第84話 どうあっても平穏とは程遠いんだなって


 いろいろなトラブルにちょっぴり冷や汗をかいたもののようやくすべての準備が整い予定通りのクリスマスパーティーの開催にこぎつけた俺。


 もはや来客が多すぎてどうしたらいいかわからないがそんなときはお酒でも飲んで忘れよう。


 なんか主神クラスの神がちらほらいる気がするがキノセイキノセイ。


 日も落ちてツリー(神)からも綺麗なイルミネーションの光が見え始める。


 そろそろ始めてもいい頃だろう。


 みんなに声をかけて魔術によってなんかもう体育館かと言わんばかりに広くなったリビングに集まる。


 そしてグラスを手にパーティー開始の挨拶を開始する。


 ここまでくればもうあとは何の問題も起きないだろう。


 …フラグじゃないよ?


「えー…本日はみんな集まってくれてありがとう。

 知った顔も知らない顔もいるかもしれないが…ここにいる間は楽しくはしゃぎましょう………それでは…か『ガッシャーン!!!』」


 はい、綺麗に乾杯の挨拶を相殺されました。


 あるよね飲み会で挨拶始めた途端に店員さんが入ってきて気まずくなるやつ。


 でもまぁ今回はそんな平和な感じではなくどうやら襲撃らしい。


 ちょっと前にフェンリルに破壊され、

 そこそこ急いで修理したガラスが再び破壊されている。


 うちのリビングのガラスに恨みでもあるのか?


 破壊されたそのガラスからはグネグネとしたゼリー状の化け物やなんかウニみたいに棘だらけの物体、円錐状に伸び縮みする巨大足踏み健康マットっぽい奴など様々なバリエーションの怪物がリビングに入ってきた。


 そしてその中心には人型の物体。


 な~んか知った感じの気配を感じる。


 というかやっぱ知り合いだわこれ。


 俺が残念なものを見る目で乗り込んできた化け物を見ていたそのとき、

 中心でいつも通りその辺の人間に化けている暇神が高いテンションで喋り出す。


「ひゃっはっはっはっは!なーにがクリスマスパーティーだ!

 そんなものこの無貌にして這い寄るゴッテス!

 ニャルラトホテプ様が潰してあげるわ!」


 …知ってた。


 どうやらこの軍団を率いているのはここの元家主のご様子。


 やけなのか、から元気なのか、異常なテンションでこちらに口上を述べてきた。


「…はぁ…やっぱお前かぁ」


「あっはっはっはっは!ナユタ!

あなただけ楽しい目に合おうだなんてそううまくは行かないわよ!」


「お前脱獄してわざわざパーティーの妨害に来たのか?」


「だまらっしゃい!あたしが拷問ループにはまっている間にパーティだなんて許せるもんですか!実力行使も辞さないわ!覚悟しなさい!」


 要するに羨ましかったから邪魔してやろうということですね。


 だが、正直言って俺は今とても可哀そうなものを見る目をニャルに向けている。


 …お前、ほんとツイてないよ…。


「…一応謝っておく…すまん」


「……へっ?」


 そう悲しい表情でニャルに別れを告げた俺は静かに後ろに下がる。


 そして入れ替わるように前に出たのは、

とてもとてもパーティーを楽しみにしてくださっていた来客の面々でした。


 ちなみに今現在皆さんは笑顔のまま憤怒のオーラを漂わせてます。


 後は…わかるな?



「…ひっ!?や、やめ…ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!??」



 ◆◆◆◆◆




 ―――5分後。


そこには無残にもぼこぼこのボロボロで土下座をしているニャルの姿があった。


 悪いなニャル、今この戦力ならラグナロクも起こせるんだわ。


なお、周囲にいた化け物(ニャル分身)は漏れなく塵ひとつ残さず消滅しました。


 うちの友神たちの火力が高すぎる件について。


「…ごめんなさい…ごめんなさい…羨ましかったんです…ごめんなさい…」


「…だからって襲撃はないだろお前」


「うえーんお前にわかるかー!鎖でつながれた状態で目の前で、

『じゃあ今日の拷問は私が勝ったらメイデンですよ!』とか無邪気に笑いながらじゃんけんする妻がいるだぞ!病むわ!精神病むわ!」


「…それはまた何とも……あっ…」


 泣いているニャルと俺が話していたそのとき、

 さっきほど割られたガラスの先の庭に虹色の何かが浮かび上がる。


 それは徐々にこちらへと近づいてきた。


 そしてこちらに近づくにつれて何がこちらに来ているのかが見えてきた。


「…ニャル」


「…ふぇ?」


「…


「…!?」


 ニャルの表情が恐怖に染まり必死に後ろに振り返る。


 そこにいたのは煌びやかなイルミネーションが丁寧に施されたアイアンメイデンを抱えておいでおいでしているイホウンデーさんと、


 いつもと違いクリスマス仕様の虹色の炎を手の平に乗せてイホウンデーさんと同じようにおいでおいでしているクトゥグアの姿だった。


 2柱は満面の笑みのままおいでおいでを繰り返しながらノーモーションでこちらにスライドして少しずつニャルに近寄ってきていた。


 それに戦慄を覚えるニャルの図。


「いやぁ!!!助けて!助けてナユタ!

 もう拷問ループは嫌だよ!いやだぁぁぁぁ!」


 そう言いながら必死にこちらにしがみつくニャル。


 ここまでくればもはや憐れと言わざる負えない。


 ……はぁ…しゃあないなぁ。


 せっかくの聖夜だし、これくらいはいいだろう。


 仕方なしにうちの眷属を呼んでニャルを助けることにする俺なのだった。


「サモン眷属!」


「ここに!」


 一瞬で俺の前に現れるうちの眷属。


 ぐう有能。


「この間の…俺が焼き払った写真集…まだあるか?」


「…写真集…?…ああ、これですね我が神よ」


「そうそう、それそれ。2冊買うわ」


「はい、ではこちらが商品になります」


 ニグラスから救済アイテムを買った俺は気怠くもニャルの前に出てイホウンデーさんとクトゥグアの前に出る。


 すると若干警戒した2柱がこちらに話しかけてきた。


「…ナユタさんいくらあなたでも私たちの甘い蜜月(物理)を止めることはできませんよ!」


「そうよ!私たちの恋の炎(物理)は止まらないわ!」


 そう言いながらこちらにスライドしてくる2柱。


 だが俺は先ほどニグラスから買った必勝アイテムを二人に投げ渡す。


 最初は警戒していた2柱だが目の前に落ちたその本を見た瞬間に目の色が変わる。


 そう…その本とは『無貌の神ヌード写真集:女体バージョン』です。


 それを受け取ると同時バッと開き、そして大切そうに抱きしめる2柱。


 勝ったな。


「…まぁ…なんです。たまには夫をゆっくりさせるのも妻の務めですものね。

 仕方ないですね!ね!クトゥグア」


「…ハァ…ハァ…ええ、そうね。

 …ちょっと用事を思い出したから私たちはここで失礼するわね。

 …ハァ…ハァ…ウッ!…ふぅ…」


 本をも貰ってから何や挙動のおかしい2柱たち。


 クトゥグアに至っては何やら体がびくびく痙攣している。


 …やだ…怖い…。


 何やら股を動かさないようによたよた歩く2柱はそのまま門を開いて去ってゆくのでした。


 そして「うえーん!心の友よぉ!」と俺に抱き着いてくるニャルを慰めて部屋の修理した後に滞っていた挨拶と乾杯とともに我が家のクリスマスパーティーはなんとか無事に開始されました。

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