第88話 誰かと話すとき自分を棚に上げないよう気を付けよう!
―――ナユタ家。
混迷を極めたナユタ家一同は現在落ち着きを取り戻しコタツを円卓代わりに囲い、
現状を纏めるべく集まっている。
とりあえず泣き止んだアサトヨルト姉妹。
まだちょっと目が泳いでいるクロネとさゆり。
そして目を覚まし大人の姿になっているネムト。
その場を臨時で取りまとめているツァトグア。
…尚、ネムトに関しては星辰が揃っていないが大人の姿になっている。
これは床で倒れていたネムトをツァトグアが起こすために「ねりワサビ」を投入したからであり本人は「非常事態ですので仕方ないですね」と言ってはいたが、目は笑ってなかったという。
後で復讐されるであろうことは明白だがそれよりも騒がしい現状を優先したツァトグアは声を張り上げた。
「それではこれよりナユタ家緊急会議を始める。
議題は当然行方不明になったナユタのことだ。
とりあえず聞いておくがナユタの状態は?」
「…ん…魂がない」
「目を覚まさない」
「のじゃぁ…」
「ナユタ君…」
「ええい、めんどい!しんみりした空気やめろ!」
「「「「 だってぇ… 」」」」
ナユタの不在に心のよりどころが無くしょぼくれている4柱。
だがそんな彼女たちを見てため息を漏らしたツァトグアが辟易したように話す。
「お前ら
じゃあまず言っておくがあいつは多分無事だ」
その言葉に反応し下向きだった顔をあげてツァトグアの方を見るナユタ妻たち。
「…ほんと?」
「おそらくだがな。
魂がないのに体は眠っているだけということは魂は殺されてない。
そしてナユタの魂だけを奪ったというのならそれは何らかの目的があると思ってもいいだろう。
何よりだが…そもそもナユタは誰かに襲われるほど仲の悪い相手がいたか?」
その言葉にはっとして考え込むアサト達。
だが少し考えた後に首を横に振りながら答えを出す。
「…ん…いない…」
「いないね」
「おらんのじゃ」
「いない…よね?」
「旦那様を嫌っている相手などいませんね」
「…だろう?だとしたらまだ無事な可能性が高い」
「…ん…なる…」
ツァトグアの説得に寄り少しだけ落ち着きを取り戻すアサト達。
しかし今度は疑問に首を傾げ始める。
「…でも誰がナユタ君の魂を持って行ったの?」
「それに関しては私も知らない。
だが妖しい奴なら4人くらいお前らも知っているだろ?」
「妖しい奴…」
瞳を閉じて該当する神を思い浮かべるアサト達。
「ツァトグアは眠るだけだから今回は除外じゃの」
「チャウグナー…は魂よりも血が欲しいって言うよね…多分」
「だったら…シュブ=ニグラスさんかな?」
『何をおっしゃいます!奥方様!』
「ひゃ!?」
さゆりが3柱目の候補の名前をあげた時その彼女の真上からいた越しの声が響き天井の板が『スッ』を横にズレて、天井から優雅にスタッと現れる。
「我が神を慕う私がそんなことをしようはずがございません!」
「…天井から現れる奴が自信満々に言うな!!!」
むっとした表情で姿勢を正しているシュブ=ニグラスだがジト目で見るツァトグアにどやされている。
なんだかんだで彼女も迷惑4柱の人柱なのだ。
しかし彼女の否定の言葉に寄りナユタ妻たちは残り最後の人柱を思い浮かべる。
外宇宙で最低最悪の神として名高く今回の件で言えば主犯でも全くおかしくないナユタの悪友を。
そしてその名前を出す前にリビングの隣に静かに門の創造が開くとともに酔っ払いのロシア女性の姿の奴が楽しそうな声を出して入ってくる。
「たっだいまぁー!いやぁ新年めでたい!メーデー鯛!っつってね!
あっはっはっはっはっは…」
「確保ォー!!!!!」
「「「「「 おー! 」」」」」
「な、なにをするだぁー!!??」
仁王立ちするツァトグアの号令の下、
入ってきた無貌の神はナユタの妻軍勢に飛び掛かられる。
そしてそんな光景を見たシュブ=ニグラスは小さく手の平を合わせながら呟く。
「…どうやらまだ解決への道のりは遠そうですね」
会議は踊り狂う…尚進展はない。
◆◆◆◆◆
―――霧の××
結構適当な夢を歩くことそこそこまたしても黄金の扉が現れたのでその扉に入る。
そろそろ目的地について欲しいのだが…あーうん、やっぱりまだ続きそうだな。
また変わる景色を扉の先に見ながら足を踏み出す俺。
「……?」
なんか今少し変な感覚があったような…?
何となくだがこの夢に入ってきたときにふわふわだった自分の身体がしっかりしたような…かっちりしたような…。
良く分からなかった俺は近場にあった藪に手を伸ばす。
すると…、
「おっ?おー」
なんと触ることができました。
ほえー最近の夢って直接触れるのもあるんだなぁ。
まぁ以前
などと適当なことを思いながら俺は歩き出す。
今回の夢は…まだ何の夢かは分かんないな。
なんかこう…霧とかがすごくてうまく景色見えないし、今のところ誰も見えないし。
とりあえず進んでみよう。
「…結構な数の夢を見てきたしそろそろ可愛い動物だらけの夢とか来るだろ。
HAHAHAHAHAHA…」
そんなことを思いつつ歩みを進める俺なのであった。
◆◆◆◆◆
―――数分後。
…はい、すいません。
そんなうまい話はなかったです、すいません。
今現在俺が何してるかって?……大きな木に隠れてんだよ…。
えっ?何で隠れてるかって?…目の前で恐ろしい光景が見えるんだよ…。
俺は目の前にあるあんまり見ていたくない光景を見る。
そこにあったのは、
「おう!ゴラァ!死に晒せやごらぁ!」
「やかましいわ!死ぬんはお前じゃゴラァ!」
「往生せえやゴラァ!」
「
血だらけの魑魅魍魎が何やら争っている場面なんです…。
いるのはなんか図書室にありそうな妖怪図鑑とかに書いてある妖怪の皆様。
鬼とか火車とか化け傘とかそんなのがたーくさん。
しかもなんかめっちゃ怖いこと言ってるし。
ヤのつく自由業の方ですか?
どう見てもヤ〇ザの抗争です、ありがとうございます。
…可愛い動物どこ?…ここ?
とにかくここで隠れていても仕方ないので夢を抜けるためにこの抗争の中を通らねばと思うのです。
…で、問題になってくるのがこの夢さっき試した通り触れられるみたいなんですよ。
つまり裏を返せば多分普通に夢の住人に俺のことを認識されるってこと。
何食わぬ顔で歩く。
↓
見つかる
↓
「やんのかごら!」
この流れが容易に想像できるのです。
な・の・で アレに巻き込まれないように体を透明にする魔術を展開して進むことにします。
早速体に魔術を纏い表に出てみる。
………
………………
…………………………うん、大丈夫そう。
発見されないのをいいことに何か争ってる妖怪たちの間を抜けていく。
そしてその先で大きな屋敷らしきものを見つけた。
近寄ってみるとやはりここに来るまでと同じく「殺すぞ!」だの「ゴラァ!」だの「コロッセオ!」だの聞こえてくる。
と、適当にいろいろ飛び交う戦場ど真ん中を歩き中、
ふと俺の耳に小さな子供の声が聞こえた気がした。
…いやいや聞き間違いだろう。
こんな殺伐とした空間に子供なんているわけが…。
そう思い声が聞こえた気がする方向に首を振ると…なんと本当にこの戦場の中心のあたりに子供がいちゃったんですよ。
もちろんただの子供ではない。
綺麗な金色の髪の上には可愛らしい狐耳。
着ている着物の下からは耳と同じ綺麗な金色の尾が4本。
どう見ても人間ではない狐っ娘ですね。
その女の子は争いの中心で泣いている。
争いが嫌なのか、周りが怖くて怯えているのかは分からないが…
こんな場所にいるんだしきっと戦う力くらいは持ってるんだろう。
そう思い見守っているとその狐っ娘を目掛けて恐ろしい鬼が襲い掛かるのが見える。
そして狐っ娘は…怯えて耳ごと頭を抱えてしゃがみこんで…いやマズいっしょ!?
瞬時に空間転移、身体強化、魔術障壁を併用しながら狐っ娘の前へと転移する。
狐っ娘と鬼さんの間に割り込み、
振り下ろされようとしていたその鋭い爪を手の平で受ける。
…ふいー、間一髪だわ。
「…!?なんじゃお前はぁ!?」
ごつい鬼がこっちに鋭いガンを飛ばしながら吠えるが俺は少しおこなんだわ。
だから少しだけ手加減を手加減することにした。
俺の右手が虹色に輝くぅ!!!
煌々と輝くその手を俺に攻撃しようとしている鬼さんの中心に叩き込んだ。
「くらえ!うちの
なんか適当に混ぜ込まれた究極の力の籠もった拳が謎の膂力を生み出し鬼さんが素晴らしいドライブ回転で飛んでいく。
…そうはならんやろ。
そして飛んでいった鬼さんに巻き込まれた周囲の妖怪たちもまとめて吹っ飛びさっきまで騒がしかったヤのつく自由業の方々の喧嘩は止まっていた。
代わりに皆さんの視線は俺に釘付けです。
そりゃこれだけ派手に動けば目立つし、かけていた隠密用の魔術も解けてるわな。
…まるでこっちを化け物を見るような目で見ているのは気のせいでしょうか?
「……お、おどりゃぁ!何のつもりじゃあ!」
痺れを切らしたのか一つ目の妖怪がこちらにそう叫んできた。
なんのつもりって言われてもなぁ…子供が襲われてたから咄嗟に出ただけだし…。
……………仕方ない思ったことを素直に言って納得してもらうとしよう。
俺は力の籠もった握り拳を胸の前に掲げ宣言する。
「暴力!反対!」
「「「「「「「「「「「「「「 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ 」」」」」」」」」」」」」」
何やら周囲の方々が固まっていらっしゃる。
何かおかしかったか?
いまいち腑に落ちない俺だがひとまず周りは静かになったことだし、
とりあえず俺の後ろで呆けた表情でこっちを見ている狐っ娘に話しかける。
「あっと…怪我はないか?」
「…は、はい…大丈夫です」
返ってきたのは割としっかりとした返事だった。
この後のことはまだ考えていないし、
まずこの子を保護することにした俺は狐っ娘を抱きかかえる。
「ひゃ!?」と少し驚いた様子の狐っ娘だけど嫌がる様子はないので周りの鬼たちよりは警戒されていないようだ。
そしてもっと警戒心を解いてもらうためにも自己紹介をすることにしたのでした。
「俺はナユタ、通りすがりの一般人。君の名前は?」
「…えっとツクモ…『
「そっか、よろしくなツクモ」
「よ、よろしくお願いします!」
外見はアサトと同じくらいの幼女に見えるが丁寧な言葉使いでとてもしっかりした印象を受ける子だなぁ。
この様子なら落ち着いた話を聞けそうな気がした俺はこの子…ツクモからこの騒動は何なのか事情を聞いてみることにしました。
どうせまだこの夢の中の黄金の扉も出てこないし。
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