第54話 そうだ海で遊ぼう! →
サンサンと輝く太陽。
足の指の間に入って鬱陶しい砂浜。
綺麗に透き通り波を生み出す母なる海。
溺れている神がいないかどうか海を見て回っている深き者たち。
何故かやたら俺に懐いているショゴス群。
景気つけに一回着火されているニャル。
はい、やってきました常夏ビーチ in ルルイエ。
家には不動要塞が眠っているので留守番は大丈夫でしょう。
星辰が揃い海の上に浮かんでいる巨大なルルイエの一部がそれはもう見事に立派なビーチになっておりますれば。
着くなりうちの主神・副神姉妹は輝く海に目をキラキラさせながらベルの手を掴んで走って行ってしまったぜ。
楽しんでくれるならそれはいいけど…溺れないようにね。
みんなそれぞれに楽しんでいる現在。
俺はなぜかショゴスに囲まれている。
いや襲われているとかではない。
なんていうか小動物が頬を擦り当ててくるような感じで擦り寄ってくる。
どう見ても懐かれているが心当たりはないので……なんなんでしょうね。
頭の上に「?」を出しながらも俺が周りのショゴスたちを撫でていると軽く泳いでこちらに戻ってきたネムトとクロネが俺の傍に帰ってくる。
その手には海でよく見るプラスチック容器に入った焼きそばがあった。
「旦那様~海の家で焼きそば貰ってきましたよ~」
「…ずるずる…むむっ?…これはすこし焼きすぎではないかのう?
麺がさばさばしておるのじゃ」
「こういうところで作る焼きそばはそんなもんだよ」
「そうですね。大量に作る分どうしても作り方にムラが出来てしまいますから」
口元に青のりをつけて焼きそばを食べているクロネの疑問に答えながらネムトの持っていた焼きそばを受け取る。
「…ていうか海の家あったのか。すでにここが
「はい、ヒュドラちゃんが気を利かせてくれたようですね。
ちなみに海の家には『永久海奴隷』という看板を首にかけたダゴン君が店番をしていましたね」
ダゴン君…今度は何をやらかしたんだろう…。
「……あの男神また妻を怒らせたのかのう。
どうやったらあそこまで的確に相手の地雷を踏みぬくのじゃ…。
少しはナユタを見習うがよいのじゃ」
「ふふっ…そうですね。旦那様は怒らないし怒らせないですもの」
「そんなに大したことはしてないし。
皆が俺を大事にしてくれているからそもそも怒りどころなんてないだけだよ。
……ニャルを除いて」
「私除かないでよぅ!」
会話に割り込んでそこにいたのは水着姿のニャル。
銀髪の少女姿に水着を着ているのだがよく目を凝らしてみると…水着が小さい。
これは…あれか…俗にいうマイクロビキニというやつか。
ここに来るまえに娘の水着を正しておきながら自分はあれな水着を着るのか。
けしからん格好のニャルを注意しようとしてニャルの顔を見てみるとそこには珍しく恥ずかしそうに顔を赤らめているニャルがいた。
………これは…もしかして…。
「…遂に変態に目覚めたか」
「!? 違う!違うわよ!
ていうかナユタここに来た時、私が普通のビキニ着てたの見てたでしょ!
私だって痴女の姿に変身でもしていないときにこんな格好したくないわよ!」
そうやってニャルが俺の発言を必死に否定してきた。
その様子を見るにこれは本人の意思ではないらしい。
となると思い当たるのは一つだなぁ。
…てか痴女に化けてるときはいいのか…。
いつも厚顔無恥な行動の目立つこいつの照れた姿が面白いので眺めていると奥から真っ赤なデジカメでニャルをとっているクトゥグア。
そして…大型のカメラでニャルをとっているイホウンデーさんがいた。
あれってテレビ局とかで使うやつじゃ…?
「ふふふっナユタさん私の夫兼妻の艶姿はどうですか?」
「そうですね、こいつ風に言うと…面白い!」
「他人の不幸を面白がるなぁー!」
「お前が言うな」「あなたが言わないでください」
どう考えてもおまいうなのでここはそう返す。
イホウンデーさんとハモって。
「…で?何でそんな恰好してんだお前?」
「着てきた水着はここにきてテンション上がったクトゥグアが燃やしたでしょ?
だから別の水着の姿に体を変えようとしたんだけど…」
「だけど?」
と話しているとズイッ!っとイホウンデーさんがその間に割り込んでくる。
その顔はどこか誇らしげだった。
「ここから先は私がお話ししましょう。
…ふっふっふ!ナユタさん実は私はついに完成させたのです。
…これを!」
そう言って取り出したのは彼女のスマホ。
そしてその画面にはアプリが表示されていた。
その名前は…。
「そう!これこそが私が作った専用アプリ!
『ニャルラトホテプ操縦アプリ』です!」
…な、なんだってぇー!!!
「これによりこの夫の個体だけですが自由に姿を変えることが出来るのです。
そうこんな恥ずかしい水着を着せることも!」
「なにそれ面白い」
「面白くなーい!」
空に掲げられているスマホに「うがぁー!」と襲い掛かるニャルとそれをひょいひょいと避けるイホウンデーさん。
俺の前ではマイクロビキニのニャルが体を激しく動かしているため少し視界が危ない。俺の横でクトゥグアが「はぁ、はぁ、たまらんわぁ」とか言って息を荒げながらカメラのシャッターを連打している。
そしてしばらくするとスマホを掲げたままイホウンデーさんが
「それじゃ、痴女を連れて散歩にいってきます」
と言って去っていった。もちろんそれにつられて顔真っ赤で追っかけるニャルと別の意味で顔真っ赤のクトゥグアが去っていく。
まぁ…あれはあれで海を満喫しいてるんじゃないですかね…多分。
遠い目でニャルたちを見ていたそのとき、
俺の前に楽しいそうに笑いながら大人ボディのアサトとヨルトが走ってくる。
水にぬれて太陽光を反射しながら揺れるダイナマイトバストが眩しいぜ。
「…ん…焼きそば…発見」
「ナユタそれもらってもいい?」
「いいよ、もっと欲しかったらあっちでダゴン君が量産してるぞ」
「「 は~い 」」
ビーチパラソルの下に入り仲睦まじく並んで焼きそばを頬張るアサトとヨルト。
やはり大人の姿になっても中身はまだ幼いらしい。
男としては助かるな…いやこの場合残念がるべきなんだろうか?
とか何とか考えていた俺に再びショゴスたちが甘えてくる。
よーしよしはすはす。
「そういえばネムト」
「どうかなさいましたか旦那様?」
「ここのショゴスってやたら人懐っこいけどなんで?」
「それは多分浦島さんのせいではないかと」
「浦島?」
浦島…浦島ってまさか…
「…童話の浦島太郎の浦島?」
「はい、そうですね」
「…まじか。てことは竜宮城ってルルイエなのか」
「そういうことになります。
ですが童話の浦島さんは結構美談化されておりますので」
「美談化?亀を助けて竜宮城にきておもてなし受けた後に陸に帰ったら周りの時間がすごく過ぎてたってやつ?」
それを聞いたネムトは困ったように口元にを手で押さえて笑う。
「はい。真実はこうです」
【昔々あるところに浦島太郎という漁師がおりました】
【浦島は海でいじめられていた亀(に化けていたショゴス)を助けました】
【そして助けた
【そこで深き者や
【精神が癒えるまでルルイエに滞在】
(尚、数十年かかると思われ体の時間は止められていた)
【浦島がようやく正気にもどったが周りの時間が物凄く過ぎていた】
【ショゴスの恩人である浦島の懇願を受けて玉手箱(イス人特製)を渡す】
【玉手箱を使用し過去に帰った浦島】
【時間に干渉したためティンダロスの猟犬に襲われ年を取る浦島】
【めでたくない、めでたくない】
「…といった具合でして」
「…うわぁ…」
現実は童話より奇なり。
これってもはやただの事故に遭った人ですやん。
だが納得はした。
このショゴスは要するに恩人の浦島のような感じで俺に接しているのだろう。
尊い犠牲のおかげでこのショゴスたちは人間を襲わなくなったのだ。
そう思おう…でないと巻き込み事故に遭った浦島さんが浮かばれねぇ。
俺はショゴスを撫でながら浦島さんに黙祷をするのであった。
そんな俺の膝に頭を置いてリラックスするアサトとヨルト。
それを見て笑うクロネとネムト。
何故か鮫の背中をエンジョイしているベル。
ショゴスに交じって俺にかじりつき血を吸うチャウグナー。
涙目でイホウンデーさんとクトゥグアを追いかけるニャル。
海の一日は…ながいなぁ。
そう思いながら傍のアサトとヨルト、
傍によってきたクロネとネムトを交互に抱きしめ撫でるの俺なのであった。
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