第78話 賄賂なんかに屈しないんだから!
にっこり微笑む彼女にややたじろぐ俺は彼女を観察する。
恐ろしくなるほど綺麗で地面に届きそうなほど真っ直ぐな黒髪。
やや女性にしては高いくらいの身長だが細くてしなやかなその肢体は決して不格好なものではなく大人の女性としての色気を漂わせている。
分かりやすく言うなら背の高いスレンダー美女です。
…あと胸がおおk…何でもないです。
恰好は…なんというか内側に体のラインが大分露わになっているタイツ的なものを首周りから太ももの位置まで着ており、その上に執事とかが着ていそうな燕尾服の上着。
腕や足には黄金のガントレットとブーツをつけている。
家に来てすぐの頃のツァトグアを思い出すかもしれないがそこそこの露出と何故つけているのかわからないガントレットとかで逆にバランスがよく見える。
攻撃力の高い執事的な感じのAPP18の彼女はにこにこしながらこちらを真っ直ぐ見ているのですが…残念、やはり私にはこの女性との面識はないと思われます。
だってこんな印象に残る方はそうそういないでしょ?
見たら覚えているはずだもん。
しかしあっちは明らかにこちらを知っている様子だ。
どこで会ったんだ俺?
とかなんとかをグダグダ考えていたそのとき、
頭の上にいた猫クロネが頭から飛び降りると同時にいつもの人の姿に変わる。
……すごく嫌そうな顔をしながら。
「……あー…なんじゃ……んにゃぁ……おぬしかぁ…」
「…おや?どなたかと思えば…
…我が神にいともたやすく篭絡された猫神ではないですか」
「なんじゃと!?そんなに容易くはないのじゃ!
長く貴い蜜月を得てここまで辿り着いたのじゃ!…のう!おぬしら!」
「…ん…ナユタに出会った時から…手遅れ」
「恋愛に不慣れだった私でもわかるくらいべた惚れだったよ?」
「即落ち2コマー」
「あ、あはははは…」
どうやら知り合いらしいクロネが女性に何かを言われ、
反論ののちアサト達に同意を求めるが…
我妻4柱、アサトとヨルトが首を横に振りネムトは「ビシッ!」と指をさす。
そしてその傍にいるさゆりはただただ苦笑いをしていました。
…ところで篭絡とはいったい?
同意を得ることができず顔に「ぐぬぬっ!」という感情を浮かべているクロネは黒い女性をにらんでいるが…すいません、そろそろ俺も混ぜてもらえませんか?
その方誰なんですか?
未だ目の前の女性が誰なのかわからず戸惑っていた俺なのだが、
意外なところからの発言で事態は進展する。
「…そうか!お前か!私のンカイをこんな騒がしい遊園地に変えたのはっ!」
「おや?戻ってきたのですねツァトグア。
それからここはこうなる前は灰しかない死滅の地だったので有効活用させて頂いただけですが?」
「だからと言って勝手に使っていいということにはならないだろ!
シュブ=ニグラス!」
猛抗議をするツァトの口からポロッと女性の名前がこぼれる。
はい、神でしたねやっぱり。
シュブ=ニグラス、別名 黒い子山羊。
というらしい。
だが俺の頭の中にある彼女の知識は名前くらいしかない。
あれ?なんか少なくね?
そう思いベルに尋ねてみると…
「父 サボった」
とのことです。
どうやら知識の作者がサボタージュしたことが原因のようです。
おのれ作者。
「えーと…クロネ、どんな神なんだ?」
「…こやつか?そうじゃの…多分聞いた方が早いのじゃ…本人に」
何やら少し思案した後にクロネが説明を放棄した。
凄く嫌そうな顔をしているから本気で面倒なんだろう。
一応、他の妻にも視線を送ってみるが…、
「………(ふるふる)」
「……やだ」
「すー……すー…」
「わ、私は分からないよ?」
アサトは首を横に振り知らないアッピルをしているし、
ヨルトはクロネ同様に拒否しているし、
ネムトは狸寝入りをしてるし、さゆりは単純に知らない。
どうやら俺に選択肢はないらしいな。
すこし咳払いをして彼女…ニグラスがどんな神なのか聞こうとおもい前に向き直った俺は振り向きざまに驚く。
なぜならその件のニグラスがすごい嬉しそうで恍惚とした表情で俺に顔を近づけていた。
「…
「うっわ!?びっくりした!あと近い!近い!」
「貴き御身のご要望とあらばこのシュブ=ニグラス、
喜んであなたの眷属としてその命に従いましょう」
「あっはい……てか、いつの間に俺の眷属になったの?」
「もちろんあなた様の雄姿に見惚れたそのときからです。
……ああ、恋愛感情ではなく尊敬ですので奥様方はご心配なきよう」
まるで劇の様な挙動で自身の感情を表すニグラスの様に何となく既視感を覚える。
これは また もしかして おそらく きっと やはり アレな神だろうな。
「私はシュブ=ニグラス。
この世界にありとあらゆる怠惰と堕落を求める神です、いと貴きお方」
「怠惰と堕落?」
「ええ、そうです。…ああっ!人が、神が、動物が、世界が歪み崩れ和らぐことのなんと気持ち良いことでしょう!」
「お、おう…」
「ナユタよ、こやつはこういう奴なのじゃ。
自身の性癖のために全力を注ぐタイプの神なのじゃ」
「…うわぁ…」
「ちなみにこやつは外宇宙害悪四神の内の1柱じゃ」
「そっかぁ………あのさ…ちなみにニグラスの他の害悪神って…?」
「うむ、『シュブ=ニグラス』『ツァトグア』
『チャウグナー=フォーン』『ニャルラトホテプ』なのじゃ」
「…おぅ…コンプリートゥ…」
世界の迷惑は俺の周りに集結していたことが判明。
興奮したように赤らめた頬を手で押さえた彼女は長々と楽しそうに語っているが…要するに他人を貶めて楽しむ神だよな?
そんな神が何で俺のことを崇拝しているのか全く分からないので尋ねてみる。
「…えっとぉ…なんでそんなニグラスが俺のこと崇拝なんてしてるんだ?」
かなりドン引きしながら質問する俺。
ちなみに俺の背後には鳥肌を立てている俺の妻たちが俺を盾にして隠れている。
「それはもちろんそこにいる奥様方です」
「…?…みんながどうしたんだ?」
「それです!我が神!」
「ひゃっ!?」
突如大声をあげたニグラスに驚いたさゆりが奇声を漏らして俺に抱き着く。
一言でいうと背中が幸せです。
「1柱1柱が世界を滅ぼすほどの力を持った神をいとも容易く篭絡するその手管、
お見事としか言いようがございません。私が崇拝するのは当然と言えるでしょう」
「いやぁ…普通に好かれただけなんだけど…」
「神を手懐けるなど普通の人間には不可能なことです」
「わりと撫でてたら懐いてくれるよ?」
「…なんと!撫でるだけで掌握できるというのですか!?」
「おい会話する気あんのかコンニャロウ」
駄目だ、こいつ自身に都合のいいように解釈するタイプだ。
俺とニグラスが一進二退くらいの会話を繰り返していたそのとき、
おこ気味のツァトがその間に入り割り込んだ。
「と・に・か・く!ここは私の地だ!遊園地など許可せん!
すぐに出ていくがいい!」
「……ふふふ、私があなたの対策をしていないとでも思いましたか?
こんなこともあろうかと備えていたのですよ」
険悪な雰囲気を発する2柱。
ゆっくりゆっくりと殺気立っているツァトに歩みを進めるニグラス。
そして正面まで来たところで彼女は自身の服に手を入れそして胸元から取り出した何かをツァトに差し出す。
それを見たツァトはそれをひったくり目を大きくする。
「…こ、これは…!?」
「はい、私が経営している外宇宙通販会社『
ポンポンと服から出てくるブツを震えながら輝いた目で見つめるツァト。
それはまるで宝物を見つけた子供のような瞳だった。
そして嬉しそうに賄賂を受け取り亜空間しまうツァトの図。
流れ変わったな。
先程の怒った表情はどこへやら、嬉しそうな表情のツァトがわざとらしく咳払いをしてちらっちらっとニグラスを見る。
「…オホンッ!…ま、まぁなんだ。どうせ焼野原だったのが遊園地に変わっただけなのだし良しとしてやろう。私もどうせナユタの家に住んでいるのだしな」
「ありがとうございます」
「うん、なにも問題ないな!」
賄賂に大満足のツァトはこうして納得しマイホームに帰っていきました。
はやく貰ったヤツ試したいんやろな。
…はぁ仕方ないな。
何を企んでいるのかは知らないが他人に高確率で迷惑をかけそうなニグラスの遊園地を放っておくこともできないし、じいじに頼まれている以上ここでおとなしく帰るわけにもいかない。
よって帰った不甲斐ない奴の代わりに仕事を果たすとしよう。
ため息をつきつつ歩を進めニグラスの正面に立つ俺。
「悪いけどノーデンスじいじにここで起こってる悪巧を止めるように言われているからどんな目的か知らないが阻止させてもらうぞ。
後言っておくが今妻たちに囲まれて絶賛幸せな俺に欲しい物はない。
よってさっきみたいな賄賂作戦は通じないからな」
そう、これと言ってほしい物とかはない。
このナユタに賄賂は通じない…と、思っていただこう!
そう思いつつ彼女の様子を伺っていたがニグラスはその美しい顔を悪戯っ子のように歪め笑い声を漏らす。
「フッフッフ…このようなこともあろうかと準備しておきました。
我が神は確かに欲しい物はないご様子…ですがないなら生み出せばよいのです」
そういうと勝ち誇った顔で先ほどと同じように懐に手を入れるニグラス。
…しかしこのナユタに賄賂は………っ!?…
懐からニグラスが差し出してきたものを俺はゆっくりと受け取り目を通す。
そこにあったのは…、
『主神&副神の仲良しパジャマ』
『クトゥルフの寝顔大全』
『バーストの猫姿の寛ぎ』
『幸福神東風谷小百合のドジっ娘目録』
『魔導書でも簡単にできる楽しい錬金術』
『無貌の神ヌード写真集:女体バージョン』
最後の一冊を無言で燃やした後、
俺は静かにその究極の魔導書を亜空間の倉庫しまう。
その途中一瞬だけ人型になったベルが無言で錬金術の本を手に取って、
またアクセサリに戻ったが今回は大目に見よう。
そして俺は朗らかな笑みを浮かべてニグラスと握手を交わした。
「うむ、よくやった。それでこそ我が眷属ぞ」
「有難き幸せ」
おそらく菩薩の様な笑みを浮かべていたであろう俺と、
俺に褒められて嬉しそうなニグラスは親指を立てて互いにグッジョブする。
そんなに悪い神じゃないのかもしれないですね彼女は。
そんな中、何故か後ろからジト目でこちらを見ている妻たちの視線が刺さった。
別になにもなかった。…いいね?
「のうナユタ…何を貰ったのじゃ?」
「家宝」
こうしていきなり相手の言い分も聞かずに弾圧するのは悪いと思った俺は、
とりあえずニグラスと話をしてみることにしたのでした。
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