第58話 報・連・相…これ大事な!
―――ニャル自室
人間の世界でアサト達が冒険していたその頃。
「あいつら変なことしてないだろうなー」
口でそう言いつつも自分のプラモ作りを優先する神ニャルラトホテプ。
実はナユタの友人を助けるかどうか悩んでいたのは積んでいたプラモ作りを優先したかったからだったりする。
この神にとってナユタ以上に優先する人間がおらず、ナユタが関わっていなければ彼らにも興味を示さなかった可能性も否定できないだろう。
そんな彼が鼻歌を歌いつつプラモを完成させようとしたそのとき、
突然部屋の上に門の創造で作られた門が開きそこから黄土色の気体がプシューと出てくる。
「…えっ?ナニコレ?」
頭の上に「?」を出してそれを眺めていたニャルラトホテプだが、
さらにその横にもう一つ門が開く。
そしてそこから落ちてくる時限爆弾。
「…えっ?なにk…」
『チュドーン!』という音とともに爆発するニャルの部屋。
なんと部屋に流れ込んでいた毒ガスは可燃性だった。
爆弾の爆発した際に生じた火花で毒ガスも爆発。
本来なら家が半壊してもおかしくない威力だったが爆発はニャルラトホテプの部屋だけで済んだようだ。
日頃から家に強化魔術をかけて強度をあげ安全を確保しているナユタの苦労の賜物である。
が、さすがに爆発音がなくなることは無く突然の爆音に隣で寝ていた面々が目を覚ます。
「……ん~?なんじゃ?」
「むーうるさいー」
「…またニャルが何かしでかしたのか…。
アサト達が折角気持ちよさそうに寝ているのに…」
「ニャ!?
そ、それは良いがいつの間にかナユタに抱きしめられておるのじゃ?」
「うらやましー」
いつの間にか寝ぼけて人型になったクロネはナユタに抱きしめられて狼狽え、
その横で羨ましそうに寝起きの目を擦るネムト。
しかし彼女たちの話題の中心であるナユタは周囲を見て普段の落ち着いた表情が嘘のように慌てる。
…そうアサトとネムトの不在に気が付いたのだ。
「……アサトとヨルトが…いない!?…ベル!」
「アサトとヨルトの現在地。群馬」
「…はぁ!?」
急の事態に狼狽えるナユタ。
そしてその場に物凄くタイミングの悪いニャルラトホテプが煙だらけの部屋から出てくる。
「…ゲホッゲホッ!!!あいつら俺の部屋は危険物取扱所じゃないんだぞ…。
…初めての冒険だからってはしゃぎよるわ…。
……ああ、ナユタ。起きt…あっ…」
煙だらけの部屋から出てきたニャルラトホテプが目にしたもの。
それはニャルラトホテプの発言を一言一句逃さず聞き、
全身から魔力全開でニャルラトホテプを睨むナユタが拳を
「バキッバキッ」と鳴らしている姿だった。
プルプルと震えるニャルラトホテプに鬼のように怒ったナユタが歩み寄る。
その顔は怒りに満ちた満面の笑みだった。
「いやああああああ待ってこれには事情がぁぁぁ!」
「問答無用ぉぉぉぉ!」
三千世界に恐れられる無貌の神。
その神が恐れるのは満面の笑みで怒るたった一人の友人だったらしい。
◆◆◆◆◆
―――30発程殴られた後。
「つまりアサトとヨルトは有馬たちの所にいる…と」
「…ふぁい」
魔術師用の服に大急ぎで着替えながらため息を吐くナユタ。
ニャルラトホテプの説明で現状を理解し今は急ぎアサト達のところに向かおうとしていた。
「……ていうかいつの間に小百合や瞬と知り合ったんだアサト達…。
まったく…起こしてくれればいいのに…」
「あの娘なら以前、我も会ったのじゃ。
良い娘だった故懐いておったんじゃの」
「…初耳だ…」
「わたしもー」
「我はナユタの知り合いとは知らなかったのじゃ」
さっさと準備を終え、お供にクロネとネムトを連れたナユタは門をくぐりながらニャルラトホテプに言い放つ。
「迎えに行ってくるからお前は晩飯の準備な」
「ラジャ!」
キッチンに消えたニャルラトホテプを見届けたナユタは急ぎ門をくぐってアサト達の元へと向かう。
「…はぁ…どう説明したもんかなぁ…・」
その表情には面倒くさそうで、
どこか嬉しそうな、
ごちゃまぜの感情が浮き出ているのであった。
◆◆◆◆◆
―――有馬探偵事務所+α
地下室の探索も無事(?)完了した有馬探偵事務所の4人とそれに付いてきているアサトとヨルトは今最下層らしき地下を歩いている。
仕掛けられていた数々の罠は全て幼女2柱に台無しにされ見る影もない。
だがそのせいか逆に敵地だというのに瞬や彩芽、
それに誠の気は緩んだままだった。
「怪しいのは雰囲気だけで案外ここじゃなかったんじゃないか?」
「だったらアサトちゃん達が攫われた理由が分からないっしょ?」
「おう、そういやそうだったな」
「だけど何も起きないのも事実だ。
もしかしたらここから別の場所に移動している?」
「…もう!みんな気を抜きすぎだよ!」
探偵事務所メンバーの中で唯一気を抜かず周りを警戒していた小百合がそう注意する…がそれにジト目で彩芽が返事を返す。
「…そういう小百合だってちびっ子達に懐かれて嬉しそうに手握ってるじゃん」
「こ、これはアサトちゃん達の安全のために…」
「小百合嬉しそうに顔ニヤけてるよ」
「う…」
そんな会話をしながら彼らが地下の奥に進む途中の扉を抜けて、
大きな広間に出たそのとき、警戒心が薄れていた彼女たちに罠が襲い掛かる。
最後に入ってきた誠が扉を閉めたその瞬間。
『パタンッ…ガチャッ!』
という音とともに占めた扉が自動で施錠される。
慌てて誠が閉まった扉を確認するが鍵は開かない。
「やべ…閉じ込められた」
「…ここからが本番ってことっしょ」
「みたいだな。小百合、ここはどうなってて…小百合?」
この部屋の様子を聞こうとした瞬だが問いかけた小百合から返答がないことをおかしく扉側から思い後ろに振り返る。…そして彼らの目に入ったのは、
顔の代わりに触手の生えた目のないヒキガエルのような神話生物。
ムーンビーストの群れだった。
その数はパッと見ただけでも数十。
いくら神話的現象を見慣れている有馬探偵事務所のメンバーでも流石に正気を疑う光景だった。
これからあの化け物たちに襲われることを想像し、
小百合や彩芽は体を震わせる。
だが声は出ない。
恐怖で固まった体はそれほど自由には動かないのだ。
ここにいたのがナユタならばおそらく、
「おっカエルでかっ!」
くらいの反応で済んだかもしれないがそれは例外である。
動けずにただただ目の前にいる恐ろしい存在を見つめる瞬達。
そしてその対象であるムーンビースト達は動かずに同じように彼らを見つめているため場は膠着状態になった。
どう見ても有馬達の危機的な状況。
もうすぐ憐れな人間たちがこの恐ろしい神話生物の犠牲になる。
他の人間がこの光景を見たならそう思うことだろう。
…だが実はこの状況はそれほど困った状況ではなかった。
現に固まっている小百合たちの足元でアサトとヨルトは和やかな会話をしている。
「…ん…カエルの群れ」
「ムーンビーストだねお姉ちゃん。
どうしよう?この体で殴り飛ばしたらまずいよね?」
「…んぅ……神通力でパーン?」
「それは気持ち悪そうだし見たくないよ…」
この通り2柱は余裕全開である。
そしてそれに相対するムーンビーストはというと、
目の前にいる人間たちの中にしれっと紛れ込んでいるトンデモ神を見てしまった彼らは悲しくも
TRPGゲームで言うところの1d10/1d100を2回するぐらいがっつりと。
「グゲゲッ(やべーよやべーよ)」
「グゴッ(助けて!)」
「グギャッ(死にたくない!)」
人語を離せないこのムーンビースト達の悲鳴は誰にも通じることがないというのもまた悲劇と言えるだろう。
そしてもう一つ。
館の罠で扉が閉まってしまいお互いに出られない。
そんな状況なので戦ったらやられると思った者同士がお互いに見つめ合い、
ただただ正気を削り合っているだけなのだった。
しかしこの状態は長くは続かなかった。
膠着状態の中で数匹のヒキガエ…ではなくムーンビーストが発狂し半狂乱になってしまい一斉に瞬達の方に離れた位置から手に持っていた槍を構える。
「グギャアア(やめろ!死にたいのか!)」
仲間のムーンビースト達の必死の静止も聞こえてはいなかった。
攻撃が来ると思い身構える瞬と小百合と誠と彩芽。
そして槍が投げられる前に小百合はアサト達を庇うように抱きしめる。
「大丈夫だよ。絶対守るから」
必死に2柱を守ろうとする小百合。
そんな彼女にアサトとヨルトが嬉しそうに話す。
「…ん…さゆり…大丈夫」
「えっ?」
「えへへ、お姉ちゃんの言うとおりだよ、さゆり」
「…私たちの大好きな人…絶対に助けに来てくれるから…」
「私たちの大好きな人はね、私たちのピンチを絶対に助けてくれるの!」
言い方は違えど同じことを姉妹が小百合に言い、
ムーンビーストの槍が投げられたそのとき。
突然彼女たちの前に門の創造が開き、
2人の人間とそのうちの一人に抱きしめられた子供らしき者どもが姿を現す。
そう…そこに現れたのは、
急いでアサト達のもとに駆けつけたナユタとクロネとネムトだった。
「信じてくれるのはいいけど、丸投げは勘弁してくれよ…ベル!」
『障壁多重広域展開。発動』
ナユタの指示のもとリベルギウスの発動した魔術により飛んでくる槍が見えない壁にぶつかりはじき返される。
激しい音の後、槍が地面に落ちた音だけが残った。
そしてひとまず攻撃を防ぎ、
安堵の息を漏らすナユタに後ろから驚きに満ちた声が掛けられた。
「…ナユタ?」
小さく読んだ小百合の声に反応し、
ギクシャクとした動きで苦笑いを浮かべながらナユタは後ろに振り向いた。
「……あー…久しぶりだなみんな」
気まずそうにそう言いながら目を逸らしつつ、
彼は再会の挨拶をするのだった。
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