第66話 犬を拾ったら世話はちゃんとね

 11月初旬の今日この頃。


 どうもこんにちわ、ナユタです。


 少し肌寒いこの季節はあまり家から出ずにコタツで過ごすのが一番だ。

 まぁ…ここから来年の春まで多分その調子ですけどね。


 そんなことを思っている俺は今現在、家の外の庭にいます。

 …えっ?さっき家の中がいいって言ったばっかだって?


 仕方なかろう、夏の間に生えた草が生い茂ってるんだ。


 夏に切れども数は減らず、そして増えていくから刈るのは待っていたが、

 ここから先の季節だと逆に草は生えにくくなるのでちょうどいいから刈ろうと思い外にいます……おまけの暇神とともに。


「何で俺まで手伝わないといけないんだよう」


「しゃーないだろ、

この少し冷えた空気の中で俺の妻たちを働かせたくなかったんだから」


「…おれはいいの?」


「お前に拒否権はない」


「しどい!?」


 ニャルと横並びで庭を見る俺。


 いやはや元気はつらつに生い茂っちゃってまぁ。


 いつもならここで猫たちとシャンタクが遊んでたりするのだが現在は草刈りのために家の中に入ってもらっている。


 コタツでだらーっとしていたから文句とかは出ないであろう。


「んで?どうやって刈るのこれ」


「そこなんだよなぁ。ここまで多いと鎌はさすがにな」


 そこそこにボーボーな草を見てなやむ俺とニャル。


 少し考えこんだところでニャルが『パチンッ!』と指を鳴らして「閃いた!」と言い出す。


「そうだ燃やせばいんじゃね?魔術の火なら簡単だろ?」


「お前はアホか!

 何で庭の掃除しようとして庭を地獄絵図にしなきゃいけないんだよ!」


「大ー丈夫!大丈夫!火の扱いがうまいやつに頼めば簡単かつ一瞬だ!」


 いわんとすることはわかる。

 だがこいつはある重要な部分を忘れている。


 呆れた表情でニャルを見ながら一言、その問題点を俺は告げる。


「……その場合クトゥグアに頼むことになるから…お前も草と一緒に一瞬で燃えることになるが…いいか?」


「……………ごめん…やっぱなしで…」


「だよな」


 最大の問題点に気づき両手で顔を覆いお断りを入れてくるニャルの図。

 そこに気づけよ…。


「じゃあどうする?」


「…そうだな…じゃあ何か草刈りできる機械にでもなったらいんでない?」


「名案だなナユタ!じゃあ草刈り機に…。

 …いやでも普通のだと時間かかるな…」


「じゃあ欲しい機能をくっつけてキメラ草刈り機にするとか?」


「それだ!」


 こうして俺とニャル草刈り作戦が開始されたのであった。




 ◆◆◆◆◆


 ――—屋内


 ナユタとニャルが外で草刈り機を構想していたその頃、

 コタツに入って寛いでいるアサト、ヨルト、ネムト、クロネ、さゆり、ベルの

 4柱+1人+1冊はミカンの皮をむきつつ自分たちの夫について話していた。


「のう、さゆり」


「はい、何ですか?クロネさん」


「この間、ナユタが


『クロネ達以外との恋愛経験?ははっ!ないや!(泣)

 いいもん…今は奥さんいっぱいだもんね(泣)』


 とか言っておったんじゃが…ほんとかの?」


 そうさゆりに問いかけるクロネ。

 その言葉を聞いたナユタ妻たちが首をかしげる。


「…んむ?…ナユタ…モテない?…」


「ナユタかっこいいのにモテなかったの?」


「旦那様はー世界いちー」


「マスター。顔。普通」


 他の妻たちに一斉に視線を向けられたさゆりは「あはははっ…」と苦笑いしながら遠くを見るような表情で答える。


「…う~ん…半分ほんとで半分は違うかなぁ」


「どういうことじゃ?」


「ほらナユタ君って他人からの好意にものすごく鈍感だから…。

 学校では先輩とか後輩とかから沢山告白されてたけど、

 相手に『付き合ってください!』って言われて『おう、どこ行く?』くらいひどいやり取りを結構昔から見たよ…」


「「「「 あぁーやりそう 」」」」


 そこにいる全員が「うんうん」と頷く。

 もはや妻たちの中では共通認識のようだ。


「ん~…じゃあもう半分は?」


「えっとね…ヨルトちゃんこの間会った彩芽ちゃんって覚えてる?」


「………忘れた!」


「…チャラくて軽いギャルっぽい人…」


「思い出した!」


「あはは…その人がね

『このまま行ったらいつか恋人出来てもおかしくないからその辺の人たちにあんたとナユタは裏で付き合ってるって広めておいた!』

 …とかやっちゃって…ナユタに告白する人が高校くらいからいなくなったの。

 だからナユタ君自身もモテないと思ってるんじゃないかな」


 それを聞いて何とも言えない表情になり夫のことを思う妻たち。

「哀れ」と小さくつぶやいたベルの声が部屋に悲しく響くのであった。




 ◆◆◆◆◆



 俺は今草刈り機デラックスと化したニャルに乗っている。


 車体の基礎は電車。


 車輪は回転する刃。


 そして横には高速回転する草刈り丸のこぎり。


 そして正面にはなぜか人の顔。


 これらを合わせることにより生まれた草刈りモンスターが現在、

庭を駆け回り草を刈りまわっている。


 …えっ?どんな奴か想像できない?

 悪い顔した攻撃力の高いト〇マスだと思ってくれ。


「草ごときが神たる俺に勝てると思うなぁ!ヒャッハー!」


 なんかだんだん楽しくなってきたのか、はしゃいでいる神の図。


 やだ…情けない…。


 世紀末的興奮状態の暇神を乗りこなした俺は2時間くらいで草刈りを終える。

 …ちなみに俺はニャルラトーマスの上で指示していただけです。


庭の草をあらかた刈った俺たちは散らばった草を袋に入れて家の裏に持っていくことにした。

 

 今度クトゥグアが来た時に燃やしてもらう算段だ。


 それまでは家の裏手に置いておこう・…

…そう思い家の裏に来た俺の目に何か陰で動くものが見える。


 ちょいちょいグネグネしているあたり庭で鳴いていたショゴスかな?

 と思い覗き込むとそこには形的には犬っぽいゲル状の生物がいた。


 なんか弱ってるっぽいそれはこちらに気づくとプルプル震え始めた。

 いやいやそんな人のことを化け物みたいに…。


 そう思いながら俺はあることを失念していた。

 …そう、俺はニャルラトーマスの上に乗ったままだったのだ。


「…そりゃ怖いわな」


「ん~?どしたナユタ?」


「いやさ、あそこになんか犬っぽい不定形の奴が…」


「……おりょ?ティンダロスの猟犬じゃん。

 珍しいなこんな鋭角でもないところにいるなんて。

 …ていうか何でプルプルしてんの?」


 多分原因は体中に回転ノコをつけている電車状の神のせいではないですかね…。


 ティンダロスの猟犬って確かあれだ。

 鋭角から出てきて人間に襲い掛かってくるわんこ。


 人間の精神力をパクパクする恐ろしい子だったと思う。

 …思うのだがどう考えても弱っている。


 もうちょい狂暴なイメージだったがこれでは犬よりおとなしいかもしれない。


 そう考えている俺の下のニャルが何かを察した素振りとともに喋りだす。


「あぁーわかった、こいつあれだ…時間の異常を感じ取ってここに来たんだ多分」


「時間の異常?そんな大々的に時間をいじったことなんて…」


 俺は過去の記憶を思い返す。


 家の修理のとき?…いやほとんど錬金術で地面から材料作っただけだから時間を戻したりしたわけじゃないし違う。


 他のだれかが?…時間に干渉したことなんて…はっ!?


 気づく。


 気づいちゃった。


 そういえば去年の年終わりの時、除夜の鐘(ニャル)を叩く際アサトが年内に収めるために時間を止めていた。…あれか!


 この猟犬がここに迷い込んだ理由はわかった。


「…でもニャル、ティンダロスって狂暴で他人に襲い掛からなかったか?

 俺たち誰もこのわんこに襲われた記憶ないんだが?」


 その俺の言葉を聞き珍しくニャルが俺に呆れたような表情を向ける。


「あのなぁ…無理に決まってんだろ?ここにいるの9割神だぞ?

 しかもただの人間のナユタやさゆりはガッチガチの防御魔術かかってるし。

 襲い掛かっても四散か蒸発の差くらいしかねぇんだからおとなしくしてるしかないだろ」


「納得」


 そうでした、可愛いけどうちの妻たちほぼ神なんだよね。

 襲い掛かるのは本能的に無理だったんだな。

 生物として本能ですでに勝敗は決していたようです。

 

 つまりここにいるのは今年の初めから1年程ここに放置された哀れなわんこということになる。


 だんだん罪悪感が湧いてきたので俺はかわいそうなティンダロスに近寄り頭を撫でる。手になんか青い液体ついたけど放っておこう。


「よーしよし怖くない怖くない」


 本当の犬ではないから「ワン!」とは言わないが嬉しそうに撫でられている。

 1日15時間くらい妻の頭を撫でている俺のテクニックにかかればこんなものよ。


「おいニャル、とりあえずこの子に餌やろう」


「いや餌って…こいつ生き物の精神力食うんだぞ?

 誰を犠牲にするんだよ?」


 迷わず無表情でニャルを指さす俺。


「なんでやねん!」


「お前精神図太いじゃん。

 それに神なんだから精神回復の魔術くらい使えるだろ?」


「図太いけど関係なくね!?しかもそれ言うならお前も回復使えるじゃん!」


「いやいやこの子には人間を襲わない英才教育を施すから。

 これからこの子はダメな神をもぐもぐする清く正しいわんこになるから。

 …なっ?」


「わん!」


 …おお!この子意外と賢い!

 会話の内容と流れを理解してわんこの鳴き声するくらい賢い!


 少し愛着が湧いてきた。


 決めたこの子、ウチで飼おう。


 これだけ賢ければ妻たちに襲い掛かったりもしないだろう。

 どうせ襲い掛かってもワンパンだけど。


 俺が心の中でそう決定していたその頃、ニャルはまだごねていた。

 おとなしく餌食になりなさい。


「俺だって神としての誇りがあるんだ!この無貌の神がそんなことをすると思っているのか!いくら友達だとしてもそれは考えがあm…」


「おとなしく餌にならないとこの間イホウンデーさんとの約束ほったらかして

アイドルのライブ行ってたことチクるぞ?」


「私はナユタ様の忠実なSI☆MO☆BE。

 …よっしゃ!どうとでもなれだこん畜生!こいやぁ!」


「ワン!」


 元気な鳴き声をあげたティンダロスが立ち上がり口っぽいところから時計の針みたいな舌を出す。


 でもってそれを!一気に!勢いよく!ニャルの眼球に突き刺した。


「いったぁい!目がぁぁぁぁ!!!!

 やめて!眼球はやめて!」


 必死にお願いするニャル。

 神の威厳とはいったい。


 しかしその思いが通じたのか舌を抜くティンダロス。

「わかってくれたか…」と安堵するニャル。


 だが今度は安心した心の隙間を縫って舌を2本に増やしたティンダロスは鋭く舌を刺す…今度は両目に。やりおる。


「みぎゃああああああああああ!!!ブラインドォォォォォォ!」



 草がなくなり綺麗になったナユタ家の庭に悲しい慟哭が響き渡る今日この頃。

 ティンダロスの猟犬が家族に加わることになりましたとさ。

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