第79話 遊園地に遊ばれました ▲大人観覧車


とりあえず話し合いで解決しようと思った俺はニグラスにその旨を伝えたところ…


「でしたらここで奥様方を立たせてというのも申し訳ないので

 中で椅子に座って話をするというのはどうでしょう?」


 という返事をしてきた。


 言われてみればその通り、ということで今現在ナユタ家一同は遊園地の中心にある食堂の席に座りニグラスとこの遊園地についての説明を聞いていた。


「……つまりこの施設はニグラスのやっている会社の仕事で建てたと?」


彼女の経営する会社『黒山羊ニグラス』は様々な業界に多種多様な人気商品を提供している外宇宙の大手会社で、さっき話題に出ていた外宇宙通販会社『黒山羊ノワールゴート』もその会社の系列とのことで


「そうですね。私の仕事のために建てさせていただきました。」


「…ふ~む…」


 俺が話を聞いて分かったのは特に悪巧みとか危険な施設を建てたとかではなく普通に仕事で遊園地を建てただけらしい。


 一応、我が家の良識であるクロネとネムトに確認をしてみた。


 ネ「ニャルの同類だけどー人間に危害加えたりはしないー。

 ……代わりに人でも神でも堕落ー…ぐうたらにするけどー」


 ク「そうじゃな。

 こいつは下手なリスクは侵さないような賢い犯罪者タイプなのじゃ。

 秩序の神でも手が出せないように法には触れないように悪さするのじゃ。

 ……だからこそタチが悪いのじゃが」


 …とのことです。


 危険はないらしいが悪巧みしてないわけでもなさそうだ。


「えーとだな…

 …我が家の良神2柱がああ言ってるんだが…何かの悪巧みだったりしないか?」


 その俺の質問を聞き首を傾げる彼女は疑問を露わにしつつも返答した。


「悪巧み…ですか?いえ、私はいつも通り仕事と趣味の両立のために行動しておりますが?」


「ソウデスカ。…ちなみにその趣味って?」


「無論、他者を堕落させその様を楽しむことです!

 仕事や日常で疲れた現代日本人や神をここで堕落させることで利益をあげつつ堕落したその様を楽しむという一石二鳥の作戦!いかがでしょうか我が神よ!」


「いやぁ…趣味と実益は分けた方がいんじゃないかなぁ」


悪気と害意のない悪意って怖いね。


「もちろん危険なアトラクションは一切ありませんし法に触れることもありません。どちらかと言えば堕落させるために最大限楽しめるようになっております」


 と、とても楽しそうに自信満々に語ってくれました。

 

歪みねぇなぁ…というか歪み過ぎて真っ直ぐになったって感じの神だよこれ。


 この様子では特に嘘もなく…というか隠すつもりも悪意も一切ないので多分大丈夫でしょう…たぶん!


 ノーデンスじいじの頼み事も無事完了…で、俺の後ろできらきらした目でアサトとヨルトがこちらを見ているのでニグラスに遊園地で遊べないか頼んだところ…、


「もちろん構いません。我が神の頼みとあらばこの魂すら捧げましょう。

 それにまだアトラクションの出来栄えを確認できていなかったので忌憚なき感想や意見などを聞かせていただければと思います」


 とのことで無事遊ぶ権利を獲得しました。


 俺の初眷属は仕事をやるならきっちりやる奴のようだ………ん?…そういえば…


「ニグラスは俺の眷属って言ってるけど…俺たち今日が初対面…だよな?

 俺の噂だけで眷属になったのか?」


明らかに最初から俺を知っている風だったのが気になりつい質問する。


「いえいえ、我が神よ。

 私があなた様の眷属になったのはこの目であなた様の偉業を目にしたからです」


「え?どこで?」


「はい。

 以前わが社でレンタルしていた『クリスマシュブニグラスツリー』を通してあなた様が他の神…奥様方を堕落させていたときに。

あのツリーは私の化身で作られていますので」


「………………あー!庭にあったあのクリスマスツリーか!」


 記憶を探ってみると去年のクリスマスツリーがシュブ=ニグラスぽかったです。


 そういう飾りだと思ってたんだが…どうやら彼女だったそうです。


 …怖っ!?




 ◆◆◆◆◆



 遊園地の支配人の許可もえることができ予定通り遊園地で遊ぶのだが、

 ここで一つ問題が発生しました…それは、


「…ん…ナユタ…一緒に行く…」


「一緒にいこ!ナユタ!」


「旦那様ーいっしょー」


「観覧車とかどうじゃ?」


「わ、私も観覧車とか言ってみたいかなー…なんて」


 俺と一緒に幽霊屋敷に行きたいちびっこ組。


 観覧車に乗りたいという大人組。


 俺に乗りたいというネムト組。


 なんと我が家の内部でこの三つの派閥に割れてしまったのだ。


 せやかてな…ワイの体は一つやねん。


 そりゃあ分身とかできるけどさ…ニャルのマネするみたいで気持ち悪いんだよ。


 しかし口論する時間は勿体ないというわけで平和的かつ平等に裁定を下すことにしたのだった…じゃんけんで。


「「「「「 じゃーんけーん…ポンッ! 」」」」」


 これで順番が無事決定し俺のレンタルまでの時間はその辺のアトラクションで遊ぶという決まりになりました。



 ◆◆◆◆◆



 ――大人組・観覧車


 俺とクロネとさゆり、そして俺の頭の上に乗りたいだけだったネムトと一緒に観覧車に乗り込む。


 ちなみに待機組になったアサトとヨルトは近場にあったゴーカートで遊んで待っています。


 …ただ気になったのはゴーカート置き場のところにあった乗り物…

…あれどう見ても戦車…いや、忘れよう。


 俺たちが乗るのは見た目はよくあるカラフルな感じの巨大な観覧車。

「何で最初に観覧車なんだろ?」と思い理由を大人組に聞いてみたところ、


「好きな人と観覧車に一緒に乗るのは女の子の夢なんだよ?

 ねっクロネさん」


「そうじゃの」


 とのことです。


 男の俺にはわからない世界のようだ。


 まぁここまで大きな観覧車に乗るのは初めてだからいいんだけどな。


 そして動き出す観覧車。


 感想?煌びやかな遊園地の明りが綺麗ですね……以上!


 男は観覧車で嬉しいってあんまりないと思うんだ。


 両腕に抱き着いて楽しそうに瞳をきらきらさせながら外を指さすクロネとさゆりを見るのはとても幸せです…幸せなんですがね…。


 頭がね…重いんですよ(物理)


「…zzz-…」


 しかもこっちもこっちで幸せそうに寝てるし!起こせんじゃん!


 楽しそうな二人の雰囲気を台無しにするわけにもいかないし!


 首の疲労度に耐えつつも観覧車を俺たちが楽しんでいたそのとき、

 唐突に観覧車の中がなんかこう虹色に妖しく輝きだす。


 なんだこれ?


 とか俺が周りを見ようとしたら急に俺の両脇からクロネとさゆりが俺にとびかかってくる。…なして!?


 押し倒される俺。


 頭から落ちて「むぎゅっ!?」という声を漏らすネムト。


 何が何やらわからず正面を確認すると俺を押し倒したさゆりとクロネがこちらを見ていた。


「…ナユタ君…」


「ナユタ…」


 あれぇ?なんだろう?何故かこっちを熱っぽい表情で2人が見ている。


 クロネも普段あんまり動かさない尻尾がラリっている。


 明らかに様子がおかしい。


「「 ……… 」」


 …あのお二人さん?

 なんで無言で俺に乗ったまま上着のボタンをはずしているんですかね?


 何で吐息が荒いんですかね?


 何で俺の上着を脱がそうとしているんですかね?


 …もしやこれは…R-18展開なのでは?


 そんなことを考えている間にも二人は上着を脱ぎ終え下着姿になって俺に抱き着いてきて、当然だが俺の目の前には結構立派な妻たちの双丘が晒されている。


 …これはやばい。いろんな意味で。


 緩んだ表情のままの彼女たちの手がゆっくりと俺のズボンのチャックに手が伸ばされた…その瞬間。


「…むーいたいー!!!!」


 顔から床に落ちて怒ったネムトから発生した海水によって観覧車の中に海が出来あがりネムト以外が飲み込まれる。


 中に納まりきらなかった海水はガラスを割って外へと氾濫し内側の光を飲み込んで虹色に輝き、てっぺんに辿り着いた観覧車から噴水のように溢れ出るのでした。


 ◆◆◆◆◆


「…おいニグラス…お前観覧車に何か仕込んでたろ…」


 海水でびしゃびしゃの俺は今現在ニグラスに詰め寄りさっきの出来事に関して問い質している。



 ―――ちなみになんかエロスに駆られていたクロネとさゆりは海水を飲んだら正気に戻っていた。


 …正気になった代わりに俺に欲情して襲い掛かったことを思い出し、

 びしょ濡れの下着姿で俺に馬乗りしていたのに気が付いて絶賛発狂して奇声をあげながら二人とも地面をゴロゴロ高速回転して悶絶しているが。

 綺麗な輪唱ですね。


 俺としては驚きはしたが珍しいものを見れた気がするので良しとしよう。


 そして俺の質問に対して朗らかな笑みを浮かべるニグラスは姿勢正しく礼儀正しく返答した。


「はい、強制発情型催淫ガス(対神用)ですね!」


「観覧車にそんなもんいらんだろ!」


「私、個神の意見ではですね結婚は人生の墓場…つまり人生の堕落点だと思うのです。そして観覧車と言えばラブラブカップルの定番です。なのでいっそのこと手っ取り速く既成事実でも作って結婚すれば効率的に堕落させられると思いまして」


「全国の遊園地経営者に謝れ!」


「一応出産に関するサービスも設置予定なのですが…だめでしょうか?」


「ダメ!ゼッタイ!R-18はお家でしなさい!」


「…そうですか、我が神がそうおっしゃるのであれば仕方ないですね。

 では副案の『心臓の鼓動を強制的に速くして吊り橋効果作戦』で行きましょう」


「それなら…まぁ…平和…かなぁ?」



『少なくとも発情ガスよりはましだろう…』そう思いながら俺は

遊園地の床を独楽のように回転するうちの大人妻2人を悲しそうに見つめながら膝の上に座っているネムトを撫でるのだった。


 こうしてニグラス策「既成事実観覧車」はお役御免となりました。


 代案の「吊り橋観覧車」につくりを組み替えて。


 


こっちの番が終わったからあっち行かなきゃな。


海水で濡れた服を乾かしながら俺はアサトとヨルトの方へと向かう。

ああ、忙しい忙しい。

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