第57話 アサトとヨルトのだいぼうけん
無事、目的の有馬探偵事務所一行…もとい小百合と合流することが出来たアサトとヨルトは今現在は小百合に事情聴取をされている。
「……つまりアサトちゃんたちは誰かにここに連れてこられたけど、
特に拘束されたりもしてなかったからここをうろついてたんだね?」
「…ん…」
「うん、そしたら小百合の声が聞こえたからこっちに来たの」
「そっか…でも二人とも無事でよかった。
何かおかしなこととかされてない?」
「…特に何も…」
「大丈夫~」
以前と変わらぬ二人の姿を確認した小百合は安堵した様子で二人の頭を撫でる。
姉妹のどちらもおとなしく嬉しそうに撫でられるあたりは懐き具合が窺える。
だがいきなり現れた彼女たちを初対面の瞬、彩芽、誠は一応警戒はしている。
過去人間に化けた神話生物にも多少会ったことがある分警戒心が抜けないのだ。
「小百合、その子たちは大丈夫なのか?」
「瞬君、大丈夫だよ。この子たちは事務所の近くの神社であったことあるし。
それにいくら神話生物でもこんなに小さい子供になるメリットはないでしょ?」
「まぁ…それはそうだな。
…俺は有馬俊だ、よろしく。君たちは?」
「……ん…アサト…よろしく…」
「ヨルトです。よろしくお願いします。
…有馬さん?…瞬さん?」
呼び方に困っているヨルトを見て朗らかに笑いながら喋る瞬。
「ははは…好きに呼んでくれて構わないよ」
そう言われ顔を見合わせるアサトとヨルト。
呼び名を二人で考えている様だ。
そして協議の末に決定した呼び名…それは。
「…ん…じゃあよろしく…『なよなよ笑顔』」
「よろしく『なよなよ笑顔』さん!」
「……えっと…どうしてそんな感じになったのかな?」
思った以上にアレな名前を付けられた瞬は若干顔が引きつっている。
そんな名前になった理由を聞こうと思った彼は、
引きつった顔のままそう問いかけてきた。
ちなみにその後ろでは彩芽と誠が大爆笑している。
「…私たちの家族の一人が言ってた…
『人と話すときは偽りなく思いをしっかり伝えるのじゃ!』
……って」
「お兄さんがやってるそれ、私知ってるよ!
営業スマイルっていうんでしょ?
うちの
『こればっかりやってる奴はなよなよした駄目野郎が多い』って!」
ドストレートに『なよなよした奴だと思った』と言われた瞬は崩れ落ちる。
時として子供の言葉は魔術より重いのだ。
「アッハッハッハッハ!お、おなか痛い!おなか痛い!」
「だはははっ!初対面の子供にそこまで言われるなんてなかなかだな!
…よし!じゃあ俺はどうだ!空手のお兄さんだぞ!強いぞ~!」
瞬を満足するまで笑った誠は自分の名前を二人に尋ねる。
その結果…。
「「『脳筋ゴリラ』!」」
『ズシャァッ』
瞬の横に同じように心を折られた誠が崩れる。
男二人は早くも幼女二人組にノックアウト済みである。
その横で再び爆笑する彩芽。
「アハハハハ!やばい!笑い死ぬ!腹筋が痛い!あはははははは!
やっぱり子供は正直だよね~!二人とも本質見切られてんよ!」
頭を垂れている二人を指さしながらひとしきり笑い終えた後に、
今度はアサトとヨルトの前に彩芽が近寄り頭を撫でながら問う。
「よっし!いい子いい子!じゃあお姉ちゃんはどんな名前かな~?
遠慮せずにはっきり言っていいよ~」
再び協議する姉妹そして回答は39秒後くらいたった後に齎される。
「……『性格ブス』?…」
「えーと…『
『ズサァァッ』
瞬と誠の横に新品が並ぶ。
もはや有馬探偵事務所は崩壊寸前だ。
そして相手の心をボコボコに殴っている自覚のないアサトとヨルトが首を傾げていると苦笑いの小百合が二人を諭す。
「…あはは…二人とも?ほんとの気持ちを伝えるのは重要だけど、
真っ直ぐ言いすぎても駄目だよ?」
「…んむ?…そう?」
「私知ってる!それって『お世辞』って言うんでしょ!」
これ以上瞬たちにダメージを与えないように二人を捕まえて撫でる小百合だが、
幼女二人を撫でながらふと、どうしても気になってしまったことを、
小百合は恐る恐る姉妹に聞いてみた。
「…ねぇ…二人とも?私はどんな感じの名前になるのかな?」
自分も『世紀末女』とか『世話焼きおばさん』とかの恐ろしい名前を言われそうでビクビクしながらそう問う小百合。
しかし返答は協議も間もなく、すぐ返ってきた。
「…ん!…『大天使サユリエル』…」
「『大聖女さゆり』!」
思った以上にいい…と言うかむしろ褒められすぎて恥ずかしいくらいの名前で呼ばれて照れる小百合。
しかし悪意もなく純粋に自分のことを信頼してくれているのが分かったのが嬉しかった彼女は照れながら二人の頭を撫でるのだった。
そんな彼女の前で倒れていた3人がグールのように起き上がる。
そして涙目で小百合を『ビシッ!』と指さした彼らはハモって糾弾する。
「「「
「…ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
しばらくの間、ここが敵の本拠地かもしれないということすら忘れた有馬探偵事務所の喧嘩は続くのだった。
◆◆◆◆◆
それからしばらくして有馬探偵事務所の面々+αはこの館を探索する。
屋敷自体が大きく、部屋数も多いのでばらけてあまり離れすぎないように気を付けながら手分けをしていた。
ここが敵の住処だというのはアサト達の言葉(嘘)によって証明されているためいろいろな罠などがないかも警戒しながら慎重に。
――そして1時間後。
「…う~ん…思った以上になにもなかったな」
「そだね~。全然だわ。やっぱりここじゃなかったんかね?」
「あとは最後にこの地下への扉を調べて終わりだな!」
「そうだね、とりあえず何もなくてよかった。
ねっ、アサトちゃんヨルトちゃん」
「…ん…特に大したことなかった…」
「そうだねお姉ちゃん」
地下への道を進みながら話す有馬探偵事務所一行はしっかりと警戒しながら探索をしたものの罠の一つも発見することなく終わった為、少々拍子抜けしていた。
どこにも罠などなく、どこにも神話生物などもいなかった。
有馬探偵事務所の面々は完全にそう思いこんでいた。
だがその実態は…、
「…ん…罠発見…」
地面から巨大な刃物が飛び出してくる罠をアサトが軽く蹴り壊していたり。
「これは人間にはあぶないかな?」
落ちる天井をヨルトが両手で押し返して固定したり。
「…んぅ?…毒ガスはだめ…」
突如、部屋に湧き出た毒ガスをアサトが門の創造と風を操る魔術で
「あっ!爆弾だ!これでボン〇-マンできるかな?」
部屋に仕掛けられていた時限爆弾を
「…この扉…魔術で…閉じてる…」
厳重に閉めてあった扉の魔術をアサトがデコピンで破壊したり。
「う~ん…これ見たらさゆりたち驚いちゃうな」
待ち伏せで配置してあったショゴスをヨルトがルルイエに送り帰したり。
「…ちょっと…臭う…」
ショゴス同様配置されていたグールたちをアサトが一瞬で燃やして塵にしたり。
「あっ!これ魔導書だ!ベルみたいに動いたりはしないんだ~」
隠されて置いてあった魔導書をヨルトが興味本位で持ち帰っていたり。
などなど危険要素はてんこ盛りであったにはあったのだった。
…全てアサトとヨルトが鼻歌交じりで処理したが。
ちなみにこのとき姉妹がニャルの部屋に送った物によりとある誰かが不幸な目に遭っていたりする。…いったい何ラトホテプであろうか…。
少々油断気味のの有馬探偵事務所の4人と、
小百合と手をつないでRPG気分で探索をしているアサトとヨルトはそのまま地下の道を進んでいくのであった。
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