第62話 新しい家族の入場です

 諸々のやりとりの後、またしても新しく妻が増えてしまった今日この頃。


 やるべきことはこれで本当に済んであとは瞬達を送り届けて俺達も帰ろう…

 と、思っていたのだが。


 小百合がうちに嫁にきたことで一つ新しい問題が生まれたのだった。

 それは。


「あー…小百合抜けたから今後はあたしら3人で依頼こなしていかなきゃいけないのかぁ…きついなぁ」


「こればっかりは仕方ないにしても…この3人か」



 不安そうに互いを見る瞬と彩芽。

 そんな二人の様子を見た誠が「がっはっはっは!」と元気に笑いながら二人に話しかけた。


「安心しろよ!俺がいれば何とかなるぜ!」


「「 むしろお前が一番の問題なんだよっ! 」」


 目下一番の問題の権化である『脳筋』誠はどうして二人が怒っているのか理解できずに首を傾げている。


 悪気はないんだがアイツの阿呆は筋金入りだからな。

 俺がまだ探偵事務所の手伝いをしているときは大変だった。


 ストッパーを進む方向に置いておかないと暴走列車並みにどこかに行ってしまいそうになるからな。


 などと少し離れた位置から小百合の頭を撫でながら眺めていると、

 若干キレ気味の彩芽がこちらを「くわっ!」と睨む。


「ていうかナユタ!あんたの引き抜きのせいでこっちが大変になってんだから何とかしなさいよ!ほら『どこでも〇ア』とかあんでしょ!」


「ねぇよ!ていうか小百合をこっちに誘導したのはお前だろ!」


「うえーん小百合ぃ!ナユタのせいで次の依頼で死んじゃうよぉ~!」


「…あははは…えっとナユタ君、どうにかできないかな?」


 若干遠慮がちにこちらを見てくる小百合。

 そして俺の位置からだけ見える「してやったり!」と悪い顔をしている彩芽。


こいつ…妻になった小百合のお願いを俺が断れないことをわかってて言ったな…。

 

 彩芽の思い通りに動くのは少々腹立たしいが確かに俺が原因の一端ではあるので一応やるべきことはやっておこう。


「ベル、ちょっと補助頼む」


「了解」


「んで、瞬はその拳銃、彩芽はそのネックレス、誠はいつもつけてるお守り、

 こっちに貸してくれ」



 俺にそう言われ首を傾げながらこちらに言われたものを渡す3人。


 さて個人で必要な魔術を付与しておけば何とかなるだろ。


 

◆◆◆◆◆



――こうして少しの間ベルとともに魔術を使用すること10分。


 出来ましたお手製魔術装備~。


「はい、瞬にはこの

『身体能力向上魔術のかかった弾切れなし弾威力向上型フルオート拳銃』な」


「お、おう。…それってもはや機関銃じゃ…?」


「で、彩芽はこれ。

『身体能力向上魔術のかかった半径500メートルの生き物と魔術を感知してある程度の魔術を任意で解除するネックレス』だ」


「チート武器キタァ!これで余裕っしょ!」


「調子に乗って加減を間違えるなよ?

 まぁお前と瞬はは大体落ち着いてるから大丈夫だと思うけど」


「わかってるって!武器強くても勝てない相手がいることぐらい。

 これからはこれで見つけて勝てそうなら瞬が蜂の巣にすればいいだけだし」


 ちょっとセコイくらい強化したが…こいつらは意外と常識人なので使い方を誤らないだろう。


 でこれで最後なのだが、


「そんで俺のは?あんまり小難しい機能とかあると扱えないんだが…」


「だろうな。安心しろシンプルだ」


 探偵事務所の『特攻野郎』誠にはその名誉職を存分に発揮してもらう、

  かつ馬鹿のこいつが扱えるものというなかなかハードな要求だったが、

 どうせいろいろ機能をつけても9割使えないだろうな…と思った俺は機能をつけなかった。


 そしてその空き枠には扱う必要のない魔術を込めておくことに。

 …その結果。


「はい『身体能力超向上と自動回復能力付きのお守り』だ。

 簡単だろ?」


「まじか!自動回復とかめちゃくちゃいいな!

 サンキューナユタ!」


「傷が治るのお前だけなんだからあんまり突っ込みすぎるなよ?」


「おう!任せとけ!」




 これで3人にちょっぴり強い武器が出来たことだろう。

 …えっ?やりすぎ?


 ……まぁ…友人なので甘くなっているのはあるかもな。

 悪用するような奴らではないから許してほしい。


 こうして発生した問題も無事解決。


 そして有馬探偵事務所の3人は新装備を身に着けて俺が生み出した門を通って近所の神社へと帰っていく。


「じゃあ俺達は行くよ。またなナユタ、小百合」


「小百合~!初体験したらおしえてね~!」


「じゃあな~ナユタ」


 門をくぐる3人を俺と妻4柱+1人で見送り俺達も家に帰ることに。


 門をくぐりながら俺はため息を吐く。


 ……なんかすっごい濃い1日だったような気がする。


 横目で新たに加わった妻、サユリを見る。


 とりあえず発狂しないようにSAN値を護る魔術をベルと創ったので、

 門をくぐったらサユリに付与しておこう。


 何となくだが…俺の家には不定の狂気まで一瞬で連れていきそうな奴がいる気がするしな。



 ◆◆◆◆◆



 で戻ってきました外宇宙の我が家。


 今現在俺は妻とサユリと一緒に廊下にいる。


「………よしっ!これで変なの見ても正気を失わないぞ」


「ありがとうナユタ君。…でも家の中なら大丈夫なんじゃないの?」


「いやぁ…どちらかというとウチでは中の方が危険かなぁ」


 肉体の保護魔術も一応かけてこれで良し。

 ニャルは現在奥さんたちとラブラブ(滅)している頃だろうから今の家にはシャンタクと猫と不動要塞ツァトグアくらいしかいないだろう。


 シャンタクは最初見たら驚くかもしれないけど可愛い奴だからすぐにサユリには馴染むだろう。



 万全を期してリビングの扉を開けて妻たち共々中に入る。


 するとそこには像の頭の女性が大上段の構えでこちらをみて、

 血走った目を向けながら全力で走り寄ってくる光景があった。


「ヒャッハー!新鮮な血はいねぇがぁ!新鮮な血は…」


 足元に門の創造を作り出してそこにいる明らかな害悪をボッシュートする。


「はい次は南極~南極~」


「いやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ凍っちゃうぅぅぅぅぅぅ!」


 門に落ちて南極に消える駄神。


俺は大きなため息を吐きながら後ろで驚いた表情のサユリに苦笑いしながら言う。


「……な?しておいてよかったろ?」


「…うん…そうだね。

 アサトちゃん、ここっていつもは…」


「…ん…大体こんな感じ…」


「チャウグナーはあれが普通だね」


「でふぉるとー」


「サユリよ、諦めよ。ここではあれはよくある光景なのじゃ」


「そっかぁ」


 何かこう…いろいろ諦めたような表情でいるサユリの頭を撫でて劣悪な我が家の現状をごまかすのだった。



 ◆◆◆◆◆



 いろいろな問題を先送りにして我が家と我が家に住み着いている者の説明をニャル製麻婆豆腐を食べながらサユリにする俺とアサト達。


 相変わらず無駄にレベルの高い麻婆でした。


「んであそこで寝てるのが不動要塞ツァトグア。堕落の神だ。

年中無休で寝て…いや年中無働で寝ている神だから置物とかと一緒の扱いでいい」


「いいのかなぁ。はいシャンタク、あ~んして」


「ぎゃう!」


 俺の説明を聞きながら自身の肩にとまっているシャンタクに麻婆豆腐を食べさせるサユリ。


 既にシャンタクに懐かれているあたりやりおる。


「なるほどね。じゃあここにいるのってみんな神様が多いんだね」


「来客も大体神だな。

 いつのまにか俺が神呼ばわりされてからは神のたまり場になってる」


「そうなんだね。……あれ?じゃあもしかしてアサトちゃん達も」


「…ん…私達も一応神…」


「神なんだよ~」


「かみー」


「我も猫神じゃな」


 ゆったりと各々が返答する。

 だが、アサト達の返答を聞きサユリはなぜか表情を暗くした。


 そして少し元気のない声で聴きづらそうに俺に問いかけてくる。


「…ナユタ君…その…私だけ神様じゃないんだけど…場違いかな?」


 しょんぼりとした表情でこちらに問うサユリ。

 夫婦の中で唯一人間の自分がここにいていいのか不安になったようだ。


 …いや待って…俺は人間ですよ?


 不安そうなサユリを撫で落ち着かせるようにしながら俺は話す。


「サユリ、別にみんなは神様だからここにいるわけじゃない。

 みんな俺の大切な家族ってだけだ。

 場違いなんかじゃないしむしろ俺の大切な人なんだから傍にいてくれないと困るし嫌だ。なっ?みんな」


「うんうん」と首を縦に振る俺の妻たち。

 もうすでにサユリはこの家のいなくてはならない存在という証明だ。


「これからもよろしくなサユリ」


「…ん…よろしくサユリ」


「よろしく!サユリ!」


「よろしくーサユリ―」


「よろしくなのじゃ、サユリ」


 皆に一斉によろしくされたのが感極まったのか泣き笑いをしているサユリ。

 そして先ほどの不安が払拭された明るい笑顔で俺達に答えを返してくる。


「うん!ナユタ君、みんな、これからよろしくね」



 こうして特に問題もなく我が家に5人目の妻が加わった。

 やることも心配事も増えそうだが…別に嫌ということは無い。


 愛してもらえている証みたいなもんだからな。




 今日もが我が家は平和です。




 …ちなみにこの後でデロンデロンになったニャルとカチコチの象の氷像になったチャウグナーが帰ってきました。

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