第76話 正面にいるなら口で言いましょう

 春はあけぼのやうやうしろくなりゆく山際、どうもナユタです。


 ……えっ?枕草子?何それおいしいの?


 12月が始まり気温はそこそこです。


 雪こそ降っていないがもう真冬といっても過言ではないでっしゃろ?



 ちなみに昨日の我が家の家族による「ナユタ感謝デー」は無事終わり、

 家の大掃除も無事完了した。


 ……床が消滅したので昨日中みんな家の補修と掃除で大変だったみたいですが。


 でもってみんなはというと……


 冬の城塞「KOTATU」に集まり眠っています。


 さゆりに抱かれたちびっこ幼女姉妹神と子供姿に戻ったネムト、

 それに猫モードのクロネと我が家のペット軍団たちは昨日の大掃除の疲労で眠っているのです。


 みんなが気持ちよさそうに眠っている姿を見ると寒い冬も温まるというものだ。


 お疲れ様。


 おや?なにやら仲良さげに横に並んで寝ている可愛い我が妻、

 アサトとネムトが何やら…


「……zzz…やったぁ…可変型リモートコントロールナユタぁ…」


「……んむぅ…キャタピラは…外せないの……zzz」


 ……聞かなかったことにしよう。




 ……要するに今、我が家では俺以外の住民は眠っているわけで…。


 暇…だと思うじゃん?そうでもないんだわぁ。


 冷えたコーラをコップから俺が飲み干したそのとき、

 ポケットのスマホが『ブルルルッ!』と猛り叫ぶ。


 すっと手に取り確認するとそこには…


『ふふふ!俺が買ってきたコーラはうまかろう!』


 ポケットにスマホをしまい正面を向く俺。


 誰が送ってきてるのかは大体察しがついているのですよ。


 ジト目の俺がため息をつきつつ前を見る。


「あのさぁ…正面いんだから普通にしゃべれよのぶさん…」


「かっかっか、買ってすぐの新しい物は不要でも使いたくなろう?」


「さすが魔王様!理路整然の理ですね!」


 笑うのぶさんとその奥さんのハスカさん。


 昨日の今日で何となくわかったが…ハスカさんのぶさんが絡むと急にあほっぽくなるな。ストッパーにはならないなこれ。


「わかるけどさぁ」


「ほっほ!そうじゃな。

 しかし不必要に触ることで壊れる確率も上がるじゃろう。

 新しいからこそ用心も大事じゃぞ?」


「むむっ?一理あるなじいじよ。なれば魔術で保護しておこうぞ!

 とりあえず核爆発に耐えるくらいはしておかねばな…」


「やめてくれよ…まるで俺の家に核爆弾が落とされるみたいなその発言…」


「ほっほっほ!まぁ核爆弾で死ぬほどやわな者などここには居るまいて。

 …ところでナユタよ、すまぬが茶のお代わりを貰ってもよいか?」


「ういうい、了解だじいじ」


「すまんのう」


 俺は新しくお茶を注ぎノーデンスじいじに手渡す。


 というわけで今日の来客は最近知り合った(約1名は安土・桃山)神たちだ。


 食卓で椅子に座りながらお茶を嗜む俺と3柱の図。


 昨日の今日で我が家の一員になる神…おおない?


 案外、俺の家に来る友神たちはナユタ家の適性が高いのかもしれない。


 スマホを高速で連打しているのぶさん以外はゆったりとお茶を飲んでいるので今日は平和な方だ。……俺のスマホはバイブレーションし続けているが…。


 ……そういえば…、


「ハスカさん」


「はい?なんでしょう?」


「いや余計なこと聞いてるのかもしれないけど…、

 今日はネムトに突っかからないんだなと思って」


 頭の横のドリルを優雅に揺らしながら湯呑を口から離す彼女はコタツの方で気持ちよさそうに眠っているネムトを一瞥するとこちらに向き直った。


「…あの様子では星が揃っていないのでしょう?

 なら手出しはしません。弱っている相手を狙う趣味はありませんので。

 …それに昨日に続いて今日まで旦那様に醜態をさらすわけにはいきませんから」


「のぶさんスマホの画面しか見てないけどな」


 まぁ喧嘩なきはよきことだ。


「今日は平和そうだ」と心の中でホっとしていたら、

 それに続くようにじいじも「ほっほっほ!」と笑いだす。


「うむうむ良きことじゃ。

 以前はニャルに並ぶ迷惑者だったハスターがここまでおとなしくなるとはのぅ」


「ノーデンス、

 あまり魔王様の前で昔のことを吹聴のはやめていただきたいのですが」


「ほっほっほ!伴侶は耳にイヤホンつけて音楽聞いとるぞ?」


「へー、ハスカさん結構やんちゃだったんですか?」


「そうじゃなぁ…1週間に1つくらいかのぉ」


「へー、週一回問題起こすくらい暴れてたんだなぁ」


「そうじゃなぁ…週一で1つの世界を滅ぼしとったなぁ」


「わーお」


 壮絶にやんちゃですね。


 そのやんちゃぶりに思わず俺が呆れた視線を送るとハスカさんは頬に手を当てて照れていました。


「…あ、あの頃は魔王様にお会いになれなくて…荒れていたというか…、

 心が荒んでいたといいますか…」


「今はしてないんですよね?」


「うむ、数百年前からのぅ。

 こちらの仕事も減って助かったものじゃぞ」


「魔王様と結ばれてからはこの力は愛しい方のためにだけに使っていますから…

 そうですね、ここのところ世界、滅ぼしてないですね」


「……『最近運動してないです』みたいなノリで言うのやめてくれません?」


「すいません。ですがノーデンス、あなたとしては一番助けになっているのは我が魔王様の親友のナユタさんなのでは?」


「……へっ?俺?」


「そうじゃな、ナユタのおかげで助かっておるぞ。

 現在進行形でじゃ」


 ……心当たり無いでおじゃる。


「…なんかしたっけ?」


「外宇宙一の迷惑の権化をここに縫いとめてくれているではないですか」


「あー、あいつか」


 俺の頭の中に現在服役中のアホの面が映る。


 今頃牢屋の中で奥さんたちと仲良く殺っていることでしょう。


 脳裏に映った間抜け面をぶん殴りながら俺は俺に真顔のまま拍手をしているじいじとハスカさん、謎のサムズアップをするのぶさんに背を向けて台所に向かう。


「…特に何もしてないですよ。

 しいて言うならニャルを手懐けたくらいです…お菓子とってきまーす」


 昔から褒められ慣れてないんだよ俺。


 …俺を褒めてもお菓子くらいしか出ないんだからね!


 心の中でナユデレをしながら貯蔵されているお菓子リストを思い出す。


 起きた時に妻たちに渡すものを考えておかねば…。


 ◆◆◆◆◆


 ―――後ろでは。


 照れくさそうに頬をかきながら台所に向かうナユタを見送る3柱は手元のお茶を飲みながら談じる。


「……で?俺はその問題の神を知らんが…それを絆すのは難しいのか?」


「魔王様、おそらくそれができる者はナユタさん以外はいないと思われます」


「そうじゃのぉ…ナユタからしたらあやつと仲良くしとるだけのつもりかもしれぬのじゃが、無貌が丸くなったおかげで無限大に起きていた事件が3桁くらいにまで減ったからのう」


「ふむ?つまり?」


「ある意味この世で一番難しいといっても過言ではありません」


「かっかっか!さすがはナユタよなぁ!」


「ある意味外宇宙統一神という肩書は間違いではないのぅ」


「実際、あの方が自身の奥様方と友神の力を借りながら世界を支配しようとしたら止められるものはいませんからね」


「じゃから助かっておるんじゃよ。あの子は欲がないからのう」


 笑う信長、額を押さえているハスカ、そして嬉しそうに髭を触るノーデンス。


 そして彼らから高評価を受け続けている当の本人は台所で足の小指をぶつけ蹲っているのだった。




 ◆◆◆◆◆




 お昼ご飯を食べ昼。


 妻たちも目を覚ましお昼ご飯を済ませた後はコタツに戻りクロスワードを嗜んでいる。


 寝ても起きても冬はコタツから離れることは不可能なのですよ。


 皿洗いもクロネ協力のもと終わりコタツへと滑り込もうと俺が姿勢を低くしていたらじいじが俺を呼んできた。


「そうじゃナユタよ、ツァトグアはおるか」


「うん?ツァトなら多分コタツの中心にいるけど」


 猫は外で丸くなるがあいつはコタツの中心で丸くなっている。

 寝れなくない?


「健康に悪そうじゃのぅ」


「同感。…えっとそれでなんか用でもあるの?」


「うむ、ちょっと用事があってのぅ」


「じゃあ呼んで――」


 と、話していたそのとき、


『トットットットッ』


 廊下の方から聞こえる歩く音に気付き会話を止める俺とじいじは小さなその音に視線を向ける。


 軽くて小さな足音でこの場にいないだれかのもの。


 昨日知り合ったメンバーは大体この場に揃っているのでなんとなく誰が来たのかも予想ができる。


「たぶん彼女だろうな」と扉の前で待っていると『ガチャッ!』という音とともに虹色のアホ毛をぴょんぴょんさせた彼女が入ってきた。


「…お、お邪魔しm…」


「おっす、ウタウス来てくれてありがとうな」


「…わひゃあっ!」


 扉を開けると同時に挨拶途中のウタウスから奇声が漏れた。

 これはもしかして驚かしてしまったか?


 そしてフローリングで勢いよく『ツルッ』と足を滑らせるウタウス。

 あっやばい!これ顔面を床に叩きつけるコースだ!


 咄嗟に魔術で体を強化して倒れるウタウスを倒れきる前に抱きとめる。


 …ふいー何とか間に合った、ナイス俺。

 ……あれ?なんだが俺の腕の中にいるウタウスがプルプル震えている。

 どうかしたんだろうか?


「…ウタウス?ええと…大丈夫か」


「…あわ…あわわ…あわわ…」


 なにやら声にならぬ声で顔を赤くしているウタウス。

 これは…もしや…体調不良では!?


 いかん、とりあえず状態を見よう。


 顔まで真っ赤になっている様子を見ると熱があるのかもしれないな。


「ウタウス、ちょっと動くなよ~」


「…え…?」


『ピトッ』


 俺は自身おでこをウタウスのおでこに引っ付けて熱を測る。


「…〇え▽んΘΨ!?」


 あっつ!おでこあっつ!!!


 おでこを離してウタウスを見てみると全身を真っ赤にして白目をむいていた。


 う、ウタウス―!


 必死にウタウスを抱きしめ揺らし覚醒を促すが、


「…うっきゃぁ……」


 口から悲鳴を上げながら全身を真っ赤にし煙を上げる。

 悪化したぁ!!??


 もはや先ほどまで元気だったアホ毛の先から火花が散っている。


「じいじ、やばい!ウタウスがやばい!

 これ下手すれば死んじゃうかもしれない!

 どうしたらいい!?」


「ほっほ!とりあえず離すのじゃナユタ、ウタウスを悶え殺す気か?」





 ―――この後、

 じいじの言う通りにして何とかウタウスは意識を取り戻しました。


 ウタウスがああなった原因は結局俺にはわからなかったがじいじ曰く、


「思春期に流行る病じゃ」


 だそうです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る