第60話 巡り巡ってまた会ったなこの野郎!

「……つまり、ナユタはあのブラックホールみたいなのに落ちた後にそこのゴスロリ魔導書のベルちゃんのマスターになって魔術師になったと」


「肯定」


「で、その後に外宇宙でのんびり暮らしていて人間じゃないアサトちゃん達と、

 めでたく結婚して今に至る…と」


「じゃの」


「…つっこみどころ満載じゃん」


「…仕方ないだろ。あの時正直スマホ弄りながら死ぬか、

 ニャルの魔の手を掴むかの2択だったんだから」


「ひっどい選択肢」


「今思うとそうだな。

 まぁ…あの時は木の根っこの化身が現れたんだと思ってたし、

 そこまで悪い奴じゃあないんだよ…多分…おそらく…きっと…」



 説得39分。


 ようやくロリコン疑惑が解けた。

 こいつらの正気度を減らさないように、しかして嘘がないようにという面倒に面倒をかけたこの俺の努力を誰か褒めておくれ。


 向こうでは小百合とアサト達が仲良く話している。

 ホントいつの間に仲良く仲良くなったんだろ?


 はなし声はよく聞こえないが楽しそうで何よりである。


「…じゃあみんなで仲良くナユタと結婚生活してるんだ」


「…ん…のんびりナユタと一緒…」


「ゲームしたり料理作ったりしてるの!」


「一緒に寝たりーねたりー」


「人間の世界のスーパーに買い物に行ったりするのじゃ」


「そっかぁ………いいなぁ…」


「…さゆりも来る?…」


「ふぇ!?…で、でも…」


「さゆりならいいと思うよ?」



 なにやら楽し気に女子会が行われているため入れないからとりあえず今後について瞬とでも話しておこう。


 そう思った俺は隣で一緒にあっちを眺めていた瞬と彩芽、

 おまけの誠に向きなおる。


「そういえばお前らなんの依頼受けてここに来たんだ?

 敵地のど真ん中にいるとしかニャルから聞いてないんだよ」


「ああ、それは…」


「今回の依頼は二つあんの。

 1つは依頼者の兄の体の奪還。

 んでもう1つは神話生物の召喚しようとしている神とやらの召喚阻止」


 そう勢いよく言い放つ彩芽。

 そしてセリフを奪われた瞬が咳払いをして詳細を言う。


「今彩芽の言った通りで神話生物に依頼者のお兄さんが体を奪われている。

何でも人間の体に入り込むことのできる『シャン』って神話生物が…どうした?」


 聞き覚えのある神話生物の名前が出てき俺は頭を押さえる。

 前に家に来た奴じゃねぇだろうな…?


「悪い、ちょっと頭痛がな…続きは?」


「ああ、それでそのお兄さんの体を取り返すのが今回の依頼のメイン。

で、その神話生物が何でも新しい神を呼び出すための召喚式を作っていてそれが完成したらまずいからそれの阻止がサブだ」


「…新しい神?」


「ああ、なんでもアザトースを従えるようなやばい神…」


 と話しているとき横から「アザトース」という単語に反応して、

こちらに『てくてく』とアサトが歩いてきた。


「…んむ?…よんだ?…」


「ごめんごめん、アサトちゃんじゃなくて他の名前だよ。

 そっくりだから呼ばれたように聞こえたのかもしれない」


「…ん…そう…」


 呼ばれてないことを確認して小百合の元へと帰っていくアサト。

 それを微笑ましく見守る有馬探偵事務所の面々。


 ……言えない。


「聞き間違えでもなんでもなくその子がアザトースちゃんです!」


 …なんて真実はこいつらには言えない…。


「それで?その新しい神様とやらの名前は?」


 それとなく問いかけることで話題を逸らす。

 この高度なテクニックプレイ。

 ニャルとの会話がめんどいときに便利です。



「あぁ…えっと…そのやばい神の名前は『アムリタ』っていうらしく…、

 ……おい?大丈夫か?」


 両手で顔を覆う俺。

 あかんわ。


 完全にだわ!


 俺の家にいきなり襲い掛かり!


 俺の名前を聞き間違い!


 外宇宙の彼方まで斬新な中二ネームを広めたあの虫どもだ!


 ………あの恨みを晴らすときがついに来たのだ。


 かつての怒りの集大成が俺の中に完成する。

 あいつら許さん!とっちめちゃる!


「ベェェェル!虫!巨大ムシのシャン共はどこにいる!!!

 調べて!超調べて!」


 半ば暴走気味でベルを呼ぶ俺。

 瞬達が少し引いているが気にしている暇はない。


 一刻も早くお兄さんの体を取り戻さねばっ!(建前)


 そしてあいつらをボコボコのボコにしなければ!!(本音)


 …もしかして人生初めての一時的狂気では?


「マスター。この先にいる」


「そうか、よし瞬いこう!」


「この先にいるのか?」


「いる(断言)」


「えっもしかしてナユタ手伝ってくれんの?」


「手伝う(即答)」


「おいおい…助かるけどいいのかナユタ?」


「袖すり合うも他生の縁(早く行こう!)」


 瞬と彩芽と誠とのいろいろな会話をガン無視してさっさと行こうとする俺。


 いかんいかん冷静にならねば…ならねば。


「ふう…凄く落ち着いた(怒)」


「大丈夫か?」


「その神話生物俺の知り合いだから多分鎮圧できるし、

 さっさと行こう(怒)」


「お、おう」


「おーいみんな~この先に目的の虫がいるから行くよ~(怒)」



 小百合とアサト達をこちらに呼び戻し、いざ出発。


 道の途中にある罠は全て遠隔解除。

 その程度で俺の覇道を止められるとは思わぬことだ。


 立ちふさがる全てを俺が冷静な笑顔(ガチギレ)で対処し俺達はついに目的のこの建物の最深部に辿り着く。


 途中妻たちの、


 ヨルト「なんでナユタ怒ってるの?」


 ネムト「私怨ー」


 アサト「…ん…レアナユタ…」


 クロネ「怒っていても可愛いのじゃ」


 などなどのコメントは聞こえていたが聞かなかったことにした。

 特にアサトとクロネの言葉は怒りを鎮火されそうだったので。



 奥にある最後の部屋に通ずる扉を発見した俺は誠にGOサインを出す。


「いけ!誠!ショルダータックルDA!」


「よっしゃ任せろ!」


 即答して大きな扉に思いっきりショルダータックルした誠。

 …うわぁ…ほんとにやったよこいつ。


 相変わらずの頭空っぽぶりに俺は少しだけ冷静になりつつ、

 扉の破られた大きな部屋に入る。


 まるで科学研究室みたいになっているその部屋の中心。


 大きな幾何学模様の魔術式の上にいる悪い顔をした男女。


 そいつらが室内に入ってきた瞬達に気づき嘲笑を含めて話しかけてくる。


「脆弱な人間どもよ!よくここまで来たな!」


「だがすでに手遅れだ!召喚陣は完成した!

 これで我らが新たなる神をここに降臨させるのだ!」


「そうはさせないぞ!」


「そうそう!こっちには心強い助っ人がいんだから覚悟しなさいよ!

 あんたら倒してすぐにその魔術止めてやる!」


 シャン達に操られた男女の声に反応し威勢よく正義の味方をする瞬と彩芽。


 しかしそれを笑いながらシャン達は言葉を続ける。


 …なお、俺にはまだ気が付いていないようだ。



「残念だったな!魔術はすでに起動している!

 我らを倒してもこの魔術が止まることは無い!」


「なんだと!」


「くっくっく!これで我らが新たなる神!

』様をお呼びすることが出来るのだ!はっはっはっは!」



 その言葉を聞いた瞬間、微妙な空気に包まれる室内。


 振り返り俺を見る有馬探偵事務所の一行。


 耳まで真っ赤な顔を両手で隠す俺。


 微妙な顔で「あー成程」という顔をしている俺の妻たち。


 何この公開処刑。


 俺達の微妙な空気を察したのかシャン達がこちらに気づく。

 そしておれが召喚されるまでもなくここにいることにも。


「…ナユタ様?」


 顔を覆い隠していた手を降ろしゆっくり、ゆっくりとシャン達に近寄る俺。


「おいお前ら…ちょっとそこ座れや」


「えっ?…いや…あの」


「座れや(激怒)」


「「 ……はい 」」


 この後、数十分にも及ぶ説教にて反省を促し、

 あと中2ネームの恨み辛みを晴らす俺の図。


「お前らさぁ…人の話は最後までちゃんと聞けや。

 お前らのおかげでいつの間にか世界を統べる神(笑)とか外宇宙を統べる神(笑)だとか、たいそうな名前が付いてんだぞ?


 …なんでやねん!俺外宇宙で平和に暮らしてただけだぞ!

 妻たちと平和に暮らしてただけだぞ!

 なんで!ドラク〇の!魔王みたいな!扱いに!なってんだよ!!!


 あとな…勝手に俺の召喚陣とか作ってんじゃねぇよ。

 そういうことするときはするとしても俺に一言いえや。

 分かったか?返事は?」


「「 ……はい、すみません 」」


 一体化している依頼者のお兄さんの体で正座しているシャンともう一人の女の体に入っているシャンが弱弱しく返事をする。


 これでこいつらも改心するだろう。

 …私怨なんてない!ないったらない!


こうして有馬探偵事務所の危険な依頼は無事解決しましたとさ。

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