第71話 神を守る人間…いやふつう逆だろ

 ウタウスが家に来た日から2日経ち今日は予定通りの年末ライブの日。


 今現在、俺はウタウスのストーカーをとっちめるために不審者がいないか見張っている………雲とだいたい同じくらいの高さから。


 護衛メンバーは俺とベルとシャンタク。


シャンタクの上に胡坐で座りその俺の足の上にベルが

                    「ちょこん」と正座している。


 完璧な布陣だ。ストーカー恐るるに足らず。


 下に見えるライブ会場では魑魅魍魎がなんかファングッズのハチマキとかライトとかを振ったりしている。


 なんかん液状の生き物とか、どっかで見たことのある神によく似た蛇人間とか、どっかで見た蟲とか、あそこにいるのはうちのリフォームをしてくれたガグかな?


 ウタウス人気なんだなー。


 下に見える会場をベルをなでなでして視ていたそのとき、

 俺のスマホに電話が入る。

 相手はウタウスだ。


 この間俺の家に来た時の帰り際に「連絡できないと不便っす!」って必死にウタウスが言ってきたので電話番号を交換したのだ。


 別にあんなに必死に言わなくてもそれくらい喜んで承るってのに。


「ピッ」という音を鳴らしたスマホを俺は耳につける。


「はいはーい、こちらナユタ。

 今のところ不審者発見なし、どーぞぉ」


「はいっす、ありがとうございますナユタ先輩。

 もうすぐライブが始まるっす」


「りょーかい、こっちはベルと一緒に見張ってるから安心して頑張れよウタウス」


「…はいっす!」


 元気な返事とともにウタウスが通話を切る。

 うむうむ、良い返事だ。


 …んじゃ期待に副えるように頑張るとしますか!


「ベル、シャンタク、見つけたら報告頼むぞ」


「了解」


「がう!」


 俺とベルが周りに魔術による索敵を展開し始めると同時に会場から花火が打ちあがり、眩しいくらいのライトからウタウスがステージに出てくる。


 それじゃあ護衛と索敵係、開始しますか。


 ウタウスが笑えるように全力でやってやるさ。




 ◆◆◆◆◆



 ―――一方その頃・ナユタ家。


 家主不在のナユタ家。


現在お人好しの夫の帰りを待っている妻たちはコタツを囲いココアを飲んでいる。


 必死にコップに「ふーふー!」

と息を吹きかけココアを冷ますアサト、ヨルト、クロネ組と、

端の部分をちびちび飲むさゆり、ネムト組がまったりゆったりし、

傍では猫たちもダロス君も不動要塞もコタツの横に引っ付いて寝ている。


静かで穏やかなゆったり空間である。


 そんな静寂と落ち着きに包まれたそんなリビングは突如「バタバタ!」という騒がしく慌てた様子の足音に乱される。


「てっさういぁ!ナユタ!ナユタはいるかぁ!」


玄関から走ってきて「バンッ!」といううるさい音とともにうざい神が駆け込む。


そしてその問いの答えをめんどくさそうな表情を浮かべたクロネがゆっくり返す。


「なんじゃ騒々しい…ナユタなら今出かけておるのじゃ」


「風の噂で聞いたぞ!クアチルたんがナユタに頼みごとをしたらしいじゃないか!何で俺に一声かけないんだ!」


「それはもちろん『9割くらいの確率で邪魔になる』とナユタが判断したからじゃ。ナユタは今ベルとシャンタクと一緒にストーカー退治中なのじゃ」


「…俺の娘と眷属なんだけど!」


「ちなみにベルは『父、邪魔』じゃと。

で、おぬしの眷属のシャンタクはお前を乗せるのを嫌がっておったが、ナユタが『じゃあニャル無しならいいか?』と頼んだら嬉しそうにしておったぞ」


「……俺の娘と眷属…(泣)」


 実の娘と眷属にフラれた無貌の神は膝から崩れ落ちる。

 が、すぐに立ち上がり自身の姿を軍人っぽい人に変えたニャルラトホテプは拳を握り締め走り出そうとする。


「こんなところにいられるか!俺はライブ会場に参戦するぞ!」


「うむ、どうせそうなるじゃろうと思っておったのじゃ……ほい『ガチャッ!』」


「……ガチャッ?……ごっふ!」


 動きだそうとしたときにクロネによって巻き付けられた南京錠つきの鎖がニャルラトホテプをぐるぐる巻きにしバランスを崩したニャルラトホテプは顔から地面に転がる。


 そして倒れているニャルラトホテプを上からニヤリと笑ったクロネが鎖の性能の説明をした。


「対無貌の神用の鎖じゃ。

 これでおぬしは動くことも魔術を使うことも体を変化させることもできぬ」


「的を絞りすぎだろ!?何この『お前だけを殺す兵器』みたいな物体!?」


「ちなみにこれを作ったのはおぬしの娘だ」


「……べっる!ほんま!ほんっま!!!」


「おぬしが行くとかえってややこしくなるのが目に見えておるのじゃ。

 分かったらナユタが帰ってくるまでそこにおれ」


 鎖で動けなくなったニャルを壁際にそっと置くとゆったりとクロネはコタツへと戻っていく。


 こうしてリビングに平和が戻ったのだった。


 …床で芋虫状態で転がりぴょんぴょんしている神を除いて。




 ◆◆◆◆◆




 ライブが始まって2時間くらいが経過した。


 未だストーカーらしき不審者は現れておらず、

 俺たちは空から周囲を警戒しつつ煌びやかなウタウスのライブを楽しんでいた。


 俺は熱狂するライブ会場の中心で楽しそうに歌って踊っているウタウスを見る。


panicパニック panishパニッシュ 天罰だ♪ 三千世界を轟き鳴らせ♪


        panishパニッシュ panicパニック 天罰だ♪ 善行悪行受け付けています♪


 panicパニック panishパニッシュ 天罰だ♪ …たまに私にも来るの何で? ♪


         panishパニッシュ panicパニック 天罰だ♪ ボタン一つで刑罰執行♪」



汗を流しながら歌に合わせて動く彼女はまさしく輝かしいアイドルそのものだな。


 嘘偽りなく全力で楽しんでいるようでなによりです。


 …まぁ…歌に合わせてなんか落雷が降ってるのは気になるけど。


 ウタウスがぶんぶん手を振るごとに空から落雷が客席に落ちる。


 ……これはアイドルとしていいのか?


 そう思い客席を遠視魔術で見てみると落雷に当たったファンは、

「ありがとうございます!!!」と感電しつつも喜んでいた。


 彼らの業界ではご褒美のようです。


 それからしばらくすると曲が終わりいったんステージのライトアップが収まり、

 代わりに中心にいるマイクを持ったウタウスが照らされる。


「みんなー!楽しんでくれたっすかぁーーー!」


「「「「「「「 おおおおおおおおおーーーーーー!

               クアチルたぁーーーーん!!! 」」」」」」」



「さっきの曲で今日のライブはおしまい!」



「「「「「「「「 ええええええええーーーーーー!!! 」」」」」」」」



「…の予定だったんっすけど~!サプライズっす!

 実は一昨日、新曲ができたんっすよ!だから今日お披露目っす!」



「「「「「「「「 おおおおおおおおおおおおおおお!!! 」」」」」」」」」



 嬉しそうにするファン。

嬉しさのあまり変形するファン、炸裂するファン、分裂するファン。


 ……地獄かな?


 若干熱狂が過ぎるファンたちに俺が引いていたそのとき、

 ちらっとこちらを見たウタウスがこっちに向かって手を振る。


 サボってません、サボってませんよ~。


 ちゃんとやってるサイン代わりに俺が手を振り返すとウタウスが嬉しそうにぴょんと跳ねてファンたちに向き直る。


「それじゃあいくっすよ!新曲!『外宇宙ラブクラフト』!」


 収まっていたライトが再び虹色にきらきら輝きだしウタウスの新曲が始まる。

 曲調は楽し気な感じだな。



「 世界の外で 寛ぐあなたに 出会った私は一目惚れ♪ 


          だから優しく 頭を撫でないで!♪


                私のすべてとろけちゃうの♪ 遺影イエーイ♪ 」



 さっきの曲よりはゆっくりで落ち着いた感じのこの曲はどうやら楽し気なラブソングのようだ。


 歌詞から察するに出会った男に一目ぼれした女神が引っ付くが男は彼女の気持ちに気づかずに優しく頭を撫でているようだ。鈍感な奴め。


 俺が言えたことではないかもしれないが相手の好意に気づけないなんて男として情けないからな!最低だからな!


 ……それにしてもウタウスすごいな。

 一昨日ってうちに相談に来てた時じゃないか。

 あんな時でも新曲思いつくなんてさすが現役アイドルだわ。



 などと俺が考えていたそのとき歌っているウタウスがこちらにピースする。


 サボってないですよーサボってないですよー。


 改めて手を振り返すとやっぱりウタウスは嬉しそうにこちらに手を振り、

 頭のアンテナも右に左にピンッピンッ!。


 そろそろ仕事をしろということでしょうか?


 俺が冷や汗をかきながらウタウスに手を振り返していたら膝の上のベルが動く。


「マスター。発見」


「…おっ来たか。どんな感じだ?」


「敵3柱。隠蔽術2桁」


「ふ、2桁って…あからさますぎんだろ…。

 てか…よく見つけたなそんなの。大変だったろ?」


 どう考えても過剰にかけられている隠蔽魔術。

 おそらくストーカーで間違いないだろう。


「お手柄!」とベルを褒めるが何故かベルは首を傾げている。


「原因不明。…なんか見つけやすかった」


「うん?どういうこと?」


 尋ねてもベル自身も理解できないらしく首を傾げるだけだし、

このままでいても仕方ないのでストーカーをとりあえず捕まえることにした。


「いくぞ、ベル!シャンタク!」


「了解」


「ぎゃう!」


 こうして俺はストーカー掃除に向かった。


 ただでライブを見せてもらったお礼くらいはしなきゃな。

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