第98話 蕎麦の上に乗せる具材っておいしいよね
―――ナユタ家台所
長い長い眠り(コタツ)より覚めた俺は今はキッチンに立っている。
理由は揚げ物。
みんな大好きエビの天ぷら…略して海老天を作っているところ。
時期とかタイミングとかで察しのいい人は気づくだろうが…
そうです年越し蕎麦です。
シンプルな出汁に素朴な蕎麦麺を入れてサクサクの海老天。
これが王道でしょうなぁ。
これを食べずに年を越すことはできぬのだ。
……えっ?「もう年越してるじゃん」?…「そもそももう1月の終わり近い」?
………そうだよっ!『年越し蕎麦』っていうか『年越してる蕎麦』だよっ!
しゃーないだろ!年末の段階で戦闘不能状態だったし!
そもそも新年は夢の中で越したんだから!
単純にタイミングが無かったんだよ!
…失礼取り乱しますた。
まぁ…遅れながら「食べたいな」と思った次第です、はい。
そんな心でキッチンにエプロン姿で調理中の俺の左腕にはもはや当たり前のようにヒュプノスがいる。
尚、直接使えない左手は魔術で鍋を操ってます。
一応油とか散るかもしれないし「コタツの中に待機するか?」とは聞いたのだが…。
『……な……ナユタ君の…料理…みて…みたい…』
とのことです。
腕の中にいるからそりゃ見るのには最適だろうね。
むしろ近すぎる気がするわ。
と言っても油を散らせるほど素人でもないからいいけど。
とか思っている俺の足を何者かが揺さぶる。
…よいこのみんな!
油とか使って調理しているお母さんの足とか揺さぶっちゃだめだよ!絶対だめだよ!
若干バランスを崩しかけたので浮遊の魔術で多少バランスを取る俺。
そして手元の合間を見て俺の足を揺さぶる者…白い髪の毛をブンブンしながら俺の足に顔を擦り付けるフェンリルに視界を当てる。
「おーいフェンリル、何してるんだ?危ないぞい」
「うー!暇だぞナユタ!遊ぼ!暇ならあそぼ!」
「あっはっは両手塞がってるのが見えんかね?」
「足は空いてるぞ!」
「ツイスターゲーム一回分しかないって意味だぞそれ」
「てか何してるんだ?」
「見てわかるだろ?料理だよ料理」
箸で油鍋をちょいちょいと指し示すがフェンリルは摩訶不思議なものを見るような目になり頭の上に「?」を浮かべる。
このリアクション…どうやら料理そのものを知らないらしい。
…そう言えば去年のクリスマスパーティーの時に料理見て瞳を輝かせてたっけなぁ。
あれ料理の豪華さに喜んでたんじゃなくて初見だったのか。
仕方ないので説明するとしよう。
「料理っていうのはな?
肉を焼いたり魚を煮たりとかしておいしくして食べることを言うんだよ」
「わう!ナユタん家で出てくる肉とかが、
おいしいのはそのウォーリーのおかげなんだなっ!」
「料理な」
「じゃあ今のそのウォーリーは肉かっ!?肉なのかっ!?」
「料理な。それに肉じゃなくてエビ…ええと魚とかの仲間かな?」
「…肉じゃないのか…」
さっきまで期待に胸を膨らませた表情でぴょんぴょんしていたフェンリルだがそこにあるのが肉ではないことに気が付くとあからさまに落ち込んでいた。
なんかもう次には「鬱だ死のう」
とか言い出しそうなくらい落ち込んでいるフェンリル。
だが多分彼女は海老天のうまさを知らないのだろう。
そう思い先に皿に上げていたおかげで熱が適度に冷めている海老天を箸に掴んで差し出す。
「おいしいから食べてみ?」
「わう?」
なんだか疑わしそうな目でちょっぴり俺を見た後、両手で海老天を掴んだフェンリルは海老天のにおいを確かめ一口、その海老天の先端を齧る。
すると下がっていた狼耳が勢いよく『ピョコン!』と起き上がり持っていた海老天をガツガツと口放りこむ。
そして尻尾をブンブンさせたフェンリルが光を取り戻した瞳をこっちに向ける。
「ナユタ!海老天!海老天もっとくれ!」
どうやらお気に召したらしい。
嬉しそうにこっちを見て海老天待機をしているフェンリルに俺が次の海老天をあげたそのとき、俺のズボンのポケットに入っていたスマホが鳴る。
画面を見るとそこには「お調子者天才系馬鹿彩芽」というコール表示が出ていた。
なんだこの忙しい時に。
「『ピッ!』あーい、もしもし~」
「あっもしもし~……………ごめん時間ないから直球で言うけど、
死にそうだから助けて~。15秒でよろしく!『ピロリンッ!』」
言いたいことだけいった彩芽が電話切った。
…あいつら新年から見かけないと思ったら…。
年明け早々死にかけるとかホンマあいつら…。
しかも制限時間15秒ときた。
あいつが長電話しないってことはそこそこ急ぎってことは確かだし。
急いであっちに行くとしよう。
「ベル、あいつらの場所に門開いてくれ」
『了解』
エプロンになっているベルにお願いすると、言い終わると同時に俺の隣に門が開く。
とりあえず腕の中にいるヒュプノスにどうするか聞くと…、
「ついてくる?」
「……(コクコク)」
どうやらついてくるらしい。
俺と一緒なら大丈夫だろうし家にいても意識不明にしかならないしな。
で、一応隣でぴょんぴょんしていたフェンリルにも聞いてみると、
「海老天!」
ついてくるようです。
こうして俺は2柱と一緒に門をくぐり抜ける。
当然そこには目的の人物「有馬探偵事務所」一行がいた。
俺はちょうど正面にいた彩芽に海老天を向ける。
「…はぁ…お前らなぁ…」
もはやため息しか出ない俺の向かいでは『てへっ!』というまことに腹立たしいポーズをとった彩芽がいた。
こんにゃろう…。
「俺前に言ったよな?危ないと『クスックスッ』んじゃないぞって。
なのにお前ら『クスックスッ』やっぱり新年そうそう…ってうるせぇ!」
「なにわろてんねん!!!」と俺が後ろを振り向くとそこには何が触手っぽいものをこっちに伸ばしてきているピンククラゲが沢山。
異常繁殖ですか?
ただ何となく嫌な感じがするのと、あと『クスックスッ』という笑い声みたいなのが凄く煩いので先に掃除することにしました。
ベルに頭の中で「掃除するぞ」と話し、「
隣にいたフェンリルに海老天の乗った皿を渡して大剣になったベルを手元に召喚。
そして宙に沢山浮かんでいるピンククラゲに向けて大きく振りかぶる。
「
うちの魔導書が付与した効果で銀ギラ銀に輝く刃を思いっきり振ると空に浮かんでいたピンククラゲがみじん切りになる。
でもその辺に散っても汚いのでベルにごみ収集用魔術をお願いする。
「『
空に出来上がった虹色のブラックホール。
それにピンククラゲの残骸がすべて吸い込まれたことを確認して
「…よっと」
激しい衝撃と共にレインボーホールが空間ごと消し飛び、
俺のごみ掃除は完了した。
なんか知らないけど最近は海でクラゲ増えてるって話だし、
今度海に行くときは気を付けないとな。
……まぁ俺たちが行く海って多分ルルイエの近郊だからクラゲなんていられない気がするけどね。
クラゲっぽい生物の枠はショゴスたちがとってるんで。
いろいろ片付いて改めて彩芽に向き直る。
さっきは視野狭窄で気が付かなかったがよく見ると常盤さんや、相楽さん、
あと知らない約2名がいる。
……まーた巻き込まれた人が増えてるよ…。
「おい彩芽!とりあえずどうすればいいんだ?
こっちは調理中断してきてるんだぞ?早くしてくれ」
急かす俺だが俺の話を聞いている彩芽はこっちにグッジョブしながら満面の笑み。
おっ?煽ってんのか?
「いやぁ~さっすがゴッドナユタ。
あっ…ちなみにお願いしたかったのさっきのクラゲだから」
おっ?終わってんのか?
なんとさっきのクラゲが原因でしたかソウデスカ。
知らぬ間にやるべきことを終えている俺は虚脱感を覚える。
しかもさっきから後ろで海老天の咀嚼音がずっと聞こえてんだよなぁ…。
これは帰ったら海老天作るところからやり直しな気がする。
とりま状況を把握すべく彩芽…ではなく常盤さんか瞬あたりにでも話しかけようとした俺に唐突に殺気が向けられる。
見てみるとこっちに向けてなんか札を構えている女の子が俺を睨んでいる。
「魔を消す炎をここに!『火焔呪』急ぎて律令の如く成せ!」
彼女の鋭い声と共にこっちに何か炎の鳥が飛んでくる。
…あれ?俺攻撃されてね?
『マスター。陰陽術。迎撃』
なんかよくわからない事態に硬直しているとベルが迎撃を提案してきた。
てか陰陽術て…。
なんかよくわからないが仕方ないので迎撃することに。
うちの自慢の魔導書の目次を漁る。
えーっと…確か第4章…のー…「初心者でもわかる陰陽術」の欄に…
……あったあった「炎術の反射・相克」
反射なんか俺がしたらレーザービームとかになって跳ね返しそうなので普通に相打ちにしよう、そうしよう。
適当に空間に術式をささっと描いて発動。
「対を模り相克を成す『水克火』急々如律令」
飛んできた炎の鳥に俺が出した水の蛇が絡みつき一緒に蒸発する。
でもってそこに残るのは驚いてる陰陽師の女の子と次の行動に悩む俺。
今日はトラブル多くないかなぁ……いや、いつもか。
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