第80話 遊園地に遊ばれました ▼子供ラパダイス

 我が家の癒し系妻2名の阿鼻叫喚をネムトに任せ俺はアサトとヨルトが待っているゴーカートの入り口に辿り着く。


 1時間くらい経ってるけどまだここにいるのか?


 息を切らした俺が顔をあげるとそこにはたまにアニメとかで出る宇宙戦艦が2隻、

 空に浮かんでいた。


そして空にはその戦艦から射出されているザ〇っぽいMSっぽいものが漂っている。


 右に黒い戦艦、左に白い戦艦。


 出てくるザ〇もその色に準じて着色されている。


 そして浮いている戦艦から我が家の可愛い妻たちの声が大きな声で響き渡る。


『ふっふっふ!お姉ちゃん!今日こそ私が勝つよ!』


『…ん!…姉より優れた妹は存在しない…』


『星野ヨルト!ストライクジャスティス!出るよ!』


『…星野アサト…カラミティレジェンド…出る』


 威勢の良い掛け声とともにアサトとヨルトが乗っているであろう機体が出撃してくる。そしてそれに釣られるように周りのザ〇達も攻撃を開始する。


 どうやらこの世界の宇宙大戦が始まったようだ。


 …ところでこれいつまでやるの?



 ◆◆◆◆◆



 ―――30分後。


 戦争は無事終結し周囲には大破したザ〇っぽい者の残骸に包まれている。


そして遊びに満足したアサトとヨルトが傷だらけのMSっぽい機体から降りてきた。


「楽しかったぁ」


「…ん…体感型ゲーム…悪くない…」


 どうやら満足したようだ。


で、喉が渇いたちびっこたちはベンチに座りジュースを飲んでいるのでその間に、

 俺の横でニコニコしているニグラスにさっきの奴について聞いてみると…


「ガンダ〇を参考にしました」


「知ってるよ!!!そこじゃないだろ!俺が聞きたいこと分かるだろ!」


「………?」


 どうやら俺が聞きたいことがわからないらしく首を傾げるニグラスは黄金の詰めを唇に触れさせ考え込む…そして答えが出たのか「ポンッ!」と手を叩き人差し指を空に向けて意気揚々を話し出す。


「ご安心ください我が神よ!

 ちゃんと遊んだMSはお土産コーナーで家に持って帰ることが可能です!」


「そこじゃねぇよ!」


「一家に一機!」


「家電かっ!!!」


 一家に一機ガン〇ムあったらそれはそれで紛争勃発だよ!!!


 俺の後ろでアサトとヨルトが期待の眼差しをしているが

 …さすがに今回はダメです。


「ちなみにこれはガンダ〇についてやたら熱く語っていた無貌の神が、

『これさえあればガンオタは堕落する!』という要望に沿って作りました」


「……まーたーあーいーつーかぁー」


 いてもいなくても迷惑なあたりさすがである。


 このまま聞いていても俺の「これのどこがゴーカート?」という疑問には辿り着いてくれなさそうなので、そのまま俺はアサトとヨルトと一緒に行く約束をしていたお化け屋敷に向かうことにしました。


 満足気なニグラスと一緒に。



 ◆◆◆◆◆



 そしてやってきましたお化け屋敷。


 景色は和洋折衷四季折々のオンパレード。


 せめて火葬か土葬か春夏秋冬かくらいはテーマ決めようよ…。


 桜と紅葉が織り交じる道を進む俺とアサトの歩幅は少しアサトの方が早い。


 理由はアサトがあんまり怖そうにしていないのが一つ。


 そしてもう一つは…


「…うっ…ひぐっ…ナユタァ…」


「………あーはいはい、大丈夫だから。

 しっかり手握ってるからもうちょい気楽にしなさい」


「………うん」


 意外なことにヨルトはこういうびっくりホラーはダメなようで…。

 このお化け屋敷に入ってから俺に抱き着きっぱなしなのである。


 そんなヨルトがちょっぴり新鮮であり可愛いと思う俺は黙って抱き着かれており自然と歩幅が狭まっちゃったのです、はい。


 うちの嫁可愛い。


 とかなんとか涙目の妻を愛でていると先行していたアサトの正面の影から何かが飛び出してくる。


「ゴアァァァァォアァッ!!!」


 飛び出してきたのは迫真の演技で怖がらせようとしているグールだった。


 なかなか本格的だな。特に魔術とかを感じないしあれはおそらくグール君の訓練の賜物なのだろう。…俺は驚かないけどなぁっ!


トテモオソロシイ形相でゾンビメイクをしているグール君がアサトに迫る…がっ!


「……………」


 アサトさん、まさかのノーリアクション!


 あーいうのあんまり怖がるタイプじゃないしなぁ。


 だがリアクションの薄いアサトに、グール君!再び追い打ちを仕掛ける!


「グゴアアアアァァァァァァ!!!」


 気合の入った咆哮!


「…………ふっ…」


 鼻で笑うアサト。


『ズシャアァ…』


 膝をつき心が折れそうになるグール君!


 するとその様子をみていたアサトがこちらにとてとてと歩いてくる。


「…ん…勝った…」


 腕を組みとても自慢げな表情で『えっへん!』するアサトさん。

 アサトさんや、ここはそういう我慢比べみたいなところではないんです。


 ですが嬉しそうなアサトが可愛いのでついつい頭を撫でてしまう俺なのでした。


 と、俺がアサトに和んでいると、


「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!???」


 俺の後ろから悲鳴が上がる。


 あっ…やばい、ヨルトのこと忘れてた…。


 俺がアサトを撫でていたその後ろで少し離れたヨルトが伏兵のグール君2号に襲われていた。


「ガァァァアアアアアァァァァァッ!!!」


「きゃあああああああ」


 相手の咆哮よりも大きな声で驚くヨルトはもはや涙目で混乱状態。

「さすがに助けてあげようかな?」と俺が思ったそのときグール君2号は職務を全うするために追い打ちの雄たけびを上げる。


「ガアァァアァオォォォォァァァァァァッ!!」


 なかなか気合の入ったトドメの叫び。


 が、それが仇になるとは彼も思っていなかっただろう。


「っ!?…イヤァァァァァァァァッ!!!」


 未だ驚いている状態での追撃についにヨルトはパニックに。

 そして防衛本能でも目覚めたのか残像を残す速度で瞬時にグール君2号の正面へと移動した彼女は音よりも速く振り抜いた拳をグール君の腹部に突き込む。


『ドゴォッ!!!』


 ボクサーのパンチよりも強い打撃音がお化け屋敷内に響き渡る。

 ヨルトの幻の右がグール君2号の溝内にめり込んでいた。


 だが意識せずに手加減していたのかそれとも怖くて力が入らなかったのかヨルトのパンチを受けてもグール君2号は五体満足でした。


 しかし…、


「ガアァオォォォッ!?」


 突如反撃を受けたのと、

 思ったより恐ろしく痛い攻撃にうめき声を漏らすグール君2号!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 うめき声でさらに驚きパニックのまま再度グール君2号に拳を撃ち込むヨルト!


『ドゴォッ!』


「ゴガァァァァァ!?」


 痛みの引く前にもう一撃加えられたことによりさらに声をあげるグール君2号!


「イヤァァァァァァァァ!!!」


 その声で驚きもう一発パンチするヨルト。


 ……以降ループでした。



 ―――15分後。


 涙目のヨルトを抱いて俺はアサトとと一緒にお化け屋敷を無事脱出していた。


 すると感想を聞きたそうなニグラスがこちらに小走りで近寄る。


「いかがでしたでしょうか?それなり位に脅かし担当に力を入れた正統派のお化け屋敷だったのですが…何か至らない点などはございましたか?」


 その問いの答えに悩む。


 至らない点…至らない点かぁ。


 俺の脳裏にはヨルトが俺に泣きつくまで無限に殴られ続け、地面にくの字で倒れていたグール君2号と、アサトに鼻で笑われ心を折られていたグール君1号が浮かんでくる。


「耐久力…かなぁ?」


「…はい?」


 その日初めて本気の疑問の表情をしたニグラスの表情が忘れられませんでした。



 ◆◆◆◆◆





 その後もニグラスの遊園地を遊び続ける俺たち星野一家。


 燃え盛るジェットコースター(音速)


 脱走するメリーゴーランド(馬)


 景品付きランドのマスコット交流会(殴り合い)


 どきどき狩猟体験コーナー(?)


 高度2㎞フリーフォール(自由落下)


 様々なアトラクションを遊び終えた俺たちにニグラスが薦めてきたのは

 この遊園地自慢の迷路。


 タイトル「人生」


 ……深いなぁ。


 我が一家の総勢で現在はその迷路を攻略中である。


 前衛には頼もしきアサトと復帰したヨルト。


 後衛にはクロネとさゆり。


 そして上衛(頭上)にはネムトの完璧な布陣だ。


ちなみに何故か後衛のクロネとさゆりは殺気立っており警戒態勢を怠っていない。


「前方!罠!悪臭!なしなのじゃ!さゆり、そっちは?」


「大丈夫!ガスとか怪しい薬とかそういうのはないよ!

 それに魔術は何か起動しているみたいだけど今のところ影響はないみたい!」


 軍隊顔負けの連携をする二人を見て不安になる。

 いったい何があったらこんなに迷路に緊張するのか?


 その後も厳戒態勢のまま進むのだが…特に何か起こるわけでもギミックがあるわけでもないその迷路をゆっくりと攻略したナユタ家は無事迷路を脱出する。


 だが、俺を含めてみんな首を傾げていた。


 そりゃそうだ。


 だってニグラスがこの遊園地で一番力を入れたといっていたのだ。

 何もないはずがない。


 だが蓋を開けてみると実際ただの迷路だった。


 俺たちが頭の上に「?」を出しながら出口から迷路を脱していたら遠くの方から嬉しそうなニグラスが空間移動しこちらに来た。


「どうでしたか我が神よ!なかなかの自信作だったのですが…」


「…どう?…どうって?普通の迷路だったけど?」


「?」


 それを聞きニグラスが迷路の壁に近寄り何やら弄った後に再びこちらに考え込みながら戻ってきた。


「……ふむ?…システムに不備はなし。

 ………では一体?主神クラスでは効かなかった?…」


 何やらぶつぶつ呟いていたニグラスだがやがてこちらに向き直る。


「…すいません我が神よ、迷路の中で何か起きませんでしたか?

 発狂とか発情とか動悸、吐き気、眩暈、幻聴、幻覚とか」


「すっごいこと、いきなり言い出したな!?

 なに!?なる予定だったのっ!?殺す気か!?」



 ――この後のニグラス談


「本来ならこの迷路は入り込んだものの一番望む何かが目の前に現れるはずだったのです。そして入った者はそれの虜になり堕落して迷路から出るか、

 或いは迷路の中で一生を終えるか。

……あぁ無論、閉園時間になったら精神をケアして迷路から出すのでご心配なく」



 とのことです。

 何て迷路造りやがるこの野郎。


「申し訳ございません我が神よ。

 どうやら何かの不備でうまく機能しなかったようです。

 今後はこのようなことの無いように改善に努めます」


「これに関しては一生機能しなくてもいいや」


 こうして遊園地のアトラクションを遊び終えて、

はしゃいで疲れたアサトとヨルト、そして何故か警戒態勢だったクロネとさゆりも疲れたのか揃って眠そうだったのでこれで遊園地から家に帰ることとなりました。


ノーデンスじいじにも特に問題なし(迷路を除いて)と報告できるのです。


「我が神よ本日は御来園ありがとうございました。

 またの機会にお越しください」


 綺麗な姿勢のお辞儀をするニグラスに見送られながら俺はンカイの遊園地を後にする。疲れて俺に抱き着き体重を預ける我が家の家族たちとともに。





 ◆◆◆◆◆



 ――――後ろ。



「…………おかしいですね」


 我が神を見送りながら自身の失態を悔やむ。


 我が社での初の遊園地の目玉となるはずだった迷路の不発はなかなか堪えるものがある。


確かめてみたが迷路そのものに不備はなく我が神の奥様方が妨害した痕跡もない。

 つまりはしっかりと機能したうえでのこのザマなのだ。


「…ふむ。これは目玉のアトラクションを変更する必要があるでしょうか?」


 誰に聞かせるでもなく独り言を呟きながらお帰りになられる我が神を見てふと気が付く。


 迷路の内部で何も起きなかった原因に。


 あそこは望みを叶え偽りの幸福を与える場所。

 心の底から望むものを与える場所。


 だったら…


 ……そう…我が神の言っていた通り何もおきはしないだろう。


 問題の答えに辿り着いた私は小さく自身の顔を綻ばせその答えを見つめる。


 幸せそうに我が神に抱き着いている奥様方と嬉しそうな我が神の後姿を。

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