第55話 そして海から帰ろう ↓

 焼きそばを食べ終え、短い休憩の後に再びみんながばらけていく。


 アサトとヨルトは視界に見える程度に離れた砂浜で砂の城を造っている。


 この間の城のプラモで物造りに興味が出たのかもしれないな。


 アサトは前回の和風の城と違い外国の童話とかで出てきそうなお城を造り、

 対するヨルトは以前作った本能寺とは別の和風の城を造っている。


 お互いに一生懸命に作っているところが微笑ましい…微笑ましいのだが…。


 何故だろう。

 

 何故二つの城とも向け合うように大砲らしき物が付いているのだろうか…

 

 昔と違い砂遊びは何かルールでも付いたのか?


 いやおそらくあれは戦争中のお城を造っているんだろう…きっとそうだよ。


 とか何とか考えているとお城を造り終えた2柱が何やら怪しい魔術を発動したかと思うとお城とお城が動き出す。


 お城に足が付き歩き出しました。

 そしてお互いの城が体についている大砲で攻撃しあい、

 その様子を見守るアサトとヨルトは自分の城を応援している。


 全自動お城バトルか…最近の砂遊びは進化してるな―。




 小さく現実逃避した俺はお城大戦から視界を外し別のところに向ける。


 そこでは砂に埋まったニャルがいた。


「…我が妻、イホウンデーさん」


「なんですか我が妻ニャルさん」


「スイカ割をするんだったよね?」


「そうですね」


「なんで私を首だけ出して地面に埋めてるの?

 しかもスイカの横に」


「それはもちろんただのスイカ割ではあなたは退屈してしまうでしょう?」


「…うんまぁそれはある。そこはいいの。

 …で?なんで妻は手に日本刀を持っているのですか?」


「それはもちろんただのスイカ割ではあなたは退屈してしまうでしょう?」


「…それとなんでその後ろで戦場でも使われなさそうな大きな剣を持っているクトゥグアが待機しているの?」


「失礼ね。大きな剣じゃないわ!私愛用のツヴァイハンダ―よ!

 これでニャ…じゃなかったスイカもイチ殺ね!」


「おい今なんつった」


 地面から首だけ出ているニャルがこれから起こるであろう大惨事に不安そうにしているところを見たイホウンデーは優しく微笑み一言付け足す。


「大丈夫ですよ。

 こんなこともあろうかとちゃんと保険を用意しておきましたから…」


「ほ、ほんと?」



 黙って微笑みながらイホウンデーがクトゥグアの後ろを指さす。

 そこには…水着姿でおとなしく待機しているチャウグナーがいた。


「大丈夫です!もし砂浜が血で汚れても私が掃除しますから!」


「誰かあああああああ!たすけてぇぇぇえぇぇ!

 タスケテクダサーーーイ!」


 この後の決まりきった結末を垣間見たニャルが悲鳴をあげるが俺はそっと視界を妻たちの方に戻す。あっちを見るよりこっちのほうがずっと有意義だ。



 するといつの間にかアサトとヨルトがこちらに戻ってきているのに気がつく。


 姉妹の満足気な表情を見るにどうやらお城の戦争は終わったようだ。


「お疲れ。どっちが勝ったんだ?」


「……ん…引き分け」


「決着がつかなかったからお姉ちゃんと私で和平にしたの!」


「…和平?」



 首を傾げた俺はさっきまでアサト達が遊んでいた砂浜に視線を送ると…、

そこには二つあったお城が合体してそびえたつ姿があった。


 ちぐはぐにくっついた和風と洋風の城。

 ある意味キマイラみたいです。


 というかこれ和平というより合併とか統合では?


 キマイラ城を見て俺がうなっているとそんな俺の傍に海水でぬれたネムトとクロネが帰ってくる。


 もともと大人ボディの二人は綺麗な見た目も相まって素敵な光景極まりない。

 女性の体で太陽光を浴びて光る水滴って男からしたら浪漫だと俺は思います。


 そしてこの二人ともが俺の奥さんという事実。

 

 嬉しい反面しっかりと褒めなければ着飾ってくれている妻たちに申し訳ないというものでもあると思う俺なのであった。


「濡れた水着のネムトとクロネも綺麗でいいな。

 クロネは耳と尻尾も濡れてて可愛いし」


戻るなり不意打ち気味に褒められて少し赤くなるクロネとネムト。


「ニャッ!?…きゅ、急に褒められると少し恥ずかしいのじゃ…」


「あらクロネ、せっかく旦那様が褒めてくださっているのですからしっかりと胸を当てながら抱き着いてあげるくらいはしてあげましょう。

 私たちは旦那様の妻なんですから」


「…のじゃ」


 少し照れて俺の両の腕に抱き着いてくる妻たちを愛でる。

 これはこっちまで恥ずかしくなる流れですよ。嬉しいですけどね!


 とかなんとかやっているとそれを見たアサトとヨルトも俺に引っ付いてくる。


 右腕にクロネ。


 左腕にネムト。


 膝の上にアサト。


 背中にヨルト。


 完全に動きを封じられる俺。


 だけどまあ…いっか。


 どうせ動く気もなく動くことのできない俺はしばらくこの幸せホールドに捕まるのであった。




 ◆◆◆◆◆




「「「 ビーチバレーをするのよ! 」」」


「ひぇ…」


 俺は小さく悲鳴をあげる。


 今ビーチバレーをするとほざいたこのニャル…なんと首が3つありその三首がそれぞれの口でしゃべったのである。

 きめぇ…。


「ニャル、純粋に気持ち悪いから首をもとの数に減らしてくれないか?」


「…しまった。妻たちに襲われたときのままだった」



 そう「はっ!?」っとした表情で言ったニャル。

 信じられないだろ?こいつこれで女の姿してんだぜ?首3つの。


 そして首が3つになっていたということはイホウンデーとクトゥグアの武器は寸分たがわずニャルに振り下ろされたようです…さすが。



 些細なトラブルも解決しチーム割のくじ引きを、


 俺、ニャル、ベル、アサト、ネムト、ヨルト、クロネ、クトゥグア


 で行う。


 チャウグナーはニャルの血を飲んで満足して腹出して寝ている。

 その麗しのお嬢様の姿やめたら?


 そしてイホウンデーさんは審判役として高台の上でカメラを回している。

 その大型カメラ重いと思うんですけど片手て持つとはこれ如何に?


 早速くじを引き、

色のついた棒とついていない棒でチームに分かれる。

 結果…。



 赤チーム

『アサト・ヨルト・ネムト・クロネ』


 白チーム

『ナユタ・ニャル・ベル・クトゥグア』


 ……神よ、何故俺の方に一切妻を入れてはくれないのですか?


 1人悲しみに暮れながらの試合開始。


 と思いきゃ…まだ解決してない問題があった。


「…む?…ナユタ…このボールで何するの?」


「あー…ビーチバレー知らないか。

 うーんと…そうだな…とりあえず全力でそのボールをこっちに撃つんだ。

 こっちがキャッチできないようにな」


「…ん…やってみる」



 とりあえずサーブの練習をさせてこちらにボールを貰って説明を、

 そう思って言った一言。しかし…。


 なんかアサトからオーラを感じる。

 あふれ出る神様オーラ。


 あ、アサトさんや?サーブですよ?


 …と、ここで気づく…自分の発言を。




 この発言を素直なアサトがまっすぐに受け止めて実行したらどうなるか?

 答えは…、


「マスター。回避推奨」


「クトゥグア!緊急回避ィ!!!」


「!?…了解!!!」


 瞬時にベルを抱えて横っ飛びに緊急回避する俺。

 俺の声に反応して同じように全力回避にまわるクトゥグア。


 そしてその直後、アサトのふんわりとしたサーブから恐ろしいほどの亜音速サーブが繰り出される。


 だよね!アサトが全力でサーブしたらこうなるよね!


 砂浜はえぐり取られ、海は割れてしばらく戻りそうにない。

 撃たれた球は次元すら超えて彼方に消えていく。


 アサト…お前がナンバーワンだ。


 ちなみに声をかけられなかったニャルは犠牲になった。

 あいつなら大丈夫でしょ?


 俺が海に向かって黙祷をしていたそのとき、

 割れた海の中に古くて大きな船を見つける。


 沈没船か?それも結構前の。


 興味深そうに俺が見ているとそれに気が付いたのか妻たちがこちらに寄ってきて沈没船を見つける。すると、


「…ん…沈没船…中には金銀財宝…」


「テレビでは宝の地図とか、昔の綺麗な絵画があるって言ってた!」


「ふむぅ…まぁ間違いではないのじゃ。

 ルルイエの近くなら沈んでいる船よりも沈んでいるルルイエに目が行くから触られてない沈没船があってもおかしくないしの」


「あらあら…こんな近くに船なんてあったかしら?」


 とまぁこんな反応でアサトとヨルト、それに無言だが目を煌かせているベル。

 これに保護者として俺とクロネが付いて行って沈没船を探索することになった。


 ちなみにネムトはあの船についてヒュドラさんに聞きたいことがあるので来ないそうです。


 まぁバレーしたいって言ってたニャルは星になったし、


 審判していたイホウンデーさんは「シャッターチャンスです!」と言ってニャルを追いかけていったし、


 クトゥグアもイホウンデーさんと一緒に行ったのでバレーをするメンバーもいなくなったのでちょうどいいでしょう。



 ◆◆◆◆◆


 で、沈没船に入ったのだがおかしなことに中は水が入っていない。

 外はボロボロだけどよく見るとそこまで古い船ではない。

 などなど怪しいところが盛り沢山でした。


「ふ~む?これはおかしいのじゃ。

 もしかしたらここはどこかの魔術師の工房やもしれんの」


 クロネがそんなこと言っていたそのとき、大きく開けた部屋に出る。

 その部屋は綺麗に並べられた棚が置いてありそこには写真が飾ってあった。


 そしてその写真はいろいろな場面こそ写してあるがあるが、

写っている者はただ一柱。


 ヒュドラさんだった。


「むっ?これはヒュドラの写真じゃのう?」


「…ん…端から端までヒュドラの写真」


「…でもどうしてこんなところにあるんだろう?」


 無言で写真を見ていた俺とベル以外がそんなこと言っていたそのとき、

 入り口から何者かが入ってくる。


「…………まさかここが見つかるとはっすね」


「ダゴン君?」


 そこにいたのは海の家で焼きそば製造機と化していたはずのダゴン君が笑みを浮かべて立っていた。首に『永久海奴隷』の看板をつけて。


「ここが見つかって以上はしょうがないっす…かくなる上は」


 静かに…そしてこちらに全力で走り寄るダゴン君。


 そして華麗に、優雅に、そして大胆に、


 彼は俺達の前に滑り込みながら…スライディング土下座をした。


「ここのこと妻には秘密にしてくださいっす!お願いしまっす!」


 それはそれはやり慣れていて美しい土下座でこれは見る者を魅了する美しさを兼ね備えている。


「いやさ…それはいいんだけど…ここは?」


俺にそう聞かれたダゴン君はすっと自然な動きで土下座から起き上がり話し出す。

 所作でわかるが土下座し慣れてるなダゴン君。


「ここは俺の秘密の、妻との思い出の保管庫っす。

 妻とのいろんな写真はここに大切に保管してるんっすよ」


「家でいいのでは?」


「こんなの家に置いてたら照れた妻に殴られるっす」


「なる」


 近くにあった写真を懐かしそうに、大切そうにダゴン君は手に取る。


「妻と俺って結構成り行きで結婚したんっすけど…妻はこんなバカな俺に文句言いながらでもずっと傍にいてくれる優しい妻なんすよ。殴られますけど。

 だから俺は…そんな妻のことが大好きなんすっよ。蹴られますけど」


 手に取っていた写真を戻し、少し照れて笑うダゴン君。


「だからこういう妻の写真は大切過ぎて…

 捨てられないからこうしてここに保管してるんっすよ」


「…そっか。

 お互い、いい奥さんに恵まれたな」


「ハイっすよ!

 ………っと。そろそろ焼きそばが焦げるんで俺は戻るっす。

 写真は自由に見てもらって構わないっすから~」


 そう言い残してぱっとダゴン君が消える。

 先ほどの言葉が確かなら海の家に戻ったんだろう。



 その後、俺達はダゴン君とヒュドラさんの写真を見て回るのだった。


 その途中、ベルが少し、しょんぼりしながら言う。


「金銀財宝。なかった」


 ちょっぴり残念そうなその頭に手をおいて笑う俺と妻たちが答える。


「そうだな…でも」


「…ん…その代わりに」


「宝物はあったね」


「じゃな」



 広い写真部屋の中で俺達の笑い声が響く。

 今度、俺達の家にもこういう場所を造っても…いいかもしれないな。




 ◆◆◆◆◆


 ――一方その頃。


 ルルイエのある一室では顔を真っ赤にしたヒュドラとその頭を撫でているネムトが巨大な水晶の前に立っていた。


 それは見たい場所を映す「遠視魔術の水晶」


 そして、その水晶が映していたのは…ナユタ達がいる写真部屋だった。


「ふふふっ♪よかったですねヒュドラちゃん」


「……あう…」


 つま先から耳の先まで真っ赤なヒュドラが頭から湯気を出す。

 さっきの彼女の夫の言葉を聞いてからはずっとこの様子だ。


「…もぅ…普段は情けないところばかりなのに…、

 こういうところだけは…格好いいんですから…もぅ…」


 小さく言葉を吐き出しながら一緒に顔から湯気を出すヒュドラ。

 しばらく彼女は夫の顔をまともに見れないかもしれない。


 もしばったり出会ったら…照れた彼女がまた夫を殴り飛ばす微笑ましい光景がみられるだろう。



 ◆◆◆◆◆




「それじゃお世話になりましたヒュドラさん。

 いろいろありがとうございました」


「いえいえ、ネムト様とナユタ様、

 他の奥様も楽しんでいただけたなら何よりです。

 また来年もお越しください」


 1日の海水浴も無事終わり俺達は門を家に開いて帰る。

 肌はすっかり小麦色だ。


 深々と頭を下げたヒュドラさんと手のひらの形になってバイバイするショゴスたちに見送られながら俺達は無事家に帰還することが出来た。


「…んむぅ…海水でべとべと…」


「お姉ちゃん、一緒にお風呂はいろ!」


「ん」


 そう言った姉妹は奥の浴室へと消えていった。


 そして俺とクロネとネムトは持って行った浮き輪とかを片付けていた。


「大体片付いたかな」


「そうじゃの」


「そうですね。

…旦那様、そろそろ私は眠りにつくのでまた星の揃う日に抱きしめてくださいね」


「勿論。寝ているときの子供ボディでも、いつでもウェルカムだ」



 俺のその言葉を受けて嬉しそうに笑った後、

ネムトは膝をついて床にぺたりと倒れる。

 

 そして…いつもの子供の姿に戻るのだった。


「だんなさまーえへへー」


「よしよし」


 有言実行。

 俺は小さくなったネムトを抱きしめてなでなでする。



 これで海から戻っていつも通りの我が家かな。







 今日も我が家はへい…









「「 きゃああああああ 」」



 ふぁっ!?


 突然聞こえた風呂場からの悲鳴に驚いた俺とクロネはすぐに風呂場に向かう。

 そこには、


「…う…しみる…」


「ナユタァ…うぅ~…肌がひりひりするよ~…」



 浴槽から飛び出してぴくぴくしているアサトとヨルトだった。


 ……あっ…。


「ごめん…言い忘れてた。

 日焼けした後すぐにお風呂入るとそうなるんだった…」


「……そういえばそうじゃの」



 この後、泣いているアサトとヨルトをしばらく俺とクロネで宥めるのだった。




 何とか今日の我が家は平和です。

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