第69話 日頃の行い大事なれど決めつけ良くない

 外を落ち葉がカサカサと流れていく11月の終わり近く。


 我が家の家族たちはコタツの虜となっている。


 俺の傍に猫の姿で眠っているクロネの頭を撫でつつ欠伸をする俺はそのまま俺の体に抱き着いているネムトに視線を向ける。


 コタツに入りつつもしっかりと俺に抱き着いて幸せそうに頬を押し付け眠るネムトはしばらく起きないだろう。


 この間俺がさゆりの魔術(誤発)で少しの間いなくなった後からネムトは俺から離れにくくなったのだ。


 どうやら一番心配してくれたのは彼女のようだ。


 ちなみに一番心配していなかったのはまさかのアサトとヨルトでした。

「ナユタなら大丈夫」とのことです……少し泣いた。


 クロネとネムトを撫でながら悲しい気持ちになっている向かい側ではさゆりが座っておりその横でさゆりに抱き着いたアサトとネムトが眠っている。


 尚、その後ろにはシャンタクの上にショゴス、ショゴスの上にダロス君、

 ダロス君の上に猫軍団という我が家のアニマルタワーができておりますれば。


 ……あれ?いつの間にか庭にいたショゴスが入ってきてる…まぁ…いいか。


 あったかい部屋で気持ちよさそうに目を細めて眠っているアニマルズを見ていると向かいに座っているさゆりがアサトたちを撫でながら話しかけて来た。


「ふふっ…みんな寝ちゃったね」


「コタツ故致し方なし、だな」


「うん、そうだね………あっそうだ」


「どった?」


 何かを思い出したような素振りの後にさゆりがこちらを見る。

 なんじゃ?俺は何かしたか?


「ううん、そういえばちゃんとお礼言ってなかったと思って」


「礼?」


「ナユタ君、あの時私のこと助けてくれてありがとう」


「………あの時?」


 どの時のことだろう?


 結構昔からさゆりを助けていたからどれのことかわかりかねている俺はとりあえず手あたり次第に言ってみることにした。


「あれか中学の時に授業中に居眠りしてたさゆりに問題の答え見せたやつ」


「違うよ!それじゃないよ!」


「…んー?……じゃああれだ、

 トラックに轢かれそうな犬を助けたさゆりを俺が助けて軽くはねられた時の?」


「それでもないよ!……いや…それもありがとうだけど…」


「じゃあ銀行でたまたま強盗に人質にされて通りがかった俺が強盗って知らずに殴り飛ばしたやつ」


「違うってば!!!…それもだけど」


 ……だめだ一向に当たる気がしない。


「すまん、多分あと2桁くらいあるからどれかわかんない」


「…なんかごめんなさい…助けて貰ってばっかりで…」


 数撃ちゃ当たる理論でやってたらさゆりが遂にしょんぼりし始めた。

 昔からおっちょこちょいでいろいろあれだったさゆりを毎回俺が助けていたので俺的には慣れっこなんだけどな。


「気にしないでいいよ別に。助けたくて助けてたんだし。

 小さいころから俺の傍にいたんだし…俺がどんな人間かよく知ってるだろ?

 さゆりは」


 懐かしそうにさゆりが目を瞑る。


「…そうだね、そうだったね。

 みんなから全自動人助けマシーンとか言われてたもんね」


「誠に遺憾である」


「でも私、ナユタ君助けて貰ってるのに…何も返せてないな」


 再びしょんぼりしながら俯くさゆり。

 しかしそれは誤解だな。

 俺はもう大きな貰い物をしているのに。


 そっと抱き着いていたネムトを降ろしてさゆりの傍へと向かい、

我が伝家の宝刀「なでなで」をしながらさゆりに笑いかける。


「さゆりが俺の奥さんになってくれたんだ。他にいるものなんてないっての。

傍で笑っててくれたらそれでいいよ」


 ポスポスとなでなでを繰り返す。

 小さなころから落ち込んでたりしたさゆりにそうしてきたように。


 こうすると元気になって嬉しそうにするのは今も昔も変わらない。


「……うん…じゃあそうする」


 少しだけ変わったことは…今は俺の妻になったからこうして抱き着いてきてくれるようになったことだろうか。


 そのまま俺とさゆりはみんなの目が覚めるまでじゃれ合うのでした。

 これ夫の特権なり。


 …そういえば結局どれに対するお礼だったんだろう?




 ◆◆◆◆◆




 昼食を終えてみんな思い思いに過ごすいつもの我が家。


 俺とクロネとネムトは食卓に残りお茶をしながら寛ぎ、

 そしてアサトとヨルトとさゆりはコタツに入ったままリビングのテレビでゲームをしている。


 やってるのは以前やってたニャルラトカート。


「……ん…一位…」


「えへへ、二位だけどすぐに追い抜ける位置だもんね」


「うぇ…二人とも早いよ」


「…ん…さゆり遅い」


「そんなに離れてたらもういいアイテム当てないとこっち追いつけないよ?」


「うぅ~なんか出て…なんか出て…あっ雷の魔導書」


『ゴロゴロッガッシャーン!!!』


「…んむぅ…あたりをひいた…」


「さすが幸運の女神だね…私たち小さくなちゃった。

 でも!まだ離れてるから…問題ないよ」


「あっもう一個出た」


『ゴロゴロッガッシャーン!!!』


「「 ええええええ~!? 」」


「…むむ…まずい…」


「追いつかれちゃうよぉ!」


「あっ…また出た」


『ゴロゴロッガッシャーン!!!』


「「 えええええええええええええぇ!? 」」



 なんかあっちの方から悲鳴が聞こえるがアサト達が楽しそうで何よりだ。


 コタツ側の騒ぎを笑いながら俺たちは暖かいお茶を啜る。


「うむうむ、さゆりも問題なくここの一員になって何よりじゃ」


「めでたしーめでたしー」


「もともとアサト達やクロネとも知り合いだったし馴染むのが早かったからな」


「うむ、良いことじゃ。

 ここに来る面々すべてと知り合いになったんじゃのではないかの?」


「う~んとだな…ツァトにクトゥグア、イホウンデーさんにイグさん。

 ……いやチャウグナーがまだだな」


「そういえば最近来ておらんのじゃ」


 顔を見合せ首を傾げる俺とクロネ。

 ネムトはすでに俺の腕の中で眠りにつきました。


 とかなんとかやっていたそのとき、


『ピンポーン!』


 …おっ?玄関のベルか?

最近はくる神はみんな鍵を持っているから玄関ベルの音を聞くのは久しぶりだな。


「俺が出てくるよ」


「うむ、了解じゃ」


「ズズー」とほのぼのとした顔でお茶を飲むクロネにそう告げた俺は玄関に向かい鍵を開けるとそこには常盤さんがいた。


「ああ、常盤さんか」


「ご無沙汰してます、ナユタさん」


「どうもです。今日は一人なんですね」


 いつもならもう一人相棒がいる常盤さんだが今回は一人で来ていた。

 相楽さん体調不良かな?


「あいつは今回別件に逃げ…いえ、行ってるので」


 何故か粛々とした表情で遠くを見て拳を握り締める常盤さん。


 しかしすぐに気を取り直したようにこちらに顔を向けなおす。


「それで…その今回の要件なのですが…」


 そういった常盤さんが後ろから誰か手錠をはめられ縄でぐるぐる巻きにされている人っぽいものを出してきた。…そしてには見覚えがあった。


「ナユタさん~助けて~」


 そう、そこにいたのは最近見かけなかったチャウグナーでした。


 何でこいつ捕まってんだろう…。


 その疑問を投げかけるように常盤さんに視線を向けると常盤さんが事情を教えてくれた。

                       


 最近そこいらで貧血で病院に搬送される人が続出する事件が発生。

              ↓ 

 それに伴い常盤さんが調査をしていると満足気な表情で紙コップを咥えているチャウグナーを発見。

              ↓

 そのコップの中身を見て血が入っていたので即逮捕。

              ↓

 しかしナユタ家の神だからとりあえずここに連れてきた。

              ↓

             今ここ


 ということらしい。


 ………………こいつだな、犯人。


「すいません、こいつが犯人です」


「ナユタさん!?せめてこちらの弁明を…」


「すまん、逆にお前が犯人じゃないっていう方が難しい」


「いかに私でもそこらへんにいる人に見境なしに

 襲い掛かったりなんてしませんよ!」


 捕まったまま胸を張るチャウグナー。

 ほんとでござるかぁ?


「へーそっかそっか。

 まぁ…そうだよなぁ。いかにお前でもさすがにそこまではないよなぁ」


「そうですよぉ」


「「 あっはっはっはっは!!! 」」


 高らかに笑い合う俺とチャウグナー。

 そして俺はその流れで自然に核心を突く。


「それで?その人等の血どんなだった?」


「はい!なかなかの味で…あっ…」


 はい、自白~。


「……すいません常盤さんやっぱりこいつ犯人です」


「…そのようですね…どう…します?」


 頭を下げる俺と微妙な表情でこちらを見る常盤さん。


「こいつの身柄はこちらで預かってもいいですか?」


「あー…ではあとはお任せしてもよろしいですか?

 こちらでは処遇に困りまして…」


「はい、こちらで処分します」


 そんなこんなのやり取りの後ぐるぐるのチャウグナーを俺に預けて帰る常盤さんを見送った後俺はぐるぐる巻きの奴を連れてリビングに戻る。


 リビングに入るとゲームを終えてコタツからこちらに移動したさゆりが話しかけてきた。


 ちなみにアサトとヨルトはコタツの机部分に突っ伏している。

 ……負けたのか。


「ナユタ君誰だったの?」


「警察の知り合いの人。身内の恥を捕まえて持ってきてくれた」


 そう言いながら後ろから恥を前に出す。


「いやぁ~ナユタさんのおかげで助かりましたよ~。

 ところで縄そろそろといてくれません?」


「…チャウグナー」


「はい?」


「殺処分」


「…えっ?」


「殺処分」


「……えっ…」


「殺★処★分」


 そう言いつつ首でネックレスになっていたベルをチェーンソーモードに変える。

『ブイーン!』というよく切れそうな音が部屋に響く。


「…ナユタ様!お許しください!」


「懺悔は一回死んだ後でだ」


「もう死んでるじゃないですかー!やだー!」


 涙目でぴょんぴょんしているチャウグナーを俺はチェーンソーベルでとりあえずバラバラにしようとしたそのとき、さゆりが待ったをかけた。


「な、ナユタ君!

 とりあえず一回落ち着こう!この人(?)だって反省してるみたいだし…」


 そう言いながらぐるぐる巻きのチャウグナーを庇うさゆり。


 ……むむむ…そういわれてみれば確かに日頃の行いが悪いからといって

 いきなり殺処分はやりすぎか。


 妻に諭され若干冷静になった俺はため息をつきながらチャウグナーに事情聴取を開始する。


「はぁ…被告人、言い残すことは?」


「遺言!?…ええと…ごめんなさい。おなかがすいてついやっちゃいました…。

 でも…ナユタさんとの約束どおり致死量は避けたので後遺症もないと思います…

 はい…すいません」


 …嘘を言ってる感じでもないしどうやら本当に反省はしているようだ。


 う~ん…ならまぁ…許してやるか。


「……今回は大目に見てやるから俺の妻に礼を言うように」


「ははぁ~寛大な処置痛み入ります」


「よかったですね」


 縄を解かれ綺麗なお辞儀をさゆりにするチャウグナーと、

 初対面の神にわたわたするさゆりの図。


「ありゃ?そういえば知らない方ですね。

 どうも初めましてチャウグナー・フォーンです。

 よろしくお願いします」


「はい、私は東風谷…じゃなくて星野さゆりです。

 こちらこそよろしくお願いします」


『ピンポーン!』


我が妻とチャウグナーの丁寧なあいさつを横で見ていたら玄関のベルが再び鳴る。


 また客か?珍しいな。


 まだ俺はリビングに入ってきた位置で立っていたままだったので丁度いいし、

 もう一回行ってこよう。


 挨拶中の1人+1柱はまだ終わっていないようなので再びお茶を飲んでいるクロネにその旨を伝え玄関に向かう。


『ピンポーン!』


「はいはーい、今開けま~す」


 待たせたようなので急ぎ扉を開ける。

 そしてそこにいたのは…、


 虹色の髪を煌めかせる15歳くらいのどこかで見たことのある少女だった。

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