第74話 こんなことになるとは思ってなかったんです

 ……う~ん…何故だ…何故こうなった?


 ちょっと前までは普通の外宇宙風景…これは普通じゃないな。


 ただの来客…そう!ただの来客だったはずなんだけどなぁ。


 俺はそう思いながら顔をあげるともの凄い速度でこちらに飛んでくる斬撃というか衝撃波というか神様パワーの宿った何かを避ける。


 そして『チリィーン』というきれいな音とともにミンチ状になって崩れ落ちる玄関周りの壁。


 当たったら俺がああなるんだろうなぁ。

 それと修理も大変だぁ…。


 それとな~く現実逃避する俺だが状況はさして変わらない。


 そう俺の目の前で大人姿のネムトと来客の黄色いドレスの女性が切り結んでいるという状況は。


 2人とも浮かべている笑みのまま表情一つ変えずに刀剣と両手特大剣をぶつけ合っている。さっき飛んできたのはこれらがぶつかったときの攻撃の余波だろう。


 …えっ?止めるべきだって?


……止めようにも満面の笑みのまま殺し合っている2柱が怖くて前に出られません。


 何故だ…ほんとどうしてこうなったんだ…。


 よし…とりあえず朝から思い出して振り返ってみよう。




 ◆◆◆◆◆




 ベッドから起きた俺は布団から出て伸びをする。

 気持ちよーく体を伸ばすが外の気温のせいで体がブルッと震え少し台無しになってしまう。


 まぁ…12月の初めだし、こんなものだろうな。


 11月終わりに起きたあの騒動…通称「無貌のストーカー×4」は無事一件落着。

 何事もなく11月は終わってこうして12月を迎えている。


 新しくできたウタウスやじいじなどの知り合いとも仲に問題はなくこれで落ち着いて年末を越せるだろう。


 …ん?ニャル?…ああ、奴さんは捕まりました。

 現在じいじの反省部屋に連行されているそうです、はい。


 今年中は帰ってくることはできないらしいから残念(笑)だが年明けくらいには帰ってくるらしい。


 尚、寂しくないようにとのことで反省部屋にはイホウンデーさんとクトゥグアさんも同室になっている。よかったね。


 何はともあれリビングに向かおう。

今日は珍しくみんな俺より早く起きてリビングに行ってるしな。


 扉を開けてリビングに入る俺。

 その正面に待っていたのは我が家の妻たちと家族のペット、

 それとうちに居候になっている不動要塞だ。


 ちなみに今日のネムトは大人の姿になっている。


 星がいい感じなんでしょう。


 でもって何事ぞ?


「おはよう、みんな」


「…ん…おはよう」


「おはよう!ナユタ!」


「うむ、おはようなのじゃ」


「おはようございます旦那様」


「おはよう、ナユタ君」


「…ふあぁぁぁ…おはよう」


「えっと?何でみんなそこに一列になってんの?

 しかも約一柱レアモンスターがいるし」


「誰がレアモンスターだ!誰が!

 寝てはいてもいつも部屋の片隅くらいにはいるだろ!」


「いやだって…いてもいなくても変わらないし…」


 お前が布団から出て動いてる方が珍しいんだから仕方ないだろ?


 むしろこれから何が起こるのか心配になるわ。


俺がいらぬ懸念を抱いていたらてってけと歩いてきたアサトがしゃべる。


「…ん…今年最後の月…」


「…うん?うん、そうだな?」


「でね!私たちさゆりから聞いたんだけど年の終わりには大掃除するんだよね!」


「そうだな、一年間の感謝を込めて普段できないところを掃除する、

 ってのはあるな」


「それでのアサトとヨルトが


『日ごろからいつも世話になっているナユタを

               一日休みにして私たちが大掃除する!』


…と言い出したのじゃ」


「…で、いつも寝ている私も強制参加になったんだ」


 …な、なん……だと…!?


 つ、ついにうちのちびっこ神たちが気遣いを覚えている。

 しかも自発的に…おっきくなったなぁ……身長とかかわってないけど。


 驚きの表情で俺が固まっていると幼女姉妹がこちらにてくてく歩いてきて、

 足元でぴょんぴょんしながら笑う。


「……うん…今日はね…私たちがんばるの…」


「えへへ!

 さゆりの指導でおうちピカピカにするからゆっくり休んでてね!ナユタ!」


 そう言いつつ俺に抱き着いてくる妻たちの愛情に目元が潤う。


 …な、泣いてない!泣いてないぞ!


 ぎゅっとアサトとヨルトを抱きしめつつ顔を隠す俺。

 顔を見られたくないわけではないぞ。


「今日はみんなが旦那様に感謝をするための日ですから。

 後は皆に任せて私と一緒に休んでいましょう」


「掃除の手引きは私が、

 ナユタ君のお世話はネムトさんがしてくれるから安心して休んでて」


「うむ、我らに任せるのじゃ。

 …じゃんけんに負けねば我が世話したかったのじゃがの…」


「にゃー!にゃなー!(主!文句言わないニャ!)」


 ちょっぴり本音の漏れているクロネの愚痴は聞かなかったことにしよう。


 …なんていい家族たちに恵まれたんだ俺は。


 目元に湧き出ている変な液体を服で拭いつつ妻たちに抱き着く俺。


 しばらく嬉し過ぎて妻たちから離れなかったのは内緒です。



 ◆◆◆◆◆



 というわけで現在、俺は今コタツに入った状態でお茶を啜っている。


 その周りでは慌ただしく妻たちやペットたちとツァトグア。


 さゆりの先導ありきでみんなが我が家の大掃除に取り掛かっている。


「……ん…掃除機…」


「お姉ちゃん!先に粘着ローラーでカーペットをきれいにしなきゃ!」


「こら!二人とも!まずは天井側なのじゃ!

 ゴミやホコリは上から掃除するのじゃ!」


「「 おー! 」」


 クロネに掃除の基本を教わりまずは天井から掃除を始める2柱姉妹。


 元気に天井に逆さまになった状態で掃除機を天井にかけている姿が微笑ましい。


 そしてその横ではだるそうに動いているツァトグアに、

 さゆりが何やら注意をしていた。


「ツァトグアさん!もっとやる気を出してください!

 ある意味一番お世話になってるんですから!」


「それはまぁ…そうだが……、

 なあ?さゆり?掃除なんて神の力でパパっと解決すればいいんじゃないのか?

 そうすれば睡眠に時間をまわせ…」


「もう!何言ってるんですか!そうやってすぐに神様パワーに頼っていたらアサトちゃんやヨルトちゃんが真似するじゃないですか!」


「…いいんじゃないか?」


「何事も楽をすればいいってわけじゃないんです!

 もし2柱ふたりが真似して宇宙滅亡おおそうじしたらどうするんです」


「…あー、そうか…そうなりかねないのか」


「わかったら窓拭いてください」


「わかったわかった」


 さゆりに注意されて気怠そうに窓を拭き始めるツァトグア。

 今日は珍しくいつもおとなしいさゆりが強く見える。


 どうしたんだろ?


 と、コタツのテーブル部分に肘をつきながら観察していると、

 台所から茶菓子と緑茶を注いだ湯呑を持ったネムトが口元に手を当てて笑いながらこちらにやってきた。


「さゆりさん、『迷惑かけっぱなしだから!!!』って今日のこと張り切っていましたから。いつもより少し気合が入っていますね」


「家族なんだから迷惑ぐらいかけて当然だってのに…律儀だなぁ。

 さゆりらしいっちゃ、さゆりらしいけど」


「さゆりさんなりの譲れないところなんでしょうね。

 …旦那様、どうぞ」


 そう言いながらまだ湯気の出ている湯呑をこちらにネムトが差し出す。

 ありがてぇ…。


 …おっ?茶柱。これはいいことあるかもな。


 慌ただしいくも楽しくて、寒いけどあったかい我が家の雰囲気を楽しみながらお茶に再び口をつけようとしたそのとき、


『ピンポーンッ!』


 …ほむり?客人か?でも知り合い達には大体鍵を渡しているし、昨日知り合いになったじいじにも鍵は渡している。


 ならこの訪問はそれ以外ということだろう。


 …みんな忙しそうにしてるんだし邪魔するのもあれだな。

 来客の相手くらいは俺がしよう。


 そう思いコタツから立ち上がる俺。


「だ、旦那様!私が出てまいりますので」


 慌てて俺を止めようとするネムトだが、これくらいは俺がすべきだろう。


「みんな頑張ってくれてるんだし。来客の応対くらいくらいは俺がするさ。

 ネムトはお客用のお茶の準備をしててくれるか?」


「…はぁ…わかりました。ではこちらで準備しておきますね」


「ありがと、ネムト」


「いえ、お気をつけください旦那様」



 そんなやり取りの後、

 玄関に到着した俺は待たせたのでちょい急ぎめに客の応対をした。


「はいはーい、今開けまーす!」


『ガチャッ!』という音とともに開く玄関扉の後ろからチャイムを鳴らしたであろう人物が靴の音を鳴らして玄関へと入ってくる。


 そこにいたのは…すごい美人さんでした。

 …いえいえ、浮気とかそんなんじゃなくてだな。


 本当に美人さんなんだよ。


 人形みたいに白くて美しい顔。


 眩しいくらいの金髪をツインテール…いやあれはちょっと違う気がするな。

 なんかテールの先がくるくるになっている。


 いうなればドリルテールかな。


 そして何より目立つ彼女の特徴は…その服装だった。


 白と黄色のみを基調をした豪奢なドレス。


 派手で印象に残りそうなそのドレスを彼女は完全に着こなしている。


 ぱっと見ただけの俺でもわかるくらいに似合っていた。


 おそらく彼女は黄色が好きなのだろう。



 ちょっぴりそんな彼女の姿に見惚れていると自分の正面に立っている女性は綺麗な姿勢から90°の礼をして話始めた。


「失礼します。こちらはナユタ・アムリタ・ヘブンズホール・ネビュラ様のお宅で間違いないでしょうか?」


「……間違っててほしかったなぁ」


「?」


「いや、何でもないです…。

 えっと、ここがそのナユタ家で俺がそのナユタだけれども?」


 彼女の質問に返答する俺。

 すると彼女は静かに俺を見つめる。


 ……なんだ?また俺は相手の機嫌を損ねる何かをしただろうか?


 最近もう失言をしたのかどうかすらわからなくなってきた。

 …歳かな…。


 自分で考えた頭の中の内容に俺がげんなりしていたそのとき、

 こちらを見ていた黄色の女性がこちらにお辞儀をしてくる。


「失礼しました。

 外宇宙を統べる神という者がどれだけのものかと探ろうとしましたが魔術の一つも感じることができません。さすがというべきでしょうか」


「そ、そうですか」


 とてもこちらに納得したように「うん、うん」と頷く黄色の女性。


 …言えない。何一つ魔術を発動してないだけだなんて口が裂けても言えない。


「我が魔王様が友とおっしゃるだけのことはありますね」


「魔王?」


 魔王って…あの「今のはメ〇ではない…ライターだ」とかいってるあの魔王?


 事態が呑み込めず固まる俺に向かって彼女は改めて姿勢を正し、

 自己紹介を始めた。


「お初にお目にかかります。私は蓮華はすかと申します」


「あっども。俺は一応知ってると思うけど星野那由他だ、よろしく」


「はい、どうぞよろしくお願いします」


 そう言いながらとても丁寧に頭を下げるハスカさん。

 この礼儀正しさはうちのネムトの大人モードに匹敵するやもしれないな。


「ここに普通に来たってことはハスカさんも神だったり?」


「はい、そうですね。蓮華という名前は魔王様がつけてくださった名前でして。

 世間一般では『黄衣の王』などの方が有名かと。もしくは…」


「…おやおや?どこかで聞いたことのある声だと思えば…、

 黄ばんだ愚王ハスターさんではないですか」


 俺とハスカさんが玄関口で話していたそのとき、

それを遮るように少し大きな声でネムトが割り込んできた。


 …あれ?何でだろう?寒気が…。


「お久しぶりですね、まさかあなたがこんなところにいるなんて思いもしなかったわ。年中寝ることしか能のない蛸風情が」


「あらあら、そうですか。

私も私と旦那様の大切な家に黄色い害虫が訪ねてくるとは思いもしませんでした」


 満面の笑みのまますっごい殺伐とした会話をする2柱。


 おかしいぞ~気温が一気に氷点下まで下がった気がする。


 しかもいつもの優しい気遣いのできる大人の女性ネムトはどこへやら…。

 顔はいつも通りの笑顔だが目が笑ってない。


 さっきまでとても落ち着いた女性だったハスカさんも、

 満面の笑みのまま罵詈雑言を言い合っている。

 そして案の定こちらも目が笑ってない。


「…パーカー宗教」


「…海産物」


「腐乱色」


「汚染水」


「「 …………………… 」」


 …ついに暴言を吐き終わったのか黙りながら見つめ合う2柱。


 …こ、怖い!…沈黙が怖い!

 お願いだから何かしゃべってくださいお願いします。


 俺は荒海のなかで嵐が過ぎるのを待つ漁師の気持ちでそう祈る。


 すると俺の願いが通じたのか、

 2柱はすっと先ほどまで放っていたさっきを収めて近寄る。


 和解か?和解なのか?和解はいいぞ~。


「「 死になさい 」」


 すいません、やっぱり沈黙の方がよかったです。


 嵐の前の静けさはこうして終わりネムトは刀剣を、

 ハスカさんはめちゃくちゃでかい両手特大剣を出す。


 …確かツヴァイヘンダ―とかいう剣だったっけー!?


 そして満面の笑みを崩さずお互いに得物を構え瞬時に相手を切り裂くために2柱は腕を振るう。


 腕を振るうのは料理だけにしてくださいお願いします。




 ◆◆◆◆◆




 ……ということがあったのです。

 で、今現在、玄関は関ケ原も真っ青の激戦区となっています。


 ちなみに俺が過去を振り返っている間に玄関は崩れ去り解放感のある感じになってしまいました。


 未だ決着がつかず殺し合っている俺の妻とハスカさん。


 何か止める手段はないだろうか。


 そう俺が思い悩んでいると俺のズボンをくいくいとする感覚に気づき足元を見るとそこにはいつの間にか人型に変わっているベルがズボンを引っ張っていた。


「マスター。提案」


「解決策か!よしこい!」


「こくり」と頷いたベルは自身の保持している亜空間からスプレー缶を取り出す。

 暴徒鎮圧用の催涙スプレーか?


「輝くトラペゾヘドロ(スプレータイプ)」


「お前は俺に妻を殺せと申すか」


 争いは止まるが息の根も止めるそれはNGです。


 ベルの出したスプレーを全力ので亜空間に投げ込んでいると、

 玄関の少し奥の空間が歪む。


 あれは時空間魔術?


「そこまでだハスカ。友を探すように頼みこそしたがその友の家で殺し合いをするように頼んだ覚えはないぞ?」


「…!?…魔王様!?失礼しました!」


 ぶん回していた特大剣を庭の方向にほっぽり投げてすぐさま振り返ったハスカさんは、先ほどまで殺し合っていたのが嘘のように急に頭を下げて魔王(?)のもとへと駆け寄る。


 そこに現れていたのは魔王…とハスカさんに呼ばれている全身ジャージの男。

 背中にはライフル数丁。腰には日本刀数本。…いやどれかにしろよ。


 何ともちぐはくな恰好の魔王だなぁ、と俺がジーっとみていたら何やら魔王さんがこちらに笑いかけてくる。


「久しいなナユタ」


「………へっ?」


 めっちゃ自然に話しかけてきた!?

 しかも「久しい」!?俺あんなのと知り合いだったっけ!?


 必死に記憶をぐるぐるさせるもこんな人に見覚えはない。

 見覚えはないが…何故だろう、知らない人ってわけでもない…気がする。


 何となくどこかではあったような気がする…しかも最近。

 でもどこかといわれてもそれは思い出せない。


 俺が何とも言えない堂々巡りをしていたそのとき、

 魔王さんがこちらの様子を伺い楽しそうに笑いだす。


「かっかっかっかっか!俺が誰だか分らぬか…是非もなし!

 昔あったときとは格好も姿も違うしな」


 ………「」?……その笑い方どこかで……

 …………………あーーーーーーーーっ!!!???


「…も、もしかして……信長さん!?」


 俺のその言葉を聞きジャージの魔王は再び楽しそうに笑いだす。

 今度は記憶も正しく引き出され本能寺での飲み会の記憶がよみがえる。


「かっかっかっかっか!で、あるか!」


 楽しそうに笑いながら酒を飲む男


              第六天魔王・織田信長の姿が。

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