第73話 いつもどこでも這い寄られる混沌ェ…
そこに現れた筋肉ムキムキのお爺ちゃんに鷲掴みにされているニャル
絵面から俺の脳裏をよぎったのは畑仕事をしている農家のお爺さんが土まみれになりながら朗らかな笑顔で抜き取った大根を掲げているところだった。
……よそう、全国の農家さんと大根に失礼だ。
なんかよくわからずその光景をぽけーと眺めていると俺の後ろから少し嬉しそうな声でウタウスがお爺ちゃんの名前を呼ぶ。
「ノーデンスじいじ!」
「ほっほ、今日も元気じゃなウタウスよ」
どうやら知り合いのようでお爺ちゃんの名前はノーデンスさんというらしい。
なぜ人の家の床からマッチョお爺ちゃんが湧いて出たのか知りたいが俺が質問を始める前に状況は動き出す。
「さて…無貌の。最近はおとなしくしておったようだが今回はこうしてわしの前でことを起こしたのだ。逃げられるとは思わんことだ」
「「「「 きぃーやぁーーー! 」」」」
「【秩序の法】第5条、必要以上に他の神への迷惑行為とされる干渉をしない。
おぬしら4柱はこれに反しておった。だからこうなったのじゃぞ」
「「「「 本体は関係なくね!? 」」」」
「連帯責任よの」
鷲掴みにされたまま逃げようとするニャルとノーデンスじいじが話しているうちにこのことについて一番知ってそうなクロネに質問をしてみた。
「秩序の法ってなんぞ?」
「秩序を管理する数柱の神。
それが作った外宇宙でのルール…の様なものなのじゃ。
簡単にわかりやすく言うなら外宇宙での警察と法律じゃの」
「な~る」
「中でもノーデンスはそのトップの一人じゃ。
三千世界で日夜問わずニャルを捕まえておるからニャルの天敵のじゃな」
「あー…だからさっきからあいつ青い顔でグネグネしてるのか」
「のじゃ」
現状を理解した俺とその隣にいるクロネや妻4柱(さゆり込み)は静かに犯人が捕まるその現場を眺めることにし見ているとなんか話が進み始める。
「「「「 ぐぬぬぬぬ!でもノーデンス!ここにいるのは別世界の俺たちだぞ!
秩序の法で捕まえる許可が下りるのはその世界の奴だけだ!
つまり他の3柱の俺は捕まえられないぜ!
……あれ?何もしてない俺だけ捕まるの?…」」」」
…そうだね。今お前が言ったもんな「ほかの世界の奴は捕まらない」って。
そのニャルの言葉を聞いたノーデンスじいじは開いた手でご立派な髭を撫でつつ返事をした。
「ほっほっほ!大丈夫じゃよ!
その為に今回は別の世界の神もつれてきたのじゃ!」
「「「「 へっ!そんじょそこらの神なんかで俺を捕まえられると… 」」」」
「「「「 あ・な・た? ♡ 」」」」
よくよく我が家でも聞き慣れた声が四重奏になってニャルの後ろから聞こえる。
もうこの後の展開読めたわ。
もう拘束する必要もなくなったのかノーデンスじいじが手を離す。
そしてプルプル震えるニャルが振り返るとそこには…、
剣を持ったイホウンデーさん。
槍を持ったイホウンデーさん。
大鎌を持ったイホウンデーさん。
大槌を持ったイホウンデーさん。
おそらくそれぞれの世界のイホウンデーさんであろう皆さんが真っ青な顔でプルプルしているニャルを囲った。
武装した状態で。
そしていつも通りの笑顔を浮かべたイホウンデーさんがニャルの両脇を固める。
「「「「 それではノーデンス、
牢屋で夫を4分割しておきますね 」」」」
「よろしくのう」
「あっナユタさん、いろいろ夫が片付いたらお茶しに来ますね」
4柱の鏡写しのようなイホウンデーさんの内の1柱がこちらに話しかけてくる。
「えーと、じゃあこの間の紅茶用意しときますね」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに右手に持っている大鎌をぶんぶん振った後4柱のイホウンデーさんは虚空へと消えていった……雨に濡れた子犬のように震えるニャルを連れて。
こうしてストーカー問題は無事解決し残ったのは
嬉しそうに俺の傍にいるウタウス、
いつも通りの光景を見てコタツに戻る妻たち、
「ほっほっほ」と満足気に頷きながら髭をさすっているノーデンスじいじだった。
◆◆◆◆◆
諸々の問題が片付き現在俺たち一家と客人であるウタウス
と新たに来客したノーデンスじいじのメンバーでコタツに入っているところです。
寒いからとりあえずコタツに入るのは冬の伝統。
「改めて…ナユタ先輩、今日はありがとうございましたっす」
「どういたしまして…って言いたいところだけど、
どうやらうちの身内が原因みたいだしむしろスマン…」
俺が頭を下げるがウタウスは慌てて止める。
「あ、頭上げてくださいっす!悪いのはあの無貌の神っすから!」
「あれでもいちおう俺の身内判定なんだよ…」
「…遺憾ながらそうじゃな…」
「…ん…あんなのでも身内…」
「みうちー」
「身内なんだよねあのロクデナシ」
「い、一応この世界のニャルさんは悪さしてないから…」
「うんうん」とため息をつきながら頷くマイワイフたち。
悪友でも一応「友」という字は入っているのである。
「それに捕まえてくれたのはノーデンスさんとイホウンデーさんだしな」
そう言いながらノーデンスじいじに視線を送るとあったかいお茶をほっこり顔で飲んでいた。
ムキムキの両腕で湯飲み茶碗を丁寧に持っている姿は凄くシュールという一言に尽きます。
「ほっほっほ!気にせんでよいよ。
わしは秩序を司る神の1柱として仕事をしただけじゃからのう。
それに『あいどる』?
を頑張っておるウタウスが困っておったのだ。
相談された神の1柱としては黙ってはおれぬじゃろう?」
「まぁ、そうですね」
すっげぇいい
なんだろう、俺が出会った中では久しぶりの真っ当な神様だ。
俺の人生での数少ない良い神だ!
妻以外ろくでなしな知り合いにいないしな!
これからは俺も親しみを籠めてじいじと呼ぼう。
「てなわけでウタウス、そこまで気にしないでいいし、
畏まらなくてもいいから気軽にうちに遊びに来ればいいよ」
「…はいっす!ありがとうございますっす!ナユタ先輩!」
立ち上がりながら嬉しそうにそう俺に言うウタウス。
これでまた楽しそうにアイドルをやってくれるなら何よりだ。
と、和んだ雰囲気で話しているとウタウスのスマホがから着信音が響く。
『ナチャナチャナチャナチャナチャない?どっちかな!』
……何この着信音…。
そしてその音を聞いたウタウスが少し慌ててスマホを確認しポケットにしまう。
「すいませんっすナユタ先輩!
まだやらないといけないことあるのでお先に失礼するっす!」
「あー、了解了解。……それとその着信何?」
「私と一緒でアイドルやってる友達のナチャちゃんの特製着信ボイスっす!」
焦りながらうちの玄関につながる廊下への扉を開けようとしているウタウスは
いったん動きを止めて俺の素朴な疑問への返答をしてくれました。
さんくす。
おっとそうだ、うちに来るようになるなら渡しておくべきだろうな。
「ウタウスちょっと待って」
「はい?なんっす?」
「ほいこれ」
コタツから出てウタウスの正面まで言った俺は我が家の合鍵を渡す。
家に遊びに来る神には渡してるからちゃんと渡しておかないとな。
ごく自然な流れで鍵を渡したつもりの俺だが、
ここでなんかウタウスの動き…というか思考的なものが止まった気がする。
鍵を貰った姿勢のままなんか固まっているんだもの。
いきなり現役アイドルに家の鍵渡すなんて馴れ馴れし過ぎただろうか?
ならいったん鍵を返してもらうか…よし、そうしよう。
「えっと…いらないなら返してくれても…」
「そ、そんなことないっす!?全然ないっす!?有難く頂くっす!?
絶対貰うっす!うっす!!!お、お邪魔したっすー!!!!!!!」
何故か慌てで鍵を抱きしめたウタウスが顔を真っ赤にして全力ダッシュして出ていった。……ひょっとして俺また何かしたかなー?
何が非だったのか全く分からずリビングの入り口前で悩む。
相変わらず他人の考えを読み取るのが下手だなぁ俺。
―――その後ろでは。
「う~ん?」と首を傾げているナユタの後姿を見て妻たちとノーデンスが笑う。
ク「どう思うのじゃ?さゆりよ」
さ「う~ん…多分手遅れかなぁ…」
ネ「ホの字ー」
ア「…ん…前にクロネも似た感じだった」
ヨ「私でもわかるよ」
ノ「ほっほ!ウタウスにも春がきたんじゃのう」
◆◆◆◆◆
ウタウスが仕事で帰り、うちには現在ノーデンスじいじだけが残った。
といってもじいじは普通に常識的だし問題なくコタツで寛ぐ良神的なじいじだ。
新しく淹れなおしたお茶を湯呑みに注ぎ、状況とかで出来ていなかった自己紹介を改めてすることになった。
「わしは秩序の神の1柱、ノーデンスじゃ。
よろしく頼むぞナユタ・アムリタ・ヘブンズ…」
「その呪文みたいな名前やめてください!」
「ふむ?ではナユタと呼ぼうかのう」
「それでよろしくお願いします、ノーデンスじいじ」
「ほっほ!敬語じゃなくてもよいぞ?じいじは呼びたければ構わんがのう」
「…いままであった神の中でイグさんに次ぐ良心的な神様だから敬語で話そうかと思ったんだけど…えっと、じゃあよろしくノーデンスじいじ」
「うむ、よろしくのう。
……うんうんやはりよい子よな。数ある人の子の中でも特別よい子じゃぞ」
突然のべた褒めにさすがに恥ずかしい俺。
20代後半でよい子扱いは初めてやで。
「買い被りすぎだよじいじ、俺はその辺によくいる一般人だって」
「おぬしのような一般人がおるか。どちらかといえば逸般人じゃぞ」
「えー…そんなことは…」
否定しながら妻たちの方を見ると「うんうん」と頷いていた。
評価高すぎない?身内贔屓駄目絶対。
ぶんぶんと首を横に振る俺を見たノーデンスじいじが口を開く。
「少なくともここで神たちと婚約を交わした人間がおぬしでよかったとわしは思っておるぞ。おぬしのように欲のない人間はそうはおらぬからのう。
ここにおる神たちのこんな姿を見られるとは思わなんだ。
…のう?人嫌いの猫神に他者嫌いの副神」
そう問われつつ話を振られたクロネとヨルトは少し嫌そうに返事をする。
特にヨルトはいつもの子供のような雰囲気が息をひそめ以前の大人の時のような感じになってる。
「やかましいのじゃ。昔のことを言うでないのじゃ、ノーデンス」
「まったくよ。余計なお世話だ、お節介のノーデンス」
「ほっほ!旦那以外には相変わらずじゃのう」
笑うノーデンスと睨むクロネとヨルト。
どうやら以前からの面識があるらしい。
だが、どちらもそこまで仲は悪くないようだ。
本気で嫌がってるというより知り合いのじゃれ合いの様なものだろ。
と、そんな状況を見守っているとノーデンスじいじの側面からアサトが筋肉ムキムキの腕をツンツンする。
「んむ?どうしたのじゃ?」
「……ん…髭…」
小さく「髭」と呟いたアサトがノーデンスじいじの顎に生えた髭を『ガシッ!』と掴む。
こら!やめなさい!老人の伸びた髭を触りたくなるのは少しわかるけども!
やめなされ!マナー違反ですよ!
「これはじいじも怒るのでは?」と様子をうかがうと、
「ほっほ!
触るのはよいが強く引っ張ってはダメじゃぞ?痛いからの」
「…ん…じいじ…わかった…」
どうやら怒っていないようだ。
か、寛大だ…これがモノホンの神ってやつか。
どこかの貌がないだけの神とか、血を吸う神とか、
ずっと寝てる神とかとは大違いだ!!!
しかも珍しく俺以外にはそこまで懐かないアサトが懐いている。
嬉しそうに髭を引っ張っている姿のなんとかわゆいことか。
と、もはや妻実況みたいになってきた俺だが構わないこととする。
大体こんなだしな。ツマ…カワイイ。
そしてノーデンス翁に近寄る影ありけり。
それはコタツの横から顔と手を出してじいじをツンツンしているネムトだった。
「わたしにーひとことー」
「寝る以外に楽しみができてよかったの」
「えっへんー」
コタツから半身だけを出して「えっへん!」するネムトの姿はとても愛らしい。
どうやらノーデンスじいじは顔が広いようでネムトとも知り合いのようだ。
ちなみに俺が最初に気づいたのだが、
元々じいじとの関わりのないさゆりが少し寂しそうにしている。
これは俺が何とかしなければ、と思いさゆりの隣に位置を変え抱き寄せる俺。
いきなりのことに驚くさゆりだったが俺の意図が分かったのか嬉しそうに俺に体を預ける。
最近はだいぶ甘えてくれるようになりました。嬉しいね。
こんな感じで我が家に訪れた良神のおかげでほのぼのと静かな夕方を過ごし11月は幕を閉じる……はずだったのだが、それから少しするとリビングの扉が開いてさらなる来客が訪れる。
「お邪魔しますナユタさん、仕事終わりの紅茶をいただけますか?」
「やぁ!みんな!11月終わりのイグ矢原さんだよ!」
「ナーユタさん♪血~く~ださ~い……げ!?ノーデンス!?」
宣言通りに紅茶をいただきに来たイホウンデーさん。
仕事帰りのスーツのネクタイを緩めたイグさん。
おまけで血を貰いに来てノーデンスじいじを発見し逃げようとして、
じいじに襟首をつかまれたチャウグナー。
千客万来だな今日は。
外宇宙の果ての我が家に来客が増えたことに内心嬉しくなりながら、
俺はコタツに3柱を誘導した後、台所につく。
せっかく我が家に来てくれたんだ。晩御飯くらいは馳走しよう。
家族と来客の笑顔を考えながら俺はキッチンでクロネやさゆりと一緒に晩御飯の用意をする。
さらっとベルが混ざろうとしていたが虹色になっちゃうのでNG。
今夜は鍋だな。
猫は猫缶で、シャンタクとダロス君は肉。ショゴスって何喰うんだろう…?
今日も我が家はなんやかんやで平和です。
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