第86話 夢の中って人とかは出るけど背景ってないよね
神々の楽しいクリスマスパーティーも無事終了。
当初の予定よりもたくさんのお客さんが来てくれたが、
何とかもてなすことに成功しみんな笑顔で帰ってくれた。
妻たちもとても楽しそうだったし良い一日だったといえるだろう。
……クロネは次の日、二日酔いだったけど。
そんなこんなで楽しかったパーティーは過去のものとなり今現在は12月31日。
今年も終わりというこうこの頃です。
……えっ?
そりゃあもちろん…寝室で寝ています。
…違う!違うぞ!妻たちとえっちいことしてるとか、
ぐうたら一日中眠っているとか、そんなことじゃあないんだ。
ただ身動きが取れずに仰向けに布団に入れられ寝ているのです。
…皆さん覚えておいででしょうか?
クリスマスパーティーをやることになった朝に俺はやらかしたことを。
そう、魔術で動かなかった体を強制的に動かしたあの日を。
いくら強力な魔術だって反動くらいはあるさ。
結果、体のすべての細胞が筋肉痛なんじゃないかという激痛に襲われた俺は身動きが取れずにこうして寝たきりになってます。
…いいかい?良い子のみんなは一時のテンションに身を任せてはいけないよ?
外宇宙に住むお兄さんとの約束だ。
一応魔術で補強すれば動けないことはないが…まぁこの間みたいな状況を除いて、
何でもかんでも魔術だよりになるのは良くないことだと俺は思う。
だからこそおとなしく置きナユタになってるわけで。
ちなみに一昨日くらいにフェンリルが遊びに来てくれました。
どうやら
気に入っていただけたなら何よりだ。
遊びに来たフェンリルは、
「わーう!ナユタ!げんきかー!」
「おーう!フェンリル、いらっしゃああああああああああああああああああ!」
元気に寝たきりの俺に飛び掛かり、俺は絶叫しました。
今の俺は卵の殻より繊細なのです。
後で妻たちから事情を伝えられたフェンリルは綺麗な銀色の狼耳を落ち込ませながら「ごめんだぞ…」としょんぼりしていた。
体が動くようになったら元気が出るように白銀色の狼耳を撫でてあげよう。
そんな近況を俺が思い出していたそのとき、寝室の扉を開けてさゆりが入ってくる。
もこもこのセーター越しに見える胸のラインが今日も素敵です。
「ナユタ君、調子はどう?」
「ん~なんも変わりません」
「そっか、じゃあ初詣一緒に行けないね」
「…何ならこの間みたいに体を魔術で補強して」
「もう!それやったらまた体壊しちゃうでしょ!
私たちだけで行ってくるから
「めっ!」と俺の鼻先を指で押してくるさゆり……可愛いぜ…。
「…はい、すいません」
「じゃあもう少ししたら私たちは行くからナユタ君も気をつけてね」
「りょーかいだ。みんなも気を付けてってよろしく」
「うん」
話し終えたさゆりは寝室から出ていき俺は再び一人になる。
「……初詣…行きたかったなぁ」
1人だけ一緒に初詣に行けない悲しみを呟きながら俺は瞳を閉じる。
もうすぐ新年。
つまりもう夜なわけで。
もう寝るくらいしかない俺がなかなか来ない眠気を待って少し、
すると鼻に何かが触れたのを感じて目を開ける。
「………?」
俺の鼻の上に触れていたもの。
それは綺麗な翡翠色の鳥の羽だった。
…うん?天井あるのにこの羽どこから部屋の中に入ってきたんだろう?
そもそも外宇宙に普通の鳥がいる気がしないし。
「う~ん?」と謎の羽を見ていた俺だが急に訪れた眠気に欠伸をする。
なんだか急に眠くなってきたな。
手を動かすことも辛いので口で息を吹きかけて鼻をくすぐるその翡翠色の羽を枕元まで飛ばす。
そして俺は再び瞳を閉じて深い眠りに入るのだった。
……この時はまだ俺は気が付いていなかった。
この羽を不審に思わず俺が眠ったことでナユタ家で過去最大の騒動が起きることを。
◆◆◆◆◆
――リビング。
新年の迎えるために初詣の準備をしているアサト、ヨルト、ネムト、クロネのもとに寝室から戻ってきたさゆりが合流する。
「ただいま、じゃあそろそろいこっか」
「「「 おー! 」」」
さゆりの言葉に元気よく返事をするアサト、ヨルト、ネムトの幼女神3柱。
アサトは黒と金色の、ヨルトは銀と緑色の、ネムトは白と蒼色の和服をきており、
すでに準備万端である。
しかし純黒の和服を着たクロネが「う~ん」と唸る。
「…ナユタは大丈夫かの?
なんかまたこちらに合わせようとして無茶をする未来が見えるのじゃ…」
「大丈夫だよクロネさん。私が釘を刺しておいたから。
ナユタ君は牽制されたらちゃんということ聞いてくれるもん」
「……そうかならよかったのじゃ。助かるのじゃさゆり」
「夫の体調管理も私たちの仕事だもんね」
互いに「うんうん」と頷き合うさゆりクロネの常識ペア。
その彼女らの後ろでは指をくわえて「まだ?」と待っているアサトとヨルト、
若干眠そうなネムトが待っているのだった。
◆◆◆◆◆
―――血染めの夢。
俺は目を開ける。
立っていたのは俺が昔住んでいた家の一室。
両親が殺されたとき、そのままの部屋。
夥しい血が広がった床。
血に濡れたカーテン。
そんな過去の俺の記憶を見て俺は…
とりあえずブレイクダンスをすることにした。
床で高速スピンする俺。
そして回転が終わると同時に「スチャッ!」と起き上がる。
…きまった。
で、分かったこと。
うん、これは夢だな。
血まみれの床に頭を擦りつけてブレイクダンスをしたが血が一切ついていないし、
そもそも全身筋肉痛の俺がこんなきびきび動けようはずもない。
普段から俺とつながっているベルとのつながりも無くなってるし、
この家はあの事件の後に取り壊されている。
あるはずがないんだよここは。
ずっと幼いころに両親が死んだその場所を俺が黙ってみていたそのとき。
「……ん?なんだあれ?」
暗くてさび色のその景色に似つかわしくないぺかぺかの黄金の扉。
明らかにこの景色に会わないそれは突然現れていた。
多分さっきはなかったはずだ。
「……んー、なんとなくだけど…誰か俺を呼んでる…のかな?」
理由は分からない。
だが、特に意味もなくあの黄金の扉に引き寄せられるような感じがある。
これはもしかしたら誰かに夢を見せられているのかもな。
だとしたら…さて…どうするか。
しばらく長考をした末に俺は黄金の扉へと歩み出す。
「呼ばれてんならとりあえず行ってみるか。
何か用事があるのかもしれないし」
万が一襲われても別に俺自身で撃退すればいいんだ。
…俺がベルがいなければ戦えないと思っている諸君!
それは誤解だからな。
ベルが進んで手伝ってくれるから俺自身でやっていないだけで別に俺自身でも戦えるんだよ。ほんとだよ?
「っしゃ!炎でも竜巻でもこーい!」
意気揚々と扉を開ける俺は黄金の扉に入り光に包まれて消えていった。
◆◆◆◆◆
―――銀景色。
「……炎でも竜巻でもなかったか」
扉をくぐり光に包まれたのち俺が立っていたのは一面雪景色の世界。
北極ですか?
しかしここも変わらず夢なのだろうしどこかに俺を呼んだやつがいるかもしれない。
そう思い視界をまわすと遠くに町らしき場所が見える。
北極ではなかったようです。
遠いので転移魔術を発動し町の近くまで移動する。
近くに移って気が付いたが町の入り口には門があり番兵らしき人もいた。
これは…本当に現代か?
なんというか時代遅れ。
良く言うなら古き良き外国って感じの光景だ。
「これはもしかして異世界?」とか頭の中で考えつつ足を進め門の横を通り抜ける。
そして予想通りのノーリアクション。
やはり夢なのには変わりないようだ。
よくわからないままに西洋風の町中を歩いていると赤色のローブを着た少女が籠いっぱいのマッチ箱を持って町の中を行く人たちに近寄っていく。
「…マッチ…マッチはいりませんか…」
……おや?…これはもしかして…。
どうせできることもないのでそのままその光景を見る俺は何となくここが何なのかを察する。
これはあれだ、『マッチ売りの少女』だ。
確かマッチを売れずにそのまま少女が雪の降る寒い夜に亡くなってしまう話。
つまりここは異世界とかではなくマッチ売りの少女を見ている誰かの夢ということではなかろうか?
そんなことを顎に手を当てて考えていると急に辺りが暗くなりさっきまで空にあった太陽が消え、代わりに月が現れる。
そしてマッチを売っていた少女が座り込む。
この後確か「マッチ売れない、寒いから暖をとろう」的な流れで…
「マッチ一本も売れなかったわね。……おのれ…オノレ!」
少女の顔がなんかすごい怖いことになる。
…あれ?台本は?
そして少女が籠の中のマッチに火をつけてそれを地面に叩きつけると瞬く間に燃え広がり町は炎に包まれた。
俺?もちろん俺も火の中にいますけど、夢だから特に何も起きないようです。
そして町を包んだ日の中で燃えながらマッチ売りの少女は吠える。
「マッチを全部買わないからこうなるんだ…アハハハハハハッハハハハハッ!!!」
やだ…怖い。
唖然とその結末を見ていると、
視界の端に俺の夢に現れた黄金の扉がニョキ!と湧いてくる。
それは俺の夢に出たものと寸分たがわず同じものだ。
…あーこれはあれか?
湧いて出たその扉をツンツンしながら予想する俺。
つまるところ誰かの夢を渡り歩き俺を呼んでいる何者かの元へと辿り着かないといけないのだろう。
湧いて出た扉に蹴りを入れてながら今後の方針を決める。
うん…今のところ攻撃とかされてないし…いけるところまで行ってみるかぁ。
後ろで焼野原とかした夢を背に俺は黄金の扉を開き進む。
…ところでこの夢を見ている人は放火魔か何かですか?
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