第59話 説明するときは過程を大事にするんだよ?

 …さて…困ったな。


 障壁を魔術ではりながら瞬達の前に立つ俺は完全に固まっていた。


 いやだってさぁ…

 最初からこいつらに会いに行くってわかってたならまだしもさぁ…。


 アサト達のために急ぎ足で来たから頭の整理が追い付いてないって言うか、

 ぶっちゃけどう説明したものか困ってるんだよなぁ。


 しかしこのまま固まっているわけにもいかないし続きを話すとしよう。


「…あーっと…なんだ…みんな元」


『ガンッ!』(槍がぶつかる音)


「…まぁあれだ一応こうして無事に」


『ガガッガッ!』(いっぱい槍のぶつかる音)


「…怪我とか」


『ガガガガガッ!』(どうあがいても槍のぶつかる音)


 ブチッ!


「…うるせえよ!!!!!!」


 さすがに堪忍袋の緒が切れた俺は振り返ってムーンビーストの方を向く。


 人の話し中に大きな音を立てるなとお母さんに教わらなかったのか!


「…な、ナユタ?」


「悪い!ちょっと待ってくれ!話す内容的にも、あそこのカエルの相手的にも!」


 小百合がこちらに話しかけようとするが…

 どうせ妨害が入るのでいったん後回しにする。


「ベルそのまま障壁の維持を頼む!」


『了解』


 魔導書モードのベルを宙に手放すと俺は両手を地面につけて魔術を発動する。

 効果は鎖でカエルを縛るというものだ。


 と言うか最近ムーンビースト流行ってんのかな?

 福岡でも見た気がする。


「これで良しっと!ネムト!クロネ!あと頼む!」


 俺の声に反応した2柱がこちらにアイコンタクトをしてくる。

 可愛いぜ…。


 とか頭の中で考えていると、

 後ろの小百合の驚いたような声がこちらに聞こえてくる。


「…あっ!?あなたは…!?」


「久しいの。以前と言い今回と言いアサトとヨルトが世話になったのじゃ。

 少し待っておれ。すぐにあのカエルを掃除するからの」


 そういえば会った事あるんだったな。


 俺の知らないところで妻たちの交友関係が自然に増えている。


 喜ばしくもありちょっぴり心配だったりするが、

 そこは妻たちを信頼しているので大丈夫ということにしよう。


 クロネに抱かれたままのネムトがちっちゃい手のひらを前にかざす。


「みずはいかがー?」


 緩~い発言とは裏腹にとんでもない量の水が室内に現れカエルたちを沈める。

 こっちにはベルの張っている障壁があるので水は来ていない。


「クロネーあとよろしくー」


「うむ!任せるのじゃ」



 元気に返事をしたクロネは両の手に黒色の電気のようなものを纏い、

 それを両手の指先に集めていく。


「落ちよ!冥界の黒雷よ!」


 指先から放たれた黒い雷は水を伝って部屋中に伝わり障壁の外は一瞬で水蒸気に包まれる。


 そして水蒸気が晴れたそこには…何もいなかった。

 あるのは黒色の無数の床のシミだけ。


 やだ…うちの妻強すぎ…。



 ◆◆◆◆◆


 カエル軍団の掃除を終えて再び向かい合う俺と有馬探偵事務所のメンバー。

 気まずくて黙っているとあちらから待機していたアサトとヨルトがこちらに走ってくる。


「「 ナユタ~ 」」


 子供の体でこちらに走ってくる姿は愛嬌があるが今回は一つ叱らなければならないことがあるのでこちらに走り寄ってきたアサトとヨルトの頬をつねる。


「…んぁ…いふぁい…」


「いふぁいよ~」


頬をつねられてちょっぴり痛そうにしているがこれはお仕置き…お仕置きなんだ。


…痛くないと意味がないんだ……でもちょっと強かったかな?弱めておこうかな?


「アサト、ヨルト、何か言うことあるか?」


 ジト目でそう尋ねる俺にちょっぴりしょんぼりした2柱が返事をした。


「…勝手に出かけてごめんなさい」


「ナユタ寝てたから起こさない方が良いかなって…。

 ごめんなさい」


 素直に謝ってくる2柱。


 うんうん、ちゃんと悪いことをしたことを認識しているのはいいことだ。


 うちの他の神だったら「俺は悪くねぇ!」とか「そんなことより血をくれ!」

 とか言いそうだな。


 怒られてしょんぼりしているアサトとヨルトを抱き寄せて頭をいつものように優しく撫でる。


「わかったならいいよ。あと小百合たちを助けてくれてありがとうな」


「…うん」「うん!」


 撫でられてすっかり笑顔に戻り嬉しそうな2柱を俺はひたすら撫でる。

 無事でよかったよ、まったく。


 そんな感じで對馬たちを撫でていたそのとき、

 他のメンバーから声がかけられた。


「な~んだ、魔術師になったとか言っても結局いつものナユタじゃん」


「そうだな。まぁ昔からあんなだしそこは変わってないんだろう」


「違いないな!あっはっはっはっは!」


「うん、ナユタらしいね」


 俺を笑いながら見る瞬や小百合たち。


「…そりゃどうも。お前らも相変わらずだな。

 特に瞬。お前依頼はちゃんと選べっていつも言ってただろ?

 何でこんな危険地帯に来るんだよ?」


「僕らもそれなりに場数はこなしたからな。

 それに最近『怪異探偵』とかいう称号が付いてそういう依頼ばっかりなんだ。

 受けなきゃやってられないんだよ…」


「何やってんだか…」


 互いに苦笑いする俺と瞬。

 お互い苦労が絶えんなまったく。


「それはそうとナユタ!お前今までどこいたんだよ!」


「そうそう!生きてたんなら連絡くらいよこせっての!」


「ほんとお前らも相変わらず空気読まねえな…」


 会話に割り込んでごり押しで話し出す誠と彩芽。

 お前らはもう少しマイペースを押さえろ。


「あの後いろいろあって魔術師になって。

 それで今は別の場所に住んでるんだよ。

 …ていうかさっき魔術師になったって言う前に知ってた?」


「うん、そりゃまぁ聞いたし」


 そう彩芽が答える。……誰に?


 思い当たる節がないか考えようとした俺の後ろから急に門が開きそこからニャルが湧き出てくる。


「そりゃあ俺だぜ!AIBOO!」


「突然沸くんじゃねぇよ。ていうか余計なことを…」


「お前が変に気を使ってたから俺が仕方なくやってやったんだろ?

 …べ、別にあんたのためにしたわけじゃないんだからね!」


「男の体でツンデレは需要ない」


 門から出てきてクネクネしているニャルに俺がボディブローを入れていたら瞬達から驚きの声が聞こえる。


「出たなニャルラトホテプ!」


「あんた今度は何企んでるのよ!」


 出会って数秒でこのリアクションである。

 ニャル相手なら当然の反応なんだろうけど今回はこいつ特に悪いことしてないから冤罪なんだよな。


「くけけけけけ!そりゃあもちろん世界を征服し俺の帝国を作り上げていずれは『ニャラリンピック』とかを開催するのさぁ!ひ~ひっひっひ!」


 前言撤回。

 相手が相手だと、とりあえず挑発するのやめろ。


 このままだと話が面倒になるので俺はニャル回収班をコールすることにした。


「ニャル」


「ん?何ぞ?」


「ボッシュートになります」


 こいつの足元に門を創る。

 そして伝家の宝刀『ヤクザキック』

 相手は強烈な衝撃に襲われ門へと落ちる!


「ぐっは!?」


 門の中に吹っ飛ぶニャル。

 しかし執念で手足をバタバタして門の端にしがみついた。

 ゴキブリか何かかな?


「ふははははは!終わらん!まだ終わらんよ!

たとえ奈落の底に落ちようと首だけになってでもこいつらを弄りに来てやるわ!」


「そうかそうか」


 悪あがきをしているニャルに向けて俺は右手人差し指を使って門の転移先の下、

 これからニャルが落ちる場所を指さす。


 つられてそちらを見るニャル。


 そこには『グツグツ』と煮えた大型の鍋とその両脇に満面の笑みで佇んでいるニャルの奥様と自称奥様がニャルに『おいでおいで』をしている。


 地獄の3丁目かな?


「イヤダーシニタクナーイシニタクナーイ!」


 門の先へとニャルが落ちたのを確認してさっさと閉じる。

 どうせあの後絶叫しか聞こえないしな。


「何も見てない何も見てない」


 唖然とする瞬達にそう言っていた俺に小百合が近づいてくる。


 そして俺の傍にいるアサトとヨルトを見て1つ尋ねてくる。


「そう言えばナユタ…アサトちゃん達とはどういう関係なの?」


 ドストレートに核心をついてきますね!

 それを一番聞かれたくなかったよ!畜生!


 落ち着け俺~!冷静になれ!KUURUになれ!

 …じゃなかったcoolになれ!


 俺が精神の鎮静化を図っていたそのとき、

 気づかぬ間に横並びになっていたアサトとヨルト、ネムトとクロネが話し出す。


「…ん…星野朝兎…那由他の妻」


「星野夜兎、同じく那由他の妻」


「星野眠兎ー旦那様の妻~」


「星野黒音、那由他の妻なのじゃ!」


「リベルギウス。マスターの物」



 ………オワタ。


 一番駄目な自己紹介をする俺の妻たち。

 過程を!過程を大事に!


 あとベルさん!なんで自然に混ざってるんですかね?


 恐る恐る瞬たちの方を向く。


「そうか、魔術師になった代償は大きかったのか…」


「ロリコンとか普通に引くわぁー」


「わ、私のせいでナユタがロリコンに…」


「…いやぁ、まぁ、あれだ。ハーレムっていいよな!

 分かる分かるぞナユタ!」



 案の定のロリコン認定である…畜生。

 それと誠はあとで1発殴る。


「仕方ない…ナユタあとで一緒に警察に行こう」


「ひくわぁー」


「だ、大丈夫。小さい子が好きでもナユタはナユタだよ!

 そ、それにクロネさんもいるしギリギリセーフだよ!」


「幼女に手を出すのはいけないけどまぁ多少はな!」


 好き放題言いまくる瞬達。

 ちゃうねん!俺ロリコンちゃうねん!


「だぁぁぁぁぁ!お願いだから説明を聞いてくれぇぇぇぇ!」


 この後、しばらく俺のロリコン容疑は解けなかった。


 …だからこいつらにすぐに会いたくなかったんだよ。

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