第89話 説明書はしっかり読みましょう

 ごったごったの戦場…の上。


 周りが邪魔してきそうだったので改めて転移と透明化の魔術を用いて現在、

 天空隠密胡坐で俺の足の上に座っているツクモの説明を聞いている。


 なんの説明かって?そりゃこの『妖怪大戦争「任侠編」』についてですよ。


 俺は狐耳をぽんぽんしながらツクモの話に耳を傾けるのでした。


「…要するに十数年に一度で妖怪同士で戦って最後に勝ち残ったものが妖怪を率いる妖神あやかしがみになる…と?」


「はい…正確にはなることがある…です」


「そっかぁ」


 つまりはこいつらは神になりたくてこの醜い争いをしていると…。


 うん、くだらね。


 …あれ?


「ってことはツクモも神になりに?」


 この戦場ど真ん中にいたしもしかしたらツクモにも神にならないといけない的な事情があるのかもと思い聞いてみたがツクモは首を横に振る。


「いえ、私は神になりたいわけじゃないんです」


「じゃあなんであんなところにいたんだ?危ないぞ?」


「それは…」


 少し口ごもるツクモ。


「言いづらいなら言わなくても…」と言おうとする俺だが決心がついたのか力の籠もった表情のツクモが話し出した。


「私はこの争いを止めるためにこの場所にいるんです。

 それが今は亡き母と父の望みでしたので」


あらやだ小さいのに真面目でいい子だこと。


うちの迷惑4柱にも見習ってほしい。


 「……でも私全然ダメなんです。

 戦いを止めることもできなくて…みんなを従わせるだけの力が無いんです。

 だから…だから私…情けなくて…弱い自分が…グスッ…情けなくて…」


 だんだんと泣き始めるツクモ。


 でもなんで戦場の真ん中で俯いていた理由が分かった。


 自分ひとりじゃ何もできなくてしゃがみこんでいたんだな。


 それがわかった俺はとりあえず優しくツクモの頭を撫でる。


 で、その後に…。


「そりゃっ!」


 泣いているツクモの両の頬を痛くないよう横に引っ張った。


「…なっはひふるんへふかぁなにするんですかー!」


「はっはっはー、お仕置きだ」


おひおひお仕置き?」


頬をつねられたまま首を傾けるツクモ。


狐耳も釣られて傾く。


「そうだお仕置き。

 いいかツクモ、妖怪然り神然り人然り。

 なんだって一人で抱え込めばいいってもんじゃないんだよ」


 驚いた表情のツクモがこちらを見ているのでそのまま続きを話す。


「自分ひとりで出来ないなら自分と同じ気持ちの奴とか集めて力を借りたり、

 頼ったり、頼られたりするんだよ。

 でなきゃ誰だってなんだってできやしないし一人で無茶しなくちゃいけなくなる。

 ツクモの優しい両親はそんなツクモの姿なんて望まないだろ?」


「…そう…ですが…」


 俯くツクモ。


 何か言いいたことがあるであろうからしてそれを待つ俺は黙ってツクモを撫でる。


 そして俯いたままのツクモが絞り出すような小さな声で言う。


「…でも私にはまだそんな味方は…いないです」


「そっか」


 悔しいのか俯き続けるツクモ。


 だがそんなツクモを引っ張り寄せて頭をしっかりと撫でる。


 そうすると戸惑った表情のツクモがちょっぴりもがき俺のおなかの部分に気持ちの良い狐尻尾が当たる。


 ……いかんクロネの尻尾同様すごくモフりたい。


(駄目だ、我慢するのじゃナユタ!多分今いい感じの話しておるから!)


 どこからともなく聞こえたクロネの声に制止された気がする。


「じゃあ今から俺がツクモの味方するから…ツクモなんか頼んでみ?」


「…えっ?で、でも…」


「いいからいいから」


 俺に抱きしめられているツクモは困った表情をしている気がするが、

 こっちには背中しか見えないので雰囲気しか伝わらないから気にしない。


 で、少し遠慮気味のツクモがこっちを見た。


「…あのナユタさん」


「はいよ」


「…えっとですね…」


「ほむほむ」


「…私に力を貸して貰えませんか?」


「あいあい!待ってました!」


 改めてツクモ頭を撫でて俺は立ち上がる。


 頑張ってるちびっこに頼まれた以上、俺にできる手伝いをしなきゃあな。


「よっしツクモ!しっかり捕まってろよ~…飛び降りるから!」


「…は、はい!」


 浮遊魔術を解いた俺はしっかりと俺にツクモが抱き着いていることを確認して地面に降りる。


 するとまぁ来るわ来るわ妖怪の皆さんの視線が。


「おどりゃあ見つけたどぉ!!!」


「往生せえやぁ!」


 間があいたせいか元気になっているようですね。


 そんな周りの様子を見たツクモがこちらを不安そうに見る。


「あのナユタさん…どうするんですか?」


「う~ん…アレ会話してくれると思う?」


「たぶん…だめだと」


「だよな。…仕方ないかぁ…とりあえず全員叩き潰すかぁ」


「……ふぇ!?」


何やら抱き着いているツクモからさゆりばりの奇声が聞こえた気がする。


「な、ナユタさん危ないです!人間さんには危ないです!」


 慌てて俺を止めようとするツクモがわたわたしている姿が可愛いが、

落としたらいけないのでしっかりと抱き寄せておく。


「ダイジョブダイジョブ!俺副業で外宇宙の神やってるから!」


「…えっ!?」


 再度ツクモが驚くが説明するよりも見て貰う方が早いだろう。


 さて…それじゃあ妖怪掃除を始めるとしますか。


 ベルがいないのでできれば攻撃魔術とかは使わない方針で行きたい俺はこの間のクリスマスパーティーで途中から参加していたクトゥグアに教えてもらった召喚呪文を思い出す。


 たしかクトゥグアの昔住んでいた炎の星を呼び出して力を使うとかなんとか。


 早速試すべく詠唱開始。



「いあ!ふんぐるい!ふぐるなく!フォーマルハウト!

                    んがくぁ!なふっるたぐん!」



 8割棒読みの詠唱の元、空に青白く光る炎の星が現れる。


 その凄まじい光に周りで吠えていた妖怪さんたちが空を見て固まり動きを止める。


 俺に掴まっているツクモもびっくりしてるみたいだ。


 はっはっはっは!くそ適当なあれでも呼び出せたよ!


 そして周りにいる妖怪たちがこれから何が起こるのかを恐れ俺を見る。


 …ふっ!恐れおののいたか!これがフォーマルハウトなんだって!


 …これからどうするかって?


 ………俺が教えて欲しいわっ!!!


 呼び出したはいいがこれをどうやって使うのかが全く分かりません。


 持ち主は「炎の力を借りるの!」

 と自慢げに語っていたがそもそも借り方がわからない。


 目が合う妖怪さんたち。


 目が合うツクモ。


 気まずい俺はとにかく適当に使ってみることにした。


 空に浮かんでいるフォーマルハウトを空間魔術で圧縮し、

 サッカーボールの大きさに変える。


 相手の中心にシュート!!!


 超エキサイティング!



 …ものっそい衝撃音とともにフォーマルハウトが炸裂し、

周りの妖怪たちは青い炎に包まれる。


 これで片付いてくれれば楽だったのだが相手も妖怪。


 この程度ではやはり決着ケリはついてくれないらしい。


 蹴りはついたけどな。


 なおフォーマルハウトは一回で砕け散りました。


「おどりゃあ!あちいじゃねえかぁ!」


「舐め腐りおって!ぶっっ殺したる!」


 そこそこ痛かったのかさらに怒り出す妖怪さんたち。


「はぁ…仕方ないかぁ」


 このままではさすがに片付きそうにないのでそろそろ真面目にやります。


 いや、ツクモに頼まれていることだし真面目にはやってたんだけどなぁ。


 出来れば攻撃とかの魔術は使いたくなかったんです。


 なんでかって?


 いやだってさ…さっきも言ったけど今ベルいないじゃん。


日頃魔術の調節とかはベルに任せてたからさ…あんまりやったことないんだよねぇ。


 で、俺が直接魔術使ったらどんな威力になるか分からないんですよこれが。


 だけどこの状況じゃゆっくりなんてしていられないしさっさとやるとするか。


 …たぶんベルの真似してれば何とかなるだろう。


 ①まず今手元に魔術を唱える触媒として使う魔導書がないので呼び出します。


「現れよ魔導書…えーと…指定なし!」


 俺の雑な詠唱に呼応してなんか亜空間から魔導書がごっそり出てくる。


 ……多ない?


 …ま、まぁいいや、いっぱいあったらどれか使えるだろ。


 ②魔術に使うページを指定します。


 たしかベルは最大展開って言ってたっけか?


ペタル 最大展開」


 周りに浮かんでいる魔導書のページがパラパラと開かれる。


 これで魔術の使う準備は整っただろう。


③長々しい詠唱、もしくは省略して魔術を発動します。


「…さぁ!すべて塗りつぶせっ!黒き幾千万の魔導書グリモワール!」


 詠唱短縮からの魔術発動。


 これで魔術が発動することでしょう。



 …が、あれ?なかなかでないな?もしかしてしっp…


『キュイィィィーッ…ドヴァアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!』


 少しの間があったので俺が首を傾げようとしたそのとき、

 周りに浮かんでいた魔導書から真っ黒のビームが発射される。


 それはそれはもう滝のように、台風の時に流れる川の水のよりも派手に。


 勿論それが周りにうじゃうじゃ浮いていた魔導書から発射されたんですよ。


 …幾千万の魔導書からね?


 結果は台風よりひどい。


 魔術が終わって周りに浮かんでいた魔導書が消えた時周りにいた妖怪さん達は漏れなく皆さん瀕死でした。


 そして俺に抱き着いているツクモが涙目で震えていました。


 

 ………………………………ごめんて…。



 うちの魔導書がとても有能だったことを思い知り、

          俺は瀕死の妖怪さんたちを治療していくのでした。


今後ベルがいないときに適当に魔術を使うのは控えようと思います。

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