第97話 縦横無尽臨機応変の彩芽ちゃんぷりちー!
互いのごたごたを終えた私らはとりま遺跡の奥へと進んでいく。
今回もまた例によってどこかの天才科学者(笑)が自身の野望を果たすべく画策してくれているようでなのでその科学者をボコすのが今回の仕事。
いっしょについてきている2人もどうやら目的は同じらしい。
友達だった女の子の仇だってさ。
ああいう友達付き合い下手そうな子って友達思いだもんね。
どっちのことかはわかるっしょ?
さっきからネックレスが反応しまくってるから多分結構な罠が仕掛けてあるんだろうけど…うちの友神特製ネックレスの効果ですべて解除済み。
あいつさらっと渡してきたからおまけ程度かと思ったらとんでもないものだったよ。
便利だから助かるけどね。
ちなみに常盤さんに見せたら…
『なんだその神話級のアーティファクト!?』
って驚いていたあたり、やはりやばい代物なんでしょ。
今度会ったら苦情代わりにもう一個同じの作ってもらおう。
そんなことを考えつつネックレスを弄っていたそのとき後ろから声が掛けられる。
「…ちょっと!同じような風景ばっかだけどあんた道間違ってんじゃないの!」
ツンデレ子がこっちに吠えてくる。
近所にいたなぁ…あんな感じの犬。
しかしこちとら大卒エリート美女彩芽ちゃんぞ?
優雅に華麗に適当に返答して見せよう。
「え~っツンちゃん道も覚えてないの~?そんなんで大丈夫なの~(笑)」
「あ゛?」
半ギレの顔でこっちを見るツンデレ子。
隣に諫める瞬がいなかったらおそらく襲い掛かられていたことだろう。
だがしかーしそれも計算の内よ。
この彩芽様の手の平の上で踊るがいいわ!
「…ごめん雫ちゃん。多分悪気はないはずだから…。
彩芽、実際同じような道だけど何か魔術的な作用とかないよな?」
「ないない。これたぶんこの遺跡がもともとこういう構造なだけだとおもうよ。
あたしん中の脳内マップでも全く同じ構造が並ぶようにできてるから間違いないかと思われます隊長!」
「じゃあ杞憂か」
「瞬さんこいつの言うこと信じても大丈夫なんですか?」
疑わしい目でこっちを見るツンデレ子。
こいつとは何ぞや!こちとら人生の先人ぞ?
…ま、さすがにちょっぴり頭に来るがここで反論しても疑われるだろうし。
放置しておこう。
そう思っていると瞬がフォローを入れてくれた。
「行動は適当だけど一応やることはやってくれるから大丈夫だよ雫ちゃん」
「うっ…わかりました」
やっぱり瞬には素直に従うんだよなぁ。
◆◆◆◆◆
だるいくらい長い道を歩くこと数十分。
私ら7人はようやく奥っぽい大部屋に辿り着く。
壁にはびっしりと壁画と読めない文字が刻み込まれてる。
全ての国の言語を習得している私がわかんないんだから普通の文字じゃないでしょ。
「これは…」
部屋の奥に進んだ瞬の口から疑問の様な声が聞こえたけど、
私はこの言語らしきものを解読するのに忙しいから後にしよう。
会話に混ざらずに壁の文字を見ている私の耳に後ろで話している瞬たちの会話が聞こえて来る。
「これって…タッチパネル?」
「ふむ?この遺跡のものにしては不釣り合いだな」
「あれじゃないっすか常盤さん遺跡のバリアフリー化とか」
「罠だらけの古代遺跡にバリアフリーもくそもあるか!」
「たぶんこれはパスワードを入れるんだろうけど…」
「これ…文字読めません…」
「適当にいれてみる?」
「いや俺の経験上こういうのは間違えると罠が発動するのが定番だな」
「そうっすねー今まで適当にやって罠にかかりまくりましたもんねー」
「お前のせいでな!」
「…良しっ!分からん!タックルでもするか!」
「誠さん!危ないです!駄目ですよ!」
「そっか!わかった!」
「陽菜…すっかり指示係ね…。どうしますか瞬さん」
「…う~んこれはさすがに僕らじゃ適当なことしかできないな。
ここは多分彩芽の出番かな」
「…あの人のですか?」
後ろから凄く訝しげな声がこちらに聞こえてくる。
解読中じゃなきゃ抗議ものだよ?
それに苦笑いをした感じの瞬の声が聞こえた。
「あははは…いや普段はふざけてるけど…、
うちで一番頼りになるのは実は彩芽だからね…で、彩芽…どう?」
「ちょい待って」
たぶんこれって元からあったとかじゃなくて後からもの好きな変態が書き込んだとかだし、知らない言語で自分の好きなこととか書いてんでしょ?
で、文字の並びのパターンと羅列の数を計算して似たような感じの文章と照らし合わせて…あとついでに日本語に一文字ずつ修正すると…。
…こんな感じかな?
たぶん解読を終えた私はこっちを見ている瞬たちの隣を抜けて壁にあるタッチパネルに触れる。
そして画面の上に書いてある文章。
仮解読があってるなら『合言葉を入力せよ』って書いてるのかもね。
つまり壁に繰り返しで書いてあった言葉を入れればいいのかな?
ぴぴぴのっぴっと。
やっぱり遺跡に合わない機械音がなると私が打ち終えた後に『ピロリーン♪』となって壁の一部がせり上がる。
正解みたい。
「うーし正解っぽいからさっさといこ?」
せっかくの年明けをこんなとこで過ごしたくないし、
さっさと悪の親玉をぶっ殺して家に帰ろう。
まださゆりに新年の挨拶すらできてないし。
―――その後ろでは。
苦笑いする瞬、大声で笑う誠、
そして唖然とした表情で固まる沖縄警察組と一般人組の4人がスキップで進む彩芽の後ろにいた。
「……うっそぉ…彩芽ちゃんすご…」
「瞬…彼女いったい…」
「今あいつなにしたの?」
「何で分かったんですか?」
呆けた表情の4人にそう問い詰められる瞬はやはり苦笑いしたまま頬をかく。
「分からないです。
ただこういうのは彩芽の得意分野なので」
「いっつも気が付いたら謎解き終わってるからな!」
「あれでも一応大学の学科を全て満点で終えている天才なんだよ」
「嘘でしょ…」
雫の口から洩れた心の底からの声がその場にいた者達の心境を代弁したそのとき、
奥へと一人進んでいた彩芽彼らに向かって「ほらーさっさといくよー」と叫ぶ声が聞こえてくる。
その声に急かされて納得のいってない表情の彼らはまた歩みを進めるのだった。
◆◆◆◆◆
無事奥へと進むことに成功した私たちはしばらく歩いた後に大きな開けた部屋に辿り着く。
そこにはさっきのと同じような壁。
でもって部屋の中央にはぽつんと1つの玉座らしきものだけが置かれていた。
特に罠などがないことを確認した私らは部屋に入る。
すると入り口の扉が大きな音を立てて閉まった。
しまった!扉が閉まった!
……何でもない。
閉じた扉を見て私がくだらないことを考えていたその直後、
入り口側に視線を送っていた私らの背後で拍手の音が響いたのを感じ取った私らはすぐに振り返り玉座の方へと視線を送る。
そうするとそこにいたのは一人の白衣の男だった。
「いやぁ!お見事お見事!
まさか私の手がけた遺跡を抜けてここまで辿り着いてくれるとはね!」
上機嫌な様子でこちらを称賛する白衣眼鏡。
やっすい小悪党全開である。
「素晴らしい君たちには特別に観客となる権利を…」
「見つけたわよ変態眼鏡!!!」
「贈呈…おや?こんなところに子供が紛れ込んでいるとは…。
それにしても礼儀を知らない子供だ。この天才を捕まえて変態とは」
どこまでも逆上せた口調の男にいきなり怒り全開といった様子のツンデレ子が大声で叫ぶ。
彼女の友達の仇ってこいつか。
「よくもわたしの友達の体中の血を抜いてくれたわね!覚悟しなさい!」
「はて?友人?どれのことを言っているのか分からないなぁ」
「こいつ…!」
「雫ちゃん下がって」
前に飛び出そうな雫ちゃんを思わず止める。
何となくだけど私の首にかかっているネックレスに反応を感じたから。
制止する手を強く握っている雫ちゃんを何とか後ろに抑えながら私は白衣の男に話しかける。
「あのさ?何となくなんだけどあんたの周りなにかいるよね?」
私のその一言を聞いた男は自身の顔を手の平で覆い高笑いを始める。
「…はははははっ!よく気が付いたねぇ!そうさ!ここには私の完成作品たちが敷き詰めるように存在している。もっとも透明だから見えないけどね」
「もしかして外宇宙の神とか?」
「ほう?さすがに詳しいじゃあないか。ここまで来ただけのことはある」
「…ではあなたは神を…?」
神妙な表情で問い質す瞬。
後ろに控えている警察組も懐に手を入れて銃を構えてるっぽい。
しかし白衣の男は大きなため息とともに口を開く。
「あのねぇ…神なんて呼ぶわけない。
あんなものよくて貧乏神、人間が扱えるわけもなくただただ害をまき散らすだけじゃないか。そんな不便なものをこの天才が必要とする訳はないだろう?」
「じゃあいったい…」
「もちろん私の命令に忠実で強力な奴らさ。
血を捧げるだけでしっかり仕事をこなす人間よりも有能なペットたちだ。
最近は血あげてなかったから機嫌が悪いがね」
……んーさっきまでシリアスな顔をしていたような気がする私だが、
なーんか視界の端に見えるんだよねぇ…。
なんとなくわかってることだが自覚があるのかどうか確認するために白衣の男に若干の気まずさを覚えながら質問をする。
「そうなんだぁ…ちなみにだけどさ…『待て』とかちゃんと教えてるの?」
「? どうしてだい?」
「いやだってあんたの背中から血がいっぱい吸われているような気がするんだけど」
「えっ?」
私の言葉を確かめようとした彼はすぐに血の気のない顔になりうつ伏せに倒れた。
たぶんもうあれ死んでるんじゃないかなぁ。
そして私らの前に姿を現したのは高い天井を覆い隠すほどの数のなんかピンクのクラゲっぽい奴ら。どう見てもやばい。
飼い主の血を吸ったことで取り込んだ血の色で透明ではなくなったようだ。
こっちのメンバーの状態もやばい。
特にやばいのは陽菜ちゃん。
空を見て虚ろな目になっている。
SANチェック入っちゃったかー。
慣れてないとああなっちゃうよねぇ。
とりあえず飼い主が死んでしまったのでこの現状をどうにかできるか警察組に聞いてみると…。
「あれは『
触手に掴まったらもう命はないと思えよ」
とのことです。
「…ちなみにみんなあれ全部倒せる?」
「「「「 無理!!! 」」」」 「頑張れば倒せっかな?」
馬鹿と発狂中の一人を除いてどうやらこの現状を打開する術を持っていないご様子。
これはオワタかもしれんね。
少なくともこの状況で私にできることは一つしかないわけだし。
「仕方ない、最後の手段に出るか」
「彩芽?何か方法があるのか?」
「わかんない」
「はぁっ!?あんたどういう…」
「言ったでしょ最終手段。
あたしらじゃどうしようもないから神でも召喚するしかないでしょ?」
「神なんてそんな簡単に呼び出せるわけ…」
「はいはーい、時間無いから黙ってみててね~」
時間もないのでこちらを威嚇する雫ちゃんを放置して行動に移る。
懐から我らが生命線であるスマホを出して電話帳のは行をぴぴぴ。
意外とアンテナ4本でよかった。
そしてささっとスマホを耳に当てる。
コールから4度ほど音が鳴るから「もしかして寝てるかな?」とも思ったがいつも通りの気の抜けた声が耳に届いたことで一息つく。
確定勝利演出いただきました。
「あっもしもし~……………ごめん時間ないから直球で言うけど、
死にそうだから助けて~。15秒でよろしく!」
やることやったので電話を素早くきり雫ちゃんに親指をグッ!っとする。
明らかに怒りこちらに掴みかかろうとしている雫ちゃんをだったが、
その間に魔術で出来上がった門から一人の見知った顔の男が出てくる。
左腕にローブを着た子供を抱きかかえ、
足元にセーターを着たケモミミ女の子を連れた彼は頭の上に出来立てのいい匂いがする天ぷらが乗った皿を乗せている。
エプロンを着ているから多分調理中だったんでしょうな。
「…はぁ…お前らなぁ」
ため息をつきながら現れた我らが神ナユタは、
呆れ顔で菜箸に掴んでいる海老天をこちらに向けるのでした。
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