第87話 一緒にいることが大事なんだよ、たぶん
――――Ⅲの夢
夢を歩いて三千里…とまではいかないが特に理由のない夢を渡り歩く今この頃。
現在見ているのはまたも童話の世界。
3匹の子豚…だったっけ?
狼に家を壊されるやつ。
あれ見てんだ。
きっとこの夢を見ているのは童話好きの子供とかだろう。
そんなことを考えつつ胡坐で頬杖をついて見守っているとついに3匹目の豚の家に辿り着く。
今まで通り息を吹き家を飛ばそうとする狼だがレンガの家は壊れない。
これで諦めて帰るかな?
と、思ってみていると今度は狼の口からレーザーが出た。
ド〇ゴンボールかよ。
予想に反して壊されるレンガの家。
3匹の豚たちは観念したのか家の残骸から出てくる。
………あれ?今まで気が付かなかったけど…なんか豚ごつくね?
「…命は投げ捨てるもの!」
「北豚神拳の前には死あるのみ!」
「お前の生涯に一片の悔いなし!」
家から出てきたのは筋骨隆々の豚さん兄弟だった。
狼は狼狽え怯えるが…既にとき遅し。
頭に指をさされた狼は爆散した。
…そして前言撤回しよう。
この夢はおそらく世紀末が好きなオッサンの夢だな、うん。
悲しい目で去っていく豚3兄弟を見ていると視界の端にまたもあの黄金の扉が
『ドゥイドゥイドゥイ!』と生えてくる。
…だんだん扉の出し方雑になってきてない?
ちょっぴり誰かもわからない誘い相手を疑いつつも俺は扉をくぐり次の夢へと歩き出すのでした。
◆◆◆◆◆
―――早朝5時
ふと目を覚まして時計を確認する。
…なんだ…まだ朝の5時か。
あと10年くらいは寝れそうだな。
布団代わりのコタツに再び首を埋めて温もる。
やはり冬は睡眠に最適な季節だ。
早速温もりでうとうとしてきたそのとき、
玄関から鍵の開く音とともに大きな声が家の中に響いた。
「………ただいまー!」
初詣から帰ってきたさゆりたちが元気に玄関の扉を開けて帰ってくる。
新年のやるべきことをやり終えて満足気な5柱それぞれナユタへのお土産を手に靴を玄関で脱いで廊下を歩いているのだろう。
……まぁいい、私にはまだ27589度寝という使命がある。
無視して寝るとしよう。
改めてコタツの中に身をひそめる私はもはやコタツそのものと言ってもいいだろう。
私は背景。私は背景。
そうして自然と超一体化を私がしていると案の定リビングの扉を開けてさゆりたちが帰ってきた。
「人いっぱいだったね」
「新年だからの。皆くじや甘酒を目当てに集まるのじゃ」
「そうだね……あっ!アサトちゃんと、ヨルトちゃんと、ネムトちゃんはちゃんと手洗いしてね」
「「「 あーい! 」」」
さゆりに言われるがままにとてとて歩き洗面所へと向かう3柱。
信じられんじゃろ?あれ主神と副神+海神なんだぞ?
「………そういえばナユタ君のくじ勝手に引いてよかったのかな?」
「大丈夫じゃろ?我らはそもナユタの伴侶なのだし。
一心同体だと思えば代わりに引くことも許されるのじゃ。
……それにあそこに居った神は我らの姿を見てオロオロしておったし…
………どうせ何かしらの運のフォローとかあるじゃろ…」
それはそこに居た神は可哀そうに。
この5柱を正面に相対とか地獄じゃろ。
「…そっかぁ…まぁナユタ君に結果は見せておこうかな……大凶だけど」
「そうじゃな、それがいいじゃろ……大凶じゃがの」
恵まれているようで全く恵まれていない外宇宙統一神ェ…。
そう言ったさゆりは寝室の方へと向かいそれと入れ替わるようにアサト達がリビングに戻ってくる。
ようやくリビングの様子もおとなしくなりコタツと一体化を果たしてる私に眠気が訪れる。
やはり新年はコタツで眠るに限る。
そう思い意識をシャットアウトしようとしたそのとき…寝室からさゆりが慌てて飛び出し大きな声を出す。
「……た、たい…大変…大変ナユタ君が起きないの!」
……いや?熟睡してるだけでは?
当然の疑問。
そして私のそれをまんまの形でクロネが口にする。
「眠くて起きないだけではないのか?」
「違うの!頬を叩いても、抱き着いても、肺のあたりを押さえても、
口と鼻を塞いでも反応がないの!」
「な、なんじゃと!?」
…さゆりの必死の訴えを聞きその場にいたであろう5柱がばたばたと寝室のへと消えていく。
あと気づいたが起こそうとするついでにしれっと私欲を満たしてるなさゆり。
どうやらナユタはまた厄介ごとに足を踏み入れたらしい。
あまり起きていないからそこまで知らないがそれでもトラブル過剰なことだ。
だが、私にとっては優先順位は
1に睡眠。
2に睡眠。
3・4に睡眠。
5に睡眠。
迷いなく眠りにつくとしよう。
…………ぐぅ…………………。
『バタバタバタバタバタバタッ』
「ど、どうしよう!?どうしよう!?」
「ど、ど、どうしたらいいのじゃあぁぁ!?」
「お姉ちゃん!ナユタ魂抜けてた!どうしよう!?」
「…ぐすっ…ナユタ…死んじゃった?」
「…………(地面でうつ伏せに気を失っているネムトの図)」
……寝る。私は寝る。
固い決意を胸にコタツの中で籠城する。
『バタ!ガタン!ガタガタ!バキャッ!』
「…そうだ!き、きっとまだ近くにいるよ!私探すよ!」
「お、落ち着くのじゃさゆり、食卓の下を探してもないのじゃ!
……こ、こっちの方を探すのじゃ」
「落ち着きなさいよ二人ともテーブルの下もゴミ箱の中にもないわよ!
お姉ちゃんからも何か言って!」
「…ぐすっ…ナユタぁ…」
「な、泣かないでお姉ちゃん………お姉ちゃんが…泣いてると…
…わたしも…我慢…できないよぉ……うぇぇ…ナユタぁ……」
「…!……!……!(床で痙攣しだしているネムトの図)」
………。
………………。
…………………………………………あぁ!もう!
コタツの封印を破り私は立ち上がる。
「……こんなん寝れるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
……はぁ…私が睡眠よりも優先することができるとはな。
これではネムトのこと笑えないではないか…。
さすがに見過ごせなかった私は焦点の合ってない目でその辺を動き回っている大人神2柱、姉妹で一緒に泣いている幼女神2柱、床で痙攣しながら口から泡を出している神1柱を回収するのだった。
◆◆◆◆◆
―――書の夢。
「…ここは…図書館か?」
夢の歩いて進むこと少々。
今は5つ目くらいの夢に入ってきたところだ。
見たところ高い天井にぴったりくっつくほど大きな本棚がきれいに並べられており、人影もないし何か化け物とかがいるわけでもない。
だが俺はここ…この夢に入って来てからちょっとした違和感を感じる。
なんというか全然知らない場所なのに知っているような気がするのだ。
そしてもう一つ。
何かのつながりの様なものに引っ張られているような気がする。
俺を呼んでいるあの黄金の扉とは別の何かが。
「………奥の方かな?」
理解の及ばないそれをただただ感じ取る俺はその感じる何かの方向へと歩みを進めていく。
大きな本棚の森を進んでしばらく進むとちょっと先に開けた場所が見えてきた。
出口か?
そう思い足早にそこに辿り着くとそこには…、
「…おぅ…なんだこれ」
本棚の並んだ空間からきっぱり切り替わるように突如景色が切り替わっていた。
後ろは本棚の山。
そして前にあったのは…よく見る映画館の視聴席。
規則正しく番号のふられた座席が正面から奥へと並んでいる。
そしてその奥ではスクリーンに何かの映像が映し出されて…おや?
「…ベル?」
明らかに変化した景色を観察していたそのとき、
その景色の中に見知った顔を…というか後姿を見つける。
あの綺麗な銀髪にゴスロリ姿は紛れもなくうちの魔導書で間違いないだろう。
そのついでに俺は合点がいった。
この俺とつながっているような感覚…これはベルとの契約だろう。
一番最初に魔導書としてベルを手に入れた時の。
つまりここはうちのベルの夢の中というわけだ。
ということはやはり夢の中なので干渉はできないだろうし見守ることにしよう。
ちなみに俺に気が付いていないベルは前に近い席に座って黙々と流れている映像を見ていた。
邪魔するのも悪いから俺はその後ろに座り彼女と同じように映し出されていた映像を見る。
そこに映っていたのは…魔導書を渡されている人間とその魔導書を渡す神…というかニャルの姿だった。
渡された人間はその魔導書を読み…そして狂う。
魔導書は狂ったその人間のことを静かに見守っていた。
いつも通り無表情なその顔で。
その光景はひたすら繰り返される。
本を受け取る人間は変わっていることから別の場面なのは把握できるがその結末は変わらない。
ある者は狂って廃人となり、
ある者は魔導書を読むことはできたがすり減った正気を保てずに自殺をし、
ある者は力におぼれて自身の払っている対価に気が付かず破滅する。
受け取る老若男女で多種多様な国の人間たちはそれぞれ三者三様に終わりの結末を迎えた。
そして魔導書は…ベルはただその光景を…破滅を迎えた人間たちを見つめていた。
しばらくそんな映像が続き、このまま同じことが繰り返されていくのかと俺がおもったそのとき、映っていた映像に見覚えのある景色、見覚えのある人間、見覚えのあるやり取りが見える。
その人間は変な亜空間の中でニャルからジュースと一緒に受け取ったベルを鼻歌交じりに読んでいく。
………はい、どうみても、どう考えても俺ですね。
さっきまでとの温度差が酷い。
ベルを読み終えた俺は無事ベルとの契約を終えて彼女を家に連れて帰る。
そしてニャルの別荘についてすぐに寝た俺を魔導書から人型に姿を変えたベルがジーっと見つめていた。
頬をツンツンして何かを確かめ終えたのか俺と一緒に眠っているアサトの反対側に潜り込んで俺に抱き着くベル。
その表情は心なしか嬉しそうに見えた。
その光景を見て俺はある一つの言葉を思い出す。
最初にニャルが俺と出会った時の発言を。
『魔導書読み切ったやついないんだよな。
いままでその本を読んだやつは頭がおかしくなって死んだんだよ』
思い出されたこの言葉により今の今まで見ていたこれが何なのかがわかる。
これはベルの記憶だ。
今までベルを読んだ人間たちはみんな死んだ。
それをベル自身はどう思っていただろうか。
…そしてこれは俺の勝手な推測だが…ベルは寂しかったんじゃないだろうか。
現にさっきまで見動き一つせずに映像を見ていた夢の中のベルが今は少しだけ嬉しそうに頭を横に小さく振りながら俺やみんなと一緒にいる映像を見ていた。
映像の場面は移り変わり最近までの我が家で一緒に過ごしている記憶が映し出され、今まで血色の背景だった映像は今は煌めいた太陽のように暖かに変わっている。
ベルはそれぐらい俺たちと一緒にいる時間を大切に思ってくれていたんだろう。
初めてできた契約者とその家族たちと一緒に過ごす時間を。
それがすごく嬉しくなった俺は座っていた席を立ちあがり、
前の席にい座っているベルの隣に行く。
するとこちらに気が付いたのかベルが席を立ちあがりこちらに来た。
「? マスター」
「ベル」
ただ名前を読んで彼女の頭を優しく撫でる。
俺に出会うまで独りぼっちだったベルを喜ばせてあげられるようにゆっくりとしっかりと。
「…これからもずっと一緒だ」
「………!」
俺の言葉を聞いた彼女は少し驚いた様子だったがすぐに頭の上にある俺の手を両手で押さえて嬉しそうに笑った。
「了承。ずっと一緒」
夢の中だからなのかいつもの無表情な顔ではなく慣れていない様子で笑うベル。
俺にはそれがとても愛しくて…大切に思える。
だからもう一度頭を撫でようとしたそのとき、
笑顔を浮かべたままベルが光の粒子のようになり宙へと消えていった。
たぶん夢から覚めて現実へと戻ったんだろう。
その証拠ではないが空間の端に黄金の扉が現れた。
この夢はもうここで終わりだと告げるように。
だから俺は歩き出す。
さっさと用事を終えて帰ろう。
「帰ったらベルの頭改めて撫でてやらないとだな」
そんなことを呟きながら俺は黄金の扉をくぐる。
夢はまだ終わらない。
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