第65話 徳も積もれば神になる
さゆりが家族になってはやくも1週間。
もはやさゆりは家族の一員として完全に馴染んでいた。
調理や家事などは俺が大体担当していたが最近ではクロネと俺とさゆりのローテーションでやっている。
そこそこ家事に追われていたりしていた俺は最近では空いた時間も増えてきて猫たちの肉球をもみもみする日々。
理由は不明だがこの一週間いろいろ面倒な奴(主にチャウグナー)なども我が家に来てないので平和そのものだ。
…まぁ…
俺個人で止められることでもないし、ある種あいつの生きがいのようなものなので放置しておこう。
一応、殺しや脅しや後遺症などが残りそうな行為はこっちで禁止しているのでそれは大丈夫だろう…あいつが約束を守っていればだが。
そういうわけで最近はそこそこ平和です。
最近あった出来事といえば…おっと噂をすれば…。
青くて長い髪を引き摺りながらこちらに歩いてくるのは我が妻の1柱…ネムトだ。
普段は眠ったままで自分で歩いたりはしないのだが昨日に続いて今日もとことことこちらに歩み寄ってくる。珍しいことこの上ないがすでに理由は昨日知っている。
俺の正面まで辿り着いたネムトは俺の足の上に気怠そうに自身の頭を置く。
動くのがだるいんだろうな。
そしてそのままこちらの瞳を覗き込むような形で見つめる。
「ねー旦那様ー…コタツまだー?」
珍しく瞳を開きこちらを真剣な表情で見つつ猫撫で声でこちらにそう訴えるネムト…やだ…可愛い。
そう今は11月初旬。
そこそこ肌寒くなりだんだんコタツの恋しくなってくるころ。
そしてネムトはどうやらコタツの到来を待ちわびていたらしい。
こうして2日連続でコタツコールをするくらいに。
しかしまだコタツの準備が完了していない俺は仕方なくネムトの頭を撫でながら事情説明をする。
「ごめんな、まだコタツ準備できてないんだよ。
前より家族も増えたから大きいコタツ買わないとみんな入れないし。
だからもう少し待ってくれるか?」
俺に撫でられながらそれを聞いたネムトはしょんぼりする。
「……そっかー仕方ないねー」
コタツにまだ入れないと知り俺の足に顔を伏せるネムト。
そして顔を伏せたまま元気のない声でネムトが呟く。
「…旦那様といっしょにコタツで寝たかったなー…」
ぼそっと言われたその言葉の威力は凄まじかった。
具体的に言うとこれからコタツを買いに行ってすぐにネムトを抱きしめて一緒にコタツの中で寝たくなるくらいに。
……しょうがないにゃぁ…。
しょげているネムトを抱き上げてぎゅっと抱きしめながら頭をポンポンして、
これからの行動方針を告げる。
「ネムト」
「?」
「これからすこしコタツ買いに行ってくるからリビングの掃除をクロネ達に頼んでおいてくれるか?…俺もネムトと一緒にコタツに入りたいしな」
俺の言葉を聞き顔をあげたネムトはしょんぼりしていた表情をぱっと輝かせ、
嬉しそうに抱き着いてくる。
「えへへー旦那様だいすきー!」
満面の笑みを浮かべたネムトが俺の頬にキスをしてクロネの方にダッシュしていく。喜んでくれたようでなによりだ。
よし、妻のために一肌脱ぐか。
素早く外出用の服装に着替えた俺はリビングから繋がっている暇神の部屋の扉を開ける。
「おい財布、出かけるぞ」
「誰が財布よ、誰が」
「コタツが恋しい季節なんだ。つまり俺の妻は可愛いんだ」
「言語能力が著しく下がってる!」
黒髪ポニーテールのスーツ女性の姿のニャルとともに外出の準備を終えて玄関に移動する。
「とりあえず10人くらいは入れるコタツを買いに行こう」
「それって市販であるのかしらね」
玄関への扉を開けコタツへの道のりを歩もうとしたそのとき、
俺の足にそこそこ鋭い爪がたてられる。
「…いちち…どうしたんだ?」
何となく誰がやってるか分かっているので、
そこにいるであろう猫にそう問いかけながら視線を向けるとそこには予想通り猫がいた…ただし何か白い物を咥えた状態で。
「ふにゃ」
「お前…何を咥えてるんだ?」
猫の口からその白い物を手に取り確認するとそれは…純白のブラジャーだった。
こいつどこからとってきたんだ。
誰の物かを猫に確認しようとするが、
それよりも早く疑問の答えがこちらに走り寄ってきた。
「…こらー!猫さん!それ…返し…て?」
お風呂場の方向からさゆりがこちらに走ってくる…下着姿で。
しかもブラを猫に取られて咄嗟に追いかけてきたのか上半身は裸で。
綺麗な肌と大きな胸が露わになってしまっていますね。
リビングにほぼ全裸で入ってきたさゆりは俺の正面で思考停止したのか固まってしまったので伸ばしていた手に猫から取り返したブラジャーを渡す。
しかし固まったまま石像のように動かないので声をかけてみることに。
「…あの…さゆりさんや?」
声をかけられて「はっ!?」と意識を取り戻すさゆり。
そしてその瞬間、状況を理解して全身を真っ赤にして頭から蒸気を噴き上げる。
「……ご…ご…ごめぇぇぇぇん!!!」
頭から湯気を吹き出しつつ必死に上半身を隠しながらさゆりはお風呂の方へと撤退していった。あとで気まずいだろうなぁ。
一応、もう夫婦なので問題はないんだけど…まぁ…それと、これとはおそらく別問題なんだろうな。
俺は実行犯の猫を見る。
こやつ分かってやったんじゃないよな?
「いいか?あんまりさゆりを困らせちゃだめだぞ?」
「にゃ~」
ちゃんとこういうのは叱っておかないと悪戯が癖づいちゃいけないからな。
…だが、まぁ…それはそれとして俺は猫の頭をサスサスする。
「…でもよくやった。えらいぞ」
「にゃあ」
さゆりの可愛い姿を見せてくれた猫に功績を讃えた後、
俺はニャルとともにコタツを買うために家電売り場へと出かける。
真っ赤で恥ずかしそうなさゆりの可愛い姿を脳裏に反芻しながら。
◆◆◆◆◆
――ナユタが家を出た後。
ナユタが出かけた後の家のリビングではコタツを置く用意を留守番組たちがしていた…が。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「……ん」
ヨルトに問われたアサトは静かにリビングの中心、コタツを置くためにソファやテーブルを取り除かれ広くなった場所を指さす。
そこには顔を赤らめながら膝をつき、うなだれているさゆりの姿があった。
「ぁぁぁぁぁぁ…恥ずかしい…恥ずかしい…恥ずかしい…恥ずかしい…」
「さゆりよ、別にもう夫婦なのじゃから大丈夫と思うのじゃ」
「く、クロネさん…むしろ夫婦だからこそですね…そ、そのはしたない姿を…あぁぁぁぁぁ…あう~…あきゃぁぁぁぁぁぁ…」
先ほどの痴態を思い出しリビングの中心で右にゴロゴロ、左にゴロゴロとさゆりが悶絶する。
「…さゆり…楽しそう…」とかアサトやヨルトがさゆりを見ながら感想を述べていたその横で「わかるわかる」とさゆりを見ながら(自分も裸見られたらああなるだろうなと)頷いているクロネが佇んでいる。
この後、しばらくさゆりの排熱運動は止まらないのであった。
◆◆◆◆◆
そこそこの時間をかけて大型のコタツを購入した俺は無事家に帰ってきて設置に取り掛かっていた。
足を6つ取り付けて~、布団を2重にして~、コンセントをさして~、テーブル板をのっけて~。
はい、完成!
「よし出来た!みんな入っていいぞ~」
「「「「 わーい! 」」」」
嬉しそうにはしゃぐ子供3柱+1冊。
アサトとヨルトとベルはダッシュでコタツに滑り込んでいく。
ネムトは俺の手をちっちゃい手で包みこみ俺を引っ張る。
「一緒にはいろー」
「ほいほい、んじゃ行くか」
とネムトを抱き上げてコタツに向かっていると俺の隣から気配もなく自然に声が聞こえる。
「そうだな…コタツが呼んでいる」
そこにいたのは我が家にいるが行動時間より睡眠時間の方が多い
伝説の生き物【不動要塞ツァトグア】がそこにはいた。
「おう久しぶりだな、なんか2カ月くらい動かないからくたばったかと思ってたよ」
「1年くらいは熟睡してもセーフだろ?きっと」
「明確にアウトだよ」
どうやらコタツの気配を感じ取ったのか不動要塞が遂に動き出した。
奴曰く「コタツの波動を感じ取った」とのことだ。
……いやコタツの波動ってなんだよ。
こうして一家揃って(部屋でプラモを始めた暇神以外)コタツに入りました。
みんな緩んだ表情でぬくぬくぬくぬく。
たださゆりだけ何故か頭をコタツの内側にいれてるんだけど…大丈夫かな?
外から見たら完全に殺人現場ですよこれ。
でも入り方は人それぞれなので放っておこう。
俺も幸せそうな表情で眠っているネムトを俺の上に抱きコタツに入っているし。
……あぁ~堕落するんじゃあ~。
少し眠くなりながらとりあえずここから「夕飯の準備の時間までゆっくりしようかな」と俺が考えていたそのとき玄関から誰か入ってくる音がする。
誰か来たみたいだ。
足音の落ちついた感じからしてイホウンデーさんかイグさんだろう。
そう思いながら来訪者を待っているとリビングの扉が開く。
「やあ!やあ!久しいぶりだね!イグ廣さんだよ!」
そこに現れていたのは最近忙しくてうちに来ていなかったイグさんだった。
「ああ、イグさん久しぶりですね。すいません、今ネムトが俺の上で寝てるんで」
「いやいやそのままでいいよ。
仲睦まじい夫婦の邪魔をするほど野暮ではないさ」
よっこらせと食卓の方の椅子に座るイグさんの図。
「そうそう、ナユタ君また奥さんが増えたんだってね。
おめでとう」
「どうもです」
と話していたらいつの間にかコタツから出て起き上がっていたさゆりがイグさんに挨拶を始める。
「どうも初めまして私は…」
「東風谷・小百合さんだね。
始めまして僕はイグというものだ。
神をやっているが偉ぶるつもりもないから気軽にイグと呼んでくれ」
「はい、イグさん…あれ?何で私の名前を?」
「君のことはうちの子たちから聞いているよ。
とても優しくて気の利く良い娘だとね」
「……うちの子?」
疑問を顔に浮かべたさゆりに朗らかに笑ったイグさんが答えを渡す。
「ああ、この姿では分かりにくいかもしれないけれど…僕は蛇の神なんだ。
だから君が有馬探偵事務所の面々と一緒に僕の子…蛇人間たちと仲良くなったことは聞いてるんだ」
「ああ!なるほど!
蛇人間さん達の信仰している神様ってイグさんだったんですね」
「ああ、そういうことさ。
…それにしてもつくづくなナユタ君は神に縁があるね。
5柱目の奥さんも神様だなんて」
イグさんの何気ない発言に俺とさゆりは顔を見合せ頭の上に「?」を浮かべる。
「あのイグさん、さゆりは人間ですよ?」
「種族的にはね。
だが外宇宙では神同然だし……うん?もしかして知らないのかい?」
「何をですか?」
「いやさ、さゆりちゃん…外宇宙では君と同じくらい有名な神様だよ?」
…ええええええええええええええええええええ!?
何それ?初耳なんだけど?神?さゆり神だったの?
耳を疑う言葉を聞き驚きの表情でさゆりに視線を向ける。
「…ええええええええええ!!!???」
俺より驚いていた。
ということはさゆり本人も知らなかった様だ。
慌てた様子のさゆりがイグさんに詰め寄る。
そりゃ知らないうちに神とか呼ばれたら慌てるわな。
「ど、どうして私が?私一般人ですよ!?」
「君たち確かうちの子たちの狩りをするゲームを手伝っていたんだろう?
そのときに君と一緒に行ったら落ちにくいレアアイテムが100%落ちたらしいんだ。だから蛇人間たちの中では君を『幸運の女神』と呼んで信仰している者もいるよ」
「ゲームで運がよかったら神なんですか!?」
「えええええ」という感情を顔の全面に出しているさゆり。
だが確かにそれだけで神と呼ばれるのはなんというか「神…安くね?」
みたいなことを思ってしまう。
しかし理由はそれだけではなくイグさんが話を続ける。
「もちろん理由はそれだけではないさ。これはただのきっかけだ。
神として扱われるようになった原因は…さゆりちゃん君が、
『主神と副審の戦いを止めて地球の壊滅を阻止したから』だ」
理由を聞いて「あっ(察し)」する俺。
そういや言ってたな…アサトとヨルトの喧嘩止めてたって。
しかし本人は自身のしでかしたことに気が付いてなくイグさんに抗議していた。
「私そんなことしてないですよ!?」
「んー?この噂の情報源はイホウンデーだから間違いはないはずだけどなぁ」
何してんですかイホウンデーさん。
「少なくとも君がアザトースとヨグソトースの戦いを止めたのは事実のはずだけど…」
「私アザトースとヨグソトースなんて神様知らないです!」
連呼される2つの名前。それに当然反応するのは…アサトとヨルトだった。
コタツから這い出てきたアサトとヨルトがさゆりの背中をツンツンする。
「…ん…よんだ?」
「なに?どうかしたのさゆり」
「あ…えっとごめんね少しだけ似てるけどアサトちゃん達じゃないの。
アザトースとヨグソトースって神様の戦いを私が止めたって間違いの噂がね…」
「…?…間違いじゃないよ?さゆりが止めてくれたの…ね、ヨルト」
「うんうん、お姉ちゃんと私の喧嘩を止めたのさゆりだったよ。
…忘れたの?」
「…えっ?……あれ?」
ロリ神2柱の言葉を聞き首を傾げ考え込むさゆり。
そして過去の会話からある答えを導き出した彼女はギッギッギッと俺の方に首を回して視線を向ける。俺に確認した方が早いと思ったんだろう。正解です。
コタツに眠っているネムトを優しく置いた俺はコタツから這い出てアサトとヨルトの後ろに行き頭を撫でながら改めて紹介する。
「えーっとだな…アザト―スのアサトと…ヨグソトースのヨルト…だ」
「「 えっへん! 」」
何故か自己紹介されると胸を張るアサトとヨルト。可愛いぜ。
そして嘘偽りなく主神と副審の
そして涙目で頭を抱えて天を仰ぐさゆり。
「…そ、そんなぁ~」
もはや否定も許されず否定したとしてもおそらく無駄だろう。
既に信仰している方々もいるらしいからね。
こうして全くの非もなく外宇宙における幸運の女神が爆誕したのであった。
「うぅ…ナユタ君…」
「よしよし」
涙目で俺に抱き着いて嘆く妻を俺はポンポンしながら宥める。
勝手に神呼ばわりされるのは俺も経験あるからな。
今日は一緒に朝まで飲み明かそう。
なんやかんやで今日も我が家は平和です。
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