当なツッコミで悲しみに暮れながらも、

 俺は咳払いをして俺個人の決めていることを話す。


「別に俺は自分の思い通りに世界を作り変えるためにこんな力手に入れたんじゃないんだよ。だから買い物はするし、洗濯だってする。普通にご飯だって作るし、お風呂にだって入るさ。それすらしなくなったらそれこそ人間じゃないだろ?」


 当たり前のことを言ったつもりだったが何故か向かい合っている二人は顔を見合せ驚いている。


 …なんで?


理解及ばず答えを求めてクロネに視線を送るがクロネは凄く嬉しそうに「うんうん!

 」と頷いている。


 誰か状況を説明して…。




 ――その後何故か二人に謝られた俺は「あっはい」と答えるしかない。


 故も分からぬうちに俺に対して少し丁寧な言葉を使うようになった2人は今、

 うちの妻たちと会話をしていた。


 今のところ2人とうちの妻たちの自己紹介をしてさゆりが以前は有馬探偵事務所で働いていたという話まですんだところだ。


 さゆりの話を聞いている海上ちゃんと斉木ちゃんの2人は、

 年相応に興味津々といった感じで目を煌めかせている。


 高校生の女の子だしこれくらいが普通だろう。


 前の世紀末な状況がおかしかっただけで。


「じゃああの彩芽おんなが言ってた以前一緒にいた友達ってさゆりさんのことだったんですね」


「雫ちゃん、さすがに『あの女』はは失礼だよ」


「…うっ…だってあいつ隙を見て胸を揉んでくるし…」


「…あははは…ごめんね、彩芽ちゃん昔から心の中にオヤジが住んでるから…。

 私も定期的に襲われてたし…。でも割と友達い想いの私の親友だから仲良くしてくれると嬉しいな」


「…善処します」


「他の皆さんは親族の方々なんですか?」


 何気なく気になったことを聞いたであろう斉木ちゃん。


 さゆりを俺の奥さんだと知ったから当然そんな感じに思いますよね。


 ここ日本だしなぁ…。


 正面にいる2人に気づかれないように我が妻たちを横目で見る俺は心の中でいい感じの説明をすることをお祈りする。


「…ん…わたしも妻…」


「もちろん私も妻だよ」


「はい、旦那様の妻です」


「うむ、ナユタの妻なのじゃ」


 …今回もダメだったよ…。


 あまりにいろいろ省いた説明。


 当然のごとく正面の高校生2人からはジト目の抗議がこちらに来ている。


「…女たらし?」


「もしかして魔術で洗脳…?」


「違う!違う!そんなことしてないって!

 お願いだから説明を聞いてくれ!」


 ――俺の必死の懇願の末、結局俺がどうして外宇宙生活をする羽目になったかと、

 妻たちとの出会いについてまで全部話すことで何とか疑念は晴れた。


 …で、最終的に。


「…それは…なんとも」


「大変…だったんですね…」


 2人は何やら力の籠もってない目でこちらを見ている。


 それは段ボール箱に捨てられた子犬を見る目よりも憐れな物を見る目でしたよ。


「ありがとう…そう言ってもらえるとこっちも救われるよ。

 まぁ…それにこうして大事な妻たちに出会えたことに関しては良かったしな」


「そうですね!」


「そうですそうです!」


 2人は俺の言葉を必死に肯定してくれているが…空気が痒い。


 なんか…こう…言い知れぬ空気の生暖かさがある。


 嬉しくもなく、かといって感傷的になるでもない半端な感じ。


 俺が微妙な空気を我慢してプルプル震え出したそのとき、

 うちの良妻ネムトが話題の切り替えを図ってくれる。


「そういえばお二人とも今日はスーパーにいらしていましたが…、

 バレンタインデーの買い物ですか?」


「はい、そうなんです」


「この後、雫ちゃんの家に泊まり込みでつくろうと思ってるんです。

 私達あまりチョコ作ったことないので…」


「…えっ?陽菜の家でやるんじゃないの?」


「えっ?雫ちゃんの家でやるんじゃないの?

 うち台所も冷蔵庫も小さいからあんまり向いてないよ」


「…えっと陽菜…それウチもなんだけど」


 どうやら予定と違い話が食い違っていたご様子の二人は互いに口元に手を当てて考えこむ姿勢になった。


 このままではチョコ製作に取り掛かれないからどうするか考えているんだろう。


 …えっ助けてあげないのかって?


 出来なくはない。至極簡単かつ速攻性のある解決策が一つある。


 ちょっとした前準備と若干の申し訳なさを除けばだが。


 と、俺が脳内会議をしていると結論が出る前にクロネ達が口を開いた。


「…だったら我らの家に来てはどうじゃ?どうせ我らも今日はチョコを作る予定じゃったし1人2人増える程度なら問題ないじゃろう」


「そうですね、ここで知り合った縁です。

 何よりここで知らぬ顔をするというのは同じ女性としてできませんから。

 …お渡ししたい殿方がいらっしゃるのでしょう?」


「「 クロネさん…! ネムトさん…! 」」


 何やらいい感じの雰囲気で話が進んでる…。


 そう、俺ん家貸せば一番早い。


 いろいろな問題はある程度はそれで解決できるのだ。


 ただし一番の問題点を除けばだが。


 俺の隣のさゆりに視線を送ると彼女も俺と同じように顎に手を当てて悩んでいる。


 たぶん悩んでいる内容は俺と同じ理由だろう。


 そして微妙な表情のままさゆりが口を開いた。


「…あの…私たちの家って外宇宙にあるんだけど…。

 2人とも虹色の空間とか見ても…発狂しない自信ある?」


「あと家には適当な神が遊びに来てたりするから高頻度で神に出会う。

 …正気が保てるか?」


「「 …たぶん無理 」」


 …だよなぁ…。


 それはそうだ。


 まともな人間なら即発狂から正気喪失の即死コンボ確定である。


 解決策はなくはないけど…。


 俺が目を横に逸らしていると何やら嬉し気なネムトの声がこちらに聞こえる。


「その問題点も旦那様ならいとも容易く解決できます。

 いかがでしょうか旦那様?」


「できるの?」


「私この前多分発狂しちゃったんですけど何とかなりますか?」


 期待の眼差しがこっちに向けられる。


 …この流れが一番嫌だったんだよ…断りづらいし…。


「まぁ…やろうとすればできるよ」


「「 ホントですか!? 」」


「できるけど多分これをやったらどっちかというと外宇宙側に近い存在になるから、

 できればこの案はやりたくはなかったんだけどな」


 俺が何かするというのはすなわち改造人間をつくる〇ョッカーよろしくで人外になるのに近い。


 イコールこれをやったらまともな人間から遠のくといっても過言ではないのだ。


 出来る限り改造人間とかにならないように配慮はするけどな。


 俺の言葉を聞いた2人は少し向かい合って相談している。


 今後に関わるしじっくり考えて欲しい。


 だが俺には今別の問題が発生した。


 俺の隣の隣にいるネムトが…なんかこう絶望したような表情をしている。


 明らかにショックを受けたような様子にさすがに話しかける俺。


「…ね、ネムトさんや?どした?」


「申し訳ありません旦那様!旦那様が深淵よりも深く熟慮なされているのに思い至らず安易に旦那様任せにするなど妻失格です!」


 何やら情緒不安定になっているネムトさん。


 何故か来ている着物が白装束になり懐から短刀を取り出す。


「つきましては謝罪を籠めて……は、ハラキリを!」


「ハイストップゥウ!!!!」


 謝罪で切腹っていつの時代ですかネムトさんや!?


 すかさず隣にいるさゆりとネムトを魔術で入れ替えて切腹を抱き止める。


 夫一筋なのはありがたいが、

 俺関係で取り乱すと危ないのは案外普段真面目な彼女とかなのかもしれない。


「はいはい、そこまでそこまで。ネムトは神なんだからこっちの価値観が難しいのは当たり前だしそこまで気にしないでいいよ。これから合わせていけばいいんだから。

 …俺のこと自慢したかったんだろ?ありがとうなネムト」


 涙目で目をグルグル回している妻を目一杯抱きしめる。


 ファミレスの雑談で失ってたまるか。


 すると時間が経つにつれて青かった顔に色が戻り、

 今度は照れた彼女は耳まで赤くなっていく。


「…落ち着いたか?」


「は、はい、申し訳ありません旦那様…」


「別に失敗してもいいから俺の傍からいなくなるのだけは勘弁してほしい」


「…はい♡」


 こうして妻の切腹未遂を俺は未然に防止しました。


 ――この後俺とネムトが自分たちの世界で見つめ合っていると、

「いいなぁ」の羨ましそうな目で見る他の妻たちと、考え終わって「…あのー」と、

 こっちを見て恥ずかしそう頬を赤らめている海上ちゃんと斉木ちゃんに現実に引き戻されるのでした。


 ……恥ずかしい!

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