第61話 4回あることは5回あるらしい。

 俺の説教からしばらくして…。


 俺の横には借りた人間の体で土下座をしているシャン達が有馬達に向かって頭を下げている。


 今回のことでだいぶ迷惑をいろいろな人にかけていたようなのでとりあえずの謝罪である。


「「 本当に!すいませんでしたぁ! 」」


「声が小さぁい!」


「「  本当にぃ!すいっませんでしたぁぁぁぁ!  」」



 額を地面にこすりつけながら大きな声で謝罪するシャン達。

 そしてその横で満面の笑みで満足げな俺がいた。


 いやぁ…いままで溜まりに溜まっていた不満が浄化されたような気がする。

 これでくそ中2ネームの怨念はチャラにしてやろう。


 ちなみに俺とシャン達の向かい側にいる有馬達はもはや苦笑いである。


 この後、瞬達と話し合った末シャン達には家族にも謝罪を入れ、


 乗っ取っていた体を元の健康な状態に戻して返すということになった。


「いいか?しっかり謝って今後同じことが無いようにしろよ?

 菓子折りも忘れずに持って行けよ?」


「はい!わかりました!

 あとこの体の持ち主が患っていた虫歯も治しておこうと思います!」


「うんうん。いい心がけだ」


 俺にこってり絞られたためかその瞳はとても煌いていた。

 教師の指導で改心した学生のようだぁ。


こうしてシャン達は今回の騒動を収め撤退。


持ち去られていた体も無事返された。



 ◆◆◆◆◆



 探偵事務所の事件も無事解決し、

 屋敷の地下の部屋の中で俺達は門をくぐっていくシャン達を見送る。


 で、その後。


「おっし、片付いたな。じゃあ帰るか」


「ん」 「うん!」 「おー」 「のじゃ」 「了解」


 妻たち+αのそれぞれの返事を確認した後に俺は瞬達の方を見る。


「瞬達はどうやってここまで来たんだ?」


「ああ、僕たちは…」


「電車~……あーまた電車の中でやることない時間が続くのかぁ。

 めんど~」


「寝てればいいだろ?」


「誠みたいに電車の中でぶっ通しで寝れるわけないでしょ!」


「あははははは…」


 キーキーと誠に文句を言っている彩芽に叩けれている誠、そしてそれを苦笑いで見守る瞬と小百合を見ながら俺はふと思いたことを伝えた。


「なんなら事務所近くの神社まで送ろうか?

 魔術でならすぐにすむし」


「「 まじで!? 」」


 驚きつつ同じリアクションをする誠と彩芽。

 こいつら実は同じくらいの知能指数なのでは?


「いいのかナユタ?」


「それくらいなら別にいいよ。お前ら送ったら俺は外宇宙に帰るしな」


 瞬と俺がそう話していたそのとき、小百合の小さな呟き声が聞こえた。


「…帰っちゃうんだ」


「俺の今の居場所はあっちだからな。でもまぁいろいろ問題も解決したし、

俺の今の携帯番号ぐらいは伝えておくから困ったときは電話してくれ」


 門を開き俺が帰る準備をしているとふと周りから刺すような視線をいくつか感じて目を向ける。


 そこには俺のことをジーッと見ている瞬、誠、彩芽、そして何故か俺の妻たち総勢である。


 …なんだ?何か言いたいのか?

 だったら口で言いなさい!見つめられても俺には何もわからん!


 なにやら抗議のものらしい視線を受けている俺。

 なんかまずいことでもいったか?


 どうしていいものかわからず俺が硬直していたそのとき、

 彩芽が何やら小声で妻たちと話している。


「ねぇ…もしかしてなんだけどさ…ナユタに告白された子っているの?」


「……ん…いない…私達から…」


「私からー旦那様ー」


「私も自分で言った」


「我からじゃの」


「…そっかぁ…」


妻と話し終えた彩芽はもはや呆れたような、ゴミを見るような目でこちらを見る。

 ……なんだよう…何か言ってくれよぉ…終いには泣くぞ。


 妻たちの元を離れた彩芽は今度は小百合のところまで行って話し出す。

 今度は先ほどとは違い大きな声ではっきりと。


「あのさぁ小百合、はっきりいっちゃうんだけどさ。

 多分このたらしは言われるまで気づかないからさっさと言っちゃいなよ

 …『私も連れて行ってください』って」


「あ、彩芽ちゃん!?」


 突然の彩芽の発言に驚く小百合。


 意図が分からず固まる俺。

 ……小百合…俺の家、見てみたいのかな?


 そしてそんな俺を見てため息を吐く彩芽。

 ほっこりした顔でこちらを見る妻たち。


 どうやら俺の知らないことをみんなは知ってるような雰囲気を感じる。


「ていうか小百合が言わないなら私が言うわ。

 というわけでナユタ、小百合あんたのこと好きだから持って帰ってどうぞ」


「彩芽ちゃん!待って!待って!」


「待たない。と言うかこの間までナユタに会えずにしょんぼりしてたんだから。

 会えたならさっさとお持ち帰りされちゃいなよ!」


「あわわわわ…」


 顔を真っ赤にしておろおろしている小百合。


 …えっ?まじで?小百合が俺のこと好きって…えっ?まじで?


『ギッギッギッ』とさびた扉のような音を出しながら首を瞬と誠に向ける。

 そこには俺を見ながら『うんうん』と頷いている二人の姿。


 …まじか。


「瞬…まじ?」


「そうだよ。昔から小百合はナユタのこと好きだったと思う。

 具体的には中学のころからは露骨だったかな」


「あんまり賢くない俺でも気づいたぜ!」


 なんと傍にいた瞬は気づいていて俺が気づいてないだと。

 しかもアホの誠でも気づいているなんて!


 …そういえば昔から仲良くしていたな…

 …好かれていたのか………まったく気づかなかった…。


 動揺する俺はとりあえず小百合に視線を戻す。

 そこには俺よりさらに挙動不審になっている小百合がいた。

右を見て左を見て頭から煙を吐きだし、かと思えばまた左を見て右を見てまた頭から煙をプシュー。


…瞬間湯沸かし器?


 で、俺と小百合の目が合う。


 しばらく見つめ合い、お互いに固まっていたが小百合が覚悟を決めたのか、

 自身の頬を叩いて気合を入れた後にこちらに真っ直ぐ視線を向ける。


「な、ナユタ君!ずっと昔から好きでした!」


「お、おう…OH…」


 さて改めてしっかりと告白されてしまいました。


 はっきり好きだといわれた以上返答しなくてはいけない。

 …いけないのだが。


「…俺と一緒に来るってことは外宇宙に行くってことだぞ?

 いいのか?」


「大丈夫!覚悟はできてるよ!」


「突然ニャルを燃やす神様とか、突然ニャルを拷問する神とか、

 年中眠ったままの神とか、像の顔で『血をくれぇ!』とか言って突っ込んでくる神とかいるけど大丈夫か?」


「だ、大丈…夫…かな…?」


「俺の傍にはいろんな奴が来るけど中には危ない奴とかもいるかもしれない。

 …それでも来るのか?」


「…それでも私はナユタ君と一緒にいたいよ」


 お互いに目と目で見つめ合う。

 どうやら決意は固いらしい。


 あとは…、


「あー…でも俺の妻たちが…」


 スッと妻たちに視線を向けると、

  すでに両手を使い頭の上で「〇」を作っている妻達。


 迷いねぇなぁ…俺が見る前からもう「〇」作ってたし。


 断る理由もなくなり許可もおりて、

何より俺自身も小百合のことは嫌いではない。

 

 長い付き合いだしな。


 なら答えは単純だ。


「わかった。俺も小百合のことは好きだよ。

 だから一緒に来るか?」


 自分の意思を簡潔にまとめて言い放つ。


 そしてその俺の言葉を聞いた小百合は最初は呆けていたが少しすると、

『はっ!?』とした後嬉しそうに笑顔で元気に返事をした。


「うん!うん!」



 まるで自身に確認するように2回返事をした後に、

 飛び跳ねながら彩芽に抱き着く小百合。


「やった!やったよ彩芽ちゃん!私できたよ!」


「あーはいはいご馳走様。

 あたしら知り合ってから結構経つし…『いつ告白するのかな?』とは思ってたけどまさか大学終わっても告白しないとは…。もうダメかと思ったよ」


「あははは…後押しありがと」


「これ以上遅れたら30歳過ぎても言わなそうだったしね」


「そ、そんなことないよぉ!」



 嬉しそうにじゃれている小百合と彩芽を見ながら俺は心の中で思う。


 我ながら受け身ですでに5人目の妻が出来てしまったのだが…、

 男としてこれは大丈夫なんだろうか?


 いまさらながら瞬達がジト目で見てきた理由が分かった。

 そりゃ呆れるわな。


 俺に好意を持っている女性が付近にいても微塵も気づかないんだから。

 

 こんな俺のことを好きって言ってくれる相手の告白を俺は今後断ることはできるのだろうか…。


「う~ん」と唸りながら今後に不安を感じていたそのとき、

 俺の傍にちょっぴり照れている小百合が引っ付く。


すこし照れて抱き着かないところが愛らしいな。


 俺はそんな新しい伴侶の頭を手のひらで「ポスポス」としながら苦笑う。


 とりあえずは大切な妻たちを守ることに集中するか。


 こうして俺の妻は4柱+1人になりましたとさ。

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