第77話 どうして問題神は俺の前に現れる?
ようやく事態は収拾し何とかウタウスは落ち着きを取り戻した。
俺が抱き着いていたウタウスを離しクロネに渡すとクロネが猫ボディでパンチすることで意識を取り戻したのだ。
猫パンチすごい。
そして現在は我が家の家族と遊びに来ていたノーデンスじいじとウタウスをコタツに招き入れ落ち着いている。
……えっ?のぶさん?
奴さんは楽しそうにスマホを弄っていたが、いつのまにか意識をなくして机に倒れていた。
奥さんのハスカさん曰く、「昨日スマホを買ってから今までずっと弄っていたため一睡もしていない」とのことで。
そのまま自宅にハスカさんが背負って帰宅しました。
…そのときのぶさんを背負っているハスカさんの笑顔はとても幸せそうでしたよ。
…あれは多分おんぶがしたくてワザと放置したな。
恐ろしや。
というわけでのぶさんを抜いた面々でコタツを囲い問題なく昼下がりを過ごすナユタ家が今の状態。
しかし先ほどのことのせいかウタウスは向かい合ってはいるもののこちらに視線を合わせようとはしない。
少し気になってじーっと見ているとこちらをちらっと見るとすぐに目を泳がせ、
そして目を逸らす。
……この反応…もしや……ウタウスは…
…………俺のことを嫌いになったのでは?
あれか…女性にむやみやたらに触れる男は嫌われるっという奴か…。
実際心配してやったこととはいえセクハラみたいなもんだった気がするし…、
あれ?嫌われて当然か?
しょぼんとする俺はここに反省する。
最近妻たちとの距離感に慣れているために女生との距離感がずれてきているな。
しばらく自重するようにしよう。そうしよう。
嫌われたであろうウタウスから怒られないうちに視線を外し俺はノーデンスじいじに話しかける。
実は少しだけ、少しだけ覚えているんだが俺さっきじいじと何か話してた気がするんだよなぁ。
「そういやじいじさっき何か俺に言ってなかったっけ?」
俺の質問にのんびりした表情でお茶を飲んでいたじいじがはっとする。
「…おおっ!そうじゃ、慌ただしかったから本題を忘れておった」
「…すんません」
「ほっほっほ!よいよい、これも青春じゃて」
さっきのどこに青春があったんだろう?
「ふむ?ノーデンスよ、本題とはなんなのじゃ?」
俺がじいじの言葉を理解できず首を傾げていると俺の隣に座り腕に抱き着きながら猫耳を擦り当てているクロネが喋りだした。
「それはじゃな…実はある場所に正体不明の施設ができておってじゃな。
その施設が何か判明させねばならんのじゃが…別件で立て込んでおってのう。
手が回らんからそれを知ってそうな者を訪ねてきたのだ」
「……ん……ナユタの…こと?」
「いいやナユタではないのう、
知ってそうな者というのはその施設ができておる場所の持ち主のことじゃよ」
「相変わらず勿体ぶったような言い方ね。老害の悪い癖よノーデンス」
本題を話さないじいじに痺れを切らしたのか、
それとも単にじいじが嫌いなのかなかなかに厳しい罵声をヨルトが発する。
昨日からそうだけどじいじに対してだけすっごく声が低い。
しかも子供口調じゃなくなっているから余計に厳しく聞こえるし。
ただし今回のはいけませんな。
老人には優しくね?
ポスポスとヨルトの頭にチョップをかます。
もちろん優しく諭すようにだ。
「こらヨルト。
旧知なのは分かるけどそんな暴言を吐いてはいけません。
あんまり目に余るとしばらくヨルトを
『ヨグソトースさん』と他人行儀に呼ぶぞい」
すると慌てて涙目になるヨルト。
思った以上に効果が出ているようだ。
「…えぅ…ご、ごめん…なさい…。
……うぅ…な…ナユタぁ……」
あれ!?ガチ泣きしそうなんですが!?
「わ、分かったならいいから…ほ、ほらぁ~おいで~…」
泣きながら俺に抱き着き胸元に顔をうずめるヨルトを抱きしめる俺。
…「嫌いになっちゃうぞ」とかを避けて叱ったんですが結局ダメでした。
やはり日本語難しい。
そしてさゆりとネムトとクロネの抗議の視線が痛い。
ごめんなさい。
アサトは一応こちらに味方してくれているのか我関せずとしている。
「…えっと…それでじいじ、その場所って?」
「…うむ、なんかすまんのう。
その場所というのはのぅ…『ンカイ』じゃ」
「…雲海?」
「『ンカイ』じゃ」
「うがい?」
「旦那様ー…『ん』『か』『い』…だよー」
ヨルトを抱きしめて撫でている俺の側面にいつの間にか張り付いているネムトが教えてくれる。いつの間に右側に潜り込んだのだろう。
「…ん…読みづらい…」
「日本語だと『ん』から始まる単語少ないから
分かり難いのもあるんじゃないかな…ね?ナユタ君」
俺の背中に胸を当てつつ後ろから抱き着いているさゆりと先ほどまでクロネがいた左脇に抱き着いているアサトがフォローしてくるが…、
…なんでみんな抱き着いてるの?制裁?制裁なの?
「にゃあ『ペシッペシッ!』」
そして俺の頭の上に乗って猫パンチを下す猫クロネ。
ごめんなさい、泣かせてごめんなさい!
「ンカイっすか。それなら確かにここにいる神の1柱に持ち主がいるっすね」
妻たちから俺が制裁を受けて硬直していると、
正面で苦笑いしているウタウスが助け船を出してくれた。サンキューウタウス。
「それって?」
「ンカイの持ち主はツァトグアっすよ」
「あー…そういやうちにそんなのいたなぁ」
「…ん…基本寝てるからいてもいなくても…かわらない…」
「…のーこめんとー」
「別にネムトちゃんのことじゃないから大丈夫だよ」
「にゃ!」
該当するやつは現在コタツの中心地にいるのでさっさと引き摺り出すとしよう。
◆◆◆◆◆
―――10分後。
そこそこの時間をかけてコタツの中心で丸まっていたツァトを引き摺り出すことに成功する。
真ん中にへばり付いてやがった…おかげで無駄に疲れた気がする。
どうやってかは分からないがコタツの中心で気持ちよく寝ていたようで起こされたことで不機嫌そうに頭を『ガジ!ガジ!』とかくツァト。
青くて綺麗な髪が台無しっすね。
「…なんだノーデンス…人がコタツで冬を謳歌しているときに…」
「コタツの中心で焼かれるのを謳歌とは言わんのう。
…それはそうとツァトグアよ、おぬし今、ンカイはどうしておるのじゃ?」
「ンカイ?どうもこうも…クトゥグアに焼け野原にされてから放置だぞ?」
「なるほどのう、どうやら持ち主もこの現状は知らなかったようじゃな」
そう言ったじいじはその辺の空間に手を突っ込んだかと思うと別空間から一枚の写真を取り出した。
その写真をツァト含む全員で覗き込む。
「ほれ、これが今のンカイじゃ」
「「「「「「「 ……えっ? 」」」」」」」
写真に写っていたもの…それは…
恐ろしいほど青い空。
煌びやかな観覧車。
回るティーカップ。
上に見えるのは多分ジェットコースターかな?
………遊園地だこれぇ!
「遊園地だよね?ナユタ君」
「そうじゃの遊園地なのじゃ」
「…ん…遊園地…」
「うん、遊園地だねお姉ちゃん」
「どう見ても遊園地だな」
「ゆーえんちー」
「遊戯施設。直喩」
我が家の一家は顔を見合せる。
じいじにう視線を送ってみるが首を横に振っているところを見るとこれ以上の情報はないらしい。
いつもならこれで真っ先に疑うのはうち在住の迷惑を司る神だが…、
生憎あいつは今牢獄の中で奥さんたちといちゃいちゃしているだろうし。
なら…いったい誰がこんなことをしてんだ。
一家揃って首を傾げていたそのとき、
さっきまで眠そうにしていたツァトが写真をむしり取り立ち上がった。
「…な、な、な、なんだこれはぁぁぁぁ!!!???
いつの間に私のンカイがこんなことになっていたんだ!」
「時期的には最近じゃな。じゃが何の目的かわからぬし闇雲に神を派遣するわけにもいかんからこうして情報を集めておるんじゃよ。しかしリアクションからしておぬしも知らなかったようじゃし…手掛かりなしじゃのう」
「知っておるはずがなかろう!24時間寝てるんだぞこっちは!」
「胸を張ることじゃないな、それ」
「こうしてはおれんな!人様の縄張りを荒らす不届きものをぶっ殺さねば!」
「おお、それはちょうどよいな。別件でわしは動けぬからこの遊園地がなんの目的で建てられたかの調査、もし悪用されるようなら対処してくれると助かるのう」
「任せろ!久しぶりに目が覚めたぞ!やったる!やったるぞ!
うおおおおおおおおおお!」
とんとん拍子で話は進み、
どうやら謎の遊園地の調査にツァトグアが向かうことになったようだ。
毎日寝ていて運動不足だろうしたまにはいいだろう。
頑張れよ~応援してるわぁ…コタツから。
完全に他人ごととして処理しようと俺が素知らぬ顔をしていると何やら俺の袖が引っ張られる。そっちを向いてみると…。
「……じー…遊園地…」
「……ナユタ…遊園地ダメ?」
「旦那様とーゆうえんちー」
「マスター。許可」
ちびっこ妻たちといつの間にかその中に加わっているベルがこちらをじーっと見つめていました。
……そういえば連れて行ったことはなかったっけなぁ。
無言の圧力がこちらを見つめ続けてくるの感じながら横目でさゆりとクロネを見てみるが二人とも微笑みながらこちらに頷いている。
これは…まぁ…しょうがないかぁ。
「じいじ、遊園地ついでに俺も行ってくるよ」
「おお、主が言ってくれるなら助かるぞい。ツァトグアだけでは不安じゃからな」
「どういう意味だ!?」
「「 そのままの意味 」」
俺とじいじが真顔で「お前も問題児」宣言していたその横ではちびっこ軍団がはしゃいでいる。
元気がなかったヨルトもどうやら元気を出してくれたようでなによりだ。
こうして我が家のンカイ遊園地探索が決行されることと相成りました。
◆◆◆◆◆
はい!というわけでやってまいりましたンカイ。
そして門の創造で作った門から出てすぐの場所はあの遊園地の入り口でしたよ。
周りを見渡すが誰かがいる気配はないしどうやら無人のようだ。
まぁアトラクションが動いている時点で誰もいないってことはないだろうけど。
鼻息の荒いツァトと少しテンションの高い妻たちをひき連れて進む俺が遊園地の入り口、駅とかにあるあの改札っぽい奴に近寄ろうとしたそのとき、俺たちがその場に辿り着くよりも先にあちらから誰かが歩いてきた。
光すら吸い込む純黒の髪を背に垂らし身長がやや高めのすらっとした女性がこちらにやってくる。
そしてその女性がこちらにその血色の瞳を向けたかと思うと…
「………!………………」
何やら驚いた様子と共に靴を『カツカツ』と鳴らしながらこちらに早足で歩いてきて…そして…、
「ようこそお越しくださいました、いと貴きお方」
そう言いながら美しい動作で膝をつき頭を垂れました。
……俺の前で。
………いや、何で?
明らかに俺に向かってお辞儀している。
しかし俺は彼女を知らない。
「マジで誰やねん」と俺が困惑していると、そんな俺の様子が面白かったのか
頭をあげた漆黒の女性が美しく妖しくこちらを見て笑う。
その笑顔は明らかに人ならざる者の妖艶さと何故かわからぬこちらへの信頼感に満ち満ちていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます