第83話 予定は紛れもなく予定なんだよ

 人数(?)も随分と増え時間も経ってきたことで着々と準備が整っているあとは誘った信長さんを待って夜が来れば無事パーティー開催といったところだろう。


 そう考えつつ準備と最終確認をする俺の左腕は現在封印されていた。


 その理由は…、


「ふ~ん…案外普通の家なのね~」


「そりゃなぁ俺一般市民だし」


「あなたみたいな一般市民だらけだったら人間こわいわ」


 俺の腕には俺と雑談しているステンノが抱き着いているからである。


 さっきうちの妻たちに囲まれた状態から助けたせいか懐かれたようだ。


 ちなみに妻たちはクロネは猫の姿でこちらを見ており、

アサトとヨルトは「ナユタがいいならまぁいいや」みたいな感じですでに興味を持ってない。


 が、ネムトとさゆりは笑顔でステンノを見ていたので微妙なところだ。


 台所にいなかったら襲い掛かっていたかもしれない。


…ていうかさゆりさんもはや普通に神を相手にできるようになっていらっしゃる。


 我が奥さんながらたくましい。


 チロチロと蛇っぽい舌を出したり仕舞ったりしているステンノと準備を進めていたそのとき『ピンポーン』という音とともに玄関から大きな声が聞こえる。


「パーティーはナユタん家にあり!」


 聞き覚えのあるテンションだなぁ。


「騒がしいのだけどあれも?」


「俺の友人の第六天魔王さんです、すいません」


 ジト目でこちらを見るステンノに謝りつつも玄関に行くと予想通り信長さん。

 そしてその奥さんのハスカさんがいた。


 だがその後ろには予定にはなかった御仁が二人。


 長髪をポニーテールにしているスーツのお兄さん。


 そしてその隣のタンクトップに短パンという冬ガン無視の格好の好青年。


 なにこのシュールな絵。


 困惑する俺をよそに見知った顔のお二人は話しかけてくる。


「かっかっか!来たぞナユタ!」


「あーうん…いらっしゃい」


「お邪魔します、ナユタさん」


「ハスカさんもいらっしゃい……で?その後ろの二人は?」


「うむ!せっかくのパーティーだからな!眷属の二人もつれてきたんだ!」


「…いたんだ眷属」


「それはいるさ!魔王だからな!かかっ!

 スーツのが光秀、タンクトップのが猿…ではなく秀吉だ」


 そう自己紹介した信長さんだが…どこかで聞いたことのある名前だなぁ。


 ジャージの信長、タンクトップの秀吉、スーツの光秀、ドレスのハスカさん。


 違和感すごい。


 そして自己紹介をされた二人はそれぞれ違う反応をした。


両手をあげて「俺だ!」アピールをする秀吉さんと、静かに礼ををする光秀さん。


 性格が見えていますね。


「秀吉だ!よろしくナユタ殿!」


「光秀と申します、以後よろしくお願いします」


「ご丁寧にどうも」


 礼には礼で返すべし。


で、礼を終えて顔をあげてみると何やら光秀さんが秀吉さんにおこな様子でした。


「おい秀吉!初対面の方に失礼だろう!」


「硬いことを言うなよ光秀~。

 信長様の友人というくらいなのだからこれくらい許してもらえるって~。

 …ねっ?ナユタ殿~」


「お、おう」


 どうやら秀吉さんはなんともフランクで絡みやすい性格のようだ。


 そして対する光秀さんはとても真面目な性格らしい。


 叱っている表情には疲れが見えるんですもの。


 さぞ自由奔放な魔王に振り回されてるんやろなぁ…。


 そりゃ謀反のひとつでもしたくなるわ。


 おそらく優しい表情になっていたであろう俺はポンッと秀吉さんの肩を叩く。


「…お互い大変ですね光秀さん」


「……!わかっていただけますかナユタさん!」


 目と目が合い何となく互いの苦労が通じ合う。


 無貌とか魔王とかに振り回される苦労が。


 とりあえず俺たちはこの後のパーティーで酒を手に愚痴り合うことだろう。




 ◆◆◆◆◆




 信長さん一行がこうしてパーティー会場に加わり俺が声掛けしたメンバーはこれで無事揃ったことになる。


 だがお気づきであろうか…考えていたよりもずっと人数が増えているのである。


 みんな意外と友神が多いなぁ。


「さすがにこのままでは準備していたご飯とか足りないんじゃね?」

 とかちょっぴり思い始めたのだが皆さんお忘れではなかろうか、

 俺にはなぜかできた眷属がいることを。


 自然な動作で近場の足元を指さし召喚の魔術(物理)を使用する。


「カモンッマイ眷属ッ!」


「はっ!」


 シュパッと転移して俺の指さした場所に現れるうちの眷属ニグラスさん。


「予定より少し人数が多いからパーティー用の料理を発注で」


「ははっ!我が神よ、こんなこともあろうかとすでに連絡を取って準備をさせておりました!すぐにこちらに持ってこさせることが可能です!」


「ナイス、マイ眷属!後で俺の堕落ハンドで労ってやろうぞ」


「有難き幸せ!」


 このやり取りで人数が結構増えた問題も無事解決。

 後は暗くなってからパーティーを開始するだけだしこれで問題もなかろう。


 準備も終わり来賓のみんなや妻たちも寛いでいる。


 そしてまだ俺の腕に引っ付いているステンノも何故かそのステンノに対抗意識を燃やしてその逆側に抱き着いてきたウタウスも


 なして俺の両脇で睨み合って火花を散らしているのか。


…喧嘩するほど仲がいいというし案外これはこれで仲がいいのかもしれない。


 後はゆっくりパーティーの開催を待つとしよう。


 あっはっはっはっは…


『ドガシャーンッ!!!』


 落ち着いて聞いて欲しい。


 今、俺の目の前にあった中庭のガラスが吹き飛んだんだ。


 前触れもなく、敵襲じゃ。


 ちなみに俺の周りにいた神たちは全く動じることもなく魔術的なもので壁を作り飛んでくるガラス片を防いでいる。


 …慣れてんなぁ…。


 …はっ!?そういえばマイワイフたちは!?


 急ぎ妻たちに視線を送る俺。


 そこにいたのは周りの神たち同様に壁を張りなおかつパーティー用の料理にガラスが入らないようにしているクロネ、ネムト、さゆりの姿だった。


 もはや妻たちは抜かりない、と思っていただこう。


 俺よりしっかりしてるわ、やっぱ。


 尚、アサトとヨルトは飛んできたガラス片をすべて掴み取りこちらに嬉しそうに見せている。


 …こら!ガラス片を握っちゃいけません!手を切っちゃったらどうするのもう!


 そんなこんなやっていると吹き飛ばされた中庭のガラスがあった場所から何かこちらに飛び込んでくる。


 それはなんというかちょっぴり野生っ気溢れる犬耳の女の子だった。


 …誰だろう?面識ないんだけど?


 予期せぬその青みがかった銀髪犬っ子を俺は首を傾げながら見ていたそのとき、

 その犬耳っ子が大きな声でこちらに問いかけてきた。


「おいっ!ここにナユタってやつがいるのか!」


「あっハイ、俺がナユタです。あとここ俺の家です」


「おまぁえぇかぁ!!!」


「…えぇぇぇぇぇ…」


 俺がナユタと分かった瞬間からこっちにものすごい殺気を向けてくる犬耳っ娘。


 WHY?


 さすがに気まずい俺は挙手しながら犬耳っ娘にといかけようとしていたら俺の後ろからクロネが前に出て犬耳っ娘に話しかけた。


「フェンリル!?おぬしなんでこんなところに!」


「わう!バースト!待ってろ!今助けてやるからな!」


 どうやらあの子は北欧の神フェンリルだったらしいことが会話で分かる。


 …狼神おおかみですね…わんことか言ってすんません。


 …ところで助けるとはいったい?どうやらクロネの知り合いのようだが。


「何を言っておるのじゃ?助ける?」


「わう!知り合いの蛇の神がいってたぞ!

『バーストはナユタという人間に心を奪われて虜になってしまったんだ』って。

 だからお前がバーストをここに捕まえてるんだろ!!!」


 …その言葉を聞いた俺を含みその場にいた者達は「…う~ん」と唸る。


 間違いではない。確かにその言葉に間違いは多分ない。


 ただ解釈がなぁ…。


「…ちなみにその蛇神って?」


 俺が遠慮がちにフェンリルに問いかけるとフェンリルはこちらを警戒しながらも部屋の少し奥にいたイグさんを指さす。


 当然一斉にイグさんに視線が集まった。


 そして当の本人は頭の後ろをカリカリしながら苦笑いしている。


「いやぁ…せっかくだからバーストの親しかった子に声をかけたんだ。

 …あはは…申し訳ない…」


 一斉に漏れるため息。


 だが、そんな場の空気を無視したフェンリルがこちらの息の根を止めようとこちらに亜音速で攻撃をしてくる。


「くたばれぇ!」


 物凄く魔力の籠もったフェンリルの蹴りがこちらに向かってくるのを見て、

 そして俺は落ち着いて…受け止めてみることにしました!


「よっしゃ来い!」


 特になんの魔術も使わずにフェンリルのケリをくらう俺。


 映像的に言うなら今俺は扇風機の中のプロペラ状態でして。


 3秒くらい宙で回転した後に俺は側頭部から床に落ちた。


「おっふ!」


「な、ナユター!?」


 視界が揺れて全然見えないが驚いた様子のクロネの声が耳に届く。


 ダイジョブダイジョブ、まだ首引っ付いてるから!セーフーセフ!


「…へっへへっお前のキックを受けて倒れなかったのは俺が初めてだぜ…」


 意識朦朧でよくわからないことを言いつつもまだダイジョブアッピルをする俺。


 心の中で「追撃くるかなぁ…」と心配していると何やら不思議そうにフェンリルがこちらに尋ねてきた。


「…お前今見えてたのにワザと受けただろ。なんでだ?」


「うん?何で?何でってそりゃ…避けたら失礼だから?」


「…わう?」


 俺の言ったことをうまく理解できなかったのか首を傾げるフェンリル。

 みなまで言わせるなよ恥ずかしいから。


「いやな?だってフェンリルはクロ…バーストのことを心配してくれたんだろ?

 だったらその思いの籠もった蹴りを避けるのは失礼かなぁ、と思って」


 その言葉を聞いたフェンリルは何やら驚いた様子で固まってしまった。


 そして事態が鎮静化したのを見計らったのかクロネが間に割って入った。


「あのなフェンリル、我は別にここに捕まっているわけではないのじゃぞ?」


「そうなのか?」


「そうなのじゃ。

 我は…その…なんだこのナユタを夫と定めここに住んでおるだけなのじゃ。

 自身の意思でここにおるのじゃ。だからおぬしのそれは誤解じゃ。

 …心配してくれたのは嬉しいがの」


 クロネのその言葉を聞いたフェンリルから殺気が消え、

 代わりに周りの首をぶんぶん動かして周りの神たちに「そうなのか!」と確認を取りそして問われた神たちは「うんうん」と首を縦に振る。


 どうやら俺が誘拐犯という誤解は解けたらしい。


「ふい~」と安堵の息を漏らしていていると先ほどとは変わって耳と尻尾の元気をなくしたフェンリルがこちらに近寄ってきていた。


「…間違えてごめんだぞ…」


 うんうん、ちゃんと謝るのは良いことだ。


 まぁ…友達のバーストのためにここまで来てくれたんだし良い子なのは分かってたけどな。


特に起こる理由もない俺は笑いながらフェンリルの綺麗な髪と耳を優しく撫でる。


「俺の大好きなバーストのこと心配してくれてありがとうなフェンリル」


 気持ち良さそうに目を細めるフェンリル。


 手に元気になった耳がツンツン当たっているしこれで解決だな。


「せっかく来たんだしパーティーに参加してくれよな」


「ご馳走?」


「ご馳走」


「わう!」


こうして予想外の客も増えたが何とか鎮静化しパーティーまであと僅かとなった。


 ここまでくればもう何も問題は起きないだろう!多分!


 …フラグじゃないよ?ホントだよ?

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