第70話 縁は縁からつながるって母さんが言ってた


 玄関口で来客に対して応対する俺は首を傾げる。


 …ん~?別に知り合いでもないけど見たことある気がするのはなんでだろう?


 見た目は15歳くらいの少女だけど…まぁ人間じゃないのは分かる。

 だって髪が虹色に煌めいているもの。


 眩しくないのが救いである。


 可愛らしい靴、ショートパンツ、よくわからないロゴの入ったTシャツ、

ちょっぴり大きなジャンバーといった格好で虹色の髪をポニーテールにしている。


 でも一番特徴的なのは頭の上の髪の毛…ていうか寝癖?アホ毛?


 さっきから右にひょんひょん左にひょんひょん。

 …生きてないよな?生きてないよね?


 こんな感じで俺が困惑していると朗らかに笑った少女っぽい彼女が話し出す。


「すいません、ここが、

『外宇宙絶対統一創造神ナユタ・アムリタ・ヘブンズホール・ネビュラ』

 さんのお宅で間違いないっすk…」


「ちょっと待って!!??」


 髪同様に虹色の綺麗な瞳でこちらにしゃべりかける少女に待ったをかける俺。


 …おい今この子なんか変なこと言わなかったか?

 なんか『アブラカタブラ』みたいな呪文が聞こえた気がする。


 そして俺の前には頭の上のアホ毛を「?」にしている少女の姿がある。

 それで感情表現できるんすね…。


「…ごめん、もう一回言って欲しいんだけど…誰のお宅だって?」


「えっと…

『外宇宙絶対統一創造神ナユタ・アムリタ・ヘブンズホール・ネビュラ』さん?」


「誰だよ!それ!!!」


 両の手の平で顔を覆い隠して震える。

 おかしい…そんなに時間が経ってないのに中二ネームが悪化している…。


「……ごめん…その名前って誰かから聞いたの?」


 顔を覆ったまま少女に尋ねる俺。

 そんな俺にきょとんとした表情の彼女は最悪の返答をする。


「この呼び名っすか?

 最近の外宇宙ではよく聞くっすよ?5柱の神をいとも容易く従える邪神だって…」


「嘘やん…」


 悪化してなおかつ外宇宙中に広まっていることがは判明しました。


 馬鹿な…何故だ…この間まで普通にただの中二ネームだったのに…。


 原因不明で俺の悪名が拡散している。

 だが思い当たる節はなく原因を探ろうとしていたそのとき、

 少女が丁度聞きたかったことを話してくれた。


「眷属さんが広めてるみたいっす」


「………はっ?眷属?誰の?」


「『外宇宙絶対統一創造神ナユタ・アムリタ・ヘブンズホール・ネビュラ』

 さんのっす」


 眷属?俺の?……いやいないけど?


「眷属の女性が、

『外宇宙絶対統一創造神ナユタ・アムリタ・ヘブンズホール・ネビュラ様の眷属の彩芽様に手ぇ出したらどうなるかわかってんのぉ~!』

 って言ってたらしいっすよ?」


「…………へぇ~…」


 原因判明しました。

 …あの野郎…誰が後ろ盾にしていいつったよ…。


 久々に額に青筋が浮かぶ。

 どうやら知り合いだからと言って甘やかしすぎたようだ。


 今にも咆哮を上げそうな俺は歯を「ギチギチ」とかみしめて笑顔を作り、

 目の前の少女に話す。


「ごめん、ちょっと待っててくれ」


「…?…はいっす!」


 うんうん、元気な返事だ。


 目の前の彼女が待ってくれていることだし、早くしようか。


 そう考えた俺はポケットからスマホを取り出す。


 このスマホは俺が外宇宙に来る前に持っていたもので、

 この間、彩芽たちに渡した電話番号とは違うものになる。

 つまりこれであいつに電話しても誰がかけたかわからないわけで。


『ピピピッピピピピッピピピピッ!』


 速攻で彩芽のスマホに電話を入れコール音の後に彩芽につながった。


「はいはーい彩芽だよ~。どちら様~」


「………」


「…?…おーい!…………いたずら電話?」


「…………オマエヲ…コロス…うけけけけけけけ!」


「…えっ!?誰!?何!?なにするつm…『ピッ!』」


 精一杯の変声でとりあえず脅迫しておく。


 本当はこれから毎日この嫌がらせをしてやりたいところだが、

 正直これに割く時間がもったいないからこれで勘弁してやるわ!


 小さめの復讐を終えた俺はスマホをしまい改めて少女に向き直る。


「悪い待たせたな。

 それで…たしか…そうそう、ここはそのナユタ家で合ってるよ。

 でもって俺がそのナユタだ、よろしく。

 …間違ってもさっきのくそ長い名前で呼ばないでくれ…ナユタでいいから」


「はい、了解っす」


 ビシッ!と敬礼しながら自信ありげな顔をこちらに見せる少女。

 …やっぱりどこかで見たような気がするなぁ。


 なんとなーく見たことがある気がするがこのままでいても仕方ないので、

 話を進めることにするとしよう。


「んで?うちに何の用だ?」


「はい、実はナユタ先輩に頼みたいことが…」


「待って、何で俺先輩になってるの?」


 名前で呼ぶことはお願いしたけど先輩呼びは頼んでない。

 もしかして俺が学校行ってた時の後輩とかか?


 知り合いだったら申し訳ないのでそんなこと考えていると少女が言う。


「いや~主神や副神を従える強い先輩神様を呼び捨てにするわけにはいかないっす!」


「あっはい」


 思った以上に関係なかった。


 要するに俺は彼女にとって先輩の神様だと。

 ……絶対この子の方が俺より先輩だろ。


 と、微妙な表情で少女を見ていたら彼女は突然「はっ!?」とした表情になる。

 今度は何事?


「そういえばまだ自己紹介してなかったっす」


「あーうんそうだね」


 今気が付いたのか。


 自身の服装がおかしくないかを少し確認した彼女は頭の上のアホ毛を回転させながらお辞儀をし挨拶を始める。


「初めましてっす!自分はクアチル・ウタウスっす。

 以後よろしくお願いしますっす」


 ぺこりとしっかり挨拶をする彼女を見ながら俺は、

自分の手の平の上で「ポンっ!」と手を叩く。


 そうだ!わかった!どっかで見たと思ったら!


「あー!外宇宙アイドルの!どっかで見たと思った!」


「ナユタ先輩に知っていてもらえるなんて恐縮っす!」


「うちに熱狂的なファンいるし、時々昼の番組に出てるからな。

 それで?何でそのアイドルがうちに来たんだ?」


 分かっているとは思うが俺の家はアイドル事務所とかではない。

 ただの神が集まる一軒家だ。…そこ…神がいる時点でとかツッコまない。


「はい、実は困ったことがあって…、

 知り合いに相談したらナユタ先輩を頼るように言われたっす」


「俺を?…ちなみに相談したのって?」


「イグさんっす」


 イグさん…もしかして仕事忙しいからこっちに回したんじゃ…。


「はいはい、なるほどね。んーとりあえずリビングで座って話すか。

 玄関で立ち話ってのもあれだし」


「はい、お邪魔するっす!」


 こうしてアイドルを我が家に招き入れることになりました。


 どこぞの暇神に気をつけなきゃな。




 ◆◆◆◆◆





 リビングに入る俺とウタウス。


 それに反応したのは食卓で寛いでいたクロネだった。


「おかえりなのじゃ~。

…ふむ、来客はクアチル・ウタウスだったのじゃな」


「お邪魔するっすバーストさん」


「クロネじゃ」


 もともと知り合いらしい2柱が話していると、コタツのあたりからバタバタ走る足音とともにアサトとヨルトがこちらに寄ってくる。


「…おー…ウタウス!…」


「ウタウスだ―サインちょーだい!」


 うちの子供神がはしゃいでいる。

 アイドルってさすがだわ。


 ちなみにぴょんぴょんしているアサトとヨルトに抱き着かれているウタウスはというと…、


「ひゃ!?主神と副神っす!きょ、恐縮っす!」


 幼女二柱に囲われておどおどしていました。

 無害だから安心してくれ。




 こんな感じのやり取りの後、コタツで向かい合って座る俺とウタウス。

 そして彼女の相談事が始まった。


「それで頼みたいことなんっすけど…、

 実は自分…ストーカーに困ってるんっす」


「ストーカー?」


「はいっす」


 ストーカー…まぁ人気アイドルだしあるにはあるだろう。

 ただ俺的には一つ気になることがあるんだけれども。


「…ウタウスって強いよな?」


「星の一つくらいなら頑張ればなんとかなるっすよ?」


「それって…ストーカーを塵にすれば解決なのでは?」


「何言ってるんすかナユタ先輩!」


 突然、怒ったようにこちらに身を乗り出すウタウス。

頭の上のレインボーアホ毛も怒りを表すようににょいんにょいん上に伸縮してる。


「自分アイドルっすよ!暴力なんてしたら活動停止処分っすよ!」


「あれ?前テレビで夢の国のネズミっぽいのと殴り合いしてなかった?」


「あれは番組だからっす!現実は非情っすよ!」


「そっか、そうなるのか。…あれ?てことはあの番組やらせ?」


「殺し合いの許可を先にもらってるだけなのでやらせではないっす。

 出会えば即ファイトの残虐世界っす!」


 それはそれでアイドルとして問題あるのでは?

 というか殺し合いの許可って…外宇宙怖い。


「自分で戦えるならそれでいいっすけど…

 こっちだけ手が出せないと思うと怖くて。

 明後日の年末ライブも中止にした方がいいかなって」


 そう言いながら怯えるように俯くウタウス。

 なるほどそりゃ困るわな。


「話は分かった。こっちで何とかするからそんな顔するなよ」


 元気なくしょんぼりしたクアチルのアホ毛の上に俺の手を置いてポスポスする。


「いつも明るいウタウスをみんな大好きなんだ。

 アイドルなんだから笑っとけ笑っとけ。お前を脅かす奴はこっちで何とかする。

 俺が守ってやるから…自分のやりたいこと全力でやればいいよ」


 ウタウスの不安をなるべく拭えるように優しく頭を撫でながら笑いかける。

 撫でることならこっちもプロだからな。


 すると上目遣いでこちらを見ていたウタウスが顔を赤くして俯く。


「あ、ありがとうっす…ナユタ先輩」


「はっはっは!任せろ」


 赤くなってなんか頭から湯気が出ているが多分喜んでくれてるんだろう。

 確かクロネが喜んでいた時もこんな感じだったし。



 こうして俺は明後日のライブでの「アイドル護衛任務」が決定したのだった。

 せっかく俺を頼ってきてくれたんだし…頑張るとしよう。



 今日も今日とて我が家は平和です。




 ◆◆◆◆◆


 ―――奥様組。


 ウタウスとナユタがコタツ側で話をしていたそのとき、

 食卓側でその1人と1柱をナユタ妻5神は見守っていた。


 そしてウタウスの話を聞きナユタがウタウスの頭を撫で、

 ウタウスが顔を赤くする場面を見ていた妻たち+αは各々思ったことを口にする。


 ア「……ん…ウタウス真っ赤…」


 ヨ「あ~あ、ナユタまたやっちゃった」


 ネ「即落ち2コマー」


 ク「あれの破壊力は凄い。経験神は語るのじゃ」


 さ「あははは…相変わらずだなぁナユタ君…」


 ベ「マスター。最強」


 呆れたように自身の夫を見る妻たち。

 もしかしたらベッドの大きさは今のままでは足りないのかもしれない。

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