第81話 クルシミマスとは言わせんぜ!

 遊園地から無事に帰還した俺は久しぶりの激しい運動の反動で

 筋肉痛に襲われました。


 そしてそこそこの疲労感のおかげで布団から出たくなかった。


 だって体が痛くて布団の外が寒かったら布団から出たくないでしょう?


 そうして布団の中で呻いていた俺なのだが、

そんな俺の頭を優しく撫でてくれた女神たち(直喩)が俺の隣には存在していた。


「ナユタ君、大丈夫?」


「旦那様、無理に起き上がらなくても私たちで朝食などの準備するので、

 もう少しお眠りになられてください」


布団の中からゾンビしている俺の様子を見かねたさゆりとネムト(大人)だった。


 女神様たちの提案で俺は再び布団に潜り込み枕を抱きしめる。


 ……すまん、みんな…でも…あと…半…日…ぐぅ…zzzZZZ



 ◆◆◆◆◆



「…ナユタは?」


「やっぱり疲れてたみたいだったから、もう少し寝ててもらったよ」


 ナユタのいる寝室から出たさゆりとネムトに問いかけるヨルト、

そしてその後ろで寝起きで眠そうにクロネ(猫)を抱きしめているアサトがいた。


 なかなか起きてこないナユタを心配する新妻たちなのだった。


「昨日は旦那様は大変でしたからね。

 アサトやネムトに引っ張られいろんなアトラクションを回ったり、

 観覧車で痴女二人に襲われたり…」


ニャアアアアアアアアア(その話はするな)!!!」「その話はしないで!!!」


揶揄う様子で言ったネムトの発言で何やら頭を抱えて荒ぶるさゆりとクロネ(猫)を「?」と、よくわからない様子で見守るアサトヨルト姉妹。


 彼女らの痴態はあの時ナユタと一緒にいたネムトとだけが知っていたのだ。



 こうして疲労で眠りについたナユタを休ませ妻5柱…と、

しれっと寝室から朝食を食べに来たリベルギウスたちはゆったりと朝食を食しリビングに集まっていた。


 そしてみんなで揃ってコタツでゆったりしているとき、

 コタツのテーブルで折り紙で輪っかを作りそれを繋げているリベルギウスをアサトとヨルトが見つける。


 それを見たヨルトが姉のアサトに首を傾げながら問う。


「…お姉ちゃん、ベルは何を作ってるの?鶴?」


「…ん…あれ…パーティーとかの…壁に飾るやつ」


「へー…そうなんだー」


 興味深そうにベルが飾りを作る様子を見るヨルトにその様子を微笑ましそうに見守るさゆりが話しかけた。


「懐かしいなぁ、小さい頃は何かパーティーとかあるとつい作っちゃうの」


「そうですね、うちの深きものたちやヒュドラちゃんも沢山作ってダゴン君をシバキあげてましたね」


「…ネムトさん、それなんてサバトですか…?」


 和やかで平和な会話が続く中、

 ふとベルの行動を訝しんだクロネが猫から人型に変わりベルリベルギウスに問いかけた。


「しかしベルよ、なぜそのようなものを作っておるのじゃ?」


 その問いに黙々と飾りを作っていたリベルギウスが手を止めて、

 いつも通りの無表情でその答えを端的に答えた。


「今日。12月24日」


 ア「?」ヨ「?」ネ「?」


 ク・さ「「……えっ!!!???」」


 首を傾げるアサト、ヨルト、ネムト。


 だがその横で「ガタッ!」とコタツを揺らしながら驚きの表情を浮かべるクロネとさゆりの姿があった。


「…う、嘘!?今日クリスマスイヴなの!?」


「にゃ!にゃんと!?」


 大慌てする2人があたふたしているうちに大人ネムトにアサトヨルトの子供組が近寄り自分たちの知らない単語を質問した。


「…ネムト、『クリスマス』って何?」


「私も知らない。何なの?『クリスマス』って」


「えっとですね、たしか何度か聞いたことがありますが海外の聖人が復活した記念日…のようなものだったと記憶してます」


「…んむぅ?…それで何で二人は慌ててるの?」


「それにどうしてベルがパーティーの飾りを作ってるのかもわからないよ?」


 質問をするが求めた答えが理解できなかった世間知らず3柱。


 慌てる2柱をよそに首を傾げる。


 だが、その状態を静かに見ていたリベルギウスが出来上がったパーティの飾りを両手を広げて伸ばしその輪っかの間から顔を出し話す。


「12月24日。クリスマスイヴ。

 恋人たちの聖夜。代表例。クリスマスパーティー」



 ◆◆◆◆◆



 ――昼間に目が覚める。


 おう…もう一度寝たら筋肉痛がさらにひどくなった…寄る年波には勝てんのう。


 早々に体の成長を魔術で止めておいて正解だったかもしれない。


 心の中で爺をしながら布団に潜り続ける俺。


 今は大体昼くらいかな。


 だが幸いさゆりやネムトやクロネが俺の代わりをやってくれているはずだし、

 今日くらいはゆっくり休んでもええんやん?


 そう自身に言い訳をし布団に再度顔を伏せ眠りにつこうとしたそのとき、

 寝室の入り口が大きな音とともに開く。


 そしてそこには、真っ直ぐにこちらを見ているアサトとヨルトがいた。


 だが何やらいつもと様子が違う。


 具体的に言うと何やら二人の目力がすごい。

 いつも半開きのアサトの目が今はいつになく開かれている。


「…ナユタ」「ナユタ!」


「は、はい…」


 思わず敬語になる俺。


 そしてぐいぐいと近寄ってくる二人は口をそろえて言う。


「「 今日、12月24日! 」」


「はい…はい?」


 突然の気合が入った日付宣言に目を丸くする俺。


 いまいち現状がわからなかったので二人に事情を聴いてみると…


 どうやら今日は12月24日、つまりクリスマスイヴだったらしい。


 昨日の騒ぎのせいで完全に忘れてたわ。


 で、クリスマスぱーちーをしたい二人が俺の前に馳せ参じたとのことです。


「…ナユタ…去年なかった…」


「…いやな、アサト。あの時はまだ一緒にここに暮らし始めたばかりで結構あれだっただろ?気が付いたら年明けだったし気づかなかったんだよ」


「…だったら…今年はしたい…」


「私も初めてのクリスマスしたい!」


 ちびっこ神たちの必死のお願いである。かわゆい。


 だがな…妻たちよ。

 俺は今すごく筋肉痛なんだ。それはもう超再生中なんだ。


 だから…できれば…せめて明日にしてくださいませぬか?


 期待の眼差しでこちらを見る二人にその旨を伝えると。


「「 ……………え? 」」


 先ほどまでの期待に満ちた表情を絶望一色に変化させる。


 だが、布団の中でぷるぷる震える俺を見て遠慮したのか、

 二人はとぼとぼと入口の方へと歩いていく。


 …罪悪感が心臓に突き刺さる。


 …だが我慢しろ!我慢しろナユタ!

 ここで無茶したら多分俺は新年を無事に越せない。


 おそらく布団の上で新年を迎えることになる!


 そうだ、アサト達には悪いがここは我慢を…。


 そう自分に言い聞かせ我慢する俺の耳にとぼとぼと入口から出ていくアサトとヨルトの悲しげな声が響いた。


「…一緒にパーティしたかった…」


「…ナユタと一緒に初めてのクリスマスやりたかったね…」


 悲し気にとてもうれしいこと言ってくれる我が愛しき妻たちの嘆き。


 それを聞いた俺の中で…なんかこう理性的なものが砕け散った。


 ……筋肉痛がぁ…なんぼのもんじゃぁーい!


 頭の中の魔術をフル活用し体を動くように無理やりする。


 やれ!痛覚麻痺魔術!(痛みを感じなくするだけ)


 さらにっ!身体能力強制超強化魔術!(その反動はすべて後日に)


 そして!精神増強魔術!(もうどうにでもなあれ)



 ばりばりの身体強化で無理やり体を動くようにした俺は布団を速やかにたたみ入口の方にとぼとぼ去っていったアサトとヨルトに追いつき抱きしめる。


「…ん」「…ナユタ?」


 いきなり抱きしめられた二人は驚いてこちらを見る。

 そんな二人に望んでいたであろうその一言をプレゼントするとしよう。


「うし!二人とも急いで準備するぞ!

 今昼だから今から準備とか、招待とか、

 いろいろやらなきゃいけないことが山盛りだからな」


「…えっ?」


「でもナユタ、体痛いんじゃ…」


「やりたいんだろ?クリスマス。だったらやるしかないっての。

 俺の大好きな奥さんたちが望んでんだから…な?」


 そう言いながら二人にウインクする俺。

 そしてそれを見た二人は笑顔の花を咲かせ飛び跳ねながら喜ぶ。


「「 やったぁ! 」」


 嬉しそうにぴょんぴょんしながら俺に抱き着き返してくるうちの妻たちを見て、

 俺も頬が緩む。


 やっぱり二人は笑顔が一番だ。


こうして俺は年明けを代償に今年のクリスマスを盛大に祝うことにしたのでした。


 これも寝正月にカウントすんのかなぁ。

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